著者
坂井 信之
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.431-436, 2006 (Released:2007-09-06)
参考文献数
16
被引用文献数
1

本稿では,まず,においを溶かした溶液の色やにおい源をイメージさせる写真などの視覚情報が,嗅覚情報処理にどのような影響を与えるかということを調べた研究を紹介した.さらに,これらの影響について,視覚と嗅覚の連合学習,視覚による事物の認知と嗅覚に対するトップダウン処理,視覚による認知の誘導とそれと一致するにおいの側面の強調という3つの考え方から解釈した.最後に,視覚以外の感覚がにおいの知覚や認知に与える影響を調べた研究を紹介し,人間のにおい認知が非常に複雑に行われている過程を理解することによって,におい世界の個人差の理解へつながる可能性を示した.
著者
坂井 信之 中村 真 飯塚 由美 長谷川 智子 山中 祥子
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究は、孤食の心理学的問題を明らかにするため、孤食と共食(誰かと一緒に食べること)間で食物のおいしさなどがどのように変化するかということを調べた。その結果、孤食と共食では食物のおいしさ自体に差はみられなかったが、共食時には食事状況に対するポジティブな感情の生起がみられることが明らかとなった。この結果から、共食は、単に食卓を同一にするという物理的なことではなく、一緒に何かを成し遂げる(coaction effect)という心理学的なことであることが示唆された。
著者
坂井 信之
出版者
日本感情心理学会
雑誌
感情心理学研究 (ISSN:18828817)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.112-119, 2009-11-25 (Released:2010-05-08)
参考文献数
26
被引用文献数
1

In our everyday lives, we are exposed to many stressors that induce mental stress, and consequently people may suffer mental illness, such as depression, bipolar mood disorders, and so on. Although there are many empirical studies showing that smelling an aroma or eating/drinking something is useful for easing mental stress, those studies did not use standardized methods for evaluating stress and/ or for easing stress. Preceding studies also used simple and boring tasks, such as the Kraepelin test requiring mental subtraction of a number sequence. In this study, a convenient task using SUDOKU puzzles for evoking mental stresses was introduced. Then, effective methods for easing stresses were investigated. This study revealed that the aromas of coffee and orange had a suppressive effect on stress, but the aromas of grapefruit and hinoki did not suppress mental stress. Also drinking canned coffee, bottled water, cola drink, or eating chocolate did not have a suppressive effect on mental stress. This study suggests that using coffee or orange aroma as an ambient odor suppresses mental stress.
著者
坂井 信之 今田 純雄
出版者
広島修道大学
雑誌
広島修大論集 人文編 (ISSN:03875873)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.41-66, 1998-09
被引用文献数
4

This article is one of series that review psychological studies about eating behavior in humans and animals. In this paper, the role of olfaction on the food selection in humans and animals were reviewed. In our daily use of the words, the word "taste (A-JI)" includes both of the sensation that is arisen from the taste receptors on the mouth and of the sensation arisen from the olfactory receptors on the nasal cavity. We humans sometimes experience "The taste (A-JI) of the food is changed by the respiratory infection." It is known that this change of taste is come from the change of odor perception. Thus, we can not distinguish the taste sensation from the odor sensation. The negative and positive experience to the food changes the hedonics of the "taste (A-JI)" of that food. Some studies in cognitive psychology and psychophysiology suggest that the olfactory hedonics is ready to associate with the emotional memory and that the taste hedonics is innate and robust. The authors suggest that the change of the hedonics of "taste (A-JI)" after some experiences stems from the change of the hedonics of odor. The olfactory experiment in eating behavior have not been documented well. The studies about the hedonics and its changes of the olfactory perception in eating behavior seem to be needed more.
著者
田中 観自 陳 娜 坂井 信之 渡邊 克巳
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告 = IEICE technical report : 信学技報 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.113, no.128, pp.7-10, 2013-07-13

