著者
大野 久雄 鈴木 修 韮澤 浩 吉崎 正憲 長谷川 直之 田中 芳男 村松 良夫 小倉 義光
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
気象集誌 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.197-222, 1994-04-25
被引用文献数
13

太平洋高気圧の北辺に位置する岡山地方で1991年6月27日午後発生した雷雨嵐は同地方に激しい雨や雷および強い突風をもたらせた。中でも岡山市の北東部で発生した突風は特に強く、単体では51m/sの風に耐えられるコンクリート製電柱18本を倒壊させた。この研究は、電柱の倒壊をもたらせた突風の原因を調べるために始められた。利用可能なすべてのデータが集められ、解析された。データ源は、通常レーダー、気象庁のシステム、密に展開された自治体の大気汚染監視用風向風速計、民間航空機、テレビ局のビデオ画像、被害調査結果等と多岐にわたった。これらを複合利用してメソ解析を行った結果、少なくとも4つのダウンバースト(マイクロバーストとマクロバーストの両方)の発生が明らかになった。電柱を倒壊させたのはそのうちの1つで、雷を伴っていた。当時大気成層は、湿マイクロバーストを発生させるのに適したもので、Atkins and Wakimoto(1991)が報告した米国北アラバマの事例と類似していた。また、ダウンバースト発生の潜在的危険性が太平洋高気圧の北辺にあるとの指摘がなされた。
著者
吉崎 正憲
出版者
(公社)日本気象学会
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.548-559, 1979 (Released:2007-10-19)
参考文献数
13
被引用文献数
3

振幅方程式を用いて,カーブした温度分布を持ち,しかもシアのある流れのある流体中に実現する対流セルの形状を調べた.温度分布の一次関数からのずれとシア流の強さ,および系のレーリー数の臨界値からのずれをパラメータとして,定常解を求めてその安定性を調べた.系のレーリー数のカーブした温度分布に対する臨界値からのずれを(ΔR)*とすると,次の事が明らかになった.(1)シアが弱い場合,2次元ロールは(ΔR)*が限られた領域でのみ不安定で存在しない.しかし,シアがある値以上強くなると,ロール解は(ΔR)*が正の領域で常に安定に存在する.(2)シアがない時に六角形セルに帰着する解は,シアが強まるにつれて,シアの方向に伸びたセルに変形してゆく.そしてシアがある値以上になると,この解は安定に存在しなくなる.
著者
吉崎 正憲 上清 直隆 瀬古 弘 高山 大 楠 研一 つくば域降雨観測実験グループ
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.19-33, 1998-01-31
被引用文献数
5

1995年8月10日に関東平野で発生した雷雨について, 総観(1000km)・関東(100km)・雷雨(10km)の3つのスケールから, アメダス, 気象台や地方自治体の自記紙, 高層観測, ドップラーレーダーなどのデータを用いて調べた. 総観スケールの寒冷前線が関東地方を通る時に発生したので, 解析対象の雷雨は界雷型であった. しかし, この雷雨の発生や発達には, 総観スケールだけではなく関東スケールの風系も関与した. 関東平野の地上付近には3つの風系(非常に高温の南寄りの風I, 高温の北西寄りの風II, 低温の北東寄りの風III), およびその間には温度や風の不連続なシアラインが見られた. 雷雨は3つのシアラインが交差する付近で発生して, 風系IIIの中で発達・成熟した. それぞれの風系の気塊は温度・湿度・相当温位がほぼ一様でミニ気団的な特性を持っていた. 雷雨の最盛期には, 激しい降水による強い下降流とそれによる地上付近の顕著な外出流の雷雨スケールの流れが見られ, またそうした流れによってアーク状の雲が発生した. 風系IIIの寒気と北東風の生成について定量的な考察を行った. 寒気は風系IIIにあった別の雷雨の降水の蒸発の冷却効果などによって作られたものであり, 北東風は雷雨から吹き出すガストであったと結論された.
著者
瀬古 弘 吉崎 正憲 楠 研一 つくば域降雨観測実験グループ
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.93-103, 1998-02-28
参考文献数
13
被引用文献数
5

1995年8月16日, 東北地方を横切って東西に延びる寒冷前線が南下した時に, 関東地方で南西から北東に線状に並んだスコールラインが見られた。このスコールラインの成熟期の構造を, つくばのドップラーレーダー, アメダス, 気象官署や地方自治体(群馬県, 埼玉県, 栃木県, 茨城県)の観測データなどを用いて解析した。スコールラインの中では, 強い降水域が進行方向前面に並び, 後側に弱い降水域が広がっていた。スコールラインの移動に相対的な地上風の分布を見ると, 降水域では冷気外出流に伴う発散があり, その前面では前方からの暖かい風との収束がみられた。一方, 高度2〜4 kmの水平風をみると, 強い降水域では後方へ吹き出し, 弱い降水域では後ろからの乾いた空気の吹き込みが見られた。地上の気圧のメソスケールの変動を見ると, 降水域の前面で低圧, 強い降水域で高圧, 降水の止むところでは低圧であった。規模は小さいけれども, 本事例のスコールラインはアメリカ中西部や熱帯で見られるものとよく似た特徴を持っていた。
著者
木村 富士男 谷川 亮一 吉崎 正憲
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.44, no.11, pp.799-807, 1997-11-30
参考文献数
6
被引用文献数
16

