著者
平野 和宏 木下 一雄 河合 良訓 安保 雅博
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1413, 2014 (Released:2014-05-09)

【目的】近年,機能解剖学に関する報告が認められるも,深層筋における報告は少なく,その知見は十分とは言い難い。内転筋群は大きな筋群であるが,筋電図を用いた大内転筋の機能についての報告は散見されるも,それ以外の筋に関しては報告がほとんど認められず,その機能については明確になっていない。骨格筋の機能を理解するには,解剖学的観察は有効な手段である。その利点は,関節角度の変化に伴う筋の短縮や伸張の度合いを3次元的に観察できるため,筋の作用が理解可能な点である。本研究では,解剖学的観察所見を基に,恥骨筋,長内転筋,短内転筋(以下;3筋)の回旋作用について検討することを目的とした。【方法】当大学解剖学講座に提供された,肉眼的に股関節に明らかな障害のない献体3体5肢(男性2名,女性1名,73歳~78歳)を用いた。献体の固定方法は,厚生労働大臣の承認する死体解剖資格取得者により,アルコール36%,グリセリン13,5%などを含む混合固定液を大腿動脈から注入し固定した。骨盤は恥骨結合および仙骨を切断し,下肢は膝関節から切断,表皮及び結合組織,脈管系,表層筋を除去して3筋を剖出した実験標本を作製した。作製した実験標本を用いて股関節中間位における3筋の3次元的な走行を確認し,股関節中間位からの他動的な股関節内旋・外旋運動に伴う筋の伸張・短縮を観察した。尚,解剖学的観察においては,死体解剖資格を有する指導者のもと実施した。【倫理的配慮】本研究は,当学の倫理委員会の承認を得て施行した。【結果】各筋の起始停止として,恥骨筋は恥骨上枝から起始し,小転子のすぐ遠位の恥骨筋線に停止,長内転筋は恥骨稜の下部から起始し,大腿骨粗線に停止,短内転筋は恥骨下枝から起始し,恥骨筋線および大腿骨粗線近位部に停止しており,3筋ともに恥骨から起始し,大腿骨の後面へ停止していた。走行として3筋は内旋の回転軸と直交に近い走行であった。3筋は恥骨から起始し,大腿骨の後面へ停止していることから,観察のみでは外旋作用を持つと考えられたが,股関節中間位から他動的に内旋すると3筋は短縮し,外旋すると伸張した。頭側から尾側方向にて起始停止の位置関係を観察すると,内旋で起始停止は近づき,外旋で起始停止は離れた。また,内旋時に3筋は大腿骨に巻き込まれるように短縮することが確認された。さらに,股関節内旋には内転が伴い,内転を伴わない内旋を行うと,頚部と臼蓋がimpingementを起こしやすいことが確認された。【考察】現在,身体運動への個々の骨格筋の寄与は,徒手筋力検査法(Manual Muscle Testing;以下MMT)における知識が一般的である。しかしながら,骨格筋は3次元的な走行を持っているため,関節角度の変化やOpen Kinetic Chain(開放運動連鎖 以下;OKC)とClosed Kinetic Chain(閉鎖運動連鎖運動 以下;CKC)の違いによっても関節に及ぼす機能は変化する場合がある。MMTにおける股関節内旋筋は中殿筋,小殿筋,大腿筋膜張筋とされている。関節の回転トルクを発揮する場合,関節の回転軸に直交する筋走行ならば強い回転トルクを発揮できるが,回転軸に平行する筋走行では回転トルクは発揮できない。中殿筋,小殿筋,大腿筋膜張筋は股関節屈曲位であれば強い内旋トルクを発揮するのには有利な走行であるが,股関節中間位では回転軸に平行する走行となるため,内旋トルクを発揮するには不利な形態である。一方,3筋は内旋の回転軸と直交に近い走行であるため,内旋トルクを発揮するのに有利な形態であり,今回の結果からも他動的な内旋時に3筋の短縮が確認された。以上の事から,3筋は股関節中間位における内旋の機能があると考える。