著者
早坂 信哉 尾島 俊之 八木 明男 近藤 克則
出版者
The Japanese Society of Balneology, Climatology and Physical Medicine
雑誌
日本温泉気候物理医学会雑誌 (ISSN:00290343)
巻号頁・発行日
pp.2359, (Released:2023-07-24)
参考文献数
17

【背景・目的】高齢者において抑うつの発症は様々な疾患のリスクとなり,要介護状態に陥るきっかけとなる.一方,日本においては浴槽の湯につかる特有の入浴法が多くの国民の生活習慣となっているが,この生活習慣としての浴槽入浴と長期的な抑うつ発症との関連は明らかではなかった.本研究は,大規模な6年間にわたる縦断研究によって生活習慣としての浴槽入浴が長期的な抑うつ発症との関連を明らかにすることを目的とした.  【方法】Japan Gerontological Evaluation Study(以下,JAGES)の一環として2010年,2016年に調査対象となった11,882人のうち,自立しておりかつGeriatric Depression Scale (以下,GDS)4点以下で抑うつがなく,夏の入浴頻度の情報のある6,452人,および冬の入浴頻度の情報がある6,465人をそれぞれ解析した.コホート研究として週0~6回の浴槽入浴と週7回以上の浴槽入浴の各群の6年後のGDSによる抑うつ発症割合を求め,浴槽入浴との関連をロジスティック回帰分析によって年齢,性別,治療中の病気の有無,飲酒の有無,喫煙の有無,婚姻状況,教育年数,等価所得を調整して多変量解析を行いオッズ比を求めた.  【結果】週0~6回の浴槽入浴に対する週7回以上の浴槽入浴の抑うつ発症の,調整後の多変量解析によるオッズ比は夏の入浴頻度0.84(95%信頼区間:0.64~1.10),冬の入浴頻度0.76(95%信頼区間:0.59~0.98)であり,冬に週7回以上浴槽入浴することは抑うつを発症するリスクが有意に低かった.  【結論】習慣的な浴槽入浴の温熱作用を介した自律神経のバランス調整などによる抑うつ予防作用による結果の可能性があり,健康維持のため高齢者へ浴槽入浴が勧められることが示唆された.
著者
木村 美也子 尾島 俊之 近藤 克則
出版者
一般財団法人 日本健康開発財団
雑誌
日本健康開発雑誌 (ISSN:2432602X)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.3-13, 2020-06-19 (Released:2020-06-19)
参考文献数
51
被引用文献数
2

背景・目的 新型コロナウイルス感染症がパンデミック(世界的な大流行)となり、外出や人との交流が難しくなっている。こうした状況の長期化は、閉じこもりや社会的孤立の増加につながりうるが、それによる健康への弊害にはどのようなものが予想されるであろうか。本稿では、日本老年学的評価研究(Japan Gerontological Evaluation Study: JAGES)で蓄積されてきた研究から、高齢者の社会的行動と健康に関する知見を概括し、新型コロナウイルス感染症流行時の高齢者の健康の維持・向上に望ましい生活への示唆を得ることを目的とした。方法 JAGESによる研究の中から、高齢者の社会的行動と健康の関連を示した46件の論文(2009年~2020年発表)を抽出し、その知見を概括し、新型コロナウイルス感染症流行時に可能な健康対策について考察した。結果 介護、認知症、転倒、うつなどを予防し、高齢者の健康を維持・向上するためには、外出や他者との交流、運動や社会参加が重要であることが示された。それらの機会が制限されることで、要介護、認知症、早期死亡へのリスクが高まり、また要介護状態も重症化することが予測された。考察 社会的行動制限は感染リスクを抑えるために必要なことではあるものの、健康を損なうデメリットもあるため、感染リスクを抑えつつ、人との交流、社会参加の機会を設ける必要があると考えられた。密閉、密接、密集を回避しつつ、他者との交流を続けることで、感染リスクと将来の健康リスクが減じ得るだろう。
著者
早坂 信哉 原岡 智子 尾島 俊之
出版者
一般社団法人 日本温泉気候物理医学会
雑誌
日本温泉気候物理医学会雑誌 (ISSN:00290343)
巻号頁・発行日
vol.79, no.2, pp.112-118, 2016 (Released:2016-07-04)
参考文献数
20
被引用文献数
2

