著者
中沢 紀子
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.93-107, 2006-04-01

江戸語の特徴として言及されることの多い連接母音aiの長母音化(e:)は、形容詞、名詞、助動詞などさまざまな語に実現した幅広い音変化である。しかし、『浮世風呂』『浮世床』をみると、否定助動詞ナイにおいては、その変化が実現された場合に想定される対立ナイ対ネエとは異なり、ヌとネエの使用が際立っている。本稿は、連接母音の長母音化という音変化の枠から外れた、否定助動詞の非対称的対立の成立に至る過程とその要因について考察する。まず、『浮世風呂』『浮世床』を資料として、ヌとネエの対立がai形式とe:形式の対立と並行的な関係であることを指摘する。次に、『浮世風呂』『浮世床』以前に成立した洒落本における否定助動詞の様相を示し、ヌ対ネエ以前の姿(ヌ対ナイ)を推測する手掛かりとする。最後に、否定助動詞における変則的な対立が生じた要因には「ヌが有する上方の威信」の関与があることを指摘する。
著者
中沢 紀子
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.93-107, 2006-04-01 (Released:2017-07-28)

江戸語の特徴として言及されることの多い連接母音aiの長母音化(e:)は、形容詞、名詞、助動詞などさまざまな語に実現した幅広い音変化である。しかし、『浮世風呂』『浮世床』をみると、否定助動詞ナイにおいては、その変化が実現された場合に想定される対立ナイ対ネエとは異なり、ヌとネエの使用が際立っている。本稿は、連接母音の長母音化という音変化の枠から外れた、否定助動詞の非対称的対立の成立に至る過程とその要因について考察する。まず、『浮世風呂』『浮世床』を資料として、ヌとネエの対立がai形式とe:形式の対立と並行的な関係であることを指摘する。次に、『浮世風呂』『浮世床』以前に成立した洒落本における否定助動詞の様相を示し、ヌ対ネエ以前の姿(ヌ対ナイ)を推測する手掛かりとする。最後に、否定助動詞における変則的な対立が生じた要因には「ヌが有する上方の威信」の関与があることを指摘する。
著者
中沢 紀子
出版者
筑波大学大学院博士課程文芸・言語研究科日本語学研究室
雑誌
筑波日本語研究 (ISSN:13424793)
巻号頁・発行日
no.9, pp.55-68, 2004-11-30

本稿は、中世末期の日本語を反映していると言われるキリシタン資料を用いて、連体節述部のウ・ウズルがどのような条件下で現れやすいのか、その使用実態を調査したものである。調査から、連体節述部のウ・ウズルは「動詞+ウ」「動詞+ウズル」といった述部形式が多く、タリやテアルとウ・ウズルとの共起は殆どみられないことがわかる。また、この連体節の被修飾名詞には、形式名詞の出現傾向が高い。連体節述部と共起する副詞には、時間・時点を表す副詞の用例が多くみられる。これらの副詞が表す連体節の事態についてみると、時間的前後関係は主節の表す事態より後のものである。