著者
井上 なつき 穐山 直太郎 柳原 健一 竹ノ谷 亜希子 久保田 俊輝 山口 宗太 森脇 宏人 吉川 衛
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.189-195, 2017-08-15 (Released:2018-08-15)
参考文献数
27

咽頭異物は耳鼻咽喉科疾患でも日常的に遭遇する疾患であり, 本邦では魚骨異物が多い。 異物の介在部位や大きさにより異物の確認が困難な場合があり, 治療に難渋することも少なくない。 今回, 当科での3年間の咽頭異物60症例のうち, 魚骨異物54例について臨床的特徴を検討した。 年齢は40歳代が最多で, 性別は30歳代と50歳代で女性にやや多い傾向にあった。 検出方法としては, 口腔内からの視診および喉頭内視鏡検査により異物を確認, 同時に摘出可能な症例が多かった。 視診と喉頭内視鏡検査で異物を確認できなかった症例が3例認められ, そのうち1例は初診時の頸部単純 CT 検査でも検出が困難であったが, 後日異物を確認し摘出できた。 その症例の魚骨を用いて CT 検査撮影条件の検討を行ったところ, 通常の CT で行うスクリーニングの撮影条件では検出できない魚骨異物が存在する可能性が示唆された。 したがって, 魚骨異物が疑われた場合は, 一度の CT 検査で異物が検出されなくても注意深く経過を追うことが必要である。 異物の存在が否定されない場合は積極的に CT 再検査を行い, 異物周囲の炎症性変化や膿瘍形成などの随伴する所見も参考に再検出を行うことが重要と思われた。
著者
吉川 衛
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.118, no.5, pp.629-635, 2015-05-20 (Released:2015-06-11)
参考文献数
21
被引用文献数
6

近年, 日常診療において副鼻腔真菌症に遭遇する機会が増加してきているが, その理由として, 患者の高齢化はもとより, 糖尿病患者の増加や, ステロイド, 免疫抑制薬, 抗悪性腫瘍薬などの使用により免疫機能の低下した患者の増加などが考えられる. さらに, 副鼻腔で非浸潤性に増殖した真菌に対する I 型・III 型のアレルギー反応や T 細胞応答などにより病態が形成される, アレルギー性真菌性鼻副鼻腔炎のような特殊な副鼻腔真菌症も報告されるようになった. 急性および慢性浸潤性副鼻腔真菌症の治療は, 外切開による拡大手術が第一選択となり, 手術による病巣の徹底的な除去と, 抗真菌薬の全身投与を行う. 慢性非浸潤性副鼻腔真菌症の治療は, 抗真菌薬の全身投与は不要で, 手術により真菌塊を除去した上で病的な粘膜上皮を切除すると予後は良好である. アレルギー性真菌性鼻副鼻腔炎の治療は, 現在のところ手術療法が第一選択で, 術後のステロイドの全身投与が有効とされている. このように, いずれのタイプにおいても副鼻腔真菌症では手術治療が中心となるため, 耳鼻咽喉科医が的確に診断し, 治療を進めていくことが求められる. 2014年4月に「深在性真菌症の診断・治療ガイドライン2014年版」が刊行され, 副鼻腔真菌症について治療アルゴリズムが示されている. 非浸潤性以外の副鼻腔真菌症はどれも発症頻度の高い疾患ではないため, エビデンスレベルの高い報告は国内外を問わず存在しなかったが, これまで蓄積された報告に基づくこの治療アルゴリズムが, 今後の診療の指標となると考える.
著者
藤枝 重治 坂下 雅文 徳永 貴広 岡野 光博 春名 威範 吉川 衛 鴻 信義 浅香 大也 春名 眞一 中山 次久 石戸谷 淳一 佐久間 康徳 平川 勝洋 竹野 幸夫 氷見 徹夫 関 伸彦 飯野 ゆき子 吉田 尚弘 小林 正佳 坂井田 寛 近藤 健二 山岨 達也 三輪 高喜 山田 奏子 河田 了 寺田 哲也 川内 秀之 森倉 一朗 池田 勝久 村田 潤子 池田 浩己 野口 恵美子 玉利 真由美 広田 朝光 意元 義政 高林 哲司 富田 かおり 二之宮 貴裕 森川 太洋 浦島 充佳
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.118, no.6, pp.728-735, 2015-06-20 (Released:2015-07-18)
参考文献数
21
被引用文献数
2 7