【背景・目的】介護保険によって入浴サービスが提供されているが,現在,高齢者にとって安全な入浴が可能か否かの具体的な判断基準・指針がなく,介護現場の入浴担当者は判断に困難を感じている.特に入浴前の体調確認は主に血圧測定,体温測定によって実施されていることから,本研究は,入浴前の血圧や体温と,入浴に関連した体調不良や事故の発生との関連について明らかにすることを目的とした.【方法】1.研究デザイン:症例対照研究(前向き調査による症例登録方式).2.調査対象:訪問入浴事業所として登録がある2,330か所の全事業所.3.調査方法:症例は入浴に関連した体調不良・事故の症例(以下,異常例と言う).対照は各事業所2例無作為抽出.調査期間は2012年6月~2013年5月までの1年間.4.解析方法:年齢,性別,障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度),要介護度,modified Rankin Scale,意識レベル,認知症高齢者の日常生活自立度,入浴前の血圧,入浴前の体温を単純比較した.その後,ロジスティック回帰分析を用いて,すべての体調不良・事故発生及び発熱,血圧上昇・低下を除いた体調不良・事故発生を目的変数に,その他の測定項目を説明変数とした単変量・多変量解析を実施した.【結果】異常例596件,対照1,511件を解析した.単純比較では異常例で体温が高かった.発熱,血圧上昇・低下を除いた体調不良・事故発生での多変量解析では,収縮期血圧は160~179mmHgでオッズ比(95%信頼区間)3.63(1.39-9.50),拡張期血圧は100~109mmHgで同14.71(1.31-165.77),体温は37.5~37.9℃で同16.47(3.30-82.40),38.0℃以上で同6.57(1.40-30.81)と有意な関連があった.【結論】高齢者における160/100mmHg以上の血圧,37.5℃以上の体温は入浴関連の体調不良・事故の危険因子である可能性がある.
著者
石川 鎮清 木村 哲也 中村 好一 近藤 克則 尾島 俊之 菅原 琢磨
出版者
一般財団法人 日本健康開発財団
雑誌
日本健康開発雑誌 (ISSN:2432602X)
巻号頁・発行日
pp.202244G01, (Released:2022-08-17)
参考文献数
12

背景・目的 医療経済学への社会的要請は高まっているが、担う人材は十分とは言えず、養成上の課題は多い。そこで医療経済学の人材養成の課題を把握し、解決策の方向を示すことを目的とした。方法 2つの調査を行った。量的調査では、主要2学会の抄録集を対象に近年10年間における医療経済学分野の研究発表数、人材数を調査した。質的調査では、国内の医療経済学分野における中堅研究者8人を対象に半構造化面接を行い、質的に分析した。結果 日本経済学会では一般演題に占める医療経済学関連の演題の割合が2000年代には2%~6%台だったが、2012年を境に8%~10%台へと増加していた。医療経済学会では、経済学系の発表者の割合が2000年代には4~7割の幅で上下していたが、2013年以降は、上昇に転じ、2015年~2016年は7割を超えていた。インタビュー調査からは、大学教育における医療経済学の課題、研究職ポストの不足、データ利用の促進の必要性、経済学系と医学系との協働の可能性の4つのカテゴリを抽出した。考察 量的・質的調査の結果、社会的ニーズの増大にもかかわらず、人材育成には課題があることが明らかになった。問題解決の方向性として1)重点的で継続的な人材養成、2)雇用ポストの創出、3)医療データの利用環境の改善促進、4)医学分野と経済学分野との協働の場の創設の4つが重要と考えられた。
著者
斉藤 雅茂 近藤 克則 尾島 俊之 平井 寛 JAGES グループ
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.95-105, 2015 (Released:2015-06-12)
参考文献数
54
被引用文献数
11

