著者
梁井 久江
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.15-30, 2009-01-01

動詞テ形+シマウに由来する「テシマウ相当形式」(〜テシマウ、〜チマウ、〜チャウ等)は、現代共通語において、広義の「完了」というアスペクト的な意味を表すと同時に、話者の感情・評価的な意味を表す。本稿では、前者の意味機能から後者の意味機能へ拡張してきたことを明らかにした。その主な結果は次の3点である。(1)辞書の記述によれば、本動詞としての「シマウ」の初出は鎌倉期と推定され、江戸期には<終了><収納>等を意味していた。(2)当該形式は、典型的な運動動詞(限界動詞/非限界動詞)に後接し、事態の終了限界の達成を表していたが、内的情態動詞、静態動詞の順に使用領域を拡大しながら意味的に抽象化し、事態の限界達成を表す標識へと変化した。(3)マイナスの感情・評価的意味は、話者が動作主と一致しない場合に依存する形で生じていたが、テシマウ相当形式の語彙的意味に焼き付けられて、それ以外の場合にも生じるようになっていった。こうした方向での拡張は、文法化の過程でよく見られる主観化(subjectification)の方向に沿うものであると考えられる。