著者
宇佐美 繁
出版者
宇都宮大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

農家世帯員である女性達の就業形態が、明確に分化してきた。a農作業に全く関与しない純粋勤労者(または専業主婦)型、b農業以外の勤務先を持ちながら、農繁期だけ手伝う兼業型、c経営主等の下で無償の従業員として農作業に関わる従属的農業専従型、d配偶者等と対等なパートナーとして経営に関わっている自立的農業専従型、e経営の一部門を責任をもって担当する独立的農業専従型の五類型である。cは伝統的タイプで、戦後自作農経営を代表し、三ちゃん農業時代の担い手でもあった。今日最も一般的な類型はbであり、二十代から五十代に及んでいる。二十代から三十代にかけては、a類型が急速に広まっている。d,eは90年代にはいってから注目されるようになった類型であり、家族経営協定、女性による起業は、この類型を中心に進展した。近年農村を活気あるものにしている直売所等のグループ活動も、リーダーはこうした類型の女性達である。若い時から家族に気兼ねすることなく、地域の様々な活動に参加してきた女性農業者に多い。後継者を確保している農家は、絶対数ではc類型におおく、家産価値の大きい農家ほど定着している。d,e類型の農家では大半の農家で農業跡継ぎを確保している。女性が誇りと喜びをもって農業経営に参加している農家は、農業経営自体が魅力的であるだけでなく、家族関係も風通しがよく、若者にとっても就業しやすいためである。しかし職業選択についても寛容であり、長男を含めて他産業を選択する場合も少なくない。そこでの後継ぎ問題は、家族関係の領域を越える。
著者
原田 淳 宇佐美 繁 野見山 敏雄 谷口 吉光 久野 秀二 中島 紀一 大木 茂 細川 允史 原田 淳
出版者
宇都宮大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究では対象とした事例はいずれもWTO体制下にあっても確実な成長を実現してきた産直産地組織と総称される農家グループである。その特徴は、新政策がサブ戦略として打ち出した環境保全型農業を早い時期から経営の基本戦略に位置づけ、主として生協との産直という形で、卸売市場への無条件委託販売ではなく、産地組織自身の手で消費をつかみ、継続的な事業システムを構築してきたという点にあった。産直産地組織は環境と安全性重視の農業生産体制の確立と戦略的マーケティングによる農産物販売を機軸とした農家の連合組織であり、法人形態としては農事組合法人、有限会社、株式会社、系統農協、法人格のない任意組織などさまざまである。既存の農業組織のなかでは組織形態や活動内容は農協に類似している。本来ならば系統農協が果たすことを期待された諸機能を、現実には多くの農協が果たし得ていないなかで、意志のある生産者たちが自ら農協類似の組織を作り上げ、時代を生き抜く道を拓いてきたと理解できる。マーケティングを軸とした戦略的経営についてのこれまでの議論は個別経営に視点をあてたものが多かったが、本報告の事例は意志のある農家によるグループとしての組織的な経営展開である。環境・安全など新時代農業のポリシーが確立されているという点、先端的マーケティングを展開する活力ある集団的経営構造が構築されているという点、地域における幅広い農家の結集などの諸点に際だった特色があり、個別経営主義に傾斜しがちだった戦略的経営論と農業を面として集団として捉えようとする地域農業論・産地形成論との断絶を埋める方向としても注目すべき取り組みである。