目的 社会的孤立や孤立死の問題への関心は高い一方で,孤立状態の操作的定義に関する根拠は蓄積されていない。社会的孤立が健康の社会的決定要因の 1 つであることを考慮し,健康リスクが高まる交流の乏しさ(頻度)があるのかを明らかにすることを目的にした。方法 2003年10月に愛知県下 6 市町村における要介護認定を受けていない高齢者14,804人を対象にした AGES(Aichi Gerontological Evaluation Study,愛知老年学的評価研究)プロジェクトのデータの一部を用いた(回収率=50.4%)。性別・年齢が不明な人を除き,調査時点で歩行・入浴・排泄が自立であった12,085人について分析した。要介護認定・賦課データに基づいて,調査時点から2013年10月時点までの約10年間を追跡し,要介護状態(全認定および要介護 2 以上)への移行,認知症の発症と死亡状況を把握した。社会的孤立の指標には,別居家族・親族および友人と会う頻度と手紙・電話・メールなどで連絡を取り合う頻度を用いた。1 か月を4.3週と換算してすべての交流頻度を加算後,「月 1 回未満」から「毎日頻繁(週に 9 回以上)」群に分類した。結果 Cox 比例ハザードモデルの結果,調査時点での性別・年齢や同居者の有無,治療疾患の有無等を調整したうえでも,毎日頻繁群と比べて,月 1 回未満群では,1.37(95%CI:1.16–1.61)倍要介護 2 以上に,1.45(95%CI:1.21–1.74)倍認知症に,1.34(95%CI:1.16–1.55)倍早期死亡に至りやすいということが示された。月 1~週 1 回未満群でも同様に,いずれの健康指標とも有意な関連が認められたが,週 1 回以上の群では有意な関連は消失した。なお,調査後 1 年以内に従属変数のイベントが発生したケースを除外しても結果は大きく変わらなかった。同居者以外との交流頻度が月 1 回未満を孤立の基準とすると,高齢者の7.4%(男性で10.2%,女性で4.7%)が該当し,週 1 回未満を含めると15.8%(男性で21.2%,女性で10.6%)が該当した。結論 同居者以外との対面・非対面交流をあわせて週に 1 回未満という状態までがその後の要介護状態や認知症と関連し,月 1 回未満になると早期死亡とも密接に関連する交流の乏しさであることから,これらが社会的孤立の妥当な操作的定義であることが示唆された。
著者
仲村 秀子 尾島 俊之 中村 美詠子 鈴木 孝太 山縣 然太朗 橋本 修二
出版者
東海公衆衛生学会
雑誌
東海公衆衛生雑誌 (ISSN:2187736X)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.71-75, 2013-07-20 (Released:2018-12-01)
参考文献数
13
被引用文献数
1

目的 2011年に発生した東日本大震災前後の岩手県・宮城県・福島県の出生率・男児出生割合・低出生体重児割合の変化を明らかにすることである。方法 2007年から2011年の人口動態統計を用いて,全国,岩手県,宮城県,福島県における各年の出生数・出生率,男児出生割合,低出生体重児数と割合の推移を,それぞれの変化率を用いて検討した。出生数・出生率は男女を合わせた総数を,低出生体重児数と割合は,総数と男女別の検討を行った。次に,2007年から2010年を合わせた出生率,男児出生割合,低出生体重児割合と2011年のものと比較し,χ2検定を行った(有意水準を5%)。結果 2007年から2011年にかけて全国,岩手県,宮城県,福島県の出生数と出生率は,概ね低下していた。2007年から2010年を合わせた出生率と2011年との比較では,全国,岩手県,宮城県,福島県いずれも2011年は有意に低下していた。男児出生割合は,2007年から2011年にかけて全国は緩やかに減少していた。岩手県は52.26%から50.44%に年々減少し,宮城県,福島県は50.78%から51.91%の間を増減しながら全体としては横ばいであった。2007年から2010年を合わせた男児出生割合と2011年との比較では全国と岩手県は有意に減少していた。低出生体重児割合は,2007年から2011年にかけて総数では,全国は安定していたが,岩手県・福島県は年によって増減しながら,ほぼ横ばいであった。宮城県は概ね上昇していた。男女別にみると,男児は2007年から2011年にかけて,全国は8.50%前後を推移したが,岩手県,宮城県,福島県は増減を繰り返し,ほぼ横ばいであった。福島県は他県と比較して増減の幅が大きかった。女児は全国では10.70%前後を推移したが,宮城県は概ね上昇していた。岩手県,福島県は増減を繰り返しながら横ばいであった。2007年~2010年を合わせた低出生体重児割合と2011年との比較では,宮城県の女児は10.02%から11.04%へと有意に増加し,福島県の男児は8.25%から7.56%へと有意に減少していた。結論 東日本大震災が起こった2011年の全国・岩手県・宮城県・福島県の出生率は2007年から2010年と比較して有意に低下し,男児出生割合は全国と岩手県で有意に減少していた。低出生体重児割合は,宮城県の女児で有意に増加し,福島県の男児で有意に減少していた。今後,より詳細な分析が必要である。
著者
水田 明子 岡田 栄作 尾島 俊之
出版者
一般社団法人 日本公衆衛生看護学会
雑誌
日本公衆衛生看護学会誌 (ISSN:21877122)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.136-143, 2016 (Released:2016-09-02)
参考文献数
40
被引用文献数
1