これまで本邦における慢性副鼻腔炎は好中球浸潤が主体で, 内視鏡鼻副鼻腔手術とマクロライド少量長期投与にてかなり治療成績が向上してきた. しかし2000年頃からそれらの治療に抵抗性を示し, 易再発性の難治性副鼻腔炎が増加してきた. この副鼻腔炎は, 成人発症で, 嗅覚障害を伴い, 両側に鼻茸があり, 篩骨洞優位の陰影があった. 末梢好酸球も多く, 気管支喘息やアスピリン不耐症の合併もあった. このような副鼻腔炎の粘膜には多数の好酸球浸潤が認められていたため, 好酸球性副鼻腔炎と命名された. 好酸球性副鼻腔炎は, 徐々に増加傾向を示してきたが, 好酸球性副鼻腔炎の概念, 診断基準はあまり明確に普及していかなかった. そこで全国規模の疫学調査と診断ガイドライン作成を目的に多施設共同大規模疫学研究 (Japanese Epidemiological Survey of Refractory Eosinophilic Chronic Rhinosinusitis Study: JESREC Study) を行った. その結果, 両側病変, 鼻茸あり, CT 所見, 血中好酸球比率からなる臨床スコアによる簡便な診断基準を作成した. さらに臨床スコア, アスピリン不耐症, NSAIDs アレルギー, 気管支喘息の合併症, CT 所見, 血中好酸球比率による重症度分類も決定した. 4つに分類した重症度分類は, 術後の鼻茸再発と有意に相関し, 最も易再発性かつ難治性の重症好酸球性副鼻腔炎はおよそ全国に2万人いることが判明した. 治療法については経口コルチコステロイド以外まだ確立されておらず, 早急なる対応が急務と考えている.
著者
太田 修司 吉川 衛 庄司 和広 谷藤 泰正
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.49, no.6, pp.360-364, 2006-12-15 (Released:2011-03-18)
参考文献数
23

鼻内処置ならびに経鼻挿管治療において, 出血予防目的でエピネフリンが一般的に用いられている。しかしながら, 現在までに鼻内塗布血管収縮薬について有効濃度についての報告は少ない。今回我々は, 出血予防で鼻内処置に使用するエピネフリンおよびフェニレフリンの使用至適濃度について比較検討したので報告する。対象は鼻, 副鼻腔疾患の既往がなく, 1週間以内に上気道炎を罹患していない24-32歳 (平均 : 26.3±3歳) の健常成人ボランティア9名 (男性5名, 女性4名) 。測定は0.02%-0.001%エピネフリン, 0.5%および0.1%塩酸フェニレフリン, 及び対照用生理的食塩水を用い, 各濃度別薬剤2mlを染みこませたガーゼを被験者の右鼻腔内に3分間挿入した。その後内視鏡による貼付処置前後の色調及び粘膜収縮の観察と, 通気度計による通気度 (圧・流量曲線) 測定を行った。結果は, 内視鏡による粘膜色調, 収縮変化観察において, 対照を除く各群において収縮および下鼻甲介粘膜に貧血様の蒼白色調変化を認めた。通気度改善率の検討では対照群 (生食) との比較において0.02%, 0.01%エピネフリン群及び, 0.5%フェニレフリン群問に有意な通気改善を認めた。経鼻挿管に使用する出血予防血管収縮薬至適濃度は0.01%エピネフリンおよび0.5%フェニレフリンで効果があると考えられる。