著者
菅間 博 住石 歩 千葉 知宏 宍戸-原 由紀子
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.125-129, 2014 (Released:2014-08-07)
参考文献数
12

甲状腺腫瘍の乳頭癌と濾胞癌では遺伝子変異のパターンが異なる。乳頭癌ではRET/PTC再構成とBRAF(V600E)変異が,濾胞癌では多彩なRASの変異とPPARγ/PAX8再構成が高頻度に認められる。さらに低分化癌と未分化癌では,p53やβカテニン(CTNNB1)遺伝子の変異が加算される。現在,液状化検体(LBC)細胞診標本に応用が容易な遺伝子変異として,免疫染色とFISHにより検出可能なものがある。免疫染色によりBRAF(V600E)変異,p53とβカテニン(CTNNB1)の異常は検出可能である。FISHによりRET/PTCとPPARγ/PAX8の遺伝子再構成は検出可能である。BRAF(V600E)とRET/PTCで理論的には乳頭癌の大部分を診断することができる。PPARγ/PAX8で濾胞性腫瘍の半数程度に診断可能であるが,細胞診断上問題となる濾胞腺腫と濾胞癌の鑑別には有用でない。将来,分子病理診断が,細胞診の正診率向上のみでなく,分子標的治療にも利用されることが期待される。
著者
千葉 知宏 菅間 博
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.78-82, 2016 (Released:2016-07-28)
参考文献数
17

甲状腺低分化癌は,高分化癌と未分化癌の中間的な形質を示す濾胞上皮由来の悪性腫瘍である。病理形態学的には,腫瘍細胞が正常な分化から逸脱し,濾胞状配列ではなく,充実性,索状ないし島状といった特徴的な増殖パターン(低分化成分)を示す。2004年のWHO分類において独立した組織型として定められた。本邦でも2005年の第6版甲状腺癌取扱い規約にて採用されたが,WHO分類の組織診断基準と違いがあり,充実型乳頭癌が含まれていた。取扱い規約第7版の改訂により,低分化癌の組織診断基準に「低分化成分が全体50%以上を占め,乳頭癌に典型的な核所見はみられないことの」が加えられ,WHO分類に一致するものとなった。本稿では,低分化癌の病理診断,類似疾患との鑑別のポイントを解説する。
著者
千葉 知宏
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.11-16, 2021 (Released:2021-05-27)
参考文献数
13

甲状腺結節の診断・鑑別に関しては,穿刺吸引細胞診と手術検体の組織診断という形態診断に基づくが,大規模な遺伝子解析の結果から甲状腺腫瘍における遺伝学的背景が明らかになり,乳頭癌においてはBRAFV600EとTERT promoter変異と予後の関連も明らかになった。我が国において遺伝子パネル検査が保険適用になり,甲状腺癌症例の解析が少しずつ実施されている。穿刺吸引細胞診に関しては,液状化検体細胞診(liquid-based cytology, LBC)の利用により,従来の形態診断のみならず,様々な遺伝子解析が可能となった。すでに欧米では甲状腺腫瘍を対象とした術前の遺伝子パネル検査が実用化されており,一定の実績を残している。今後エビデンスの蓄積により,術前から分子診断を実施し,術式や術後補助療法の選択へ応用することが期待されている。