著者
山神 達也
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2016年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.100147, 2016 (Released:2016-11-09)

Ⅰ.はじめに通勤流動は居住地と従業地との間の就業者の移動のことを指し,通勤流動の完結性が高い空間的範域を通勤圏という。この通勤圏では労働力の再生産がほぼ完結するとともに日常の消費需要がほぼ満たされることから,通勤圏は日常生活圏を代表するものとみなされている(成田1995)。また,行政上の各種サービスは住民の日常生活を踏まえて提供されることが多く,行政機関の多くは管轄区域を設定している。この点に関し,成田(1999)は近畿地方を対象として,通勤流動で設定される日常生活圏と各種行政機関の管轄区域との対応関係を検討し,多くの圏境が日常生活圏と一致することを明らかにした。しかし,成田(1999)以降,平成の大合併が実施されたことから,現在でも同様の関係を見いだせるのか,検討の余地がある。以上を踏まえ,本研究では,和歌山県を対象として,通勤圏と各種行政機関の管轄区域との対応関係を検討したい。Ⅱ.通勤流動と通勤圏の設定図1は,和歌山県下の各市町村からの通勤率が5%を超える通勤流動を地図化したものである。この地図をもとに通勤流動の完結性が高いといえる範囲を定めて通勤圏とし,その中心となる市や町の名前を付した。その結果,和歌山県下で7つの通勤圏を抽出することができた。これらの通勤圏のなかで特徴的なものを整理すると,有田圏は自治体間相互の通勤流動が多く,雇用の明確な中心地のない状況で全体的なまとまりを形成する。また,この圏域の全ての市町から和歌山市への通勤流出がみられ,全体として和歌山圏に従属している。次に橋本圏は,橋本市が周辺から就業者を集める一方,橋本市も含めて全体的に大阪府への通勤流出が多い。以上の詳細は山神(2016)を参照されたい。Ⅲ.通勤圏と行政上の管轄区域との関係Ⅱで確認した通勤圏は各種行政機関の管轄区域とどう対応しているのであろうか。ここでは,和歌山県における二次医療圏,およびハローワーク和歌山の管轄区域との対応を検討する。二次医療圏は広域的・専門的な保健医療サービスを提供するための圏域であり,生活圏をはじめとする諸条件を考慮して設定される(和歌山県『和歌山県保健医療計画』2013年)。また,ハローワークは就職支援・雇用促進を目指す機関であり,通勤流動そのものと密接にかかわるものである。図2は,通勤圏(図1)・二次医療圏・ハローワーク管轄区域の境界がどれだけ一致しているのかを示したものである。二次医療圏では,岩出市と紀の川市で那賀保健医療圏が設定される点と新宮保健医療圏に古座川町と串本町が含まれる点に通勤圏との違いが現れる。一方,ハローワーク管轄区域では,海南市と紀美野町で「かいなん」が設定される点と「串本」にすさみ町が含まれる点に通勤圏との違いが現れる。また,北山村は,通勤圏としては三重県とのつながりが強いが,二次医療圏・ハローワーク管轄区域のいずれにおいても新宮の管轄区域に含まれる。このように,通勤圏・二次医療圏・ハローワーク管轄区域の間には若干の違いが認められるものの,基本的に3つの境界が重なる部分が多い。また,境界が重ならない地域として和歌山市周辺が挙げられるが,これは和歌山市の通勤圏を細分する形で管轄区域が設定されていることによるもので,通勤圏の境界をまたぐような管轄区域の設定はなされていない。したがって,通勤圏は,平成の大合併後も日常生活圏を代表するものとして,各種行政機関の管轄区域との対応関係も強いといえる。発表当日は他の行政機関の管轄区域を複数取り上げ,それらも検討の対象とした結果を報告したい。
著者
山神 達也
出版者
和歌山大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

日本社会が人口減少期に突入することを踏まえ、本研究では、人口分布の変動過程と地域人口の動向を検証した。その結果、日本全体と地方単位の二つの空間スケールで、人口が成長ないし停滞する大都市圏と人口減少が進む大都市圏外という対比の鮮明化、及び高齢化の進展による自然減少の地域差の拡大を明らかにした。また、京都府と京都府舞鶴市を対象とした分析から、地域人口の変化では、地域経済と住宅供給の歴史と現況、それらの結果としての年齢構成が相互に作用してきたことを示した。
著者
山神 達也
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.4, pp.187-210, 2003-04-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
59
被引用文献数
6 3

