著者
黒田 潤一郎 吉村 寿紘 川幡 穂高 Francisco J. Jimenez-Espejo Stefano Lugli Vinicio Manzi Marco Roveri
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.120, no.6, pp.181-200, 2014-06-15 (Released:2014-11-12)
参考文献数
86
被引用文献数
1

地中海は中新世の末期(5.97~5.33 Ma)に膨大な量の蒸発岩が形成されるイベントを経験した.これはメッシニアン期塩分危機と呼ばれる.これらの蒸発岩は十分に塩水が存在する状況で析出したのか,深海盆までが干上がったのか,未だ議論に決着がついていない.本論では,1)シチリア島の天日塩田で見られる蒸発鉱物(石膏・岩塩)の形成プロセスとその堆積構造と形成環境の関連を紹介し,2)シチリア島のメッシニアン期蒸発岩で提唱された塩分危機のシナリオを解説する.シチリア島のメッシニアン期蒸発岩類は浅海堆積相で晶出した初生的下部石膏ユニット,深海盆でこれが再堆積した砕屑性下部石膏ユニット,深海堆積相の厚い岩塩層,深海堆積相でこれらを覆う上部石膏ユニットに大別される.これらの蒸発岩類は5.33 Maに突如終焉し,広く鮮新世の半遠洋性石灰質堆積物に覆われる.
著者
梶田 展人 川幡 穂高 Wang Ke Zheng Hongbo Yang Shouye 大河内 直彦 宇都宮 正志 Zhou Bin Zheng Bang
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

近年、完新世の気候変動は人類文明の盛衰に強く関係していた可能性が多くの研究で指摘されている。地球温暖化による急激な気候変動が懸念されている現在、完新世の気候変動を定量的かつ高時間解像度で復元し、そのメカニズム及び人類への影響を明らかにすることは、将来の気候変動とその社会への影響を予測する上で重要である。 東アジアの揚子江デルタでは、約7.5-4.2 cal. yr BPにかけて世界で最古の稲作を中心とした新石器文明が栄えたが、4.2 cal. yr BPに突然消滅し、300年間にわたり文明が途絶えたが,この原因は明らかになっていない。そこで、本研究では文明盛衰の背景にあった環境変動を解明すること目的とした。 中国の東シナ海大陸棚に存在する陸源砕屑物堆積帯(Inner shelf mud belt)から採取された堆積物コア(MD06-3040)のアルケノン古水温分析(Uk37’)を行い、完新世の表層水温(SST)変動を高時間解像度で明らかにした。コア採取地は沿岸の浅海であるため、SSTは気温(AT)と良い相関がある([AT] = −10.8 + 1.35 × [SST]; r2 = 0.90, p < 0.001)。よって、Uk37’-SSTの復元記録から揚子江デルタのATを定量的に推定することができる。Uk37’-SSTのデータに基づくと、Little Ice Age (約0.1-0.3 cal. kyr BPの寒冷期)など全球的な気候変動と整合的な温度変化が復元されたことから、この指標の信頼性は高いと言える。そして、約4.4-3.8 cal. kyr BPには、複数回かつ急激な寒冷化 (3-4℃の水温低下、3-5℃の気温低下に相当) が発生していたことが示された。この寒冷化は4.2 kaイベントに呼応し、顕著な全地球規模の気候変動と関連するものと考えられる。この時期に、東アジア及び北西太平洋では、偏西風ジェットの北限位置の南下、エルニーニョの発生頻度の増加、黒潮の変調 (Pulleniatina Minimum Event) などの大きな環境変動が先行研究より示唆されている。これらの要素が相互に関係し、急激な寒冷化およびアジアモンスーンの変調がもたらされた可能性が高い。本研究が明らかにした急激で大きな寒冷化イベントは、稲作にダメージを与え、揚子江デルタの社会や文明を崩壊させる一因となったかもしれない。
著者
川幡 穂高
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

