著者
園田 茂人 菱田 雅晴
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

最終年度にあたる2007年度は、従来の研究成果を取りまとめ、対外的な発信を行うことに最大のエネルギーを払った。たとえば、中国社会学会第17回全国大会で"Two Types of Urban New Middle Classes in Confucian Asia?"と題する発表をし、アジア内部における中間層の2類型論を展開するとともに、今回のプロジェクトで得られた2時点データを利用して、東北大学の不平等研究拠点が主催したシンポジウムで"Social Inequality and Injustice in Developing China:Some Empirical Observations"と題する発表を行った。また、11月2日には、中国の4都市で調査を担当した海外共同研究者4名を招聘し(上海大学の仇立平氏が都合で来日できなかったため、代わりに胡申生氏を招聘した)、早稲田大学現代中国研究所と共催で国際シンポジウム「中国の階層変動と都市ガバナンス」を開催、日本の中国研究者も含めて討論を行った。これらの作業を通じて、最終的に確認できた現代中国の階層変動に関する知見は以下の通り。(1)前回調査からも、学歴別にみた月収は格差が拡大している。また、収入格差に対して不公平だとする評価が高まっており、これが全体の社会的不公平感を強めている。(2)しかし、学歴が社会的不平等を生み出しているという認識は強くなく、教育機会をめぐる不平等以上に、教育達成のもつ公平性・健全性が強く意識されている。(3)富裕層は、1990年代の外資系企業・私営企業といった周辺セクターから2000年代の国家機関・国有事業体へとシフトしており、発展の「体制内化」が急激に進んでいる。そのため、学歴(文化資本)、権力(政治資本)、収入(経済資本)の独占状態が生まれつつあり、従来の社会主義体制を否定する力学が生まれている。
著者
山中 速人 山田 晴通 園田 茂人 山本 真鳥
出版者
中央大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
2000

フィールドワークの教育にあたっては、フィールドワークが野外調査をもっぱらとし、言葉だけでは再現できないリアルな現場を調査対象とするため、現場から離れた教室的環境での講義や演習には、事例の提示や技法の紹介などで多くの困難が存在してきた。本研究は、マルチメディアを活用し、現場から離れた教室環境においても、リアリティのある現場の映像や音声情報を学生にインタラクティブに提示することによって、これまで教室講義では果たせなかったフィールドワーク教育のための新しい教育方法の開発を行った。本研究で開発した教材は、1.初学者(学部教育レベル)を対象とし、2.フィールドワークのための基本的な知識と技能の習得をめざし、3.マルチメディアされた素材(映像・音声・文字)によって現場の事例を擬似的現実として提示しながら、4.ステップを踏んでインタラクティブに学習を行うものである。教材の媒体は、教室講義のための補助的教材を想定し、CD-ROMとした。その後、さらに、たんに補助教材の制作だけでなく、それとメディアミックスする印刷教材と組み合わせて使用するよう教材の内容が練り上げられた。執筆者として、研究分担者を中心に7人の社会学・文化人類学者が1章づつを担当し、印刷教材の内容に対応する著者自身のフィールドワークの現場と調査経験を写真、映像、文字によって再現した。これらの研究成果をもとにして、CD-ROMが添付された大学教科書を出版する契約が出版社との間で交わされ、CD-ROM付きの教科書が2001年度秋に出版の予定である。
著者
園田 茂人
出版者
中央大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

本研究では、研究代表者が以前「在京県人会に見られるネットワークの構造とその機能」(1990年度文部省科学研究費助成金・奨励研究(A))プロジェクトで行った調査の成果を受けて、県人会組織に所属する個人を対象に、その出身背景、東京地域への流入プロセス、就職経路と転職過程、同郷人との交流、現在の出身地との結び付き、同郷意識などの項目に関して質問票調査を行った。具体的な作業としては、まず最初に、1993年の夏に秋田県と鹿児島県からの出郷者を対象に、合計6人、一人3時間程度のヒアリングを行い、これをもとに調査票の質問項目の確認作業を行った。次に、県人会に所属している人たちを結び付ける活動について、具体的に東京新潟県人会の事務局を対象にヒアリングを行い、同時に今回の質問票調査の協力を取り付けた。もともと留置法による調査を考えていたが、調査の効率性と対象者のばらつきを考え、郵送法による調査へと変更した。結局調査の対象者は、東京新潟県人会に属する400人となったが、すでに対象者には質問票を配布してある。本年5月中旬までには質問票の回収作業を終わらせ、このデータをコンピュータに入力した後、7月〜8月くらいには、基礎集計がまとまるものと期待される。この結果は、それ独自に論文としてまとめられると同時に、東京大学の苅谷剛彦助教授のグループと連動し、戦後日本の社会形成に関する大規模プロジェクトへとつなげてゆく計画がある。
著者
阿古 智子 小島 朋之 中兼 和津次 佐藤 宏 園田 茂人 高原 明生 加茂 具樹 諏訪 一幸
出版者
学習院女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