本稿では,日本の大都市圏における人口増加の時空間構造を把握するために,展開法に依拠し,時間的・空間的連続性を仮定したモデルを適用するとともに,観測値が得られる最新年次までの動向を基に,人口増加の空間構造の将来予測を行った.その結果,以下のことが明らかとなった.まず,日本の大都市圏では,人口増加の絶対水準が徐々に低下した.また,東京・大阪・福岡の各大都市圏では,人口成長の中心が遠心的に移動し,近年,人口の再集中傾向がみられる。一方,他の大都市圏は,人口成長の中心が都心から10~15km帯にとどまり,都心区の人口回復は,予想されないか,予想されても人口増加の空間構造が絶対的分散から相対的分散へ変化するにすぎない.以上の結果は,展開法に依拠した本稿のモデルの適用によりはじめて得られるものであり,従来の都市発展モデルでは同一の発展段階にあるとされた大都市圏問の差も確認することができた.
著者
山神 達也
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2017年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.100216, 2017 (Released:2017-05-03)

Ⅰ はじめに本稿の目的は,2010年の近畿地方における通勤流動の基本的な動向を把握することにある。近畿地方中部は京阪神大都市圏で占められ,都市圏多核化の進展を検証するうえで重要な地域である。また,近畿地方の北部や南部における「平成の大合併」以降の通勤流動の検討は,過疎地域における生活環境を考えていくうえで重要性が高いであろう。Ⅱ 近畿地方における通勤流動5%以上の通勤率で就業者が流出する市町村がどれほどあるかを示した図1をみると,5%以上の通勤率を示す市町村がないものとして,京都・大阪・姫路・和歌山の各市に加え,京都府と兵庫県の北部や奈良県南部の市町村などが挙げられる。また,大阪市周辺には通勤流出先の少ないリング状の地域がある(大阪圏内帯)。そして,大阪圏内帯を取り巻いて,通勤流出先の多い地域がこれもリング状に広がる(大阪圏外帯)。ただし,大阪圏外帯では,通勤流出先の少ないものが混在する。こうした二重のリング状の地域以外で通勤流出先の多い地域として,琵琶湖南岸,姫路市周辺,和歌山市南方の広川町周辺が挙げられるが,これらの地域以外では,概して通勤流出先が少ない。次に,どれほどの市町村から5%以上の通勤率で就業者を受け入れているのかを検討する。5%以上の通勤率で通勤流出先となった市町村数を地図化した図2をみると,京都・大阪・神戸の3市に加えて各県の県庁所在都市や姫路市,そしてこれらに隣接する市で多い。さらに,琵琶湖南岸・東岸や大阪府南部,和歌山県の中部・南部では,一部の市町村が多くの市町村からの通勤流出先となっている。一方,近畿地方の北部や兵庫県西部,奈良県南部,和歌山県南端部では,3つ以上の市町村から通勤流出先となっている市町村の存在しない地域が広がる。以上を整理すると,京都・大阪・姫路・和歌山の各市は雇用の中心として,また神戸市や奈良市は大阪市に従属するものの,いずれも多くの市町村から就業者を集めている。次に大阪圏内帯では,大阪市への通勤流出が多いものの,周辺市町村や大阪圏外帯からの通勤流出先となっている。そして大阪圏外帯では,大阪市とともに大阪圏内帯や京都市・神戸市・奈良市などへの通勤流出がみられ,流出先が多様化している。一方,近畿地方の北部や南部では市町村界をまたぐ通勤は少ないものの,雇用の中心となる都市が存在することが多い。 Ⅲ 考察近畿地方中部では市町村界をまたぐ通勤流動が活発である。そのなかで,京都市や大阪市,姫路市,和歌山市は明確な雇用の中心として,神戸市と奈良市は大阪市への通勤流出がみられながらも,多くの市町村からの通勤流入がみられた。また,琵琶湖南岸地域や関西国際空港周辺なども多くの市町村からの通勤流入がみられ,都市圏多核化の進展が垣間見られる。加えて,大阪圏内帯でも多くの市町村からの通勤流入がみられ,大阪市からの雇用の場の溢れ出しが推察される。このように,近畿地方中部では,郊外における雇用の核の存在による集中的多核化ととともに,雇用の場の溢れだしによる中心都市隣接市への通勤がみられる。一方,近畿地方の北部や南部では,市町村をまたぐ通勤は少ない。これらの地域では市町村の面積が大きく,市町村単位での通勤流動の分析に市町村合併の影響が現れている可能性があり,その点を検証するため,市町村合併前後で同様の分析を行う必要がある。ただし,このような地域においても,彦根市や御坊市,田辺市など,周辺市町村からの通勤流出先となっている都市が存在し,これらの都市は,過疎化が進展する地域における雇用の中心として機能している。
著者
山神 達也
出版者
The Human Geographical Society of Japan
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.53, no.6, pp.509-531, 2001-12-28 (Released:2009-04-28)
参考文献数
105
被引用文献数
2 1

