著者
恒川 隆男
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

ヴァイマール共和国時代の特徴の一つはホワイトカラーが多くなったこと、彼らの生活水準が少数の上流層を除いて、ブルーカラーの生活水準とそう違わなかったことである。失業問題も深刻であった。この時代の失業率の最低は8.3%であるが、これは1887年から1923年間の最高の失業率よりも高く、1932年の失業率は44.4%に達する。この時代に出現したサラリーマン小説Hans Fallada:Kleiner Mann,--was nun,B.Nelissen:Stempelchronikなどや、ルポルタージュSiegfried Kracauer:Die Angestelltenで語られているのは、彼らの生活苦、失業、教養ある階級としての誇りを傷つけられたフラストレーションなどである。彼らの多くがナチの支持者になった。ナチが政権を取ると34年には失業者は半減、37年には殆ど消滅する。ナチ時代の生活世界は、ナチに迫害されたり、ナチに抵抗した人々が残した記録に証言されている。前者の例としてはユダヤ人であるがために大学を追われたViktor Klempererの日記、後者の例としてはRuth Andereas Friedrichの手記Der Schattenmannなどがある。特に被害を受けなかった人々の生活世界にはナチはただの風俗として影を落としているだけのことが多い。戦後のドイツの生活世界は東と西とで違う。職業生活一つを取ってみても、東ドイツでは国家が国民一人一人をどの職場に配置するかを決め、労働は義務であり、失業はありえないが、西ドイツは資格社会であり、人々は取得した資格を武器にしてより良い職を求める。メンタリティーとしては、東ドイツでは、一方では社会主義が反体制派にも信じられている反面、他方ではあらゆる政治的イデオロギーにそっぽを向く知識人の出現は西ドイツより早かったようである。