本研究では、食器の材質・質感における感覚間統合が味覚に及ぼす影響を検討した。実験では、3種類の水が刺激として用いられ、木、ガラス、紙、プラスチックの4種類のコップにそれぞれ注がれた。実験参加者は、各コップに入った水を飲んだ後に味覚の評定が求められた。その結果、木のコップで水を飲んだ場合、他の食器に比べて美味しいと感じることが示唆され、また触覚モダリティを想起させる形容詞を用いた味覚評価の質問をしたときに、その評価が食器間で異なることが示された。同様に、ハムを刺激とした実験を行ったところ、材質・質感による味覚の評価の違いは見られなかった。これは、参加者がフォークを用いてハムを口に運んで食していたため、直接的に食器の材質・質感を経験しなかったことが理由として考えられる。本研究の結果をまとめると、視覚的だけではなく触覚的に食器の材質・質感を直接経験することで、味覚との感覚間統合がなされ、味覚評価が変容することが示唆された。
著者
坂井 信之
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, pp.321-321, 2011

最近,香りの心理効果が注目されている.一つの側面は心理効果の学術的な観点である.香りの効能に関する逸話的な報告はかなり多く,その特異的な側面が強調されてきた.例えば,良い例が嗅覚の記憶にみられる「プルースト効果」と呼ばれるものである.マルセル・プルーストによる『失われた時を求めて』の中に,紅茶に浸したマドレーヌを食べていると,ふと幼い頃の記憶が鮮明によみがえってきたという内容の記述があることから名付けられた.この現象にみられるように,香りから想起されるエピソード記憶のビビット感や時間的距離感の近さなどの特徴は嗅覚に特異的であるとされている.しかしながら,この件に関する学術的な研究は,長い間少数のグループが比較的古い手法で確かめる程度に留まっていた.さらに,嗅覚に関する個人差やあいまいさ(記憶の不確かさ)は顕著であることも加わり,嗅覚の心理効果に関する学術研究は,視覚や聴覚に比べて長い間放置された感があった.<BR>しかし, 2004年にリンダ・バックとリチャード・アクセルが,嗅覚レセプターの遺伝子解析の研究でノーベル賞を授与される前後から,嗅覚に関する学術的知見が飛躍的に蓄積されるようになってきた.ほぼ同時に,ヒトの脳を非侵襲的に計測する技術が進歩し,ヒト独自の嗅覚の情報処理機構についても,学術研究が行われるようになってきた.ここで触れたいくつかのトピックスについては,すでに本学会誌でも特集号の論文として紹介されているので,今回の特集では,嗅覚と視覚とのイメージの統合に関する現象論についてまとめていただいた.<BR>綾部氏は香りと形のイメージの一致,三浦氏と齋藤氏は香りと色の調和について,それぞれご自身の研究を中心にまとめていただいた.いずれの論文も非常に読み応えのある最新知見を紹介されており,これらの論文を読むことにより,ヒトは香りからどのようなイメージを思い浮かべるのかということについて理解が深まり,これからの香りの応用のシーズ (種)となる知見である.<BR>もう一つの観点は,嗅覚の心理効果をビジネスとして展開するというものである.これまでもアロマテラピーや消臭というビジネスがあった.しかしながら,最近注目されている香りのビジネスとは,香りの心理効果を積極的に応用するというものである.阿部氏と高野氏による論文は,香りや化粧がヒトの感情に及ぼす効果について概説したものである.一ノ瀬氏の論文は,シャンプーや男性用デオドラント製品,衣料用柔軟剤などの香りの実例を豊富に挙げながら,香りがヒトの感覚や感性にどのように作用するのかということについてまとめたものである.國枝氏の論文は,香りを積極的に使うことによって,行動障害の子どもや,認知症の高齢者などの症状の改善ができることをご自身の研究に基づいて,まとめていただいたものである.これらの論文は,いずれもすでにビジネス展開されているか,これからビジネス展開されていくものであり,香りビジネスに直結する,いや,これからの日本の香り社会を予想すると言ってもよいほどの基盤技術といえる.<BR>読者の皆様におかれては,今回の特集の学術的なシーズから新しい技術のヒントを得ていただいたり,実際の香りビジネスの実例に触れることで,これからの日本の香り社会のニーズに思いを巡らせていただきたい.これは本特集に執筆していただいた方々の共通の思いである.
著者
坂井 信之
出版者
日本味と匂学会
雑誌
日本味と匂学会誌 (ISSN:13404806)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.171-178, 2009-08
被引用文献数
6