陸の気候は私達の生活に大きな影響を与えてきました.その中でも,気温は重要ですが,寒冷限界値を除くと,気温を高精度にデジタルで復元することはこれまで難しいとされてきました.今回,西日本(広島)の初夏の気温を誤差0.2℃程度で3,000年間にわたる気温を初めて復元しました.西日本(広島)における気温の復元によると,最高気温は平安初期(西暦820年)の嵯峨天皇の頃で,気温は25.9℃でしたが,その後,断続的に下がっていき,紫式部が活躍した頃が中間点で,平清盛の時代である平安後期(11~12世紀)には,24.0℃まで下がりました.逆に,時代を遡ると天皇中心の貴族社会の開始となった聖徳太子の活躍した飛鳥時代初期(600年頃)には極小気温,24.7℃を記録しました.ヨーロッパでは10~13世紀を中心に中世温暖期(950~1250年頃)と呼ばれる時期が報告されています.グリーンランドでも9~12世紀にかけては中世温暖期の恵みにあずかり,飼料用の穀物が栽培され,家畜が飼育されました.クメール王朝の繁栄した時代は,アジア大陸では中世温暖期に相当していたので,アジアモンス-ンによる降雨に恵まれた環境であったと考えられています.同様な温暖期は,アメリカ合衆国,中国などでも確認されています.しかし,西日本では反対に,11~12世紀にかけては大きな寒冷期でした.これは,西日本のみならず,北海道南部の噴火(内浦)湾から得られた結果においても,平安時代の最高温度から最低温度まで約6℃降下していることがわかりました.この大寒冷期の原因の有力候補として,大規模なエルニーニョ状態が考えられます.なぜなら,日本列島は,エルニーニョ期には冷夏となる傾向があるためです.実際,復元された南方振動指数に基づくとエルニーニョ状態であったことが示唆されています.Reference: 1) Kawahata, Matsuoka, Togami, Harada, Murayama, Yokoyama, Miyairi, Matsuzaki and Tanaka (2016) Quaternary International, in press. DOI:10.1016/j.quaint.2016.04.013.2) Kawahata, Ishizaki, Kuroyanagi, Suzuki, Ohkushi (2017) Quaternary Science Reviews, 157, 66-79.3) Kawahata, Hatta, Yoshida Kajita, Ota, Ikeda, Habu (2017) Quantitative reconstruction of SSTs(ATs) in northern Japan for the last 7 kiloyears Implication to the society of Jomon people. Submitted.
著者
川幡 穂高
出版者
Tokyo Geographical Society
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.104, no.1, pp.1-15, 1995-02-25 (Released:2010-11-18)
参考文献数
61

Several hundred years of astronomical observations have left no doubt that the Earth's orbit is subject to cyclic variations. While the annual energy receipt of solar radiation over the Earth as a whole is not change, the distribution of this energy, by latitude and by season, is affected by three parameters: an obliquity cycle of 41kyr, an eccentricity cycle of a quasi-period of 100kyr, and a precession cycle of 26kyr.The variance spectrum of the records of foraminiferal δ18O and magnetic susceptibility from Indian Ocean and organic carbon percentage from the equatorial regions of Pacific and Atlantic Oceans shows the well-documented concentrations of power at the orbital periodicities of 100kyr, 41kyr and near 23 and 19kyr. On the other hand, the resolution of the precessional bands in carbonate dissolution index is much less clear than those of obliquity and eccentricity bands. These results show that orbital forcing of global climate has strongly affected global carbon cycle. Detailed analysis of coherency and phase spectrum between δ18O and carbon-related data (i. e., carbon contents and isotopic composition) will improve our understanding global carbon cycle.
著者
磯崎 行雄 松尾 基之 川幡 穂高 可児 智美
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2008

