著者
冨田 大智
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.75, no.4, pp.211-228, 2021-07-28 (Released:2021-07-28)
参考文献数
13

本稿では,平成28年熊本地震の発生に伴い,肉牛生産に利用される牧野においてどのような被害が発生し,それらの牧野を利用し維持・管理する牧野組合においてどのように復旧対応がなされたかということを,熊本県阿蘇郡旧長陽村及び旧白水村の11牧野組合を事例として明らかにした。牧野組合での被害内容は,肉牛生産に直結する牛の死亡等よりも,牧野における土砂崩壊や道路被害が大きく,各牧野組合で受け入れられた外部組織による補助事業費もそれらに関するものが主であった。土砂崩壊や道路被害が大きくなると,補助事業費も大きくなる牧野組合がみられる一方で,被害が小さいにもかかわらず補助事業費が大きい牧野組合や,被害が大きいにもかかわらず補助事業費が小さい牧野組合もみられた。背景には,各牧野組合の牧野の維持・管理作業の在り方の違いがあると考えられる。前者の牧野組合では,近隣地区での野焼き事故の発生により,地震発生以前から野焼きが実施されていなかった。ただし,条件が整い次第野焼きを再開する意向が示されており,行政による復旧支援も充実したと考えられる。後者の牧野組合では,地震以前から牧野の維持・管理作業が実施しやすいように独自に恒久防火帯を整備していた場合と,放牧地に対して牛の放牧頭数が多いことから野焼きによる牧野の維持・管理を必要としないと考えられていた場合とがあり,復旧支援も抑えられたと考えられる。