著者
川口 慎介 井尻 暁 上野 雄一郎
出版者
国立研究開発法人海洋研究開発機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

『干し草の山から針を探す』という西洋の慣用句がある。困難な事業の例えだ。とはいえ、干し草に火を放てば針だけが残るだろうし、強力な磁石を用意すれば針だけを吸い付けられるだろう。つまり、干し草と針それぞれの性質を十分に把握すれば、針を発見するという目的は困難なく達成できるのだ。地殻内環境の炭化水素研究にあてはめると『干し草(熱分解起源)から針(有機合成反応起源)を探しだすためには両者の性質(同位体システマチクス)を十分に把握するのが有効だ』ということになる。本研究では干し草の性質を解明する。
著者
門馬 綱一 長瀬 敏郎 ジェンキンズ ロバート 谷 健一郎 井尻 暁 宮脇 律郎
出版者
独立行政法人国立科学博物館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

シリカクラスレート鉱物とは、結晶構造中にメタンなどの天然ガス分子を含む鉱物である。これまで,産出の極めて稀な鉱物と考えられてきたが,メタン湧水環境において普遍的に産出する可能性が高い。堆積物中の有機物は,地中深くまで運ばれると地熱により分解されてガスとなり,断層や泥火山などの地質構造を通して冷湧水とともに地表(海底)に湧出する。海水中に湧出したガスは微生物に酸化され,最終的には二酸化炭素として再び大気中に放散される。このような地球規模での炭素循環過程を解明する手掛かりとして,シリカクラスレート鉱物は新たな物証を与える。本研究はシリカクラスレート鉱物から古代のメタン湧水環境に関するより詳細な情報を得ることを目的とし,極東ロシア サハリンをモデル地域として研究を行うものである。2年目となる平成29年度は、前年に引き続き、サハリン南西の町ネヴェリスクおよびクリリオンスキー半島の南西海岸の調査を行なった。ネヴェリスクでは、前年度に確認したシリカクラスレート鉱物の一種、メラノフロジャイトと、化石の産状調査を重点的に行なった。また、クリリオンスキー半島においては、前年度調査ではメラノフロジャイトの痕跡(仮晶=結晶の形だけを残し、中身が玉髄に変質したもの)しか発見できなかったが、未調査の場所を重点的に調べた結果、未変質のメラノフロジャイトを見出した。産状は火山岩中に貫入した熱水鉱脈であり、ネヴェリスクのものとは趣が異なる。調査の結果については日本鉱物科学会2017年度年会にて発表を行った。また、採取した試料について、詳細な分析を進めているところである。
著者
井尻 暁
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.126, no.1, pp.29-37, 2020-01-15 (Released:2020-04-22)
参考文献数
38
被引用文献数
1

泥火山は,高間隙水圧をもった堆積物が泥ダイアピルとして上昇し地表に噴出した小丘で世界各地の大陸縁辺域に分布している.近年の研究により,泥ダイアピル中の微生物が海底下の物質循環に貢献していること,泥火山の活動により地下深部の微生物が地表に運ばれていることが明らかになってきた.種子島沖の泥火山では海底下に存在するAtribacteriaがメタンと共に泥火山から海水中に放出・拡散されているのが発見され,海底泥火山が海洋と地下生命圏を繋ぐ地質学的な生命移動・拡散経路となっていることが確かめられている.熊野海盆の泥火山で行われた科学掘削により,流体の移動プロセスが微生物の代謝に深く関与していること,海底下の微生物活動がこれまで認識されてきた以上に地球の炭素循環に大きく寄与している可能性が示唆されている.
著者
井尻 暁 谷川 亘 村山 雅史 徳山 英一
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

近年、画像解析処理の向上により、デジタルカメラ等で撮影した多視点画像からの対象物の三次元形状復元(Structure from Motion = SfM)が精度良くできるようになってきている。地理学や考古学分野ではこの手法を取り入れて、ドローン撮影による地形データの取得や考古遺構調査の記録に活用されている。水中の調査でも戦争遺跡や珊瑚の記録等で同技術が応用されつつあるが、まだ事例が多いとはいえず、問題点もあまり整理できていない。一方、高知大学と海洋研究開発機構は、684年の白鳳地震により一夜として沈んだとされる村「黒田郡」の謎を明らかにするために、高知県沿岸部海底の調査を実施している。その海底調査では、海底対象物の形状を精度よく計測・記録する必要があるが、これまで音響調査や潜水士による測定方法で実施してきた。しかし、対象物が非常に浅部にある場合や小さい場合、こうした調査手法では精度良いデータは得られない。一方、SfM写真測量技術を用いれば、上記問題を解決できる可能性がある。そこで本研究では、黒田郡の海底調査で得られた画像データを用いてSfMによる対象物の三次元形状復元を試みた。また、海底から採取した試料を簡易プールに移して、水中画像によるSfMの問題点を評価した。撮影カメラはオリンポスのTGシリーズを用いた。また、3Dモデルの構築はAgisoft社のmetashapeを用いた。野見湾の海底で撮影した約30枚の水中画像により、高解像度の3次元海底地形データを再構築することができた。一方、野見湾で見つかった蛸壺は、視界がわるく、精度の良い3次元形状の復元はできなかった。本研究では、爪白海底で見つかった石柱と野見湾の蛸壺を用いて水中と陸上で撮影した条件による3Dモデルを比較して違いを考察する。また、陸上においても撮影が難しい光に反射しやすい対象物の撮影方法についても検討する。本研究の一部は高銀地域経済振興財団の助成金により実施された。
著者
井尻 暁
出版者
独立行政法人海洋研究開発機構
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