しかし,内旋時に3筋は大腿骨に巻き込まれるように短縮することが確認されており,大腿骨側が動くOKCよりは,骨盤側が動くCKCのときに内旋に作用しやすいと考えられる。今回,股関節中間位からの他動的な内旋を行ったところ,内転を伴いながら内旋することが確認された。肩関節であれば骨頭から直接長軸方向に上腕骨が伸びているため,軸回転としての内外旋が可能であるが,股関節は頚体角と大腿骨頚部が存在することや,骨頭と臼蓋の関係からも内転を伴わない内旋を行うと,頚部と臼蓋がimpingementを起こしやすくなることを確認しており,これらのことから生理的な動きとしては内転を伴いながら内旋するものと考える。この複合運動は,実際の動作としてはknee inを連想させるものであった。【理学療法学研究としての意義】今回,その機能が明確とは言えない恥骨筋,長内転筋,短内転筋の3筋の股関節回旋作用について,解剖学的観察を用いて検討した。骨格筋の機能を理解することは,精度の高い理学療法介入の一助になると考えられ,理学療法学研究としての意義があると考える。
著者
木下 一雄
出版者
名寄市立大学保健福祉学部社会福祉学科
雑誌
名寄市立大学社会福祉学科研究紀要 (ISSN:21869669)
巻号頁・発行日
no.8, pp.49-61, 2018-03

多くの精神障害者は働きたいという希望とその力を持っている。しかし、地域社会の精神障害者に対する理解不足や適切な支援がなされていないこと、関係機関や企業等のネットワークと連携が不足していることが、精神障害者の就労を困難にしていると考えられる。 精神障害者の就労促進のためには、精神障害者が今まで暮らしていた地域で、自分らしく当たり前に生活していくことが出来る地域社会環境を構築することが必要であり、そのような環境を実現するための知見の一助とすべく、K市障がい者就業・生活支援センター職員に対する聞き取り調査を行った。 調査対象のK市は、病院と就労支援センターが共同して支援体制を構築する活動を進めている先進地域である。今後、周辺地域の過疎化が進んでいくとともに必要になる広範な地域を支援していくための有効な方策についての手がかりにつながって行く知見を得ることができると考え、調査対象地域とした。 精神障害者の社会復帰を困難にしている現状を明確にし、精神障害者を取り巻いている課題や問題点とどのような支援をしていくことが求められているかについて検討した。
著者
中島 卓三 木下 一雄 伊東 知佳 吉田 啓晃 金子 友里 樋口 謙次 中山 恭秀 安保 雅博
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Cb0737, 2012 (Released:2012-08-10)

【目的】 我々は人工股関節全置換術(以下THA)後の靴下着脱動作に関与する機能的因子について検討している。靴下着脱動作は上肢・体幹・下肢の全身の複合的な関節運動であり、先行研究では靴下着脱動作における体幹の柔軟性の影響を明らかにすることが課題であった。THA患者の靴下着脱には脱臼防止のために股関節を屈曲・外転・外旋で行う長座位開排法(以下 長座位法)と端座位開排法(以下 端座位法)があるが、両法における脊柱の分節的可動性の違いを明らかにした報告はない。本研究の目的は、THA患者での検討の予備研究として、健常成人を対象に、靴下着脱肢位の違いによる脊柱の分節的可動を明らかにするとともに、靴下着脱時の脊柱分節性をより反映しうる評価方法を検討することである。【方法】 対象は健常男性20名(平均年齢31.6±6.3歳,身長172.4±4.6cm,体重65.8±7.0kg)、靴下着脱方法は長座位法・端座位法の2肢位で行った。体幹柔軟性の評価は一般的に使用されている長座位体前屈(以下 LD)と、今回新たな評価方法として下肢後面筋の影響を排除した端座位で膝・股関節屈曲90度、腕組みの状態から骨盤を後傾し体幹を屈曲させ肩峰と大転子を近づけるよう口頭指示して行う方法(SF)で評価した。