著者
中島 皇 竹内 典之 酒井 徹朗 山中 典和 徳地 直子
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

温帯のスギと広葉樹が混交する天然林において総合的な調査を開始した。森林の動態の解明を大きな目標として、森の動きと働きを明らかにするのがこの研究の目的である。今回は特に物質の動きに注目して、今後の研究の基礎固めを行った。12年間に3回の毎木調査を行ったことにより、集水域が約8haある天然林の大まかな動きが捉えられた。小径の広葉樹ではソヨゴ、リョウブの枯死が多く、ソヨゴは常緑であるため冬の積雪の影響を大きく受けて「幹裂け」の状態を示しているものが多く見られた。流出物調査では北米で報告されている量と同程度の値が観測され、渓流水質調査では過去の観測データと比較すると硝酸濃度の上昇傾向が見られるなど、新たな知見が得られた。他方で、いろいろなイベントが森の動きに大きく影響を及ぼしており、そのイベントが生じた直後でなければ、なかなか影響を顕著に見つけられないことも事実である。この点は流出水量・流出リター量・渓流水質においても同様で、イベント時の現象を詳細に捉え、解析することが、今後の大きな課題である。毎木(成長量・枯死量)、樹木位置図、流出水量、流出リター量、渓流水質などの調査はいずれも時間と労力を必要とするもので、多くの人の力が必要である。森林という人間などよりはるかに長寿命の生物と付き合うためには、長期的な戦略と長期的なデータに裏付けられた息の長い調査・研究が今後とも必要である。
著者
竹内 典之 野中 理伸 中島 皇
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1995

本研究によって開発された撹拌型融雪雨量計は従来の溶液型融雪雨量計の溶液を低温・降雪時に撹拌することによって凍結を防ぎ、降雪の融解を促進させる機能を持たせた独創的なものである。また、太陽電池+バッテリ-仕様の観点からは太陽エネルギーを直接融雪に利用できるような機器の先駆的役割をなすものである。この試作機は従来の貯留式雨量計、ヒーター付き雨量計に比べれば、それぞれデータが短いインターバルで取れる点、AC100Vが供給できない場所(山地域や森林地帯)でも観測可能な点などが優れている。京都大学芦生演習林において、1995年から1997年にかけての二冬の野外長期稼動試験の結果、新撹拌型転倒マス雨量計と撹拌型貯留雨量計は約1000mmの期間総降水量、降雪強度50mm/日の降水も確実に記録し、撹拌型融雪雨量計の有効性が確かめられた。また、北海道演習林での野外試験によって、この試作機は暖地のみならず寒地の積雪地帯でも使用できる可能性が出てきた。現段階では撹拌器に市販のバスポンプが用いられているが、今後の課題として効率の良いモーターの選定(作成)及び太陽電池とバッテリ-の組み合わせの駆動電源装置システムの小型化・計量化が挙げられる。また、その実用化が図られれば、アメダスの観測所等などでも広く採用されるようになり、冬期の精度の良い降水量データが場所に制約されることなく得られる。冬期の降水量が正確に把握されれば、積雪地域おける降雪・融雪のメカニズムやその流域の流出特性の解明など、森林水文学の分野に大きく貢献することになる。それのみならず、冬期の降水量は夏期の渇水に大きく関与していると思われ、精度の高い降水量の見積と流出特性の把握は水資源という面にも有用なデータを提供することになる。