極微小珪質プランクトンの殻(生物源オパール)の酸素同位体比を,精度良く簡易かつ安全に測定する新しい分析システムを開発し,この結果,従来の分析手法の1/10以下の試料量で,測定精度を落とすことなく短時間で珪質プランクトンの酸素同位体比分析を行うことが可能となった。この手法を用いて放散虫殻化石の種別同位体分析に成功。また国際統合掘削計画(IODP)で得られた試料の分析を行った。
著者
稲垣 史生 諸野 祐樹 星野 辰彦 井尻 暁 肖 楠 鈴木 志野 石井 俊一 浦本 豪一郎 寺田 武志 井町 寛之 久保 雄介
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.124, no.1, pp.77-92, 2018-01-15 (Released:2018-05-30)
参考文献数
71
被引用文献数
3 2

約半世紀の歴史を持つ海洋掘削科学は,プレートテクトニクスの実証や過去の劇的な地球環境変動など,教科書にその名を刻む輝かしい科学的成果をもたらしてきた.中でも,「海底下生命圏」の発見による生命生息可能域の大幅な拡大は,それまでの地球生命科学の概念(パラダイム)を覆すマイルストーン的な科学成果の一つである.これまでに,世界各地の海洋底から掘削されたコアサンプルの多面的な分析研究により,水・エネルギー供給が極めて限られた海底下環境に,固有の進化を遂げた膨大な数の未知微生物が生息していることが明らかとなっている.その生態系機能は,極めて低活性な生命活動により支えられている静的なものであるが,地質学的時間スケールで,地球規模の元素循環に重要な役割を果たしていることが明らかとなってきた.
著者
谷川 亘 山本 裕二 廣瀬 丈洋 山崎 新太郎 井尻 暁 佐々木 蘭貞 木村 淳
出版者
国立研究開発法人海洋研究開発機構
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2022-04-01

1888年磐梯山噴火により磐梯山の北側に湖(桧原湖)が形成し、それに伴い桧原集落(桧原宿跡)が被災し水没した。桧原宿跡は旧宿場町のため近世・近代の文化を記録する『水中文化遺産』であり、また火山災害の痕跡を記録する『災害遺跡』としての価値を持つ。そこで、桧原宿跡の水中遺跡調査を通じて、江戸・明治の産業・文化・物流の理解、山体崩壊に伴い約500名もの住民が亡くなった災害のメカニズム、せき止め湖の形成過程、および水没により高台移転を余儀なくされた避難の過程という自然災害の総合的な理解につなげる。
著者
土岐 知弘 中屋 眞司 新城 竜一 新垣 典之 原 由宇 満留 由来 安村 幸真 大嶋 将吾 益田 晴恵 井尻 暁
出版者
一般社団法人日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集
巻号頁・発行日
vol.68, 2021

<p>竹富海底温泉のホウ素同位体比と,竹富島掘削試料のホウ素同位体比をそれぞれ測定したところ,150℃程度で平衡に達している可能性があることが明らかとなった。SF6濃度から滞留時間は20年程度。水の同位体比からも,地下水と深部流体が混合したリザーバーの存在が示唆された。</p>
著者
谷川 亘 村山 雅史 井尻 暁 廣瀬 丈洋 浦本 豪一郎 星野 辰彦 田中 幸記 山本 裕二 濱田 洋平 岡﨑 啓史 徳山 英一
出版者
日本海洋学会 沿岸海洋研究会
雑誌
沿岸海洋研究 (ISSN:13422758)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.21-31, 2021 (Released:2021-09-07)
参考文献数
34

高知県須崎市野見湾では,白鳳地震によって水没した村『黒田郡』の伝承が語り継がれているが,その証拠は見つかっ ていない.そこで本研究では,野見湾内で海底調査を行い『黒田郡』の痕跡を探索した.その結果,海底遺構の目撃情報 がある戸島北東部の海底浅部(水深6m~7m)に,面積約0.09km2の沖側に緩やかに傾斜する平坦な台地を確認した. 台地表層は主に薄い砂で覆われており,沿岸に近づくにつれて円礫が多くなった.また,砂層の下位は硬い基盤岩と考え られ,海底台地は旧海食台(波食棚)と推定される.海水準変動と地震性地殻変動を踏まえると南海地震により海食台は 約7m 沈降したと推定できる.本調査では黒田郡の痕跡は発見できなかったが,水中遺跡研究に対する多角的な調査手 法を検討することができた.特に,インターフェロメトリソナーの後方散乱強度分布による底質観察とStructure from Motion(SfM)技術を用いた海底微地形の構築は,今後浅海における水中遺跡調査に活用できる.
著者
村山 雅史 谷川 亘 井尻 暁 星野 辰彦 廣瀬 丈洋 富士原 敏也 北田 数也 捫垣 勝哉 徳山 英一 浦本 豪一郎 新井 和乃 近藤 康生 山本 裕二 黒田郡 調査隊チーム一同
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

