著者
石黒 直隆 本郷 一美 寺井 洋平
出版者
総合研究大学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

ニホンオオカミは古くからオオカミやヤマイヌと呼ばれてきた。江戸時代にシーボルトが蒐集した標本も含め海外の博物館に保管されている標本6点と日本で確認されたニホンオオカミの標本についてミトコンドリア(mt)DNA解析を行った。その結果、シーボルトのヤマイヌと呼ばれた標本のmtDNAは、ニホンオオカミ型であった。一方、ヤマイヌの標本は、形態的にニホンオオカミと少し異なることから、イヌとの交雑の可能性を強く示唆した。
著者
寺井 洋平
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.5-13, 2023 (Released:2023-02-09)
参考文献数
30

この総説では,全ゲノム情報から見えてきたニホンオオカミ(Canis lupus hodophilax,Temminck 1839)と他のハイイロオオカミ(C. lupus)(イヌを含む)の関係について紹介する.ニホンオオカミはかつてアジアに生息していたハイイロオオカミの1系統であり,約100年前まで日本列島南部(本州,四国,九州)に分布していたが,その後絶滅した.ニホンオオカミの系統が東アジアで他のハイイロオオカミから分岐したのは17,000年から4万年前程度だと推定される.ニホンオオカミはイヌに最も近縁なハイイロオオカミの系統であり,またニホンオオカミの祖先が東ユーラシアのイヌの祖先と交雑したと推定されている.そのため,現存の東ユーラシアの在来イヌのゲノムにはニホンオオカミの祖先のゲノムが含まれている.江戸時代にはイヌとニホンオオカミの交雑個体がいたことも示され,日本列島ではイヌとニホンオオカミは関係が深かったのかもしれない.ニホンオオカミについては,いつ日本列島に渡来したか,いつ小型化したかなどまだまだ謎は多いが,今後の日本列島出土のイヌ/オオカミの古資料を用いた古代ゲノム情報がさらにニホンオオカミの姿を明らかにすると期待している.
著者
寺井 洋平
出版者
総合研究大学院大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2019-04-01

代表的な日本犬種である紀州犬、秋田犬、柴犬、保存状態のよい二ホンオオカミ(3個体)それぞれ3個体ずつ、およびニホンオオカミのタイプ標本とヤマイヌの標本(各1個体)からゲノムDNA配列を決定する。その情報からニホンオオカミ固有の塩基置換を抽出し、日本犬ゲノムにそれら固有の塩基置換が含まれる領域を明らかにする。次いでニホンオオカミ特有の形態に関わる遺伝子とゲノム領域を抽出する。さらに日本犬ゲノム中のニホンオオカミ由来領域と、ニホンオオカミの島嶼適応に関わった可能性のある領域との重なりを抽出する。これにより島嶼適応したニホンオオカミの遺伝情報が日本犬の成立に寄与したことを明らかにする。