測定にはスパイナルマウス(Index社製)を使用し、長座位法・端座位法・LD・SFの4肢位について、Th1~Th12までの上下椎体間が成す角度の総和を胸椎彎曲角、L1~L5までの上下椎体間が成す角度の総和を腰椎彎曲角、仙骨と鉛直線が成す角度を仙骨傾斜角として計測した。脊柱後彎(屈曲)および仙骨前傾は正、脊柱前彎(伸展)および仙骨後傾は負で表記した。長座位法・LDは安静長座位との差を、端座位法・SFは安静端座位との差を算出した。統計処理にはSPSS(ver19)を使用し、長座位法と端座位法およびLDとSFの相違を確認するためにWilcoxonの符号付き順位和検定を用い、靴下着脱動作それぞれとLD・SFとの関連にはSpearmanの順位相関係数を求め検討した。【説明と同意】 本研究は、当大学倫理委員会の承認を得て、ヘルシンキ宣言に則り施行した。【結果】 各測定値の平均は胸椎彎曲角(長座位法:端座位法:LD:SF=37.65±23.54度:44.45±8.89度:47.10±31.40度:64.55±18.03度)、腰椎彎曲角(41.00±9.44度:32.25±7.77度:44.80±13.71度:36.75±6.74度)、仙骨傾斜角(-18.30±5.00度:-16.75±9.04度:-5.45±10.84度:-19.20±7.33度)であった。長座位法と端座位法の違いでは腰椎彎曲角・仙骨傾斜角で有意差が認められ(p<0.01)、LD とSFの違いでは全ての項目で有意差が認められた(胸椎彎曲角・仙骨傾斜角:p<0.01、腰椎彎曲角:p<0.05)。また長座位法とLD・SFの関係では、LDの仙骨傾斜角(rs=0.77、p<0.01)で相関を認められた。端座位法とLD・SFの関連性では、SFの腰椎彎曲角(rs=0.72、p<0.01)・仙骨傾斜角(rs=0.52、p<0.05)で相関を認めた。【考察】 着脱肢位の違いによる脊柱の分節性では腰椎彎曲角・仙骨傾斜角が異なっており、下部体幹の分節性に違いがみられた。宮崎ら(2010)は、LDはSLRを代表とするハムストリングスや股関節の柔軟性を反映し、脊柱の柔軟性まで反映し難いと報告している。今回の結果からも長座位法は下肢の柔軟性の影響により、腰椎の後彎・仙骨の後傾の可動性が必要であると考えた。しかし、THA患者の場合では腰椎前彎、股関節屈曲制限を呈することが多いため、胸椎の後彎やその他の部位での代償が必要であると考えられた。一方、体幹柔軟性の評価方法の比較ではLDとSFは胸椎・腰椎・骨盤すべてにおいて異なった分節性であることが確認された。また、長座位法とLDの仙骨傾斜角で相関を認め、端座位法とSFの腰椎彎曲角・仙骨傾斜角で相関を認めた。LDは下肢の柔軟性の影響により仙骨の分節性を反映する評価方法であると考えられた。一方、SFに関しては端座位での腰椎・仙骨の分節性を反映し得る体幹柔軟性の評価方法であると考えられた。しかし、いずれの結果も健常人での比較であるため、股関節やその他の部位による多様の運動方略を持ち合わせていると考えられる。今後は股関節や腰椎の可動制限を認めるTHA患者を対象として測定を行い、着脱肢位の違いによる体幹分節性の違いを明らかにし、体幹の柔軟性を反映しうる簡便な評価方法を検討していきたい。【理学療法学研究としての意義】 体幹柔軟性評価としてLDとSFは脊柱分節性に違いがあった。靴下着脱肢位の違いによって、その評価方法は使い分ける必要があると考えられた。
著者
平野 和宏 木下 一雄 千田 真大 河合 良訓 上久保 毅 安保 雅博
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5, pp.356-363, 2010-08-20 (Released:2018-08-25)
参考文献数
36