黒田郡遺構調査の目的で,高知県浦ノ内湾の最奥部(水深10m)から採取した堆積物コアを解析した。当時の海洋環境や生物相の変遷履歴も復元することもおこなった。高知県土佐湾の中央部に位置する浦ノ内湾は,横浪半島の北側に面し,東西に細長く,12kmも湾入する沈降性の湾として知られている。高知大学調査船「ねぷちゅーん」を用いて、バイブロコアリングによって4mの堆積物コアが採取された。採取地点は,周囲からの河川の影響はないため,本コア試料は,湾内の詳細な環境変動を記録していると考えられる。採取されたコア試料は,X線CT撮影,MSCL解析後,半割をおこない肉眼記載や頻出する貝の採取,同定をおこなった。 堆積物の岩相は,olive色のsity clayであり,全体的に多くの貝殻片を含む。コア上部付近は,黒っぽい色を呈し強い硫化水素臭がした。また,コア下部に葉理の発達したイベント堆積物が認められ,その成因について今後検証する予定である。
著者
谷川 亘 徳山 英一 山本 裕二 村山 雅史 田中 幸記 井尻 暁 星野 辰彦
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

日本各地には巨大災害により沿岸部の集落や構造物が水没した記録や伝承が残されている。例えば1498年の明応東海地震による浜名湖南部集落の水没、天正13年の地震に伴う長浜市琵琶湖湖岸集落の水没、磐梯山の噴火に伴う檜原宿の水没が挙げられる。高知県内でも684年に発生した白鳳南海地震により集落が水没した伝承が残されており、その集落は「黒田郡」という名称で市民に知れ渡っている。この黒田郡伝承を明らかにするために、過去に幾度にもわたり調査が実施されてきた。しかし、調査記録が不明瞭な点が多く、黒田郡の謎にどこまで迫れたのかわからない。そこで2013年から高知大学と海洋研究開発機構が中心となって、黒田郡の調査が始まった。2019年までに高知県内沿岸部の6地点(南国市十市、野見湾、浦ノ内湾、興津、爪白、柏島)の調査を実施してきた。残念ながらこれまでのところ黒田郡の痕跡を示す証拠は得られていない。一方、本研究は海底の人工物と構造物を自然災害の記録を残す物証として見立てた地球科学的な分析アプローチであるため、これまでの発想にない発見が得られつつある。そこで本発表では、研究成果が出つつある3地点(野見湾・爪白・柏島)について調査概要を紹介する。須崎市野見湾の南部に位置する戸島は弥生時代の遺跡があり、島北東部海底で井戸を見たという報告が昔から寄せられている。そのため、野見湾は高知県内でも黒田郡の有力候補地として知られている。本研究では、海底地形調査により戸島北東部において縦横200m幅にわたる台地を確認することができた。海底台地は非常に平坦で、海食台の可能性をうかがわせることから、海食台の形成過程から地震性沈降史を評価できる可能性がある。一方、土佐清水市爪白海岸海底には人工的に加工された跡が残る石柱が多く横たわっている。本研究により、この石柱は近郊の爪白地区で石段や家の基礎として古くから使用されていた石造物であることがわかった。さらに、石柱が陸上から海底に運搬されたプロセスに南海地震津波と水害が関与している可能性があることがわかった。幡多郡柏島の北部に石堤を想定させる巨石が積まれた壁状構造物が海底にあることが知られている。野中兼山が整備した陸上の堤(兼山堤)とほぼ並行に位置しているため、兼山堤との関連性もうかがわせる。しかし、年代同定と鉱物分析からこの構造物は自然でできたビーチロックである可能性が高いことがわかった。ビーチロックは潮間帯で形成されるため、ビーチロックの年代分析から沈降履歴を評価できる可能性がある。本研究は、水中構造物と水中遺物を対象にした調査が、地震や水害などの歴史自然災害の履歴の評価につなげられる可能性を示唆している。本研究の一部は高銀地域経済振興財団の助成金により実施された。参考文献谷川亘ほか、2016、黒田郡水没伝承と海底遺構調査から歴史南海地震を紐解く:レビューと今後の展望、歴史地震、31、17-26
著者
井尻 暁 坂井 三郎
出版者
国立研究開発法人海洋研究開発機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

熊野海盆海底泥火山および、下北八戸沖石炭層の掘削によって得られた堆積物試料からメタンを抽出し、メタンの生成温度の指標となるクランプトアイソトープを測定した。この結果、熊野海盆泥火山では断層を通じた水の供給により活性化した微生物によるメタン生成の寄与が非常に大きいことが明らかになった。八戸沖石炭層では海底下の微生物の生息限界に近い海底下深部(2500m)でもメタン生成が行われていることが明らかとなった。