カンブリア紀初めと古生代末の地球環境変動・絶滅事件について、クロアチア、中国雲南省、さらに岐阜県赤坂・石山、宮崎県高千穂、宮城県気仙沼での野外調査/ボーリング掘削および炭素・ストロンチウム同位体などの分析を行い、古生代末事件が地球磁場強度低下と銀河宇宙線増化による地球規模の寒冷化で始まったこと、またカンブリア紀初期の爆発的進化が特異な南中国のプルーム活動域で局地的に始まったことを初めて解明した。
著者
川幡 穂高
出版者
公益財団法人 日本学術協力財団
雑誌
学術の動向 (ISSN:13423363)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.2_26-2_30, 2022-02-01 (Released:2022-06-30)
参考文献数
3

脱炭素社会への具体的な取り組みが成功しないと、二酸化炭素の排出に伴う「双子の悪魔」、地球温暖化と海洋酸性化の脅威が現実のものとなる。海洋酸性化の支配因子の中で大気中の二酸化炭素濃度上昇は第二の因子で、最重要の第一因子は速すぎる環境変化速度である。現代を表すのに新たな地質年代として「人新世」が提案されている。5500万年前の暁新世/始新世(P/E)境界を現代の炭素循環に対比すると、現代あるいは「人新世」は、実は地質年代の境界期に相当すると私は考えている。人新世がどこに向かうのかを予測することは私たちにとって初めての体験なので、誰にとっても予測は難しい。しかし、研究者はその専門性を生かして、さまざまな条件ごとに未来を推定することができる。最終判断を国民あるいは全人類が決める時に役立つよう、その推定シナリオを社会に提示することが研究者の使命と考える。
著者
荒岡 大輔 西尾 嘉朗 真中 卓也 牛江 裕行 ザキール ホサイン 鈴木 淳 川幡 穂高
出版者
一般社団法人日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集
巻号頁・発行日
vol.58, pp.222, 2011

リチウム(Li)は、比較的流体相に分配されやすい元素である。加えて、Liは2つの安定同位体(6Liと 7Li)をもち、その相対質量差の大きさゆえに、Liの安定同位体比である<sup>7</sup>Li/<sup>6</sup>Li比は、変質や風化等の水を媒介してLiが動く際に大きな同位体分別が起きる。そのため、Li同位体比は水・岩石反応の指標として注目を集めている。中でも、河川水のLi同位体比は風化反応の指標としての可能性が期待されている(Kisakurek et al., 2005など)。例えば、ケイ酸塩中でMgイオンを置換することで Liは6配位であるのに対して、水溶液中では4配位である。そのため、岩石中のLiは水より高配位である故に、一般的には岩石に比べて共存する水の<sup>7</sup>Li/<sup>6</sup>Liは高い。上記から、Li濃度や同位体比は、温度や流量による風化量の変遷や、河川が流れる地質の違いを反映しているのではないかと考えられている。このように、新しい大陸風化の研究ツールとして期待されるLi同位体指標であるが、河川水中のLiは数ppb から数百pptレベルと低Li濃度であるために研究は遅れていた。近年の分析機器の進歩により、数nmolと極微量のLiの高精度同位体比測定が可能になったため(西尾嘉朗, 2010)、河川水等の極めてLi濃度の低い水試料のLi同位体比の報告が2005年頃から急激に増加してきている。 そこで、本研究では、河川水中のLi濃度および同位体比の規定要因を明らかにするために、世界的な大河川であり、かつ河川毎に異なる成因・地質的背景をもつガンジス・ブラマプトラ水系を例に研究を行った。2011年1月の乾季にガンジス・ブラマプトラ・メグナ川のバングラデシュ国内における上・中・下流域において採水を行った。これらの水試料の各種元素濃度、Li及びSrの同位体比を測定し、考察を行った。LiとSrの同位体測定は、高知コアセンターの分析システムを利用した。特にLi同位体測定に関しては、4ng以上のLiを± 0.3‰ (2SD)の誤差と、世界でも最高レベルの微量Liの高精度同位体比分析が可能となっている。今後は、流量や温度が異なる雨季においても同様の採水、測定を行い、河川水中のLi同位体比指標の確立を目指す。
著者
川幡 穂高
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