晴天静穏時の大気下層における水蒸気輸送と, それによる可降水量の日変化を調べるため, 1995年7月24日から29日までの6日間, 関東地方の3地点(丸沼, 前橋, つくば)において, オメガゾンデなどによる集中観測を行った. 過去の研究で, アメダスやレーダーの解析などにより, 夏期の北関東山地や中部山岳域では降水頻度が高いことが示されている. また理論的にも静穏日には山岳域に水蒸気が集まりやすいことが予想されているが, これらを確認するための, 晴天静穏日の山岳域における水蒸気量の観測は例が少なかった. 今回の観測の結果, 山岳域と平野域とで水蒸気量の日変化に顕著な違いがみられた. 山岳域の丸沼では, 局地循環によると思われる水蒸気の日変化が高度4500mまで及び, 午前中から夕方にかけて可降水量が増加した. 一方で, 山岳域の麓の前橋では, 午前中に可降水量の急減がみられ, その後次第に回復した. これらの結果から, 水平規模の大きな局地循環による水蒸気輸送と, 可降水量の日変化との間に密接な関係があることが明らかになった. さらに, 夏期の局所的な降水頻度の地域分布との関係についても示唆に富む結果が得られた.
著者
中澤 哲夫 新野 宏 榎本 剛 田中 博 向川 均 吉崎 正憲
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

全球大気顕著現象の予測可能性研究計画(THORPEX)を日本で具体化し推進する研究戦略を、3回開催した研究計画策定会議により策定した。本研究は、毎年日本を含むアジア域で発生している顕著気象(台風、豪雨、旱魃、寒波、熱波など)を適切に予測して、社会的・経済的被害の低減を目的とする。日本のリーダーシップがアジアにとどまらず、世界的にも大きな役割を発揮して研究が推進できるよう、以下の6課題について研究戦略を策定した。1:大気顕著現象の発生過程とその大規模場との相互作用の機構解明。暖候期及び寒候期の大規模循環異常とメソスケール擾乱の力学と予測可能性について研究を推進する。2:偏西風帯上のエネルギー伝播と大気顕著現象発生の機構解明。偏西風の蛇行による砕波がもたらす大気顕著現象の発生機構をデータ解析や数値シミュレーションから解明する。3:アンサンブル予測の高度化に関する研究。世界各地の数値予報機関で行われているアンサンブル予測データを束ねた確率的予測手法を構築する。4:季節内変動の機構解明とその予測可能性に関する研究。長期予測の精度向上に不可欠な季節内変動をアンサンブル予測データから調査する。5:大気顕著現象発生に果たす風・水蒸気の挙動に関する研究。降雨の予測向上のためには、風上の下層大気の風と水蒸気の空間分布の把握が重要であり、観測船のデータから調査する。6:台風の進路・強度変化に果たす力学場・熱力学場の影響評価。台風周辺の直接観測を実施し、台風の予測精度向上を目指す。上記の課題を解決するため、以下3点の重要性が認識された。・気象庁をはじめ機関が保有するデータのデータベース構築とその利用・予測可能性研究のための共通基盤的研究の更なる進展・本研究の成果を東アジアや東南アジア諸国に還元し、それらの国の研究促進への貢献本研究の成果を踏まえ、平成19年度からの特定領域研究に申請を行う。
著者
瀬古 弘 加藤 輝之 斉藤 和雄 吉崎 正憲 楠 研一 真木 雅之 「つくば域降雨観測実験」グループ
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.77, no.4, pp.929-948, 1999-08-25
被引用文献数
7

台風9426号(Orchid)が日本列島に接近した1994年9月29日に、関東平野にほぼ停滞するバンド状降雨帯が見られ10時間以上持続した。つくばにおける特別高層観測、2台のドップラーレーダーおよびルーチン観測のデータを用いて、この降雨帯を解析した。この降雨帯はニンジン形の雲域を持ち、バックビルディング型の特徴を持っていた。南北に延びた降雨帝はマルチセル型の構造をしていて、その中のセルは降雨帯の南端で繰り返し発生し, 西側に広がりながら北に移動した。水平分解能2kmの気象研究所非静水圧メソスケールモデルを用いて、数値実験を行った。メソ前線は実際の位置の約100km南東に形成されたが、バックビルディング型の特徴を持つニンジン型の形状のほぼ停滞する降雨帯が再現され、3時間以上持続した。セルが北西に移動すると共に降雨帯の東側で降水が強化されて、ニンジン形が形成されていた。降雨帯の形成メカニズムを調べるためにまわりの場と雲物理過程を変えて感度実験を行った。その結果、中層風の風上側からの高相当温位の気塊の供給と風の鉛直シアが重要であることがわかった。