【目的】本研究の目的は,解剖学的観察を基に,MRIを用いて腸骨筋の機能を科学的に検証することである。【方法】実習用献体4体8肢を用いて大腰筋と腸骨筋の走行を確認した。腸骨筋前部線維は,腸腰筋腱とは別に筋線維のまま直接小転子と大腿骨に停止していた。他動的に大腿骨を操作し股関節を屈曲すると,初期屈曲では腸骨筋前部線維が短縮した。この所見を基に,健常成人11名を対象として股関節屈曲30°と屈曲90°の2条件の運動後,MRIのT2値を用いて大腰筋と腸骨筋前部・中部・後部それぞれの部位の筋活動に差があるか検討した。なお,T2値は安静時のT2値に対して運動後のT2値をT2値増加率として表した。【結果】股関節屈曲30°では,腸骨筋前部が大腰筋ならびに腸骨筋後部より有意にT2値増加率が高値を示した。屈曲90°では各部位間に有意差は認められなかった。各部位にて屈曲30°と屈曲90°のT2値増加率を比較すると,全ての部位にて屈曲90°のT2値増加率が有意に高値を示した。【結論】腸骨筋前部線維は股関節初期屈曲に作用している結果となり,屈曲角度の少ない動作は,腸骨筋前部線維が担っている可能性が示唆された。
著者
吉田 啓晃 木下 一雄 平野 和宏 中山 恭秀 角田 亘 安保 雅博 河合 良訓
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.A3P3040, 2009

【目的】<BR>人工股関節全置換術症例は、下衣更衣動作や靴下着脱動作の獲得に難渋することが多い.その際、股関節屈曲・外転・外旋の複合的な可動域の拡大が求められる.臨床経験上、このような動作時に大転子後面の痛みを訴える場合があるが、我々が渉猟しえた範囲では、疼痛因子を検証した報告は見当たらない.今回、股関節の局所解剖を行い、股関節後面とくに股関節深層外旋筋の構造を観察した.股関節屈曲・外転・外旋運動において、外旋筋の一つである大腿方形筋の伸張が制限因子となりうるという興味深い知見を得たので報告する.<BR>【対象と方法】<BR>東京慈恵会医科大学解剖学講座の解剖実習用献体2体4肢(78歳男性、84歳女性)を対象とした.ホルマリン固定した遺体の表皮及び結合組織、脈管系、表層筋を除去し、深層外旋筋と呼ばれる梨状筋、上・下双子筋、大腿方形筋、内・外閉鎖筋筋と関節包を剖出した後、大腿骨は骨幹部1/2で切断した.遺体は観察側を上にして側臥位に固定し、股関節を他動的に屈曲、外転、外旋させた時の外旋筋群の伸張の程度を観察した.尚、肉眼で観察する限りでは4関節ともに股関節の変形は認められなかった.<BR>【結果】<BR>股関節中間位(解剖学的肢位)からの外旋に伴い深層外旋筋群はすべて弛緩した.一方、屈曲に伴い梨状筋及び大腿方形筋が伸張され、外転に伴い梨状筋、上・下双子筋、内閉鎖筋は弛緩するが大腿方形筋、外閉鎖筋は伸張された.複合的な運動では、屈曲位からの外転では梨状筋や上・下双子筋、内閉鎖筋は弛緩するが、大腿方形筋は伸張され、さらに外旋が加わると大腿方形筋は最大限に伸張され、筋線維が切れる程であった.とくに大腿方形筋を上下部の二等分した場合の下部の線維で顕著であった.<BR>【考察】<BR>骨盤と大腿骨の相対的な位置関係と筋の走行により、股関節に関する筋の作用や筋による関節運動制御は多様に変化する.解剖学書での筋の作用より、解剖学的肢位からの屈曲は梨状筋・内閉鎖筋・大腿方形筋が、また外転は大腿方形筋と外閉鎖筋が関節運動を制御すると考えられる.その中で屈曲・外転ともに制御するのは大腿方形筋であり、屈曲と外転の複合的な運動では大腿方形筋が伸張されたという今回の結果を裏付ける.さらに屈曲・外転位からの外旋では、外旋筋とされる大腿方形筋が伸張された.外転位からの外旋は、大転子後面を背側から尾側に向ける運動であり、大腿方形筋の停止部を遠ざけるため、とくに大腿方形筋の下部線維が伸張されたと考えられる.<BR>変形性股関節症による人工股関節全置換術症例では、手術の展開において大腿方形筋は温存されることが多いが、術中操作により過度のストレスがかかり、術後の関節運動時に大転子後面に痛みが生じることも予想される.今後は術中の様子も含めて、関節運動時の疼痛因子を検討する必要がある.