「4.2kaイベント」は,2018年に完新世の中期/後期境界として定義された.その特徴は,世界の主要な文明の劣化/崩壊を招いた気候イベントということで,注目を浴びることとなったが,気候プロセスの解明は遅れている.日本では縄文時代最大規模の三内丸山遺跡(5.9-4.2 cal. kyr BP)がこの時期に崩壊した.陸奥湾で採取した堆積物柱状コア中の間接指標の詳細な解析を行ったところ,期間全体にわたり水温・気温ともに環境が温暖だったと示唆された.1人1日あたり2,000Calに匹敵する食料が人々の生活には必要であるとの条件を設定すると,「狩猟・採取」で十分な食糧を得るには,一人あたり1平方kmの面積の森林が必要とされる.食糧の単位面積あたりの生産密度は,人工的に森林に手を加える「半栽培」によるクリの場合,通常の森林の66倍,弥生時代の「水稲栽培」に至っては400倍にも及ぶ.三内丸山遺跡で気候最適期を謳歌した時期には,クリの「半栽培」による高食糧生産密度により,人々は大集落を形成した.しかし, 2.0℃の寒冷化となった「4.2kaイベント」時には,夏季アジアモンスーンの変調によりジェット気流の中心軸が南下し,低緯度域の温暖湿潤な大気が中高緯度に北上することができなかった.これにより「半栽培」が成立せず,大集落は崩壊し,人々は再び「狩猟・採取」の生業に戻った.近年行われた,現代人のゲノムに基づく過去の相対的な人口動態の推定によると,「4.2kaイベント」時に日本に生活していた縄文系の人々に特有のミトコンドリアDNAのハプロタイプには人口の変化はほとんどなく,これは考古学的知見と調和的であった.対照的に,当時,日本への移住以前に,大陸で生活していた弥生系の人々のミトコンドリアDNAのハプロタイプには,厳しい寒冷化による人口減少が認められた.この事実は,「人のミトコンドリアDNAのハプログループに,古気候/古環境が記録される」ことを示唆しており,気候と人類集団の移動を解析する際に,威力を発揮すると期待される (Kawahata, 2019, Progress in Earth and Planetary Science 6:63, https://doi.org/10.1186/s40645-019-0308-8).
著者
智原 睦美 福嶋 彩香 川幡 穂高 鈴木 淳 井上 麻夕里
出版者
一般社団法人日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集
巻号頁・発行日
vol.64, 2017

<p>熱帯域における過去の気候変動に関する情報は、全球的な気候システムを理解する上で重要である。しかし、熱帯域における気象観測データは少なく、1950年以前からの連続的なデータはほとんど存在していない。そこで本研究では西太平洋に位置するフィリピンのサンゴ骨格試料についてSr/Ca比の分析を行い、約2ヶ月の時間分解能で1778年から1890年までの過去110年分に相当する海水温を復元した。Sr/Ca比の測定にはICP-OESを使用し、測定誤差は0.5%未満であった。今回の発表では、サンゴ骨格中のSr/Ca比から復元した海水温の記録とその時系列解析に基づき、西太平洋周辺の海水温と気候イベントとの関係について考察していく。</p>
著者
川幡 穂高 横山 祐典 黒田 潤一郎 井龍 康文 狩野 彰宏
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.124, no.1, pp.35-45, 2018-01-15 (Released:2018-05-30)
参考文献数
34

