著者
冨安 芳和 小塩 允護 小宮 三彌
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.60-69, 1973-03-01

本研究は、食事中にさまざまな不適切な行動を示す重度精神薄弱児にオペラント技法を適用し、そうした不適切な行動を修正し、適切な食事行動を形成するために試みられた。訓練に際しては、不適切な行動に対して負の強化を、適切な行動に正の強化を与えるという手続をとった。修正すべき不適切な行動としてまずとりあげられたのは、a)食器をひっくりかえす、b)スプーンを使わずに食べる行動であり、27セッションからは、これらに、c)食器をたたきつける行動が、80セッションからは、d)食べ物をこぼす行動が追加された。食事中にこのような不適切な行動が起こるたびに、言語的叱責と同時にお盆をとりあげ15秒間の食事からのタイムアウトを行なう。また、スプーンを口まで2回連続して運ぶごとに、言語的容認と同時に身体的接触を与えるというものである。施設での観察、訓練前の観察(第1基底水準期)、訓練(第1、第2訓練期)、訓練の効果をみるための観察(第2基底水準期)、訓練(第3〜6訓練期)というスケジュールをたて、その間の食事行動をVTRによって記録した。全体で99セッションであったが、訓練のためには84セッションを当て、残りの15セッションは訓練なしの観察に当てられた。こうした記録の分析の結果、およそ次のようなことがらが明らかになった。(1)ここでとりあげられた4つの不適切な行動は、強化手続が与えられると、まず急激に減少し、その後着実な減少をつづけ、ほとんど消失する。(2)第2基底水準期では、各々の不適切な行動は、前後の訓練期間にくらべ、有意な増加を示している。(3)訓練期間中に食器をスプーンで小きざみにたたくという行動が一時的に高まったが、適切な食事行動が増大するにつれ消失している。(4)食事行動のみではなく、その他の社会的行動においても望ましい傾向が増大し、この訓練がパーソナリティの安定化にも作用したと思われる。