著者
仲間 裕子
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

ドイツのドレスデン美術館やロシアのエルミタージュ美術館を始めとした国外調査を経て、ドイツ・ロマン主義画家のフリードリヒの作品分析を行い、画家の世界観、および近代における視覚の変容がいかに作品に反映されたかを考察した。また、フリードリヒの作品の受容をめぐる諸問題を、フリードリヒが"再発見"された1906年の「ドイツ100年展」を主軸に調査し、国家権力に左右された経緯とともに考察した。さらにこうした受容の反省に立つ戦後のドイツ美術作品を"崇高性"、"アイロニー"、"社会関与"の観点から分析し、ドイツ・ロマン主義の20世紀における継承と変容を指摘した。研究結果は、まず、フリードリヒ研究成果をまとめた著書、『C.D.フリードリヒ、《画家のアトリエの眺め》-視覚と思考の近代』(三元社、2007年3月)である。第1章《画家のアトリエからの眺め》、第2章フリードリヒの「抽象」、第3章リューゲン島の風景-自然、主体をめぐる言説、第4章北方の風景-トポグラフィーとアイデンティティ、第5章観照の美学から新しい美学へ、第6章「ドイツ100年展」、第7章メランコリーとロマン的イロニー-フリードリヒから今日のドイツ美術へ、から構成されている。また、フリードリヒの手記を翻訳・解説した『ドイツ・ロマン派風景画論』(共訳、三元社、2006年)を出版した。次に、海外共同研究者のエアランゲン=ニュルンベルク大学のハンス・ディッケル教授を日本に招聘し、2007年9月21日に京都国立美術館でシンポジウム「ドイツ・ロマン主義の<現在>」、24日に国立新美術館で講演会「ドイツ・ロマン主義と現代美術」を開催し、ドイツ・ロマン主義の伝統と今日性について様々な角度からの報告とパネリストを交えた討論の機会を得た。
著者
遠藤 保子 八村 広三郎 仲間 裕子 山下 高行 崔 雄 古川 耕平 松田 凡 高橋 京子
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

舞踊人類学やアフリカの舞踊に関する研究動向を概観し、舞踊の最新の記録法としてモーションキャプチャを利用したデジタル記録を指摘した。アフリカで人類学的なフィールドワークを行いつつ、モーションキャプチャしたデジタルデータからアフリカの舞踊の特徴(多中心的な動作や性差による相違点等)を考察した。アフリカの舞踊の教材化について論じ、小学校高学年を対象にした開発教育のための教材(DVD、指導計画)を制作した。
著者
BERNDT JAQUELINE GUDRUN GRAWE 野口 メアリ 仲間 裕子 山根 宏 山下 高行
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

本研究では、他文化的視角を自文化的視角と結び付け、美学から社会学に至るまでの研究分野を考慮しながら、キッチュというキーワードのもとに「かわいい」現象に接近した。西洋近代に起因する否定的概念である「キッチュ」が日本では一般的にあまり定着していないという状態が、近代・現代日本における美的文化の特殊性に注目を向けさせた。それは、近代的制度として自律する芸術だけでなく、日本文化内の自己像や他者像に使われる日常的表象とその文脈をなしている社会的価値体系としても取り上げられた。具体的研究対象となったのは、意識調査や女性雑誌の分析に基づいた「可愛らしさ」と「女性らしさ」との関係の追求、西洋語と中国語と日本語の比較による語源や現代的言葉遣いについての考察、大衆文化的表現や美術における「可愛らしさ」の分析、マーケティングにおける「かわいい」戦略の検討、近代日本特有の文化的アポリアの取り扱いについての論証などである。その際、「キッチュ」も「かわいい」も物事の性質を指す概念としてではなく、むしろ関係概念として用い、キッッチュ」あるいは「かわいい」とは何かというよりも、それが近代・現代日本文化において如何なる役割を果しているかの方に重点を置いた。本研究では「かわいい」を特定の年代や特定の時代に限定することに異議を唱え、日本文化における中心的価値観の一つとして取り上げた。弱者の美学でもある「かわいい」現象は、分裂状態を「中立化」させる閉じられた共同体の特質に起因し、自分のアイデンティティとして「女性性」を重視する日本文化と根底において合体することが明らかにされた。さらに「かわいい」から「キッチュ」へと向いつつある女子・女性雑誌を手がかりに、「キッチュ」がその歴史性を奪われた形で通用するようになっていることが示される一方、「キッチュ」という用語の肯定的用法が近年の現象でははく、訳語として導入されて以来肯定的な言葉であったということが指摘される。