炭酸塩を主たるテーマとしてIODP(統合国際深海掘削計画)では4航海が実施された.310次航海でのタヒチ島の結果によると,融氷パルス(Melt water pulse=MWP)-1Aの海水準の上昇は12-22mだったが,融氷パルス-1Bは観察されなかった.325次航海では,グレートバリアリーフで更新世のサンゴ礁掘削が行なわれた.最終氷期最盛期(LGM:20,000年前)には,水温は5℃以上降温していた.307次航海は,北西太平洋の深海サンゴの内部を初めて掘削した.サンゴマウンドの発達の開始は,現代の海洋大循環が大西洋で確立した更新世の最初期に地球的規模で寒冷化した環境変動と相関していた.320/321次航海では,過去5300万年間の時間レンジをカバーする赤道太平洋の深海底より一連の堆積物が採取された.炭酸塩の沈積流量に基づき新生代の赤道域の炭酸塩補償深度(CCD)変化が復元された.
著者
前田 歩 吉村 寿紘 為則 雄祐 鈴木 淳 藤田 和彦 川幡 穂高
出版者
一般社団法人日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集
巻号頁・発行日
vol.66, 2019

<p>サンゴ礁海域に生息する大型底生有孔虫はサンゴ礁海域の堆積物の主要な構成要素であるため、当該海域の連続的な古環境記録媒体として利用できる可能性がある。水温と大型底生有孔虫殻の微量元素濃度との関係を評価するため、サンゴ礁に生息する二種類の大型底生有孔虫、<i>Calcarina gaudichaudii</i>と<i>Amphisorus kudakajimensis</i>について、21-30ºCの温度制御下で飼育した無性生殖個体を複数用いたMg/Ca、Sr/Caおよび個体ごとのMg, Sr, Na濃度を測定した結果を報告する。Mg/CaおよびSr濃度は両種ともに温度と有意な相関を示した。一方で、Sr/Ca、Na濃度は両種ともに温度によらずほぼ一定の値を示した。</p>
著者
川幡 穂高 氏家 宏 江口 暢久 西村 昭 田中 裕一郎 池原 研 山崎 俊嗣 井岡 昇 茅根 創
出版者
Japan Association for Quaternary Research
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.19-29, 1994-02-28 (Released:2009-08-21)
参考文献数
31
被引用文献数
4 4

海洋における炭素循環の変動を調べるために, 西太平洋に位置する西カロリン海盆の海底深度4,409mから堆積物コアを採取して, 過去30万年にわたり平均1,000年の間隔で無機炭素 (炭酸カルシウム) と有機炭素の堆積物への沈積流量を詳細に分析した. その結果, 炭素カルシウムの沈積流量は過去32万年にわたって大きく変動し, 極小値が約10万年の周期をもっていることが明らかとなった. また, 有機炭素の沈積流量は, 主に氷期に増大したが, これは基礎生物生産が高くなったためであると考えた. 無機炭素と有機炭素の形成・分解は, 海洋と大気間の二酸化炭素のやりとりに関しては, 逆の働きをしている. そこで, 堆積粒子に含まれる両炭素の沈積流量の差を用いて, 大気中の二酸化炭素の変動と比較した. その結果, 約5万年前の炭酸カルシウムの沈積流量が非常に増加した時期を除いて, 大気中の二酸化炭素濃度の変動と堆積粒子中の有機・無機炭素沈積流量の変動は第一義的に一致しており, 大気中の二酸化炭素の変動と海底堆積物とが何らかの関連をもっていたことが示唆された.
著者
井上 麻夕里 中村 崇 田中 泰章 鈴木 淳 横山 祐典 川幡 穂高 酒井 一彦 Nikolaus Gussone
出版者
一般社団法人日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集
巻号頁・発行日
vol.65, 2018

<p>本研究ではサンゴの骨格成長における褐虫藻の役割を明らかにするために、褐虫藻有りと無しのポリプ試料を作成し、温度、塩分、pCO2を調整した水槽で飼育した。飼育実験の後、ポリプ骨格について6種類の化学成分を分析した。その結果、海水のpH指標とされているU/Ca比についてのみ、褐虫藻有りと無しの間に有意な差が見られた。これは、褐虫藻有りのサンゴ体内のpHが上昇していることを示しており、これにより褐虫藻と共生関係にあるサンゴは骨格成長が早いことが分かった。</p>
著者
吉村 寿紘 谷水 雅治 川幡 穂高
出版者
日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集
巻号頁・発行日
vol.58, pp.24-24, 2011