著者
木下 一雄
出版者
国学院大学
巻号頁・発行日
1953

博士論文
著者
木下 一雄 中村 高良 中村 香織 佐藤 信一 安保 雅博 宮野 佐年
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0734, 2006 (Released:2006-04-29)

【はじめに】臨床で膝立ち位は股関節周囲筋の訓練に多用されている。しかし、我々が渉猟した限り先行研究ではその有効性を報告したものはない。今回、我々は膝立ち位の筋活動の特性を明確にし、股関節周囲筋の有効な訓練方法を見出すため、安静膝立ち位における体幹筋と大殿筋との筋活動の関係に着目し研究を行った。尚、本研究は本学倫理委員会の承認を得ている。【方法】対象は下肢、体幹に既往のない健常者30名(男性12名、女性18名、平均年齢23.73±2.63歳)。測定姿勢は安楽な膝立ち位で両足部間を肩幅・両上肢下垂位・足関節底屈位・股関節回旋中間位とした。測定中は前方の目標点を注視し、20秒間の保持を指示した。被検筋は、脊柱起立筋、腹直筋、大殿筋、中殿筋、大腿直筋、半腱様筋とし、日本光電社製の筋電図機器を使用し、sampling周波数1kHzにて筋積分値を求め、安定した3秒間の3標本を抽出し平均値を算出した。その上で各筋5秒間の最大随意収縮時の筋電図を2回測定し、各回の中心3秒間を抽出し平均を求め、膝立ち位の各筋の相対的IEMG(%IEMG)を算出した。比較検討は脊柱起立筋と腹直筋の%IEMGの比率(脊柱起立筋%IEMG/腹直筋%IEMG)を体幹筋活動比とし以下の3群に任意に分類して行った。体幹筋活動比が0~1未満の比較的に腹直筋の筋活動が優位な群(N=14以下;腹筋・協調群)、体幹筋活動比が1~2.2未満の比較的に脊柱起立筋の筋活動が優位な群(N=9以下;背筋・協調群)、体幹筋活動比が2.2以上で脊柱起立筋の筋活動が特に優位な群(N=7以下;背筋・優位群)とし、3群間の大殿筋の%IEMGを比較した。統計処理は一元配置分散分析を用いた。【結果及び考察】3群間において腹筋・協調群、背筋・優位群、背筋・協調群の順で大殿筋の%IEMGは高い傾向を示した。脊柱起立筋、大殿筋は身体重心の前方制動をする。腹筋・協調群は脊柱起立筋の筋活動を抑えることで同じ前方制動筋の大殿筋の活動が高まったと考える。一方、筋活動様式から背筋・優位群は脊柱起立筋の過度な筋活動で体幹を制御し、背筋・協調群は体幹筋の同時収縮で体幹を固定しているため、大殿筋の筋活動が減じたと考える。したがって、主に腹直筋を働かせた体幹の姿勢制御を誘導することが大殿筋の筋活動有効であると示唆されるが、身体重心を後方化し過度に腹直筋を働かせ姿勢固定する場合もあり、姿勢と重心位置の評価を含めて筋活動の特性を検討が必要である。【まとめ】安静膝立ち位の体幹筋活動比と大殿筋の筋活動の関係を検討した。腹筋・協調群において大殿筋の筋活動が高い傾向を示した。よって、大殿筋の筋活動を高めるには主に腹直筋を働かせた体幹筋の協調性を誘導することが有効であると示唆された。今後、姿勢と重心位置の評価を加えた測定方法の再検討が課題である。
著者
木下 一雄 中島 卓三 吉田 啓晃 樋口 謙次 中山 恭秀 安保 雅博
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100456, 2013

