著者
川瀬 哲明
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.177-186, 2018-06-30 (Released:2018-08-11)
参考文献数
26

要旨: 聴覚系は音情報の処理システムである。難聴を訴えて受診する患者の診察では, 聴覚系の各パーツの病理を分析的に考えるとともに, それらの病理が聴覚系全体へ与える影響を統合的に考慮する, 局所と全体の視点からの理解が重要となる。本稿では, 聴覚系の代表的パーツ (外有毛細胞, 内有毛細胞―蝸牛神経シナプス, 中枢聴覚情報処理機構) の病理に起因する聴覚障害について概説した。1) 外有毛細胞障害では, 典型的な「内耳障害」の像 (補充現象を伴う閾値上昇) を呈すること, 2) Auditory Neuropathy とHidden Hearing Loss は, いずれも内有毛細胞―蝸牛神経シナプスの病理が一因となっているが, 前者では神経スパイク情報の同期障害 (質的障害) が, 後者では閾値が高いニューロンの量的障害が中心病態として推察されること, 3) 聴覚情景分析メカニズムの障害は, 聴覚情報処理障害の一因となりえること, などを紹介した。
著者
和田 仁 湯浅 有 小池 卓二 川瀬 哲明 高坂 知節
出版者
Japan Audiological Society
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.237-242, 1999-08-31 (Released:2010-04-30)
参考文献数
8

これまで, 耳小骨筋反射がCMや中耳インピーダンスに及ぼす影響は報告されているが, 耳小骨振動に及ぼす影響については明らかにされていない。 そこで, 我々は, 耳小骨各部位の振動速度を直接計測することが可能なレーザドップラ振動計を用いて, モルモットおよびウサギの対側刺激による耳小骨筋収縮前後での, 耳小骨の振動挙動変化を計測した。 そして, 刺激音圧の増大に伴い, 耳小骨振動振幅が減少し, また, 耳小骨振動の周波数が低いほど, 振幅の減少量が大きいことを明らかにした。 さらに, 反射前後で, 耳小骨の振動様式に生じる変化を推察した。
著者
山内 大輔 川村 善宣 本藏 陽平 小林 俊光 池田 怜吉 宮崎 浩充 川瀬 哲明 香取 幸夫
出版者
一般社団法人 日本耳科学会
雑誌
Otology Japan (ISSN:09172025)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.159-166, 2020 (Released:2021-04-05)
参考文献数
25

上半規管裂隙症候群は,1998年マイナーによって最初に報告され,これまでいくつかの手術法について報告されてきた.正円窓閉鎖術はいわゆる“third window theory”に基づいた術式であるが,その効果は限定的であることが報告されている.一方,中頭蓋窩法によるpluggingまたはresurfacingの場合は,ほとんどの症例で裂隙部を直接確認できる.しかし,裂隙部が上錐体静脈洞に位置している場合は困難となる.さらに頭蓋内合併症のリスクのため,安易には手術を勧められないジレンマがある.そのため,耳鼻咽喉科医にとって中頭蓋窩法よりも経乳突洞法によるpluggingの方が容易な術式であるが,下方からでは裂隙部を確認しづらく,また感音難聴の合併症のリスクが潜んでいる.著者らは経乳突洞法によるpluggingに水中内視鏡を用いることで安全性を高める方法に改良した.乳突削開術後,浸水下に内視鏡を用いることで,膜迷路と裂隙部を明瞭に観察することが可能であった.たとえ裂隙部が上錐体静脈洞に位置していても,内側からアプローチできるので有用であった.本術式の方法や適応,術後成績について報告する.
著者
川瀬 哲明 洲崎 洋 高坂 知節
出版者
耳鼻咽喉科臨床学会
雑誌
耳鼻咽喉科臨床 (ISSN:00326313)
巻号頁・発行日
vol.89, no.6, pp.681-685, 1996-06-01 (Released:2011-11-04)
参考文献数
18

Masking patterns for 1 kHz pure tone at 20, 40 and 60 dB SL were examined in listeners with age-related hearing impairment and in subjects with normal hearing. As has been reported, as the masking level was elevated, the masking effect increased and spread especially towards higher frequencies as well as around the masker frequency. In listeners with impaired hearing, the spread of masking effects towards the higher frequencies was significantly larger as the hearing level deteriorated. The results of the present study are thought to reflect the broader auditory filter in impaired listeners, particularly on the low frequency side.
著者
小倉 正樹 川瀬 哲明 鈴木 陽一 高坂 知節
出版者
Japan Audiological Society
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.122-126, 2001-04-27 (Released:2010-04-30)
参考文献数
14

