著者
朝野 維起
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.106-114, 2013-09-20 (Released:2013-10-24)
参考文献数
54
被引用文献数
2 2

黒〜茶系色素であるメラニンは,地球上の生物に極めてありふれた存在である。髪の毛や鱗・皮膚など,我々脊椎動物の体色形成に関わるほか,植物や原生動物でも黒色色素の合成が観察される。また,本総説で説明する昆虫について見てみると,アリやクロアゲハ・カブトムシなどの色からも明らかなように,メラニンの合成は特に珍しいものではない。しかし,種々の生物がつくるメラニンは,一見すると同じ物体であるかの様に見えつつも,個々の生物に特有の合成経路・合成酵素が存在する。つまり,進化の過程に於いてそれぞれの生き物が独自にメラニン合成能を発達・進化させてきたと考えられる。この総説では昆虫のメラニン合成系について論ずるが,特に我々が直接目にする「昆虫の体そのもの」である外骨格内の酵素群について説明する。ドーパやドーパミンなどのフェノール性基質の酸化反応を触媒する含銅酵素を中心に,それらの基質合成系などにも触れる。また,ヒトなどとの違いについて説明するとともに,その進化学的な意義について議論したい。
著者
朝野 維起
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

昆虫の外骨格は、キチン及びキチン結合性タンパク質を主成分とするマトリクスである。脱皮に伴って外骨格が硬化する際に、カテコールアミン類がラッカーゼによっての酸化される反応を経るとされている。その結果生じるキノン、およびキノンが異性化されて生じるキノンメチドは反応性が高く、周囲の成分と共有結合的に架橋構造をつくる事で、外骨格が硬くなると考えられている。本研究は、キノンメチド生成に関わるキノンイソメラーゼの単離を目的とした。家蚕蛹外骨格の抽出物を出発材料に、各種クロマトグラフィーによる分離操作を行った結果、キノンイソメラーゼ活性を示す因子をほぼ単離した。
著者
朝野 維起
出版者
首都大学東京
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2016-04-01

昆虫の外骨格はキチン及びキチン結合性タンパク質を主成分とするマトリクスである。脱皮に伴ってつくられる新しい外骨格が硬化する際、ラッカーゼと呼ばれる酵素が重要であることがこれまでの研究で示されている。ラッカーゼは脱皮前にほとんど活性のない前駆体として新しい外骨格に蓄積し、その後活性化されることで外骨格硬化が開始される。ラッカーゼ前駆体の存在及び発生過程おけるラッカーゼ活性化に関して、代表者が所属する機関からの研究報告が世界で唯一であるものの既に40年以上の歴史がある。ラッカーゼ活性化にタンパク質性の因子が関与する可能性が考えられてきたが、近年、伝統的な生化学的手法によって分離に成功した。組換えタンパク質を利用した解析では、前駆体の活性化が確認されている。新規に合成される外骨格が硬化する過程において、ラッカーゼ活性化のタイミングが時間及び部位特異的にプログラムされている可能性が示唆されている。これは、例えば大顎の先や関節部分など強度が要求され歪みが避けられる場所の硬化が先行することを想像させるものである。そのほか、羽化時に翅の形が決まる過程でも、「伸展した翅が硬化する」といった単純なプロセスではなく、部位特異的な硬化を経て、ハードポイントが逐次形成されることで初めて正常な形状をとれること、などを示唆する観察がある。甲虫類の解析では、ラッカーゼ活性が部位特異的に出現することを示唆する観察ができた。また、ラッカーゼ活性化因子の発現が抑制されることで、現時点では若干であるが翅形態に影響することが観察できた。そもそも、本研究の主たる対象である活性化因子は、代表者が所属する機関以外の研究がない状況などから、生体内で本当に機能していることも正確には示されていない段階である。そのため、生物学的に基礎的な知見の収集も同時に進めている。
著者
朝野 維起
出版者
日本蚕糸学会
巻号頁・発行日
vol.84, no.3, pp.181-194, 2015 (Released:2016-07-20)