著者
稲垣 史生 諸野 祐樹 星野 辰彦 井尻 暁 肖 楠 鈴木 志野 石井 俊一 浦本 豪一郎 寺田 武志 井町 寛之 久保 雄介
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.124, no.1, pp.77-92, 2018-01-15 (Released:2018-05-30)
参考文献数
71
被引用文献数
3 2

約半世紀の歴史を持つ海洋掘削科学は,プレートテクトニクスの実証や過去の劇的な地球環境変動など,教科書にその名を刻む輝かしい科学的成果をもたらしてきた.中でも,「海底下生命圏」の発見による生命生息可能域の大幅な拡大は,それまでの地球生命科学の概念(パラダイム)を覆すマイルストーン的な科学成果の一つである.これまでに,世界各地の海洋底から掘削されたコアサンプルの多面的な分析研究により,水・エネルギー供給が極めて限られた海底下環境に,固有の進化を遂げた膨大な数の未知微生物が生息していることが明らかとなっている.その生態系機能は,極めて低活性な生命活動により支えられている静的なものであるが,地質学的時間スケールで,地球規模の元素循環に重要な役割を果たしていることが明らかとなってきた.
著者
谷川 亘 村山 雅史 井尻 暁 廣瀬 丈洋 浦本 豪一郎 星野 辰彦 田中 幸記 山本 裕二 濱田 洋平 岡﨑 啓史 徳山 英一
出版者
日本海洋学会 沿岸海洋研究会
雑誌
沿岸海洋研究 (ISSN:13422758)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.21-31, 2021 (Released:2021-09-07)
参考文献数
34

高知県須崎市野見湾では,白鳳地震によって水没した村『黒田郡』の伝承が語り継がれているが,その証拠は見つかっ ていない.そこで本研究では,野見湾内で海底調査を行い『黒田郡』の痕跡を探索した.その結果,海底遺構の目撃情報 がある戸島北東部の海底浅部(水深6m~7m)に,面積約0.09km2の沖側に緩やかに傾斜する平坦な台地を確認した. 台地表層は主に薄い砂で覆われており,沿岸に近づくにつれて円礫が多くなった.また,砂層の下位は硬い基盤岩と考え られ,海底台地は旧海食台(波食棚)と推定される.海水準変動と地震性地殻変動を踏まえると南海地震により海食台は 約7m 沈降したと推定できる.本調査では黒田郡の痕跡は発見できなかったが,水中遺跡研究に対する多角的な調査手 法を検討することができた.特に,インターフェロメトリソナーの後方散乱強度分布による底質観察とStructure from Motion(SfM)技術を用いた海底微地形の構築は,今後浅海における水中遺跡調査に活用できる.
著者
村山 雅史 谷川 亘 井尻 暁 星野 辰彦 廣瀬 丈洋 富士原 敏也 北田 数也 捫垣 勝哉 徳山 英一 浦本 豪一郎 新井 和乃 近藤 康生 山本 裕二 黒田郡 調査隊チーム一同
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

黒田郡遺構調査の目的で,高知県浦ノ内湾の最奥部(水深10m)から採取した堆積物コアを解析した。当時の海洋環境や生物相の変遷履歴も復元することもおこなった。高知県土佐湾の中央部に位置する浦ノ内湾は,横浪半島の北側に面し,東西に細長く,12kmも湾入する沈降性の湾として知られている。高知大学調査船「ねぷちゅーん」を用いて、バイブロコアリングによって4mの堆積物コアが採取された。採取地点は,周囲からの河川の影響はないため,本コア試料は,湾内の詳細な環境変動を記録していると考えられる。採取されたコア試料は,X線CT撮影,MSCL解析後,半割をおこない肉眼記載や頻出する貝の採取,同定をおこなった。 堆積物の岩相は,olive色のsity clayであり,全体的に多くの貝殻片を含む。コア上部付近は,黒っぽい色を呈し強い硫化水素臭がした。また,コア下部に葉理の発達したイベント堆積物が認められ,その成因について今後検証する予定である。
著者
谷川 亘 徳山 英一 山本 裕二 村山 雅史 田中 幸記 井尻 暁 星野 辰彦
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