Since temporal changes in the spatial distribution of population are closely connected to many other aspects of society, an exact understanding of these changes is essential not only for progress in scientific research but also for applications to public policy, planning and business. It is especially critical that population changes in metropolitan areas be explored carefully, since it is here that such changes generally emerge. Furthermore, it is very important to investigate the changes observed in a given metropolitan area, compared to those found in other areas, because, by doing so, we can distinguish conditions common to many metropolitan areas from those peculiar to individual ones.Based on this perspective, I refer to the problems arising from the use of a dichotomy of dividing a particular metropolitan area into a central city and surrounding suburbs, which is the common method found in previous literature associated with population redistributions in metropolitan areas. Problems arise when such a dichotomy is used; specifically, the location of the central city boundary affects the rate of residents in the central city within an entire metropolitan area, and the aggregation of residents in local municipalities into the suburb as a whole obscures the differences among municipalities. To resolve these issues, this paper uses an urban population-density function model.Although this model is assumed to explain the spatial variation of the density continuously in terms of distance from the city center, it does not have to aggregate the density values of observations (or local municipalities) as building blocks. However, there is a limitation in that the density function assumes a concentric-circle distribution of population, implying that points with the same distance from the city center have exactly the same density. Consequently, the expansion method, developed by E. Casetti, is employed to overcome this drawback.The expansion method enables us to incorporate the contextual effect of the spatial system under consideration. By expanding the distance parameter of the density function by direction from the city center, we can redefine the function so that the distance-decay of the population density varies directionally. As a result, the extent of directional bias of the intra-metropolitan population distribution can be measured quantitatively.The purpose of this article is to analyze and compare the spatio-temporal changes in population distribution within the three largest metropolitan areas in Japan during 1965-95 by the 'expanded' density function model. The Standard Metropolitan Employment Areas (SMEA) advocated by H. Yamada and K. Tokuoka are used here to delineate metropolitan areas. Analyses are carried out in two stages; first, by the traditional Clark model and then by the expanded Clark model.First, by calibrating the ordinary density function model (or Clark model), which does not consider directional differences, average relations between the distance from the city center and the population density are identified. The explanatory power of the Clark model itself, generally speaking, indicates a gradual improvement over time. It is also confirmed that, the larger the population size of the SMEA, the higher the density of the city center. In addition, the density gradient in Tokyo is the most gentle and that in Nagoya and Osaka is almost the same. Furthermore, population decentralization occurred first in Tokyo and Osaka and then in Nagoya. The time lag of this sequence is ten years. Additionally, based on this finding, one limitation of using the dichotomy for the central city and suburbs is demonstrated. The spatial pattern of the residual obtained from the Clark model shows, however, that similar values tend to concentrate in particular sectors, especially in the Tokyo SMEA, suggesting a necessity to alleviate such concentration by improving the traditional Clark model.
著者
日野 正輝 富田 和暁 伊東 理 西原 純 村山 祐司 津川 康雄 山崎 健 伊藤 悟 藤井 正 松田 隆典 根田 克彦 千葉 昭彦 寺谷 亮司 山下 宗利 由井 義通 石丸 哲史 香川 貴志 大塚 俊幸 古賀 慎二 豊田 哲也 橋本 雄一 松井 圭介 山田 浩久 山下 博樹 藤塚 吉浩 山下 潤 芳賀 博文 杜 国慶 須田 昌弥 朴 チョン玄 堤 純 伊藤 健司 宮澤 仁 兼子 純 土屋 純 磯田 弦 山神 達也 稲垣 稜 小原 直人 矢部 直人 久保 倫子 小泉 諒 阿部 隆 阿部 和俊 谷 謙二
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

1990年代後半が日本の都市化において時代を画する時期と位置づけられる。これを「ポスト成長都市」の到来と捉えて、持続可能な都市空間の形成に向けた都市地理学の課題を検討した。その結果、 大都市圏における人口の都心回帰、通勤圏の縮小、ライフサイクルからライフスタイルに対応した居住地移動へのシフト、空き家の増大と都心周辺部でのジェントリフィケーションの併進、中心市街地における住環境整備の在り方、市町村合併と地域自治の在り方、今後の都市研究の方向性などが取組むべき課題として特定された。