著者
川添 航 坂本 優紀 喜馬 佳也乃 佐藤 壮太 渡辺 隼矢 松井 圭介
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.47-62, 2018 (Released:2018-12-20)
参考文献数
20

本研究は茨城県大洗町におけるコンテンツ・ツーリズムの展開に注目し,ツーリズム形態の転換に伴う観光空間への影響,及びその変容の解明を目的とした。大洗町は観光施設を数多く有する県内でも有数の海浜観光地であり,2012年以降はアニメ「ガールズ&パンツァー」の舞台として新たな観光現象が生じている地域である。大洗町においては,当初は店舗・組織におけるアニメファンへの対応はまちまちであったが,多くの訪問客が訪れるにつれて,商工会の主導により積極的にコンテンツを地域の資源として取り入れ,多くのアニメファンを来訪者として呼び込むことに成功した。宿泊業においては,アニメ放映以前までは夏季の家族連れや団体客が宿泊者の中心であったが,放映以降は夏季以外の1人客の割合が大きく増加するなど変化が生じた。コンテンツ・ツーリズムの導入によるホスト・ゲスト間の関係性の変化は新たな観光者を呼ぶ契機となったことが明らかとなった。
著者
川添 航 坂本 優紀 喜馬 佳也乃 佐藤 壮太 松井 圭介
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2018年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.000228, 2018 (Released:2018-06-27)

1.はじめに近年,アニメーションや映画,漫画などを資源とした観光現象であるコンテンツ・ツーリズムの隆盛が指摘されている.本研究は,コンテンツ・ツーリズムの成立による来訪者の変容に伴い,観光現象や観光地における施設や関連団体,行政などの各アクターにどのような変化が生じたかという点に着目する.研究対象地域とした茨城県大洗町は県中央部に位置しており,大洗サンビーチ海水浴場やアクアワールド茨城県大洗水族館などを有する県内でも有数の海浜観光地である(第1 図).また2012 年以降はアニメ「ガールズ&パンツァー」の舞台として商店街を中心に町内に多くのファンが訪れるなど,新たな観光現象が生じている地域でもある(石坂ほか 2016).本研究においては,大洗におけるコンテンツ・ツーリズムの成立が各アクターにどのように影響したかについて整理し,観光地域がどのように変化してきたか考察することを目的とする.2.対象地域調査対象地域である大洗町は,江戸時代より多くの人々が潮湯治に訪れる観光地であった.その観光地としての機能は明治期以降も存続しており,戦前期においてすでに海水浴場が開設されるなど, 豊かな自然環境を活かした海浜観光地として栄えてきた.戦後・高度経済成長期以降も当地域における観光業は,各観光施設の整備や常磐道,北関東道,鹿島臨海鉄道大洗鹿島線の開通などを通じ強化されていった.しかし,2011 年に発生した東日本大震災は当地にも大きな被害をもたらし,基幹産業である観光業や漁業,住民の生活にも深刻な影響を与えた.大洗町における観光収入は震災以前の4 割程度まで落ち込む事になり,商工会などを中心に地域住民による観光業の立て直しが模索されることになった.3.大洗町における観光空間の変容2012 年放映のアニメ「ガールズ&パンツァー」の舞台として地域が取り上げられたことにより,大洗町には多くのファンが観光者として訪れるようになった.当初は各アクターにおける対応はまちまちであったが,多くの訪問客が訪れるにつれて様々な方策がとられている.大洗町商工会は当初からキャラクターパネルの設置や町内でのスタンプラリーの実施など,積極的にコンテンツを地域の資源として取り入れれ,商店街などに多くのファンを来訪者として呼び込むことに成功した.また,海楽フェスタや大洗あんこう祭りなどそれまで町内で行われていたイベントにおいてもコンテンツが取り入れられるようになり,同様に多くの来訪者が訪れるようになった.これらコンテンツを取り入れたことにより,以前は観光地として認識されていなかった商店街や大洗鹿島線大洗駅などにも多くの観光者が訪問するようになった.宿泊業においても,アニメ放映以前までは家族連れや団体客が宿泊者の中心であったが,放映以降は1人客の割合が大きく増加するなどの変化が生じた.
著者
喜馬 佳也乃 佐藤 壮太 渡辺 隼矢 川添 航 坂本 優紀 卯田 卓矢 石坂 愛 羽田 司 松井 圭介
雑誌
筑波大学人文地理学研究 = Tsukuba studies in human geography
巻号頁・発行日
vol.38, pp.45-58, 2018-04