【はじめに、目的】我々はこれまで後方進入法による人工股関節全置換術(以下THA)後早期(退院時)における靴下着脱動作に関与する因子の検討を行ってきた。そこで本研究においてはTHA後5か月における靴下着脱動作の可否に関与する股関節の可動域を検討し、術前後の各時期における具体的な目標値を提示することを目的とした。【方法】対象は2010年の4月から2012年3月までに本学附属病院にてTHAを施行した110例116股(男性23例、女性87例 平均年齢60.9±10.8歳)で、膝あるいは足関節可動域が日本整形外科学会と日本リハビリテーション医学会が定める参考関節可動域に満たない症例は除外した。疾患の内訳は変形性股関節症85股、大腿骨頭壊死31股である。調査項目は術前、退院時(術後平均22.7±7.0日)、術後2か月時、術後5か月時の股関節屈曲、外旋、外転可動域、踵引き寄せ距離(%)(対側下肢上を開排しながら踵を移動させた時の内外果中央から踵までの距離/対側上前腸骨棘から内外果中央までの距離×100)と術後5か月時の端座位での開排法による靴下着脱の可否をカルテより後方視的に収集した。靴下着脱可否の条件は端座位にて背もたれを使用せずに着脱可能な場合を可能とし、それ以外のものを不可能とした。統計学的処理はロジスティック回帰分析を用いて目的変数を術後5か月時における靴下着脱の可否とし、説明変数を各時期における股関節屈曲、外旋、外転可動域、踵引き寄せ距離とした。有意水準はいずれも危険率5%未満とし、有意性が認められた因子に関してROC曲線を用いて目標値を算出した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき実施した。また本研究は当大学倫理審査委員会の承認を受けて施行し、患者への説明と同意を得た上で測定を行った。【結果】 術後5か月時の靴下着脱の可否は可能群103股、不可能群は13股であった。術後5か月時の靴下着脱の可否に関与する因子として、術前では股関節外旋と踵引き寄せ距離が抽出され、外旋のオッズ比(95%信頼区間)は1.124(1.037-1.219)、踵引き寄せ距離は1.045(1.000-1.092)、判別的中率は93.1%であった。それぞれの目標値、感度、特異度、曲線下面積は、外旋では25°、76.7%、92.3%、0.912で、踵引き寄せ距離は40.4%、84.5%、76.9%、0.856であった。退院時、術後2か月時、術後5か月時においては踵引き寄せ距離が因子として抽出され、退院時のオッズ比(95%信頼区間)、判別的中率は1.054(1.012-1.097)、91.4%、術後2か月時は1.092(1.008-1.183)、89.6%、術後5か月時は1.094(1.007-1.189)、91.3%であった。各時期の目標値、感度、特異度、曲線下面積は、退院時では40.4%、88.3%、61.5%、0.814であり、術後2か月時は50.0%、93.2%、61.5%、0.842で、術後5か月時では61.0%、80.1%、92.3%、0.892であった。【考察】我々の靴下着脱動作に関する先行研究は、術後早期における長座位での靴下着脱動作に関与する因子の検討であった。退院後の生活環境やリハビリ継続期間を考慮すると、実用性のある端座位での靴下着脱動作を継続期間中に獲得するための機能的因子を明確にすることが必要であった。先行研究では術前に靴下着脱が困難なものが退院時に着脱可能となるには外旋可動域が必要であった。今回の結果からも術前では股関節の変形により可動域制限がある場合でも股関節の外旋により代償して靴下着脱が可能となることが術後5か月の着脱動作能力に必要であると考えられる。また、術後5か月の靴下着脱を可能とするための機能的な改善目標として踵引き寄せ距離が抽出された。臨床的に術後の股関節可動域は概ね改善するが、疼痛や習慣的な動作姿勢の影響により改善経過は多様である。また、靴下着脱動作は股関節から足関節までの下肢全体を使った複合関節による動作である。