目的:中学生のいじめの加害経験と,クラスの結束,いじめの被害経験,時間的展望,家族構成,経済状況との関連を明らかにする.方法:2012年12月から2013年1月に,公立中学校8校の生徒(N=2,968人)に調査を行った.いじめの加害と被害経験の有無は2値変数にした.生徒同士の繋がりを4項目4段階評価で尋ね,クラスの平均値を算出し「クラスの結束」と定義した.いじめの加害経験を目的変数,クラスの結束,いじめの被害経験,時間的展望,家族構成,経済的余裕を説明変数とした単変量ロジスティック回帰分析を行った.結果:クラスの結束が高いといじめの加害経験のオッズ比が低かった(男:OR=0.44,95%CI=0.29–0.67;女:OR=0.59,95%CI=0.37–0.95).いじめの加害経験は被害経験と正の関連,現在の充実感と過去受容は負の関連があった.考察:クラスの結束はいじめの加害経験と関連した.いじめ防止対策にはクラスレベルでの信頼の構築が重要であり,現在の充実感,過去受容への働きかけも有用である.
著者
眞崎 直子 橋本 修二 川戸 美由紀 尾島 俊之 竹島 正 松原 みゆき 三徳 和子 尾形 由起子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.164-169, 2018 (Released:2018-05-03)
参考文献数
23

目的 人口動態統計に基づく東日本大震災後の自殺死亡数を観察し,岩手県,宮城県と福島県(以下,3県と記す)の沿岸部の市町村と沿岸部以外の市町村での大震災後の自殺の超過死亡について,検討した。方法 基礎資料として,統計法第33条による人口動態統計の調査票情報から,2010年1月1日~2013年3月31日の死亡情報を利用した。死亡の定義としては,死亡年月日,死亡者の住所地市町村,性別,死亡時年齢,原死因コード(国際疾病分類第10回修正;ICD-10)とした。それ以外に,2009~2013年度の住民基本台帳人口と2010年の国勢調査人口を利用した。地域と期間別に自殺による死亡数を集計した。死亡者の住所地市町村を用い,3県の市町村およびそれ以外に区分し,沿岸部と沿岸部以外に分類した。期間としては,死亡年月日を用いて,東日本大震災の発生月(2011年3月)の1年前から2年後までの3年間とし,月に区分した。自殺は,ICD-10のX60~X84と定義した。自殺SMRは,地域と期間ごとに,3県以外の全国の同年同月の死亡率を標準死亡率として計算し,その有意性を近似的な検定方法で検定した。人口としては,2009~2012年度の住民基本台帳人口から線型内挿法で算定した。ただし,住民基本台帳人口では,公表資料の最終年齢階級が80歳以上のため,性別に80歳以上人口を2010年の国勢調査人口で80~84歳と85歳以上に比例按分した。結果 3県の沿岸部と沿岸部以外における東日本大震災前後の自殺SMRを算出した。震災後2年間(2011年3月~2013年2月)を通して,自殺SMRは沿岸部と沿岸部以外ともに増加傾向がなかった。3県において,震災前1年間に対する震災0~1年の自殺SMRの比は0.92,震災1~2年の自殺SMRの比は0.93であり,いずれも有意に低かった。3県の県別に沿岸部と沿岸部以外ごとにみると,震災前1年間に対する震災0~1年と1~2年の自殺SMRは0.73~1.07であり,福島県沿岸部の震災1~2年で0.73,宮城県の沿岸部で震災後1~2年で0.83および全体で0.90,3県全体の沿岸部以外について,震災1~2年で0.80,沿岸部以外で0.90,全体で震災0~1年,1~2年それぞれ0.92,0.93と有意に低く,一方,有意に高いものはなかった。結論 東日本大震災後の3県の自殺死亡について,震災から2年間には自殺死亡の増加がなかったと示唆された。今後は,中長期的に観察を継続していくことが大切であると考える。
著者
中村 美詠子 尾島 俊之 野田 龍也 亀山 良子 福川 康之
出版者
浜松医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