本研究には平成28年度科学研究費補助金(挑戦的萌芽研究:課題番号16K13297)の一部を利用した.
著者
佐藤 壮太 渡辺 隼矢 坂本 優紀 川添 航 喜馬 佳也乃 松井 圭介
雑誌
筑波大学人文地理学研究 = Tsukuba studies in human geography
巻号頁・発行日
vol.38, pp.13-43, 2018-04

本研究にあたり,2016~17年度科学研究費(挑戦的萌芽研究)「聖地共創時代におけるオタクの癒し空間に関する応用地理学的研究」(研究代表者:松井圭介)の一部を利用した.
著者
篠原 弘樹 坂本 優紀
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.253-266, 2020 (Released:2020-10-09)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

本稿は,メキシコ合衆国テキーラにおける観光地の形成プロセスを観光に関わるアクターの取組みと景観整備に着目しながら明らかにした.1990年代後半にツアー会社主導で始まったテキーラの観光は,2000年代に入り行政の観光促進プログラム導入や世界遺産登録,テレビドラマの舞台化などの外的要因を受け観光地としての整備がなされていった.観光地化のプロセスではツアー会社やガイド,蒸留所など観光に関わるアクターが登場し,積極的に観光を促進した.当初,各アクターはテキーラのローカル性を強調する事物や事象を積極的に採用していったが,観光が発展するに従いメキシコを象徴するような対象も利用するようになった.現在は大手蒸留所が大規模な観光施設を建設し,観光客を誘引する主要なアクターとなっている.
著者
坂本 優紀
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.91, no.3, pp.229-248, 2018-05-01 (Released:2022-09-28)
参考文献数
48

本稿は,長野県松川村におけるスズムシの鳴き声の地域資源化に着目し,サウンドスケープの持つ地域資源としての有用性を明らかにしたものである.観光資源の少ない松川村では,居住地の異なる住民主体の二団体により,スズムシの鳴き声という聴覚的地域資源を活用した取組みが行われてきた.スズムシの鳴き声は,古くから住民に親しまれており,地域資源としての活用が問題なく受け入れられた.しかし二団体の活用方法は異なっており,その要因として音を聞いてきた環境の違いによる,サウンドスケープの差異が指摘できる.また松川村においてスズムシの鳴き声は,地域アイデンティティ醸成の機能を果たしたが,特に注目すべきは,地域資源化の過程において,地域に対する再理解と新たな視点の獲得が行われたことである.本稿における考察の結果は,視覚的景観を重要視してきた日本の地理学において,聴覚を用いた地域理解の可能性を広げる点で重要な意義を持つ.
著者
坂本 優子 時田 章史 鈴木 光幸 荻島 大貴 松岡 正造 本田 由佳
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

ビタミンDは現代社会の中で特に不足しがちな栄養素である。われわれは、幼児の「生理的」と言われているO(オー)脚がビタミンD不足に由来すること、ビタミンDサプリメントを使用すると改善が早いことを明らかにしてきた。O脚だけでなく精神発達や免疫機能保持にも重要な栄養素でありながら、われわれのコホートでは、90%がビタミンD欠乏という危機的状況であった。そして、その子ども達の血中ビタミンD濃度も他のコホートと比較して低く、O脚が高率に含まれていた。そこで、本研究では集団を前向きに検討し、妊娠中の母親と生まれてからの子どものビタミンDサプリメントの使用が子どものO脚の程度を軽くするかどうかを検証する。
著者
池田 真利子 坂本 優紀 中川 紗智 太田 慧 杉本 興運 卯田 卓矢
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.207-226, 2019 (Released:2020-03-25)
参考文献数
74

本稿は,隣接諸領域において長らく術語となってきた景観を夜との関係から考察することで,景観論に若干の考察を加えることを目的とする。景観の原語とされるラントシャフトは,自然科学分野にて紹介され,方法論的発展の必要と相まって視覚的・静態的・形態的に捉えられた。他方の人文学領域においては,景観・風景の使い分けがなされてきたが,1970年代の景観の有するモダニティに対する批判的検討以降も視覚的題材がその考察の主体であった。夜を光の不在で定義すると,人間が視覚で地表面を捉えることのできない夜の地域の姿が浮かび上がってくる。これは,視覚を頂点とするヒエラルキ−を再考することでもある。同時に夜に可視化される光と闇に,近代以降,人間は都市・自然らしさという意味を見出してもきた。それは,光で演出する行為であり,星空を見る行為でもある。現代はその双方が自然と都市に混在するのである。
著者
喜馬 佳也乃 坂本 優紀 川添 航 佐藤 壮太 松井 圭介
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2018, 2018

