著者
吉武 由彩
出版者
福祉社会学会
雑誌
福祉社会学研究 (ISSN:13493337)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.159-180, 2020-05-31 (Released:2021-06-23)
参考文献数
32
被引用文献数
1

献血により提供された血液は,検査・加工されて各種血液製剤になり,医療機関において患者の治療に用いられる.このとき,血液製剤を使用する患者は「受血者」と呼ばれる.先行研究では,家族や友人など周囲に受血者がいることが,献血を促すという指摘がなされることが多い.他方で,家族や友人に受血者がいない場合でも,献血を重ねる人々がいるが,このような人々に着目した研究はほとんど見られない.そこで,本研究では,家族や友人に受血者がいない人々(「受血者不在」の場合)を対象に,献血動機の分析を行うことを目的とする. 聞き取り調査の結果,初回献血動機と献血継続動機において共通して,献血によって「役に立つ」,家族や友人等における献血者や医療関係者の存在,いつか自身や家族が輸血を受ける時のために,といった動機が語られた.献血継続動機としては,健康管理も語られた.また,初回献血動機として「なんとなく」や「興味本位」と語る場合が見られたが(消極的献血層),これらの人々は,献血継続動機としては,「役に立つ」や健康管理へと変化していた.献血を重ねる人々を増やすには,人々が「なんとなく」であっても,献血へのきっかけを持てるようにすることが重要と考えられる.加えて,今回の対象者の初回献血時の年齢は,その多くが24 歳以下であったことから,24 歳以下の人々をターゲットとした献血推進も重要と考えられる.
著者
吉武 由彩
出版者
福岡県立大学人間社会学部
雑誌
福岡県立大学人間社会学部紀要 (ISSN:13490230)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.1-18, 2018-02

本稿では、リチャード・ティトマス(Richard Titmuss)の『贈与関係論』(_e Gift Relationship: from Human Blood to Social Policy)の論点を改めて確認し、その今日的意義を検討する。特にティトマスの『贈与関係論』における主要命題である「献血による社会的連帯の形成」という命題は、十分に検討されないまま今日に至っていると考えられる。そこで、この命題を取り上げ、ティトマスがどのようにして献血が社会的連帯の形成につながると考えていたのかを検討する。命題を再検討したところ、制度設計、互酬性の想定、コミュニティ意識という3つの観点から、ティトマスが社会的連帯の形成を考えていたことがわかる。さらに、ティトマス以後の研究の動向として、献血をめぐる社会学的研究は多くはないが、社会的連帯の不安定化という現代社会の状況を考えると、社会的連帯の形成に関する研究が必要であると考えられる。