著者
宮川 昭義
出版者
拓殖大学経営経理研究所
雑誌
拓殖大学経営経理研究 = Takushoku University research in management and accounting (ISSN:13490281)
巻号頁・発行日
vol.111, pp.265-278, 2018-02-28

本稿では,まず,いわゆる取得原価会計および公正価値会計が,会計理論としての完全性を提供するものではなく,企業の業績指標としての利益計算構造を当期純利益とするのか包括利益とするのかいずれが適当であるかを考える主観的なアプローチの違いに過ぎないことを指摘する。したがって,前者は取得原価主義会計であり,後者は公正価値主義会計であり,それぞれの利益観自体に優劣があるわけではないことを明らかにしている。その論拠として,取得原価主義会計から見るクリーン・サープラスが,公正価値主義会計では達成されないとの批判について,ゴーイング・コンサーンを前提とする取得原価主義会計による期間損益の総和が,名目資本維持を前提とする限り全体損益と一致せず,当該期間損益には業績損益と評価損益が混在していることを明らかとしている。つまり,クリーン・サープラスそれ自身にも公正価値主義会計における包括利益的要素が含まれているのである。結果として,「包括利益」と呼称するかぎり,それは一意の利益ではなく,「その他包括利益」をリサイクリングするかどうかが今日の会計観が取得原価主義会計に依拠しているか,公正価値主義会計に依拠しているかの判断基準となることを理論分析している。公正価値主義会計において,リサイクリングを採用することは,公正価値主義会計そのものが取得原価主義会計の範囲に引きつけられていることを明らかとしている。