フード・インセキュリティは物理的、社会的、経済的に食料アクセスが阻害された状態であり、近年、非伝染性疾患との関連が注目されている。本研究は日本におけるフード・インセキュリティの構成要素、該当状況、栄養状態、関連疾患について調査した。観察研究の結果 (1)多忙、遅いあるいは不規則な夕食等の時間的要因が主要な構成要素の一つであること、(2)日本人一般労働者や大学生に少なからず存在すること、(3)栄養摂取の乏しさやメンタルヘルスの低さに関連していることが明らかにされた。食環境対策推進においてはライフスタイルにおける時間的要素の変革が必要だろう。
著者
木村 哲也 石川 鎮清 中村 好一 近藤 克則 尾島 俊之 菅原 琢磨
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
pp.2022.004, (Released:2022-07-29)
参考文献数
13
被引用文献数
1

【目的】近年,時代に即した医療課題の解決のため,適切な社会医学の人材育成がなされているかを,明らかにすることを目的とした。【方法】量的調査と質的調査を行った。量的調査では,近年20年間の社会医学分野の講座名称及び教員数の変化について名簿調査を行った。質的調査では,社会医学分野の研究者・教員9名及び高等教育行政,厚生行政,医学会関係者各1名ずつの計12名に対してインタビュー調査を行った。インタビュー調査は半構造化面接の方法で行い,質的に分析した。【結果】名簿調査では,20年間のうちに,医学教育において社会医学分野の教員数に変化はないが,基礎医学・臨床医学分野を合わせた教員の全体数が増加しているため,社会医学分野の教員の割合は3.0%(521人/17,224人)から2.1%(508人/24,121人)に減少していた。インタビューでは,公衆衛生大学院の創設や社会医学専門医制度などの開始,地方自治体や国際保健において社会医学人材の活躍が期待される一方で,魅力ある教育プログラムやキャリアパスのイメージが示されていないこと,実践現場と研究・教育の乖離などの課題が明らかとなった。【結論】量的・質的分析を合わせた結果,1)新たな課題に取り組む人材育成のため教育・専門医制度などの質の保証の充実,2)社会医学の可能性を伝え参入する若手を増やすための方策強化,3)現場と研究,教育の乖離が見られるためビッグデータやグローバルヘルスを使った現場と教育と研究の統合,の3つの課題を抽出することができた。
著者
遠又 靖丈 辻 一郎 杉山 賢明 橋本 修二 川戸 美由紀 山田 宏哉 世古 留美 村上 義孝 早川 岳人 林 正幸 加藤 昌弘 野田 龍也 尾島 俊之
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.61, no.11, pp.679-685, 2014 (Released:2014-12-11)
参考文献数
10