<b>1.はじめに<br> </b>「聖地巡礼」とはアニメや漫画の舞台となった場所をファンが訪問するコンテンツ・ツールズムの一形態である.大石(2011)によると,こうした「聖地巡礼」行動の歴史は2002年に制作された『おねがい☆ティーチャー』に端を発し,この背景には情報を共有するためのインターネット,そして現地の写真とアニメの描写を比較するためデジタルカメラとHDDレコーダーといったデジタル画像処理技術の普及が必要であったとされる.2010年代以降,アニメや漫画といったサブカルチャーコンテンツの一般化が進展する中,SNSとスマートフォンの普及により,ますます情報の共有,発信が盛んとなってきている.これに伴い「聖地巡礼」行動も隆盛を極め,地域活性化の一資源として注目されるに至っている.本研究では,こうした「聖地巡礼」行動の一大訪問先となった茨城県大洗町において,そこを訪れる巡礼をファンの属性や訪問回数,訪問先などを分析し,「聖地巡礼」を行うファンの変化を明らかにする.<br><br><b>2.大洗町とアニメ</b>「ガールズ&パンツァー」<b> </b><br> アニメ「ガールズ&パンツァー」は,架空のスポーツである戦車道に取り組む少女たちを描いた作品である.登場人物のほとんどを美少女キャラクターが占めるいわゆる「萌え」作品であると同時に,戦車といったミリタリー要素,そして「スポ根」と表現されうるストーリー展開を併せた点が特徴とされる.2012年10月から深夜帯で放送され,2015年には劇場版が上映された.2017年12月以降も劇場作品が制作され続けており,続編の多さからも人気作品であることが伺える.<br> 大洗はこの作品の主人公の所属する高校が立地し,作中にもアニメ本編,劇場版ともに戦車による試合の会場として登場する.大洗町のマリンタワーやアウトレットといったランドスケープが登場する以外にも,市街地の商店街内を戦車が駆け巡るなど,広範囲にわたって描写される.作中の背景描写は実際の大洗町を詳細に描いたものであり,ファンを引き付ける要素となっている.<br><br><b>3.大洗町を訪れるファンの分析</b><br> 大洗町を訪れるファンのほとんどは男性であり,年齢は10代から50代まで幅広い.劇場版の放映後に大洗を訪問したというファンが半数以上を占めている.訪問地は訪問回数と一部相関関係が見られ,商店街はほぼ全員が訪れる一方,アウトレットやマリンタワーには来訪頻度が少ないファンが訪れる傾向にある.商店街はアニメに直接描写された場所であるが,来訪頻度が高いファンには行きつけの店や馴染みの店としての意味も付与され,アニメの舞台として特別な場所という意味付けから,日常の一部にシフトしていったものと捉えられる.ファンの男性たちを顧客として受け入れる商店街の態度は,村田(2000)の疎外する場所とは逆の状況が生まれているとも指摘でき,こうした受容の結果,「聖地巡礼」を契機とした移住者の存在も確認される.
著者
喜馬 佳也乃 坂本 優紀 川添 航 佐藤 壮太 松井 圭介
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2018年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.000328, 2018 (Released:2018-06-27)