このことから術後では単一方向の可動域を目標とするだけではなく、総合的、複合的な可動域の改善目標により着脱能力の獲得を目指すべきであると考える。具体的には術後2か月までに対側の膝蓋骨上まで踵を引き寄せられることが望ましいと考える。今後は踵引き寄せ距離に影響する軟部組織の柔軟性や疼痛の評価を行い、踵引き寄せ距離を改善するためのアプローチに関しても検討していきたい。\t【理学療法学研究としての意義】本研究により各時期の具体的な目標値が明確になり、術後5か月時までの経時的な改善指標となり得る。これにより術前後の患者指導の効率化や質の向上が図られると考える。
著者
木下 一雄
出版者
名寄市立大学
雑誌
名寄市立大学社会福祉学科研究紀要 (ISSN:21869669)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.25-39, 2016-03-31

ここ最近、施設内における介護職員による利用者に対しての虐待行為の増加が目立ってきている。新聞やテレビで介護職員の施設内で起こした凄惨なニュースを見ない日はないほどの状況になっている。平成25年度に行った厚生労働省の調査結果によると、高齢者虐待の原因となっている要因として、介護職員の教育や知識、技術に問題があったとされるケースが調査全体の総数の66.3%を占めており、いかに介護職員に対する教育力が現場で低下しているのかが、数字として目に見える形として表れてきている。つまりは、今の介護職員にとって倫理観、想像力の欠如、利用者が今まで歩んできた人生を含め、包括的にとらえていくアセスメント能力が欠如してしまった結果が、このような不祥事につながってきているのではないだろうか。今回の実践活動報告において、自身が勤務していた認知症専門病棟の精神科病院において20代男性介護職員に対し、利用者と関わる上で著者自身が考案した面接指導プログラムに添った支援を通して、いかにその指導プログラムを受けたことにより、対象者自身が利用者に対する関わり方の変化があったのかについて報告していく。そして凄惨な状況が繰り返されている状況において、利用者に対する想像力を豊かにし、言葉で表現できない表情やしぐさなどに意識を向け、様々な思いをアセスメントしていくことの重要性について示唆していく。
著者
木下 一雄 伊東 知佳 中島 卓三 吉田 啓晃 金子 友里 樋口 謙次 中山 恭秀 大谷 卓也 安保 雅博
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Cb1369, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 我々はこれまで後方進入法による人工股関節全置換術(THA)後の長座位および端座位における靴下着脱動作に関する研究を行ってきた。その先行研究においては靴下着脱能力と関係のある股関節屈曲、外転、外旋可動域、踵引き寄せ距離や体幹の前屈可動性の検討を重ねてきた。しかし、靴下着脱動作は四肢、体幹の複合的な関節運動であるため、少なからず罹患側の状態や術歴、加齢による関節可動域の低下などの影響を受けると考えられる。そこで本研究では、退院時の靴下着脱動作に関与する体幹および股関節可動域以外の因子を検討し、術後指導の一助とすることを目的とした。【方法】 対象は2010年の4月から2011年8月に本学附属病院にてTHAを施行した228例234股(男性54例、女性174例 平均年齢64.2±10.9歳)である。疾患の内訳は変形性股関節症192例、大腿骨頭壊死36例である。