複合音では実際には入力信号に含まれない, 低い周波数のピッチが感じられることが知られており, このような場所情報が得られない音の知覚には特に時間情報が大きな役割を果たしていると考えられている。 ピッチの認知過程において重要な周波数の場所情報と時間情報は中枢において統合されると考えられているが, 場所情報を持たないレジデューピッチと純音の知覚との関わり合いに関しては不明な点が多い。我々は, レジデューピッチと純音の知覚との関わり合いを調べるために, missing fundamnental現象を生ずるfiltered trainをマスカーとして, ランダム化最尤適応法を用いてトーンバーストの検知閾変化を求めた。 filtered click trainによるマスキングパターンは純音やバンドノイズのそれより急峻狭小で, 音圧の上昇により幅広な裾野が広がった。 filtered click trainの高域通過遮断周波数の上昇により, マスキング効果が減少した。
著者
川瀬 哲明
出版者
Japan Otological Society
雑誌
Otology Japan (ISSN:09172025)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.72-77, 2000-05-25 (Released:2011-06-17)
参考文献数
18

It is known that the olivocochlear (OC) efferent fibers innervated to the outer hair cells (OHCs) can modulate the active process in the cochlea which is related to the motile response of the OHCs.The basic known effect of the activation of this OC efferent neurons is suppression of the auditory system. On the other hand, when tones are presented with background noise, the OC activation can enhance the responses of the auditory nerve.In the respect of the effective signal perception in the cochlea, the OC-system should not act during the signal perception in the background quiet, however, should be activated when the signals are perceived in the masking situation.In the present study, the practical role of this system is discussed by observing the effects of the severance as well as the stimulation of the OC-neurons on the auditory responses. The results obtained suggest that the OC system are not activated in the signal (short duration) perception in quiet. That is, in this situation, the benefit from the active mechanism is not disturbed by the OC efferent system. On the other hand, in the condition of the signal perception in the background continuous noise, OC system is activated effectively by the noise and can improve the perception of the newly presented signal in the cochlea.
著者
川瀬 哲明 Liberman M. Charles 高坂 知節
出版者
Japan Otological Society
雑誌
Otology Japan (ISSN:09172025)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.105-111, 1995-05-15 (Released:2011-06-17)
参考文献数
20

Anti-masking effects mediated by the sound-evoked efferent activity were discussed in the present paper. In the cats, masked auditory responses were enhanced by adding the noise to the contralateral ear both in the compound action potential (CAP) and in the responses of single auditory nerve fibers. These anti-masking effects were disappeared when the olivocohlear bundle (OCB) was interrupted. It has been suggested that classic suppressive effects of OCB on the auditory-nerve responses to the back ground masker are an important component of this OC mediated anti-masking phenomenon. Similar anti-masking phenomena were observable in the human subjects as well. Small but significant enhancements of masked CAP in amplitude were seen in some patients with facial palsy, in which acoustic reflexes of middle ear muscles (MEMs) had disappeared or were impaired.
著者
香取 幸夫 川瀬 哲明 小林 俊光
出版者
日本小児耳鼻咽喉科学会
雑誌
小児耳鼻咽喉科 (ISSN:09195858)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.67-74, 2005 (Released:2012-09-24)
参考文献数
19
被引用文献数
1

This paper reviews the diagnosis and treatment of foreign bodies in the tracheobronchial tree of children. From 1986 to 2005, sixty-four cases were treated in the Tohoku University Hospital. According to previous reports, children under the age of three years were the most common sufferers. The most freguently found foreign bodies were peanuts, but non-organic materials were also the cause in a few cases. For the diagnosis and examination of the sites of foreign bodies, the history of aspiration and coughing attacks, weakness of respiratory sounds, chest roentgenogram f indings, and also CT scans were found to be valuable. In all cases, i t was possible to remove the foreign bodies by ventilation bronchoscopy.
著者
高梨 芳崇 川瀬 哲明 沖津 卓二 八幡 湖 奥村 有理 佐々木 志保 宮崎 浩充 香取 幸夫
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.136-142, 2015-04-28 (Released:2015-09-03)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

要旨:小児期における聴覚障害は言語発達, 学習, 心理面に大きな影響を与えるため, 早期発見と支援, 療育が重要とされている。難聴の早期発見のためには新生児聴覚スクリーニングが有用とされており, 現在では全国的に普及している。難聴の早期発見ができるようになったことに伴い, 難聴児への早期支援体制の充実が必要であると考えられている。しかし, 難聴児に対する早期支援体制に対しては地域格差があり, フォローアップに不十分な点がみられることもある。今回, われわれは宮城県の小児難聴の医療, 療育の現状と問題点について報告した。本県の新生児聴覚スクリーニングの施行率には地域差があり, 特に仙台市以外の地域では満足できるレベルに達してはおらず, 難聴児の発見の遅れに伴う, 療育開始の遅れが問題となる症例が散見された。また, 新生児聴覚スクリーニング後の家族への心理的サポートについても改善の必要性があるように思われた。これらの問題を解決するためには医療, 療育, 行政の連携が大切であり, 耳鼻咽喉科医師の主導のもと, 緊密に連携をとるよう努力していくのが望ましいと考えられた。
著者
長谷川 純 川瀬 哲明 菊地 俊晶 小林 俊光
出版者
医学書院
雑誌
耳鼻咽喉科・頭頸部外科 (ISSN:09143491)
巻号頁・発行日
vol.77, no.12, pp.905-909, 2005-11-20