目的 介護保険の統計資料を用いた研究において,健康日本21(第二次)の目標である「平均寿命の増加分を上回る健康寿命の増加」は,2011年から要介護 2 以上の認定者数が 1 年ごとに 1%ずつ徐々に低下した場合(健康寿命延伸シナリオ)に2020年に達成されうることが報告されている。本研究は,この健康寿命延伸シナリオを達成した場合の介護費・医療費の節減額を推定した。方法 要介護認定区分別の介護費・医療費(人口一人あたりの平均)の基礎資料として,介護給付費実態調査と宮城県大崎市の調査データを用いた。2011~2020年の自然経過(現状シナリオ)の要介護認定者数は,将来の人口構成が「日本の将来推計人口」のとおりで,年齢階級別の要介護認定者(要介護 2 以上で区分別)の出現割合が2010年と同じである場合とし推定した。次に,健康寿命延伸シナリオ達成による要介護認定者の減少人数を算出した上で,介護費・医療費の推定節減額を算出した。結果 各年次の要介護 2 以上の減少分がすべて「認定なし」に移行すると仮定した場合,2011~2020年の累計で 5 兆2,914億円が節減されると推定された。さらに要介護 2 以上の減少分がすべて「要介護 1」に移行すると仮定した場合,同期間の累計で 2 兆4,914億円が節減されると推定された。結論 健康日本21(第二次)の達成によって約 2 兆 5 千億円~5 兆 3 千億円の介護費・医療費の節減という,健康づくり政策の投資効果の目安が明らかとなった。
著者
八木 明男 近藤 克則 早坂 信哉 尾島 俊之
出版者
一般財団法人 日本健康開発財団
雑誌
日本健康開発雑誌 (ISSN:2432602X)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.67-73, 2019 (Released:2019-10-26)
参考文献数
13

背景・目的 抑うつは高齢者の生活機能低下の原因の一つであり、その予防は公衆衛生上の重要な課題である。本研究では縦断デザインにより高齢者の浴槽入浴頻度と抑うつ傾向発症 ( 以下、うつ発症) との関連を評価することを目的とした。方法 日本老年学的評価研究2010年度版、2013年度版の両質問用紙に回答した高齢者のうち、日常生活動作が自立し、2010年度調査時点でGeriatric Depression Scale (GDS) 4点以下であった4,466人 ( 男性2,159人、女性2,307人) を対象とした。2013年度調査でのうつ発症 (GDS 5点以上) を目的変数、2010年度調査時点での浴槽入浴頻度 ( 夏と冬それぞれ) を説明変数とし、共変量として年齢、性、婚姻状況、就労状況、等価所得、教育年数、治療中の病気の有無を用い、ポアソン回帰分析により解析した。結果 新規うつ発症は、夏の週0-6回で14.1% 、週7回以上で11.5% 、冬の週0-6回で15.1% 、週7回以上で10.8% に生じた。多変量解析の結果、週0-6回を基準とした週7回以上でのうつ発症率比 (95% 信頼区間) は夏で0.84 (0.71-1.00) 、冬で0.77 (0.65-0.91) であった。考察 浴槽入浴頻度が高い高齢者では新規うつ発症が少ないことが示された。高齢者の浴槽入浴はうつ発症の予防につながる可能性が示唆される。
著者
石澤 太市 渡邊 智 谷野 伸吾 油田 正樹 宮本 謙一 尾島 俊之 早坂 信哉
出版者
一般社団法人 日本温泉気候物理医学会
雑誌
日本温泉気候物理医学会雑誌 (ISSN:00290343)
巻号頁・発行日
vol.75, no.4, pp.227-237, 2012 (Released:2013-10-23)
参考文献数
30
被引用文献数
5

背景:入浴は、身体を清潔に保つための重要な行為であり、生活習慣の一つである。入浴に対する意識は、疲れを取る、リフレッシュ、健康のため、睡眠をよく取るため等であり、健康維持と捉えることができる。しかし、これまで家庭での入浴習慣と健康状態との関係はほとんど研究されていない。目的:本研究は家庭における日々の入浴と身体的・心理的健康状態との関係を明らかにすることを目的とした。方法:健康成人男女 198 名を対象として調査を行った。入浴習慣の調査項目は、被験者の性別・年齢、浴槽浴頻度、入浴剤使用頻度、浴槽浴時湯温、浴槽浴時間、浴槽浴時水位について調査した。健康状態の調査項目は、気分プロフィール検査である POMS(Profile of Mood States)を用い、主観的健康感および睡眠の質については VAS(Visual Analogue Scale)を用いて評価した。結果:浴槽浴頻度の高い群において、「緊張不安」および「抑うつ・落込み」が有意に低く、主観的健康感が有意に高かった。また、入浴剤使用頻度の高い群では、主観的健康感および睡眠の質が有意に高かった。全身浴群においては、「疲労感」が有意に低く、主観的健康感および睡眠の質が有意に高かった。結論:入浴習慣と身体・心理状況との関連が、健康成人男女を対象として行った研究により明らかになった。全身浴による浴槽浴頻度および入浴剤使用頻度が高い入浴習慣は、中壮年の身体的・心理的健康状態を高めたと考えられた。
著者
木村 哲也 石川 鎮清 中村 好一 近藤 克則 尾島 俊之 菅原 琢磨
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.235-243, 2022-08-05 (Released:2022-08-19)
参考文献数
13
被引用文献数
1