調査項目は年齢、身長、体重、罹患側(片側か両側)、術歴(初回THAか再置換)、術前の靴下着脱の可否、足関節背屈制限の有無、膝関節屈曲制限の有無をカルテより後方視的に収集した。術前の靴下着脱の可否の条件は長座位または端座位にて背もたれを使用せずに着脱可能な場合を可能とし、不可能をそれ以外の者とした。足関節背屈、膝関節屈曲可動域は標準可動域未満を制限ありとした。統計学的処理はロジスティック回帰分析を用いて目的変数を退院時における長座位または端座位での靴下着脱の可否とし、説明変数を年齢、BMI、罹患側(片側か両側)、術歴(初回THAか再置換)、術前の靴下着脱の可否とした。有意水準はいずれも危険率5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究においてはヘルシンキ宣言に基づき、患者への説明と同意を得た上で測定を行った。測定データをカルテより後方視的に収集し、個人名が特定できないようにデータ処理した。【結果】 まず、長座位では、退院時の靴下着脱可能群は130例、不可能群は114例であった。可能群の平均年齢は62.8±10.6歳、不可能群は65.7±10.9歳であり、可能群の平均BMIは23.4±4.0、不可能群は24.1±3.8であった。可能群の罹患側は、片側70例、両側60例、不可能群は片側例、両側例は各57例であり、術歴は可能群の初回THAは102例、再置換は28例、不可能群の初回THAは101例、再置換は13例であった。術前の靴下着脱の可否は、可能群のうち術前着脱可能な者は74例、術前着脱不可能が56例であり、不可能群のうち術前着脱可能な者は24例、不可能な者は90例であった。また、可能群の足関節背屈制限は4例、不可能群は3例であり、可能群の膝関節屈曲制限は3例、不可能群は15例であった。一方、端座位では、退院時の靴下着脱可能群は110例、不可能群は134例であった。平均年齢は可能群62.2±10.9歳、不可能群65.8±10.7歳、可能群の平均BMIは23.2±4.1、不可能群は24.1±3.6であった。罹患側に関しては、可能群の片側59例、両側51例、不可能群は片側69例、両側65例であった。術歴に関しては可能群の初回THAは84例、再置換は26例、不可能群では初回THAは112例、再置換は22例であった。術前の靴下着脱の可否に関しては、可能群では79例が術前の着脱が可能、31例が着脱不可能であり、不可能群は術前の着脱可能な者は34例、不可能な者は100例であった。可能群の足関節背屈制限は3例、不可能群は4例であり、可能群の膝関節屈曲制限は2例、不可能群は16例であった。統計処理の結果、長座位での靴下着脱因子は術前の靴下着脱の可否が抽出され、端座位での靴下着脱因子には術前の靴下着脱の可否と年齢が抽出された。(p<0.01)。【考察】 本研究においては退院時における靴下着脱動作に関与する体幹および股関節可動域以外の因子を検討した。先行研究では本研究と同様に術前の着脱の可否が術後の可否に関与しているという報告があるが、いずれも症例数が少ない研究であった。本研究の結果より術前の着脱の可否は術後早期における着脱の可否に関与しており、術前患者指導の必要性を示唆するものである。端座位着脱における年齢の影響に関しては、加齢または長期の疾病期間に伴う関節可動域の低下、あるいは着脱時の筋力的な要因が考えられる。今後は症例数を増やして詳細な因子分析を行いながら、縦断的な検討も加えていきたい。【理学療法学研究としての意義】 THAを施行する症例は術前より手を足先に伸ばすような生活動作が制限され、術後もその制限は残存することが多い。本研究により靴下着脱動作に関与する因子を明らかにすることで術前後の患者指導の効率化や質の向上が図られると考える。