急成長を続ける経済発展、世界の投資を吸収し続ける中国市場、その拡大する市場を武器にした外交戦略、等々、いまや中国を抜きには世界もアジアも、また経済も政治も語ることはできない。しかし一方では、日中間をはじめとして、さまざまな緊張要因をも中国は作り出している。中国国内に目を向けると、経済発展の裏で貧富の格差は拡大し、また腐敗は深刻化し、人々と政府との緊張関係は時には暴動となって表れている。こうした中国の国内、国際問題は、一面からいえば全て中国政治および社会の統治能力(ガバナビリティ)と統治のあり方(ガバナンス)に強く関連している。本研究は、現代中国の政治、社会、経済におけるガバナンス構造とそのための制度形成に注目し、中国社会がどのような構造問題に直面しているのか、またどのように変わろうとしているのか、という問題について、国際的学術交流をつうじてとらえ直そうとしたところに意義がある。本年度は、2009年2月9-11日にフランス・現代中国研究センターとの共催で、香港フランス領事館文化部会議室にて、総括を行うための第3回国際ワークショップを開催した。オーストラリア国立大学、香港バプティスト大学、米・オバリンカレッジなどの研究者らと共に研究成果を発表し、現代中国のガバナンスの特徴と変容について、経済・社会・政治の各分野から、積極的に議論を行った。ワークショップで議論した内容は、今後、フランス・現代中国研究センターの発行する学術誌に各々の論文や特集として発表するか、メンバー全員の論文を一つにまとめ、1冊の書籍として刊行することを目指している。日本の研究者が海外に向けての発信力を高めるという意味でも、当研究は一定の成果があったと言える。
著者
黒田 一雄 勝間 靖 岡田 亜弥 北村 友人 澤田 康幸 山田 肖子 米澤 彰純 浜野 隆 小川 啓一 澤村 信英 杉村 美紀 吉田 和浩 園田 茂人 鈴木 隆子
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

本研究の成果は、政治経済社会のグローバリゼーションによって、従来国家(ナショナル)のレベルにおいて主な政策決定がなされてきた教育においても、世界的(グローバル)もしくは地域的(リージョナル)なレベルでの政策の立案や実施の重要性が増しつつあることを明らかにしたことである。これらの成果は、様々な国際会議や出版を通じて、日本や国際社会の国際教育交流・協力・連携の実践・政策過程に対して、実際にインプットされた。
著者
佐々木 衞 聶 莉莉 園田 茂人 伊藤 亜人
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

1,研究の目的中国朝鮮族家族の移住と定住、そして民族的アイデンティティの自覚とエスニシティの形成を、大都市に移住した家族と個人を対象に研究調査した。調査実施地は、北京、青島、上海、深〓および韓国ソウルであった。2,調査概要主な調査内容は次のものであった。(1)都市に居住する中国朝鮮族の移動と就業状況について、政府機関や報道機関および大学に勤務するもの、私営企業家、都市に出稼ぎに出てきている家族を訪問し、インタビュー記録を整理した。(2)韓国ソウルでの海外出稼ぎ者に対する訪問調査とその支援組織の活動を調査した。(3)延辺朝鮮族自治州創立50周年記念事業、青島における中国朝鮮族の運動会、朝鮮族学校など大都市における民族的な文化活動を調査した。3,調査から得られた暫定的な知見(1)都市への移動者(1)都市への移動は学歴・職歴が鍵になっている。大学卒業者もしくは軍隊経験者は、新しく企業を始めるにも文化的な資原を経済的な資源に転換している。これに対して、一般の地方出身者の多くは雑業層に就く。(2)「運動会」の挙行は、移住地にあらたな絆と凝集を構成する機会を提供している。(3)出稼ぎ者が集住する地域は、アメリカ社会学のシカゴ学派がtransition zone(推移地帯)と見なす地域である。(2)家族・親族の絆の再構成(1)同郷・親族ネットワークが相互支援のために不可欠の役割を果たしている。(2)誕生日や還暦の祝いが活発になっているが、家族における儒教的構成原理を状況主義的に再構成している。(3)エスニシティの構造(1)朝鮮族が「故郷」としての北朝鮮から自立的な立場を確立し、また、中国で生きる手段として中国語の習得を選択しているが、これらは「脱朝鮮族」の傾向を生んでいる。(2)他方では、朝鮮族であることが、韓国チャンネルとの接点を作り経済的な新たなチャンスとなっている。韓国にたいして「同胞」としての優遇を期待することも強くなっている。(3)中国朝鮮族としての自覚が高まっているとすれば、一種の「再朝鮮族」を見ることもできよう。4,これからの展開以上の研究成果をふまえて、論文集の刊行を計画している。