著者
辰巳 桂子 出口 弘 長尾 ひろみ 杉浦 元亮 ジョン ヒョンジョン 生田 奈穂 橋爪 寛 松縄 順子 川島 隆太
出版者
神戸女学院大学
雑誌
論集 (ISSN:03891658)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.89-104, 2008-06

One of human-being specific activities, interpreting (oral translation), has been adopted as a popular method to enhance second language acquisition lately. The question, however, how interpreting is executed in human brains, remains largely unknown. In this paper, we present our fMRI (functional Magnetic Resonance Imaging) experimental results to investigate how cerebral cortices are activated when subjects are engaged in interpreting exercises. Twenty-one healthy, right-handed university student subjects participated in this study. We directly compared English to Japanese consecutive interpreting (EJ) to Japanese to English consecutive interpreting (JE) using subtraction method, as well as with sentence reconstruction tasks in Japanese (JJ) and English (EE), and with resting condition (Rest, or baseline). The direct subtraction analysis between EJ and JE left only a limited area: left superior temporal gyrus remained. In JE minus EJ (masked by EJ-Rest: P<0.05image), right and left precentral gyri, left thalamus, left and right superior temporal gyri, and left middle temporal gyrus are left, suggesting that JE recruited more extensive regions in comparison with EJ, despite that all sources of sentence recorded and used as stimuli were constructed to be at the same level of difficulty, either directly taken from MEXT (Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology) -authorized popular textbooks used in Japanese public junior high schools, or translation of such sources. The conditions EJ, EE, and JJ showed very similar patterns of cortical activation, indicating that the conditions recruited similar brain regions: left and right superior temporal gyri, mainly left middle temporal gyrus,, left inferior frontal gyrus (opercular part and triangular part), left temporal lobe's lateral surface, and mainly left supplementary motor areas. EJ and JE commonly activated Inferior frontal gyri (opercular part and triangular part) and supplementary motor areas in both hemispheres. Kawashima (2004) reports that even a different-activity-related cortical activation serves as a preparatory activity for the individuals' following activity and enhances learning or delays development of dementia in older subjects. From the results, we infer that EE and JJ sentence reconstruction exercises that activated similar regions to those activated in consecutive interpreting might fit the purpose of consecutive interpreting training preparation.
著者
杉浦 元亮
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.223-230, 2009-03-15

はじめに 「自己と他者」という概念には,わかるようでわからない,曖昧なところがある。 自分の身体,自分の顔,自分の名前は明確に他者の身体,他者の顔,他者の名前,と区別ができる。その区別ができなくなったら大きな問題だし,そういう意味で自己と他者を区別する能力というものが脳に存在することは,誰もが認めるであろう。 では,「自分の家族」とか「自分の友人」はどうであろうか。「自分の」というのだから「自己」の側にいるのかもしれないし,明らかに自分とは異なる人格を指しているのだから「他者」なのかもしれない。この「自分の家族」や「自分の友人」を,そうでない人々と区別する能力は,自分の身体や顔や名前を他者のそれと区別する能力と,やや趣が異なりそうだ。 さらに,こちらはどうだろう。多くの若者が「本当の自分」がわからないことに焦り,本当の自分を探すために,(多くの場合比喩的な意味で)旅に出る。若者が見失ったり,発見したりする「本当の自分」とは,いったい何なのか。この意味での「自己」に相対する「他者」とは何なのか。この意味で自己と他者を区別する能力について考えるためには,また別の考え方が必要そうである。 このように「自己と他者」は,少なくとも単一の明確に定義できる概念ではない。そのこと自体は,心理学・哲学では昔から自明のことで,多くの論者が複数の「自己」や「自己と他者の区別」(の概念)について,盛んにそれぞれの立場と動機でさまざまな分類・モデルを提唱してきた6)。その数多くの分類・モデルそれぞれは,それぞれの立場で合理的であり,合目的的である。しかし筆者が,神経科学や認知科学の研究者という立場で脳内基盤を研究する目的で眺めたとき,「自己」や「自己と他者の区別」という概念を包括的に明確に解剖した分類・モデルは(筆者の知る限り)いまだ確立されていない。 本稿で筆者は,脳機能画像研究者としての立場から,「自己と他者の区別」の脳内基盤を解明する目的で,「自己と他者」の多因子モデルを提案する。脳機能画像研究者の立場で「自己と他者の区別」の脳内基盤を解明するということは,「自己と他者の区別」を実現する脳内情報処理をできる限り明確に定義し,これに関与する脳領域あるいはその複数の脳領域で構成される脳ネットワークを明らかにするということである。したがって,ここで提案するモデルは,次の3つの条件を満たしている必要がある。まず,①「自己と他者の区別」を独特の脳内情報処理として定義・説明できなければならない。それから,②その情報処理能力が特定の神経基盤に依存している必要がある。この2つは具体的には,中枢神経系の障害(できれば特定の脳領域の損傷)によってその脳内情報処理能力が特異的に欠落している(と考えられる)例を挙げられること,で同時に満たされる。そして,③脳機能画像実験の課題操作でその情報処理を作動させたり,抑制したりすることが可能,あるいはその情報処理能力の個人差を定義し,なんらかの心理測定法で量的評価ができること,が必要である。 これら3つの条件は,精神疾患の臨床と相性がよい。精神疾患の症状・障害の多くはなんらかの意味で「自己と他者の区別」の障害としてとらえることが可能である。条件1と2を満たすモデルがあれば,とらえどころのない精神疾患の症状・障害を,脳内情報処理能力の欠落/低下の概念で明確に定義・説明することができる。また,症状・障害の原因となる神経基盤から,その分子基盤(障害の原因となっている蛋白や遺伝子)を特定できる可能性が出てくる。そして条件3を満たせば,脳機能画像を用いた診断の可能性が出てくる。 筆者は,これまで自己顔認知の脳メカニズムについて,脳機能画像を用いた研究を行ってきた。その中で,自分の顔の認知に特異的な認知処理が単一の脳内情報処理や脳ネットワークでは説明できないことを実感した。「自己」について神経科学的に説明するためには,より包括的な「自己と他者の区別」の多因子モデルが必要であると確信するに至った。本稿では,まずこれまでの自己顔認知研究のあらましをまとめ,そのうえで現在筆者の妄想する「自己と他者」の多層性モデルを説明し,最後に「自己と他者」をめぐる脳画像研究の今後について述べる。
著者
宮内 誠 カルロス 杉浦 元亮 蓬田 幸人 秋元 頼孝 月浦 崇 川島 隆太
出版者
人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 (ISSN:13479881)
巻号頁・発行日
vol.27, 2013

他者の身体に危害を加えるという過去の出来事に関して加害行為を実行することと被害者を目撃することが脳内で別々に表象されている可能性がある。本実験では参加者に顔写真を提示し、仮想の加害行為として顔写真の目に画鋲を刺す行為を含む課題を行わせた。その行為の想起時の脳活動を機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて測定した。本研究では加害行為の有無を識別することが可能かどうかを機械学習的手法を用いて検討した。