1.はじめに 「聖地巡礼」とはアニメや漫画の舞台となった場所をファンが訪問するコンテンツ・ツールズムの一形態である.大石(2011)によると,こうした「聖地巡礼」行動の歴史は2002年に制作された『おねがい☆ティーチャー』に端を発し,この背景には情報を共有するためのインターネット,そして現地の写真とアニメの描写を比較するためデジタルカメラとHDDレコーダーといったデジタル画像処理技術の普及が必要であったとされる.2010年代以降,アニメや漫画といったサブカルチャーコンテンツの一般化が進展する中,SNSとスマートフォンの普及により,ますます情報の共有,発信が盛んとなってきている.これに伴い「聖地巡礼」行動も隆盛を極め,地域活性化の一資源として注目されるに至っている.本研究では,こうした「聖地巡礼」行動の一大訪問先となった茨城県大洗町において,そこを訪れる巡礼をファンの属性や訪問回数,訪問先などを分析し,「聖地巡礼」を行うファンの変化を明らかにする.2.大洗町とアニメ「ガールズ&パンツァー」 アニメ「ガールズ&パンツァー」は,架空のスポーツである戦車道に取り組む少女たちを描いた作品である.登場人物のほとんどを美少女キャラクターが占めるいわゆる「萌え」作品であると同時に,戦車といったミリタリー要素,そして「スポ根」と表現されうるストーリー展開を併せた点が特徴とされる.2012年10月から深夜帯で放送され,2015年には劇場版が上映された.2017年12月以降も劇場作品が制作され続けており,続編の多さからも人気作品であることが伺える. 大洗はこの作品の主人公の所属する高校が立地し,作中にもアニメ本編,劇場版ともに戦車による試合の会場として登場する.大洗町のマリンタワーやアウトレットといったランドスケープが登場する以外にも,市街地の商店街内を戦車が駆け巡るなど,広範囲にわたって描写される.作中の背景描写は実際の大洗町を詳細に描いたものであり,ファンを引き付ける要素となっている.3.大洗町を訪れるファンの分析 大洗町を訪れるファンのほとんどは男性であり,年齢は10代から50代まで幅広い.劇場版の放映後に大洗を訪問したというファンが半数以上を占めている.訪問地は訪問回数と一部相関関係が見られ,商店街はほぼ全員が訪れる一方,アウトレットやマリンタワーには来訪頻度が少ないファンが訪れる傾向にある.商店街はアニメに直接描写された場所であるが,来訪頻度が高いファンには行きつけの店や馴染みの店としての意味も付与され,アニメの舞台として特別な場所という意味付けから,日常の一部にシフトしていったものと捉えられる.ファンの男性たちを顧客として受け入れる商店街の態度は,村田(2000)の疎外する場所とは逆の状況が生まれているとも指摘でき,こうした受容の結果,「聖地巡礼」を契機とした移住者の存在も確認される.
著者
坂本 優紀
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.73, no.4, pp.197-211, 2018-12-28 (Released:2020-03-29)
参考文献数
20

本稿では,石川県金沢市の用水路の水音を対象に,地域住民が音をどのように聞き取り,特徴づけているのかを明らかにした。まず,対象とする音を定量的に把握するため,音圧レベル測定と音聞き調査を行った。その結果,環境省の定める騒音レベルを超える大きな音が堰から鳴っていることが明らかとなった。また,街路や建物など,街の形状によって音の聞こえる範囲が異なっていること,流量の変化により季節で音の範囲が変わることが示された。次に,住民の音環境の認識を明らかにするため,アンケート調査とグループインタビュー調査を行った。その結果,住民らは意識的に用水路の音は聞いていないが,無意識下で評価をくだしていた。これは,住民らにとって用水路の音が基調音となっていることを示唆している。また,音の評価は,住民の生活との関わりの中で行われていることが明らかとなった。
著者
坂本 優子 本田 由佳 時田 章史 鈴木 光幸 荻島 大貴 松岡 正造
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

300人の対象者のリクルートを終え、ほぼ全員の血液検査・栄養アンケート・紫外線暴露量アンケート・ビタミンD関連遺伝子多型の結果が出そろった。現在、データ解析中であるが、いくつか興味深い結果が出ている。対象妊婦のエネルギー充足率の平均は71.2%であり、足りていなかった。25(OH)Dの中央値は10.3 ug/m Lであり、90%が<20 ng/mLだった。25(OH)Dの中央値で2群に分けると,紫外線からのVitD生成量は中央値未満群で、中央値以上群より有意に少なかった(p<0.05)。食事からのビタミンD摂取量は25(OH)Dと相関しなかったが、紫外線からの生成量はよく相関した。ビタミンD結合タンパクの遺伝子多形が血中25(OH)Dと関連していた。これらの結果から、妊婦のほとんどがビタミンD不足であること、エネルギー必要量が足りていないことが発覚し、妊婦の健康を守上でも食事を見直す必要があった。ビタミンD不足の原因を考える上で、紫外線からの生成量の少なさには注目すべきであり、紫外線を避ける傾向にある妊婦に正しい指導が必要であると考える。対象妊婦とメールで連絡を取り合い、生まれた子どもたちのあしの写真と栄養アンケート・紫外線暴露量アンケートを収集している。回答率は概ね80%を超えており、良好である。生後3ヶ月のTibio femoral angle(TFA)は6.5度95%CI 5.3度で内反の狭い範囲の中に収まっていた。TFAと母体の血液検査値との間に相関は認めなかった。写真による計測ではあるが、今後、生後6ヶ月、1年、1年半と縦断的に下肢アライメントを測定する今回の研究は、下肢アライメントの変化を表す貴重なデータとなる。
著者
坂本 優紀 渡辺 隼矢 山下 亜紀郎
出版者
公益社団法人 日本地理学会
巻号頁・発行日
pp.000341, 2018 (Released:2018-06-27)

