著者
土田 幸男 室橋 春光
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.67-73, 2009-08-31 (Released:2010-11-10)
参考文献数
26

本研究は自閉症スペクトラム指数(AQ)とワーキングメモリの各コンポーネントが関わる記憶容量との関係を検討した.自閉症スペクトラムとは,自閉性障害の症状は社会的・コミュニケーション障害の連続体上にあり,アスペルガー症候群は定型発達者と自閉性障害者の中間に位置するという仮説である.自閉性障害者においては音韻的ワーキングメモリには問題が見られないが,視空間的ワーキングメモリには問題が見られるという報告がある.高い自閉性障害傾向を持つ定型発達の成人のワーキングメモリ容量においても,同様の傾向が見られる可能性がある.そこで本研究では定型発達の成人において音韻的ワーキングメモリ容量,視空間ワーキングメモリ容量,そして中央実行系が関わるリーディングスパンテストにより査定される実行系ワーキングメモリ容量とAQの関係を検討した.その結果,AQ高群では低群よりも視空間ワーキングメモリ容量が小さかった.全参加者による相関係数でも,AQと視空間ワーキングメモリ容量の間には負の相関が認められた.しかし,音韻,実行系ワーキングメモリ容量とAQの間には関係が見られなかった.これらの結果は,自閉性障害者で見られる認知特性が,定型発達の成人の自閉性障害傾向でも同様に関わっていることを示唆している.
著者
土田 幸男 土田 幸男 土田 幸男
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.109, pp.81-92, 2009-12-21

さまざまな認知活動を支える動的な記憶のシステムであるワーキングメモリには,制限された容量が存在する。本論文では,ワーキングメモリにおける容量とは何なのか,これまでの知見を概観し,解説した。加えて,その個人差がどのような認知パフォーマンスに影響するのか知見をまとめた。これらに基づき,記憶それ自体が関わっていない選択的注意においてもワーキングメモリ容量の個人差が影響を与えるという仮説を検証した。事象関連脳電位を用いた研究から,ワーキングメモリ容量の個人差は課題非関連刺激に対する注意を抑制する可能性を示唆した。最後に,ワーキングメモリ容量と発達障害の関係,トレーニングによる容量向上の可能性について論じ,将来の研究可能性を示した。
著者
土田 幸男 室橋 春光
出版者
The Japanese Society for Cognitive Psychology
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.67-73, 2009

本研究は自閉症スペクトラム指数(AQ)とワーキングメモリの各コンポーネントが関わる記憶容量との関係を検討した.自閉症スペクトラムとは,自閉性障害の症状は社会的・コミュニケーション障害の連続体上にあり,アスペルガー症候群は定型発達者と自閉性障害者の中間に位置するという仮説である.自閉性障害者においては音韻的ワーキングメモリには問題が見られないが,視空間的ワーキングメモリには問題が見られるという報告がある.高い自閉性障害傾向を持つ定型発達の成人のワーキングメモリ容量においても,同様の傾向が見られる可能性がある.そこで本研究では定型発達の成人において音韻的ワーキングメモリ容量,視空間ワーキングメモリ容量,そして中央実行系が関わるリーディングスパンテストにより査定される実行系ワーキングメモリ容量とAQの関係を検討した.その結果,AQ高群では低群よりも視空間ワーキングメモリ容量が小さかった.全参加者による相関係数でも,AQと視空間ワーキングメモリ容量の間には負の相関が認められた.しかし,音韻,実行系ワーキングメモリ容量とAQの間には関係が見られなかった.これらの結果は,自閉性障害者で見られる認知特性が,定型発達の成人の自閉性障害傾向でも同様に関わっていることを示唆している.
著者
土田 幸男 室橋 春光
出版者
北海道大学大学院教育学研究院附属子ども発達臨床研究センター
雑誌
子ども発達臨床研究 (ISSN:18821707)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.47-55, 2017-03-15

目標指向型の記憶であるワーキングメモリには制限された容量が存在し、学習を始めとする各種認知機能と関係する。本論文では、ワーキングメモリ容量についての基礎的研究を概観し、中央実行系を中心としたワーキングメモリの役割について検討した。また、ワーキングメモリが学習方法においてどのように関与しうるのか、認知負荷理論における効果とワーキングメモリの関係について概観した。最後に、ワーキングメモリという観点を踏まえた上で、今後の教育に望まれる学習方法について考察した。
著者
室橋 春光 河西 哲子 正高 信男 豊巻 敦人 豊巻 敦人 間宮 正幸 松田 康子 柳生 一自 安達 潤 斉藤 真善 松本 敏治 寺尾 敦 奥村 安寿子 足立 明夏 岩田 みちる 土田 幸男 日高 茂暢 蓮沼 杏花 橋本 悟 佐藤 史人 坂井 恵 吉川 和幸
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

発達障害は生物学的基盤を背景とし、社会的環境の影響を強く受けて、非平均的な活動特性を生じ、成長途上並びに成人後においても様々な認知的・行動的問題を生ずる発達の一連のありかたである。本研究では発達障害特性に関する認知神経科学的諸検査及び、社会的環境・生活の質(QOL)に関する調査を実施した。脆弱性と回復性に関連する共通的背景メカニズムとして視覚系背側経路処理機能を基盤とした実行機能やワーキングメモリー機能を想定し、事象関連電位や眼球運動等の指標を分析して、個に応じた読みや書きなどの支援方法に関する検討を行った。また、QOLと障害特性調査結果の親子間の相違に基いた援助方法等を総合的に検討した。
著者
土田 幸男
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.124, pp.65-80, 2016-03-25

Working memory used for a goal-directed behavior has limited capacity. In this article, we examined what the specific function of the working memory capacity as the controlled attention function was. In addition, we discussed how working memory capacity affected the everyday situations in terms of the mind wandering. In the study using event-related potential (ERP), the analysis examined relationship between individual difference in working memory capacity and ERP component involved mind wandering. The amplitude of ERP component involved mind wandering for low-span group has smaller than high-span group. This result suggested possibility that many mind wandering occurred in low-span group during the tasks. Finally, we discussed further research and educational aspect based on the relationship between working memory capacity and attention.
著者
土田 幸男
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
no.109, pp.81-92, 2009

さまざまな認知活動を支える動的な記憶のシステムであるワーキングメモリには,制限された容量が存在する。本論文では,ワーキングメモリにおける容量とは何なのか,これまでの知見を概観し,解説した。加えて,その個人差がどのような認知パフォーマンスに影響するのか知見をまとめた。これらに基づき,記憶それ自体が関わっていない選択的注意においてもワーキングメモリ容量の個人差が影響を与えるという仮説を検証した。事象関連脳電位を用いた研究から,ワーキングメモリ容量の個人差は課題非関連刺激に対する注意を抑制する可能性を示唆した。最後に,ワーキングメモリ容量と発達障害の関係,トレーニングによる容量向上の可能性について論じ,将来の研究可能性を示した。