日本各地には巨大災害により沿岸部の集落や構造物が水没した記録や伝承が残されている。例えば1498年の明応東海地震による浜名湖南部集落の水没、天正13年の地震に伴う長浜市琵琶湖湖岸集落の水没、磐梯山の噴火に伴う檜原宿の水没が挙げられる。高知県内でも684年に発生した白鳳南海地震により集落が水没した伝承が残されており、その集落は「黒田郡」という名称で市民に知れ渡っている。この黒田郡伝承を明らかにするために、過去に幾度にもわたり調査が実施されてきた。しかし、調査記録が不明瞭な点が多く、黒田郡の謎にどこまで迫れたのかわからない。そこで2013年から高知大学と海洋研究開発機構が中心となって、黒田郡の調査が始まった。2019年までに高知県内沿岸部の6地点(南国市十市、野見湾、浦ノ内湾、興津、爪白、柏島)の調査を実施してきた。残念ながらこれまでのところ黒田郡の痕跡を示す証拠は得られていない。一方、本研究は海底の人工物と構造物を自然災害の記録を残す物証として見立てた地球科学的な分析アプローチであるため、これまでの発想にない発見が得られつつある。そこで本発表では、研究成果が出つつある3地点(野見湾・爪白・柏島)について調査概要を紹介する。須崎市野見湾の南部に位置する戸島は弥生時代の遺跡があり、島北東部海底で井戸を見たという報告が昔から寄せられている。そのため、野見湾は高知県内でも黒田郡の有力候補地として知られている。本研究では、海底地形調査により戸島北東部において縦横200m幅にわたる台地を確認することができた。海底台地は非常に平坦で、海食台の可能性をうかがわせることから、海食台の形成過程から地震性沈降史を評価できる可能性がある。一方、土佐清水市爪白海岸海底には人工的に加工された跡が残る石柱が多く横たわっている。本研究により、この石柱は近郊の爪白地区で石段や家の基礎として古くから使用されていた石造物であることがわかった。さらに、石柱が陸上から海底に運搬されたプロセスに南海地震津波と水害が関与している可能性があることがわかった。幡多郡柏島の北部に石堤を想定させる巨石が積まれた壁状構造物が海底にあることが知られている。野中兼山が整備した陸上の堤(兼山堤)とほぼ並行に位置しているため、兼山堤との関連性もうかがわせる。しかし、年代同定と鉱物分析からこの構造物は自然でできたビーチロックである可能性が高いことがわかった。ビーチロックは潮間帯で形成されるため、ビーチロックの年代分析から沈降履歴を評価できる可能性がある。本研究は、水中構造物と水中遺物を対象にした調査が、地震や水害などの歴史自然災害の履歴の評価につなげられる可能性を示唆している。本研究の一部は高銀地域経済振興財団の助成金により実施された。参考文献谷川亘ほか、2016、黒田郡水没伝承と海底遺構調査から歴史南海地震を紐解く:レビューと今後の展望、歴史地震、31、17-26
著者
山口 龍彦 萩野 恭子 平 陽介 濱田 洋平 斎藤 仁志 小野寺 丈尚太郎 板木 拓也 星野 辰彦 稲垣 史生
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

IODPを始めとした掘削科学のプロジェクトにおいて、珪藻、有孔虫、放散虫、石灰質ナノプランクトンなどの微化石を用いて堆積物の地質年代を正確に決定することは非常に重要である。微化石の抽出と分類群の正確な同定には豊富な経験・知識が必要とされ、同定と堆積物の年代決定には時間を要する。DSDPが開始された1960年代より微化石の専門家は、掘削船に乗船し船上で微化石の分析を行い、掘削科学に貢献してきた。一方で、コンピュータ処理能力の向上により運転など従来人間が担ってきた操作が人工知能(AI)に置き換わられつつある。人工知能の構築に広く用いられているのはディープラーンニングと呼ばれる機械学習技術であり、多層のニューラルネットワークを用いることで、データの特徴を段階的により深く学習させる手法である。近年、国際空港の出入国管理、アミューズメントパークやコンサート会場の入場セキュリティを担う顔認証システムにおいて、ディープラーニングを用いることで、その識別精度を向上させる実用例も報告されている。我々は、この機械学習・画像認識技術の微化石年代測定への応用、さらには自動年代決定AIシステムの開発について研究を一昨年から開始した。昨年の本学会では、比較的単純な2種類の石灰質ナノ化石および珪藻化石について、NECのAIソフト「RAPID機械学習」による自動識別が可能であることを示した。今回の発表では、実用化に向けたさらなる検討として、分類する石灰質ナノ化石の種類を第四紀の堆積物から多産するEmiliania huxleyi, Gephyrocapsa oceanica, Gephyrocapsa ericsoni, Reticulofenestra haqii, Gephyrocapsa caribbeanica, Reticulofenestra productの6タクサ(種)に増やし、自動分類を試みた。ランダムに30枚の教師画像を与えて構築した分類モデルを用いて教師画像とは別の120枚(6種×20枚)の標本の画像の自動識別を行った。この結果、G. oceanicaやR. haqiiの判別的中率は100%、95%であり、自動判別の有効性が示された。一方、その他の4種類の判別的中率は0-35%であった。判別的中率が低い分類群では同定の鍵となるbridgeの認識がうまく行われていないと考えられる。偏向板を回転させたり、画像の解像度を上げた教師画像のみを与えることでより高精度の分類が可能になることが予想される。本発表では、石灰質ナノ化石の他の微化石への応用例も紹介し、自動分類の可能性について議論を深めたい。
著者
常田 聡 青井 議輝 星野 辰彦
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究では,様々な産業から排出される排水中の窒素・リンを高効率に除去する高度処理システムの開発に取り組んだ。特に,小規模事業場へも導入可能な単一槽型栄養塩除去プロセスである嫌気/好気/無酸素(AOA)プロセスの開発を行い,長期間にわたる安定した除去性能維持の実現をめざした。また,AOAプロセスとメンブレンエアレーション法を組み合わせることにより,槽内の微生物生態系を制御し,外部から基質を添加せずに窒素・リン同時除去に成功した。