著者
加川 充浩
出版者
島根大学法文学部山陰研究センター
雑誌
山陰研究 (ISSN:1883468X)
巻号頁・発行日
no.12, pp.69-85, 2019-12-31

本研究の目的は、過疎地域における生活困窮者自立支援事業の展開状況の特質を明らかにすることである。事例として、過疎地域指定を受けている島根県A市での事業を取り上げた。研究の特徴は次の2 つである。まず、「過疎」と「困窮」の両者を扱う研究は少ないという点である。過疎地域の研究では、高齢者の生活課題が議論の中心であった。しかし、過疎地域であっても、生活困窮に関連する課題は、高齢化に限らず多様であることを示す。次に、研究方法として、生活困窮者支援ケース記録の自由記述を分析するという手法を採る。これにより、国が実施する全国規模の調査では表出しない、過疎地域の実態を描く。結論部分では、過疎地域の生活困窮者の置かれた状況について3 点述べた。第一に、生活困窮者は、地域に滞留している高齢者ばかりではなく、UI ターンといった流入者も一定数ある。しかも、高齢者よりも現役世代の割合が高い。第二に、家族・親族が困窮者に何らかの関与を行っている。家族・親族は、サポート要因となる場合と、非サポート要因になる場合とがある。第三に、過疎地域の生活環境が、生活困窮者とその支援に影響を与えている。たとえば、公共交通手段の不十分さや、社会資源の不足などである。
著者
加川 充浩
出版者
島根大学法文学部社会文化学科福祉社会教室
雑誌
島根大学社会福祉論集 = Journal of social welfare studies, Shimane University (ISSN:18819419)
巻号頁・発行日
no.6, pp.1-15, 2017-03

本研究の目的は、占領下における福祉行政確立と民生委員制度改革の両者をめぐる動向を描きつつ、公私分離の内実を明らかにすることである。占領軍は、社会福祉行政の基盤を構築する一方で、民生委員を福祉行政から排除することを求めた。いわゆる公私分離の原則である。この公私分離の原則に、日本政府がどのように対応したのかについて検討した。史料として、地方自治体(兵庫県および京都府)が所蔵しているものを利用した。結論として、3点について述べた。第一は、日本側は福祉行政制度を確立しつつも、民生委員の活用を図るという「曖昧さ」を残した対応をしたことである。第二は、「曖昧さ」が存置する時代状況があったことである。第三は、戦後の福祉行政出発点における専門職配置の不徹底さは、現在にも影響を及ぼしているということである。