著者
安屋敷 和秀 戸田 昇 岡村 富夫
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.119, no.1, pp.21-28, 2002 (Released:2002-12-10)
参考文献数
39
被引用文献数
1 1

多くの臓器機能がノルアドレナリン作動性神経とコリン作動性神経による拮抗的二重支配によって生理的調節を受けている.しかし,陰茎海綿体を含む血管系においては,収縮神経であるノルアドレナリン作動性神経に拮抗的支配を行っているのはコリン作動性神経ではなく,非アドレナリン性,非コリン性(NANC)神経と考えられてきた.陰茎海綿体を支配するNANC神経が一酸化窒素(NO)作動性神経であり,同神経の興奮により活性化した神経型NO合成酵素が,NOを合成する.同神経から遊離されたNOが海綿体平滑筋細胞内の可溶性グアニル酸シクラーゼを活性化し,上昇したサイクリック(c)GMPにより海綿体平滑筋は拡張し,流入した血液の充満により勃起が生じる.海綿体内の血液量を調節する海綿体動静脈にもNO作動性神経が分布し,その機能の強さが海綿体>動脈>>静脈であることも勃起の発生に役立つかもしれない.したがって,海綿体洞への血液流入を妨げる動脈閉塞や海綿体や支配動脈を拡張するNO作動性神経機能の低下は,勃起障害(Erectile Dysfunction: ED)の原因となりうる.ただし,海綿体および血管内皮に存在する内皮型NO合成酵素によって合成されるNOも,勃起機能に一部関与する可能性がある.選択的ホスホジエステラーゼ5型(PDE-V)阻害薬であるバイアグラ(Sildenafil)は,主として神経由来のNOにより産生されたcGMPの分解を抑制し,EDを改善する効果があると考えられる.勃起機能の体系的な研究を通して,より選択的で安全なED治療薬の開発が望まれる.
著者
戸田 昇 安屋敷 和秀
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.135, no.1, pp.20-24, 2010 (Released:2010-01-14)
参考文献数
40
被引用文献数
1

神経源性と考えられてきたアルツハイマー病(AD)を初めとする認知・記憶障害にも,脳循環低下による慢性的な酸素供給の減少と代謝障害が関与することを示す報告が少なからず見られる.その中で,脳血管内皮障害の占める役割に多くの注目が寄せられている.内皮障害には血管性危険因子(vascular risk factor)や加齢が強い関わりをもつ.内皮機能の主要なマーカーとしての一酸化窒素(NO)とADとの関係について最近興味ある情報が数多く見られる.β-amyloid(Aβ)沈着と脳微小血管内皮障害との間に強い相関が観察されている.NOの減少はAβ沈着を助長し,AβはNOの働きや合成を抑制して脳血流を減少する.NO合成酵素(NOS)阻害薬はAβの有害作用を増幅する.AD治療薬であるコリンエステラーゼ阻害薬の血管作用にNOが関係する可能性が示唆されている.脳における炎症反応はiNOSを介してNOの過剰産生をもたらし神経変性や神経死をひき起す.新しい視点からのAD研究が,ADの予防と治療の発展に貢献することを願っている.