Ⅰ.はじめに 後天性中耳真珠腫の発症機序は単一ではない。過去には,種々の成因に関する学説が呈示されてきた。内陥説1~4),基底細胞乳頭状増殖説5),穿孔説6)などがその代表である。このなかでは内陥説が広く支持されるに至っているが,内陥から真珠腫が形成されるためには,表皮ならびに皮下組織の増殖・分化にかかわる各種サイトカインの関与が必要と考えられている7,8)。 鼓膜内陥の原因としては,耳管機能不全が想定しやすく,過去にも多くの耳管閉塞実験が行われた9,10)。一方,本庄(1987)11)は,陥凹型真珠腫では耳管の通気圧は正常かむしろ低いものが多く,耳管の器質的狭窄はないことを指摘した。また,多くの症例が陰圧を能動的に解除できることから,Bluestone(1978)12)のいう機能的閉塞も少ないことを述べた。森山(2004)13)は後天性真珠腫の耳管機能について,音響法では正常型が約半数と最も多かったが,健常者に比較すると狭窄型が多かったとしている。 真珠腫の成因説として発想を転換したものに,1970年代後半にMagnusonら14)が提唱した鼻すすり説がある。耳管閉鎖障害(耳管開放症)患者では,嚥下やあくびの際に耳管が開放状態となると,耳閉感や自声強聴などの不快感が生じる。このときに「鼻をすする」ことにより中耳腔の陰圧化に続いて「耳管のロック」が起こり,不快感が取り除かれる(図1)。このとき,鼓室内陰圧は時に1,000mmH2Oにも達し,これが鼓膜の内陥やポケット形成を引き起こし,真珠腫を発症する基盤となるとの考えである。 筆者らもこの説に注目し調査を行ってきた。その結果,真珠腫症例全体の約25%にMagnusonの説を裏付ける鼻すすり癖が認められ15),上鼓室陥凹例でも20%に鼻すすり癖を認めた。もちろん,鼻すすり説以外にも真珠腫の成因は複数存在する可能性があるものの,鼻すすり癖は真珠腫の重要な成因の1つであると考えられる。 本稿では,後天性真珠腫の耳管機能について耳管閉鎖障害の観点を中心として述べ,鼻すすり癖を有する真珠腫(以下,「鼻すすり真珠腫」)の取り扱いおよび治療について述べる。
著者
小倉 正樹 川瀬 哲明 鈴木 陽一 曽根 敏夫 高坂 知節
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. EA, 応用音響 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.99, no.259, pp.23-28, 1999-08-26
被引用文献数
1

左右差の無い聴力閾値正常者に対しランダム化最尤適応法を用いて単耳および両耳ピッチ比較実験を施行した。この結果から単耳・両耳の周波数弁別閾、両耳の等ピッチ周波数の差を求めた。個人差はあるが全例で4kHz以上の高周波域において周波数弁別閾は増大傾向を示した。等ピッチ周波数の左右差は4例中2例で高周波域での増大を示した。これらの結果は、高周波域では周波数情報として場所情報が卓越するという説に合致するものと考えられた。
著者
小林 俊光 川瀬 哲明 吉田 尚弘 大島 猛史 和田 仁 鈴木 陽一
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

耳管開放症の疫学研究を行った。とくに慢性腎不全に伴う腎透析患者における耳管開放症の発症の実態を調査した。その結果、腎透析を行った147人中13人(8.8%)が透析後に耳管開放症を発症したことが透析病院での検診結果で判明した(Kawase T, et al.:参考文献)。腎透析と耳管開放症の関係を示した世界で初めての報告である。耳管開放症の画像診断を検討した。その結果、座位で行うCTが有用で臨床応用可能であることを示した。また、バルサルバ法の負荷によって、診断精度が向上することを示し、臨床的な重症度ともよく相関することを示した(Kikuchi T, et al.:参考文献)。耳管開放症・耳管閉鎖障害に影響する因子としての聴力の影響を検討した。その結果、耳管開放症の症状は難聴があると、軽減つることが判明した。例えば、鼓膜穿孔、耳硬化症、真珠腫などのために伝音難聴があると、経耳管的に中耳に伝達され知覚される自声が低く知覚されるために、耳管開放症の症状が軽減する。しかし、一度、手術などの治療によって、聴力が改善すると、知覚される自声が大きくなり、不快な症状が自覚されることとなる。このような病態を潜在性(隠蔽性)耳管開放症と新しく提唱した。中耳真珠腫においても、以上のメカニズムが働いているかどうかを、真珠腫新鮮例171例において検証した。真珠腫の中には約30%の鼻すすり型耳管開放症が含まれているが、鼻すすり(+)群と鼻すすり(-)群の聴力の比較を行ったところ、鼻すすり(+)群が有意に聴力は良好であった。また、術後に鼻すすりを継続した群は鼻すすりを停止した群よりも有意に聴力が良好であった。つまり、鼻すすり癖の停止、継続には、聴力が影響すること、そしてそれは自声強聴を知覚する度合いの違いによるものと解釈された(Hasegawa J, et al.:参考文献)。