著者
牧野 利明 大澤 匡弘
出版者
名古屋市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

ハナトリカブトの根を減毒処理のために加熱加工した生薬である加工ブシの有効成分としてneolineを単離し、その神経障害性疼痛に対する有用性を明らかにしようと試みた。加工ブシ熱水抽出エキスは、指標成分であるbenzoylmesaconine (BM)を0.042%と最も多く含み、次いでneoline 0.026%、benzoylaconine (BA) 0.010%を含んでいた。この加工ブシをラットに経口投与後、経時的に採血し、各アルカロイドの血中濃度を測定したところ、15分後の血中からはその順で高濃度に検出された。一方、9時間におけるBM、neoline、BAの血中濃度曲線下面積は、それぞれ64、65、32 ng/mL・hrと、neolineとBMは同等の値を示したことから、BMと比較してneolineの生物学的利用能は比較的高いことが推測された。市販されている13種類の加工ブシ製剤中のneolineの含量は、0.042 ± 0.016%と高いバラツキがあり、また修治前のウズを減毒のために加熱加工処理しても、neolineの含量は変化しなかった。以上のことから、neolineのトリカブトの根中の含量は、加熱加工(修治)によるものではなく、トリカブトの栽培条件によることが推測された。Paclitaxicelによるマウス神経障害性疼痛に対して、加工ブシ末およびneolineは有意な緩和作用を示したものの、BMは有意な緩和作用を示さなかった。Neolineの作用機序の1つとして、Nav1.7に対するアンタゴニスト作用が認められた。以上のことから、加工ブシの神経障害性疼痛に対する有効成分は、指標成分であるBMではなく、neolineである可能性が示唆された。
著者
大澤 匡弘
出版者
名古屋市立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

慢性疼痛の中でも神経の損傷に伴う痛みである神経障害性疼痛は、既存の鎮痛薬では緩和することが難しい疼痛の一つである。本研究では神経障害性疼痛モデルを作製し、大脳における神経系機能の亢進について検討を行い、その調節による疼痛緩和の可能性について検討を行った。神経障害性疼痛モデルマウスにみられた痛覚過敏は、神経伝達物質の放出を抑制するガバペンチンにより改善した。このガバペンチンの効果は、神経障害後 3 日間の処置でみられたが、神経障害による痛覚過敏が出現してからの処置では改善しなかった。このことから、ガバペンチンは大脳へ作用して神経障害による痛覚過敏の形成を抑制することが明らかになった。次に大脳における神経系細胞の機能変化について検討を行った。大脳の帯状回皮質においてミクログリアならびにアストロサイトの活性化が認められた。また、ミクログリアの活性化を調節する薬物であるミノサイクリンを帯状回皮質へ処置すると神経障害による痛覚閾値の低下が抑制された。このことから帯状回皮質におけるミクログリアの活性化は神経障害による痛覚過敏の発現に関与することが明らかになった。また、ミクログリアの抑制は、アストロサイトの活性化も抑えた。さらに、興奮性の神経伝達に関わるグルタミン酸神経の受容体機能の神経障害による亢進も、ミノサイクリンにより改善した。これらのことから、神経障害により帯状回皮質においてミクログリアが活性化し、この脳領域での興奮性神経伝達を亢進させるため、痛覚過敏が生じていることがわかった。
著者
亀井 淳三 林 隼輔 大澤 匡弘
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.131, no.6, pp.429-433, 2008 (Released:2008-06-13)
参考文献数
24
被引用文献数
3 4

咳は痰を喀出するための反射である.咳のメカニズムは明らかにされていないことが多い.そのためにピンポイントに作用する薬剤がないのが現状である.現在までに明らかにされているメカニズムは複雑である.咳が出る現象について概略を説明すると,気道に炎症があったり,また分泌物が溜まったりすると排出させようとする反射が起きる,それが咳と考えられる.咳反射の中枢への伝達経路はAδという有髄線維によると考えられている.臨床的に鎮咳薬は,咳の末梢あるいは中枢内経路のどの部位を遮断することによって咳を抑制するかが問題となる.例えば,コデインのような中枢作用性の薬剤は咳のメカニズムの中で共通経路を遮断することより効果は大きい.しかし,本来止めてはならない咳も止めてしまう危険性がある.また,中枢抑制の薬剤であるため咳以外の中枢作用,眠気なども低下させる可能性を持つ.これらを考慮すると,中枢性の薬剤で咳を遮断することは好ましくなく,より選択的な手段で鎮咳をもたらすべきである.日本において,鎮咳剤と称されているものは中枢性の鎮咳剤しかない.薬理学的には末梢性鎮咳剤と呼ばれるものがあってしかるべきであるが,実際には認可されていない.その大きな理由としては,咳のメカニズムが明確に示されていなかったことが大きな理由であろう.本稿ではこれらの問題を解決する基礎的知見となるべき咳の咳反射の求心路であるAδ線維の興奮性調節機序,特にC線維を介した咳感受性亢進機序について概説したい.
著者
大澤 匡弘 山田 彬博
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.142, no.4, pp.201-202, 2013 (Released:2013-10-10)
参考文献数
8
著者
大澤 匡弘 粂 和彦 村山 正宜 祖父江 和哉 小山内 実
出版者
名古屋市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

痛みは不快な情動を生み出す感覚刺激とされるが、心の状態が痛みの感受性にも影響を与える。本研究の成果から、慢性的に痛みがあると不快な情動を生み出す脳内神経回路が活性化していることを全脳イメージングの解析から明らかにできた。また、気持ちが落ち込んでいる状態(抑うつ状態)では、些細な刺激でも痛みとして認識されることが明らかになった。特に、前帯状回皮質と呼ばれる情動に関係が深い脳領域の活動が高まっていると痛みに対して過敏になることも示すことができた。これらのことから、難治化した痛みに対しては、情動面に配慮した治療法が有効であることが提唱できる。