本論文では、「共感覚」というタームを中心に「味とにおいの接点」について論じた。最初に、我々ヒトの食において、味とにおいは切っても切れない関係にあることを、筆者らの心理学・行動科学的な研究を中心に、現象論として例示した。次に、その背後にあると考えられる味覚と嗅覚の連合に関する脳機構について、ラットを用いた行動神経科学的な研究とヒトの非侵襲計測の結果を合わせて考察した。最後に、最近になって蓄積されつつある第一次感覚野での情報の統合が、味覚と嗅覚の連合でも生じている可能性について論じた。
著者
坂井 信之
出版者
Japan Association on Odor Environment
雑誌
におい・かおり環境学会誌 = Journal of Japan Association on Odor Environment (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, 2006-11-25

においやかおりが漂ってくると,我々はそのにおいの元を目で探してしまう.そこでにおいの元が何であるか理解できたときには安心するし,においの元を探し出せないときには,しばらく不安な気持ちになってしまう.このように,人では,においやかおりは単独で機能するのではなく,絶えず他の感覚と同時に使用されることによって外界の認知に役立っている.<BR>これまで,本学会誌はにおいやかおりの受容機構に関する総説特集や研究論文を多く掲載してきた.しかしながら上述したような事例から,においはそれ単独で感じられるだけではなく,味覚や三叉神経覚などと統合され,風味や化学環境の知覚を形成していると考えられる.そこで本特集では,においやかおりと関連が深い他の感覚の受容機構とそれらと嗅覚との相互作用に関する総説論文を掲載し,読者の方々がにおい・かおりの受容機構をより広く深く理解する助けとしたい.<BR>最初に味覚の受容機構について長年にわたって生理学の観点から味覚を研究されてきた小川氏(熊本機能病院神経内科・熊本大学名誉教授)と脳磁場計測の手法により現在精力的に味覚の脳機構について研究を進められている小早川氏((独)産業技術総合研究所)にまとめていただいた.口腔内での味覚の末梢性受容機構から,味覚情報の脳内情報伝達系,サルやヒトの大脳での味覚情報処理など,最低限知っておくべき知識から最新の知見までを盛り沢山に紹介していただいており,大変読み応えのある総説になっている.<BR>次に三叉神経系の化学感覚の受容機構を駒井氏(東北大学)を中心として井上氏(日本たばこ産業(株)),長田氏(北海道医療大学)らにまとめていただいた.しばしば味覚や嗅覚と混同される炭酸の刺激感,カプサイシンによる辛味,メントールの刺激感などについて,末梢の受容機構を中心に解説していただいた.<BR>続いて,化学感覚ではないが,食物を摂取するときには必ず生じている口腔内の物理的感覚(温度やテクスチャーなど)の受容機構ならびに,それらと口腔内の化学感覚との関係について硲氏(朝日大学)にまとめていただいた.歯痛のときにしか生じないと思われている歯の「感覚」が,実は通常の食事時にも生じており,それが食物の固さの感覚や異物の検出に重要な役割を果たしていることは,ここで初めて目にされる読者の方も多いかもしれない.<BR>これまでの三論文が比較的単純な感覚の話であったのに対して,あとの二論文は,単一の感覚というよりも,複数の感覚が統合された結果生じる,より複雑な知覚の仕組みについてまとめている.いずれの論文も,におい(嗅覚)を中心にまとめられているため,読者の方の興味を引き,また実際の業務などへの応用も期待できるのではないだろうか.庄司氏((株)資生堂)の論文は嗅覚が他の感覚・知覚(視覚や体性感覚など)に及ぼす影響を,反対に,坂井の論文は他の感覚(視覚や味覚など)が嗅覚の質の識別や強度評定,快不快判断などに及ぼす影響について紹介している.<BR>このように,一言でにおいと言ってもそれが必ずしも嗅覚の単一の感覚からなるというわけではない.我々が「においがする」と思っているときには,ここに述べたような他の感覚や知覚によって修飾され(歪められ)た結果生じたにおい体験(嗅覚知覚)を感じていることが多い.これらのことに加えて,においに対する嗅ぐ人の経験や知識などの要因も絡んでくるため,結果として,においの感じ方には個人差が大きくなるのである.今回の特集を機に,多くの読者がにおいの奥深さについて認識を深めていただければ幸いである.