【目的】近年,時代に即した医療課題の解決のため,適切な社会医学の人材育成がなされているかを,明らかにすることを目的とした。【方法】量的調査と質的調査を行った。量的調査では,近年20年間の社会医学分野の講座名称及び教員数の変化について名簿調査を行った。質的調査では,社会医学分野の研究者・教員9名及び高等教育行政,厚生行政,医学会関係者各1名ずつの計12名に対してインタビュー調査を行った。インタビュー調査は半構造化面接の方法で行い,質的に分析した。【結果】名簿調査では,20年間のうちに,医学教育において社会医学分野の教員数に変化はないが,基礎医学・臨床医学分野を合わせた教員の全体数が増加しているため,社会医学分野の教員の割合は3.0%(521人/17,224人)から2.1%(508人/24,121人)に減少していた。インタビューでは,公衆衛生大学院の創設や社会医学専門医制度などの開始,地方自治体や国際保健において社会医学人材の活躍が期待される一方で,魅力ある教育プログラムやキャリアパスのイメージが示されていないこと,実践現場と研究・教育の乖離などの課題が明らかとなった。【結論】量的・質的分析を合わせた結果,1)新たな課題に取り組む人材育成のため教育・専門医制度などの質の保証の充実,2)社会医学の可能性を伝え参入する若手を増やすための方策強化,3)現場と研究,教育の乖離が見られるためビッグデータやグローバルヘルスを使った現場と教育と研究の統合,の3つの課題を抽出することができた。
著者
平井 寛 近藤 克則 尾島 俊之 村田 千代栄
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.56, no.8, pp.501-512, 2009 (Released:2014-06-13)
参考文献数
37
被引用文献数
15

目的 本研究では,地域在住高齢者9,702人を 3 年間追跡し,要介護認定のリスク要因の検討を行った。方法 2003年10月,東海地方の介護保険者 5 市町の協力を得て,各市町に居住する65歳以上で要介護認定を受けていない高齢者24,374人を対象とした自記式アンケート郵送回収調査を行った。調査回答者は12,031人(回収率49.4%)であった。このうち,性別,年齢を回答していない者(n=1387),歩行,入浴,排泄が自立していないまたは無回答の者(n=905),2003年10月31日までに要介護状態になった者,死亡した者(n=37)を除いた9,702人を分析対象とし2006年10月まで 3 年間追跡した。 目的変数(エンドポイント)は要介護認定とした。説明変数として年齢,家族構成,等価所得,教育年数,治療中の疾病の有無,内服薬数,転倒,咀嚼力,BMI,聴力障害,視力障害,排泄障害,老研式活動能力指標,うつ,主観的健康感,飲酒,喫煙,一日当たりの平均歩行時間,外出頻度,友人との交流,社会的サポート,会参加,就労,家事への従事を用いた。 Cox 比例ハザード回帰分析を用いて,要介護認定についてのハザード比を求めた。分析は男女別に行った。分析にはすべて SPSS 12.0J for Windows の Cox 比例ハザード回帰を用いた。結果 3 年の追跡期間中の死亡は520人,要介護認定838人,重度要介護認定380人であった。転出等による追跡打ち切りが103人であった。男女共通して要支援以上の要介護認定の高いリスクと関連していることが示されたのは,年齢高い,治療中の疾病あり,服薬数多い,一年間の転倒歴あり,咀嚼力低い,排泄障害あり,生活機能低い,主観的健康感よくない,うつ状態,歩行時間30分未満,外出頻度少ない,友人と会う頻度月 1 回未満,自主的会参加なし,仕事していない,家事していないこと,であった。結論 要介護に認定に関連するリスク要因を明らかにした。これらに着目した介護予防プログラムの開発が必要である。
著者
早坂 信哉 原岡 智子 尾島 俊之
出版者
一般社団法人 日本温泉気候物理医学会
雑誌
日本温泉気候物理医学会雑誌 (ISSN:00290343)
巻号頁・発行日
pp.2294, (Released:2016-02-22)
参考文献数
20
被引用文献数
2