1.研究背景と目的 長野県は,2013年の打揚煙火製造額が全国2位,製造業者数では1位と,煙火生産の盛んな地域である.その中でも特に,長野市を中心とする北信地方と飯田市を中心とする南信地方に,その利用の偏りがみられる.今回対象とする南信地方は,1712年に奉納煙火があったことが記録されており,長野県内において最も古くから煙火を扱ってきた地域といえる.当地域の煙火の特徴としてあげられるのが,三国(さんごく)と呼ばれる筒系吹き出し煙火である.三国は,赤松の大木を刳り抜いたものや,竹筒,あるいは紙管の中に数種類の火薬を詰めた煙火で,長さは大きいものでおよそ200cm,重さは約250kg(火薬の総量は24kg)になる.現在でも,北は宮田村から南は阿南町まで幅広い範囲において神社の祭りで奉納されている. 古くから奉納煙火として使用されてきた三国であるが,近年では,三国を地域のイベントに取り入れる事例もある. そこで本発表では,長野県南信地方北部の上伊那地域における三国の分布とその利用形態に着目し,三国の拡がりと利用形態の変遷を明らかにすることを目的とする. 2.対象地域対象地域である長野県上伊那地域は,長野県南信地方の北部に位置し,伊那市を中心に,駒ヶ根市と上伊那郡の6町村によって構成される.当該地域は,古くは南流する天竜川と,木曽駒ケ岳から東流する太田切川によって地域内の交流が分断され,方言や文化などに差異がみられることで知られており,三国においても同様の傾向がみてとれる. 3.結果と考察2016年に打揚げられた上伊那地域の三国は,14件である.煙火は,江戸時代に愛知県三河地方から伝わったとされており,その分布をみると南側に偏っていることがわかる.利用形態では,多くの打揚げが祭り時の奉納煙火であるものの,箕輪町での打揚げのみが,イベント時のパフォーマンス目的となっている.また,宮田村の三国に関しては,1962年から商工会主体で奉納を始めた記録が残っており,他の地域の奉納煙火とは異なる経緯が明らかとなった.以上の結果をまとめると,江戸時代に愛知県より伝わった煙火は,長野県南信地方で三国へと変化し,駒ヶ根市の太田切川を北限として,神社の奉納煙火として氏子たちにより継承されてきた.戦後になると,駒ヶ根市の北側の宮田村の祭礼に三国が取り入れられることとなった.しかし,それは氏子ではなく,商工会が主体となって行われた.さらに,2000年代に入るとより北側の箕輪町でもパフォーマンスの一環として三国が打揚げられることとなった.上伊那地域においては,三国を氏子主体で奉納煙火として利用する地域から,北側にその打揚げ範囲が拡大していくとともに,その利用形態に関しても,より世俗的なものに変化していることが明らかとなった.本研究の遂行にあたり,2017年度筑波大学山岳科学センター機能強化推進費(調査研究費),課題「山岳地域に関するツーリズム研究の課題構築」(代表者:呉羽正昭)の一部を使用した.
著者
坂本 優
出版者
Japan Society for Laser Surgery and Medicine
雑誌
日本レーザー医学会誌 (ISSN:02886200)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.110-110, 2021

今回,粟津邦男編集委員長のご発案により,産婦人科領域におけるレーザー診療の現状と将来に関する特集を組む機会をいただきました.本特集では,婦人科領域において,まず,子宮頸部病変に対するレーザー円錐切除術の現状と展望について,東邦大学の久布白先生に執筆していただきました.次に,子宮頸部初期癌ならびに異形成に対する光線力学療法(PDT)の現状と展望について,杏雲堂病院の坂本が概説いたします.さらに,子宮体部病変に対するレーザー治療の開発状況について,奈良県立医科大学の重富先生に執筆していただきました.また,産科領域では,双胎間輸血症候群における胎児レーザー治療の現状と展望について国立成育医療センターの山下先生に執筆していただきました.最後に,子宮頸部再発病変に対する光線力学療法(PDT)の現状と展望に関して,杏雲堂病院の三宅先生に執筆していただきました.本特集により,我が国における産婦人科領域におけるレーザー診療の現状が理解され,その将来展望として,ふたたび,医療用レーザーが産婦人科診療においても積極的に使用され,開発中のレーザー治療が保険承認され,さらに発展していくことを特集の企画者として切に願います.
著者
川添 航 坂本 優紀 喜馬 佳也乃 佐藤 壮太 松井 圭介
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2018, 2018

