著者
名和 克郎
出版者
日本文化人類学会
雑誌
民族學研究 (ISSN:24240508)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.297-317, 1992-12-30 (Released:2018-03-27)

本稿の目的は, 「民族」に関する議論を, 理論的な側面において前進させることにある。前半では, 主観的定義と客観的定義, 重層性, 相対性, 「名」の問題など, 従来行われてきた「民族」に関する幾つかの議論を批判的に検討する。後半では, 筆者の「民族」に関する基本的な立場を, 内堀の民族論を大幅に援用しつつ述べる。民族は実体としては存在せず, 「名」と実体をめぐる民族論的状況のみが存在していること, 「民族」の原初的側面と手段的側面の関係は, 「民族」による個体の死の代替という仮説によって説明出来ること, 「民族」とは, 内堀が抽出した機構を通じて, 個体の死の代替物として想像される集団と定義出来ること, ネイションやエスニシティの問題もこうした機構無しには考えられないこと, ネイションとエスニック・グループの連続性を見失うべきでないこと, 民族誌家は「○○族は」という抽象化にはあくまで慎重であるべきことが主な論点である。
著者
名和 克郎 Katsuo Nawa
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国立民族学博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Ethnology (ISSN:0385180X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.87-115, 2006-09-29

This article provides an informal and tentative status report on British‘social’ anthropology today, largely based on my very casual ‘participantobservation’ of the Department of Social Anthropology at the University ofCambridge from 2002 to 2003 as a visiting scholar. After brief introductoryremarks on the history of British social anthropology (as against Americancultural anthropology) and the department, I point out two conspicuous traitsof the department I observed. First, it is polycentric in that each of the threeprofessors seems to indicate a different direction concerning the future of thedepartment and social anthropology in general: recording, documentation andancestor worship; transdisciplinary theoretical sophistication based on the British‘social’ anthropological tradition; and a regionally oriented advanced studyunit composed of anthropologists and scholars of related disciplines. Second,the recent systematisation of the curriculum (possibly due to the ‘audit culture’)and the internationalisation of the department seem to have lessened itsparticularity as a centre of ‘British’ ‘social’ anthropology. Even the long-establishedtradition of ‘Senior Seminars’ seems to have been almost imperceptiblyeroding. If the British tradition of social anthropology is destined to melt intothe larger field of anthropology (the World, European, Anglophone, or otherwise),it might be ancestor worship on the world wide web which serves mostto uphold the venerable tradition of Cambridge social anthropology qua ‘social’anthropology.
著者
原 聖 藤井 毅 大黒 俊二 高田 博行 寺尾 智史 三ツ井 崇 名和 克郎 包 聯群 石部 尚登 HEINRICH Patrick 荒木 典子 岩月 純一 バヤルメンド クルマス フロリアン デフラーフ チアド 黄 行 フフバートル カムセラ トマシュ 中江 加津彦 落合 守和 オストラー ニコラス プルブジャブ スマックマン ディック 田中 克彦 許 峰 徐 大明 珠 麗 彭 韃茹翠
出版者
女子美術大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本科研の重要な成果は、(1)書き言葉生成時にある程度の標準化が行われている、(2)欧州の初期標準規範においては、①文字化と②詩歌など韻律規則を伴う書記規範の生成の2段階を経る、(3)ラテン語文化圏でも漢字文化圏でも、権威をもつ文字をそのまま採用する場合と、その変種的な創作を行う場合がある、(4)欧州における新文字の生成は紀元前1千年紀から紀元後1千年紀であり、(5)漢字文化圏における漢字に類する新文字の生成は、やや遅れ、紀元後5世紀以降、表音文字の中東からの流入以降、中央集権の力が比較的弱まる宋王朝(10-12世紀)にかけてである。
著者
南 真木人 安野 早己 マハラジャン ケシャブラル 藤倉 達郎 佐藤 斉華 名和 克郎 谷川 昌幸 橘 健一 渡辺 和之 幅崎 麻紀子 小倉 清子 上杉 妙子
出版者
国立民族学博物館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

2008年、マオイストことネパール共産党(毛派)が政権を担い、王制から共和制に変革したネパールにおいて、人民戦争をはじめとするマオイスト運動が地域社会や民族/カースト諸団体に与えた影響を現地調査に基づいて研究した。マオイストが主張する共和制、世俗国家、包摂・参加の政治、連邦制の実現という新生ネパールの構想が、大勢では変化と平和を求める人びとから支持されたが、事例研究からその実態は一様ではないことが明らかになった。