【背景・目的】介護保険によって入浴サービスが提供されているが,現在,高齢者にとって安全な入浴が可能か否かの具体的な判断基準・指針がなく,介護現場の入浴担当者は判断に困難を感じている.特に入浴前の体調確認は主に血圧測定,体温測定によって実施されていることから,本研究は,入浴前の血圧や体温と,入浴に関連した体調不良や事故の発生との関連について明らかにすることを目的とした.【方法】1.研究デザイン:症例対照研究(前向き調査による症例登録方式).2.調査対象:訪問入浴事業所として登録がある2,330か所の全事業所.3.調査方法:症例は入浴に関連した体調不良・事故の症例(以下,異常例と言う).対照は各事業所2例無作為抽出.調査期間は2012年6月~2013年5月までの1年間.4.解析方法:年齢,性別,障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度),要介護度,modified Rankin Scale,意識レベル,認知症高齢者の日常生活自立度,入浴前の血圧,入浴前の体温を単純比較した.その後,ロジスティック回帰分析を用いて,すべての体調不良・事故発生及び発熱,血圧上昇・低下を除いた体調不良・事故発生を目的変数に,その他の測定項目を説明変数とした単変量・多変量解析を実施した.【結果】異常例596件,対照1,511件を解析した.単純比較では異常例で体温が高かった.発熱,血圧上昇・低下を除いた体調不良・事故発生での多変量解析では,収縮期血圧は160~179mmHgでオッズ比(95%信頼区間)3.63(1.39-9.50),拡張期血圧は100~109mmHgで同14.71(1.31-165.77),体温は37.5~37.9°Cで同16.47(3.30-82.40),38.0°C以上で同6.57(1.40-30.81)と有意な関連があった.【結論】高齢者における160/100mmHg以上の血圧,37.5°C以上の体温は入浴関連の体調不良・事故の危険因子である可能性がある.
著者
内藤 智義 山田 正己 中村 美詠子 尾島 俊之
出版者
一般財団法人 日本健康開発財団
雑誌
日本健康開発雑誌 (ISSN:2432602X)
巻号頁・発行日
pp.202243G01, (Released:2021-08-24)
参考文献数
18

背景・目的 地域在住高齢者における摂食・嚥下機能と生活習慣との関連は、ほとんど明らかにされていない。本研究は、地域在住高齢者の摂食・嚥下機能の特徴及び、摂食・嚥下機能と生活習慣との関連性を分析することを目的とする。方法 地域包括支援センターが運営する口腔機能向上事業に参加した高齢者419名を対象に自記式質問紙調査を行った。有効回答288名(男性58名、女性230名、平均年齢73.6歳)を分析対象とした。調査項目は、基本属性、健康状態、生活習慣、摂食・嚥下機能を調査し、嚥下障害リスクの有無に差があるかをχ2検定で比較した。結果 嚥下障害リスク評価尺度改訂版で、「嚥下障害リスクあり」は72名(25.0%)、「嚥下障害リスクなし」は216名(75.0%)と判定された。準備期・口腔期の嚥下障害の平均得点が最も高く、咽頭期の嚥下障害の平均得点が最も低かった。「嚥下障害リスクあり」は、「嚥下障害リスクなし」より有意に何でも噛める者は少なく、外出する機会がほとんどない者、夜間よく眠れていない者が有意に多かった。考察 嚥下障害リスクとの関連からは、咀嚼機能と外出する機会を維持・改善することの必要性は高く、咀嚼力向上や外出する機会づくりへの支援は嚥下障害を予防する可能性を示唆した。また、嚥下障害リスクは、夜間睡眠に影響する可能性があり、高齢者の嚥下機能改善が睡眠の質を向上させる支援になる可能性が示唆された。