1.はじめに<br>近年,アニメーションや映画,漫画などを資源とした観光現象であるコンテンツ・ツーリズムの隆盛が指摘されている.本研究は,コンテンツ・ツーリズムの成立による来訪者の変容に伴い,観光現象や観光地における施設や関連団体,行政などの各アクターにどのような変化が生じたかという点に着目する.研究対象地域とした茨城県大洗町は県中央部に位置しており,大洗サンビーチ海水浴場やアクアワールド茨城県大洗水族館などを有する県内でも有数の海浜観光地である(第1 図).また2012 年以降はアニメ「ガールズ&パンツァー」の舞台として商店街を中心に町内に多くのファンが訪れるなど,新たな観光現象が生じている地域でもある(石坂ほか 2016).本研究においては,大洗におけるコンテンツ・ツーリズムの成立が各アクターにどのように影響したかについて整理し,観光地域がどのように変化してきたか考察することを目的とする.<br><br>2.対象地域<br>調査対象地域である大洗町は,江戸時代より多くの人々が潮湯治に訪れる観光地であった.その観光地としての機能は明治期以降も存続しており,戦前期においてすでに海水浴場が開設されるなど, 豊かな自然環境を活かした海浜観光地として栄えてきた.戦後・高度経済成長期以降も当地域における観光業は,各観光施設の整備や常磐道,北関東道,鹿島臨海鉄道大洗鹿島線の開通などを通じ強化されていった.しかし,2011 年に発生した東日本大震災は当地にも大きな被害をもたらし,基幹産業である観光業や漁業,住民の生活にも深刻な影響を与えた.大洗町における観光収入は震災以前の4 割程度まで落ち込む事になり,商工会などを中心に地域住民による観光業の立て直しが模索されることになった.<br><br>3.大洗町における観光空間の変容<br>2012 年放映のアニメ「ガールズ&パンツァー」の舞台として地域が取り上げられたことにより,大洗町には多くのファンが観光者として訪れるようになった.当初は各アクターにおける対応はまちまちであったが,多くの訪問客が訪れるにつれて様々な方策がとられている.大洗町商工会は当初からキャラクターパネルの設置や町内でのスタンプラリーの実施など,積極的にコンテンツを地域の資源として取り入れれ,商店街などに多くのファンを来訪者として呼び込むことに成功した.また,海楽フェスタや大洗あんこう祭りなどそれまで町内で行われていたイベントにおいてもコンテンツが取り入れられるようになり,同様に多くの来訪者が訪れるようになった.これらコンテンツを取り入れたことにより,以前は観光地として認識され<br>ていなかった商店街や大洗鹿島線大洗駅などにも多くの観光者が訪問するようになった.宿泊業においても,アニメ放映以前までは家族連れや団体客が宿泊者の中心であったが,放映以降は1人客の割合が大きく増加するなどの変化が生じた.
著者
坂本 優紀 猪股 泰広 岡田 浩平 松村 健太郎 呉羽 正昭 堤 純
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.97-110, 2017 (Released:2018-04-12)
被引用文献数
1

本稿は,オーストリア・チロル州において実施された筑波大学の学部生向け巡検の事例報告である。海外巡検においては,言語環境や渡航手続きなど,日本国内での巡検と比較して困難が多い。しかし,景観観察や土地利用調査などのような言語能力をそれほど要さない調査手法を用いることで,その障壁を取り払うことができる。また,渡航地の地域事情を熟知した教員による事前・事後指導を必要十分に行うことで,現地でのトラブルのリスク軽減や教育効果の向上も期待できる。今回の巡検では,学生の調査成果を,TAの準備にもとづきながらGISを用いてまとめ,考察するようなレポートを課したことで,学生にとって既習の技能の確認の機会も得られた。以上のような工夫をすることで,大学教育における海外巡検を可能にし,国内巡検では得られない地理教育的効果を学生に与えるものと考えられる。