本研究では,近年測定可能となったMg同位体比(δ26Mg)を用いることで,陸棚堆積物と間隙水の反応における詳細なMg 動態を解明することを目的とした。試料はIODP Exp317の掘削サイトU1351ならびにU1352で得られた間隙水と堆積物を用いた。試料は陽イオン交換樹脂を用いてMgを分離した後,多重検出器型ICP-MSでMg同位体比の測定を行った。Mg同位体比は海水標準試料IRMM BCR403に対する千分率偏差(‰)として表す。U1351の間隙水のδ26Mgは-1.8~-0.1‰,U1352は-2.2~1.0‰を示した。陸棚と陸棚斜面のプロファイルの違いは海水準変動に起因する堆積履歴の違いに由来すると考えられる。U1352の上部200mではδ26Mgが1.20‰増加し,200~350mでは1.25‰減少した。このことはコア上部200mでは有機物の分解に伴うドロマイトの沈殿反応が卓越するが,コア深度の増加に伴ってMgの除去源がドロマイトから粘土鉱物が卓越する反応に移行することを示唆する。
著者
米田 穣 阿部 彩子 小口 高 森 洋久 丸川 雄三 川幡 穂高 横山 祐典 近藤 康久
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究では、全球大気・海洋モデルによって古気候分布を復元し、旧人と新人の分布変動と比較検討することで、気候変動が交替劇に及ぼした影響を検証した。そのため、既報の理化学年代を集成して、前処理や測定法による信頼性評価を行い、系統的なずれを補正して年代を再評価した。この補正年代から、欧州における旧人絶滅年代が4.2万年であり、新人の到達(4.7万年前)とは直接対応しないと分かった。学習仮説が予測する新人の高い個体学習能力が、気候回復にともなう好適地への再拡散で有利に働き、旧人のニッチが奪われたものと考えられる。
著者
岡田 尚武 西 弘嗣 沢田 健 川幡 穂高 大河内 直彦 坂本 竜彦 鈴木 徳行 北里 洋
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2003

岡田尚武をリーダとする研究グループは,統合深海掘削計画(IODP)の先駆的研究として,平成11〜13年度の科学研究費補助金(課題番号11691113)でフランスプロバンス地方に露出するOAE1b層を研究し,エンジンカッターを用いて大型の柱状試料を採取すると共に,RosansのOAE1b最上部層準において試験的なボーリングを実施した。このボーリング試料に関する遺伝子学的解析の結果,地層中のバクテリア群集に関する興味深い新知見を得た(Inagaki, Okada et al., 2005)。フランスに於ける第2弾の国際学術研究となる本研究では,フランスの専門業者を雇ってOAE1aとOAE1bでの本格的ボーリングを実施し,極めて良質な連続コアを採取した。開封後にコアがバラバラになるのを防ぐため樹脂を用いてコア全体を保存する技術と,1mm間隔での試料採取のためのマイクロドリル法を新たに開発し,非破壊法での成分・構造分析に加えて,各種微古生物学的,有機化学的,無機化学的手法を駆使してOAE層の堆積メカニズムと古環境復元の研究を行ってきた。OAE1b層準全体から採取した地表試料の解析から,無酸素水塊が海洋表層まで達しなかった環境下での黒色頁岩と,表層まで到達して表層生物圏に大きな影響を与えた環境下での黒色頁岩のあることが分かった。また,Paquir層を鏡面研磨した結果,強い葉理が発達する部分,要理が擾乱されて不明瞭な部分,葉理のない部分,のセットが4回繰り返していることが分かった。1cm(約250年)間隔での分析結果では,ラミナの明瞭な部分では各種プランクトン,陸源性砕屑物,有機炭素含有量や黄鉄鉱が増加する一方で,底生有孔虫は多様性と個体数が減少する。これらのデータから,陸起源の栄養塩供給増加によって一次生産が増え,その結果として底層に無酸素環境が広がるという環境が4回発生したと考えられる。