著者
大野 久雄 鈴木 修 楠 研一
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.101-112, 1996-02-29
参考文献数
42
被引用文献数
21

「1981年6月から1994年9月までの13年間に日本全国で25件のダウンバースト事例と総数75のダウンバーストが発生したこと」を確認し, 一覧表の形でデータベースを作成した. 発生したダウンバーストの統計的特性を同データベースに基づいて調べた結果, ダウンバーストの発生の実態として, (1)すべてがウエット・ダウンバーストであること, (2)ダウンバーストは, 北海道から沖縄まで広く発生していること, (3)ダウンバーストは6月から9月に多く, 中でも7月に集中していること, (4)発生時間帯は11時から21時で, 15時と18時に発生頻度の極大があること, (5)同一事例中でダウンバーストが複数発生するのが一般的であること, (6)ダウンバーストからの吹き出しが地上付近にもたらす突風の風速は69m/s以下で, 最大風速時における吹き出しの水平スケールは10 km以下であること, (7)降雹を伴わないダウンバーストの場合, 突風の強さと水平スケールは様々であるが, 降雹を伴ったダウンバーストの場合, 突風は激しくその水平スケールは小さいこと, (8)日本でもダウンバーストは相当数発生していると考えてよいこと, がわかった.
著者
吉崎 正憲 上清 直隆 瀬古 弘 高山 大 楠 研一 つくば域降雨観測実験グループ
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.19-33, 1998-01-31
被引用文献数
5

1995年8月10日に関東平野で発生した雷雨について, 総観(1000km)・関東(100km)・雷雨(10km)の3つのスケールから, アメダス, 気象台や地方自治体の自記紙, 高層観測, ドップラーレーダーなどのデータを用いて調べた. 総観スケールの寒冷前線が関東地方を通る時に発生したので, 解析対象の雷雨は界雷型であった. しかし, この雷雨の発生や発達には, 総観スケールだけではなく関東スケールの風系も関与した. 関東平野の地上付近には3つの風系(非常に高温の南寄りの風I, 高温の北西寄りの風II, 低温の北東寄りの風III), およびその間には温度や風の不連続なシアラインが見られた. 雷雨は3つのシアラインが交差する付近で発生して, 風系IIIの中で発達・成熟した. それぞれの風系の気塊は温度・湿度・相当温位がほぼ一様でミニ気団的な特性を持っていた. 雷雨の最盛期には, 激しい降水による強い下降流とそれによる地上付近の顕著な外出流の雷雨スケールの流れが見られ, またそうした流れによってアーク状の雲が発生した. 風系IIIの寒気と北東風の生成について定量的な考察を行った. 寒気は風系IIIにあった別の雷雨の降水の蒸発の冷却効果などによって作られたものであり, 北東風は雷雨から吹き出すガストであったと結論された.
著者
角村 悟 西橋 政秀 楠 研一
出版者
Japan Meteorological Agency / Meteorological Research Institute
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.66, pp.25-37, 2016 (Released:2016-07-04)
参考文献数
34
被引用文献数
2

落雷に係る電荷について、東北地方庄内地域での地上電場観測に基づき調査した。最初、理論値を観測値に最小二乗法であわせるため要求される細かさについて議論した。高度0.1 km毎の電荷による理論的な電場を与え、適切な解を得るため必要となる水平方向の分解能を提案した。提案された空間分解能により2012年の暖・寒候期に庄内で発生した19の落雷に係る地上の電場により電荷の位置と量を推定した。推定された負極性落雷の電荷の推定位置の2事例を大気温度、ドップラーレーダーおよびVHF帯雷標定システムで検知された電磁波放射源の分布と比較した。1つの事例では、推定された電荷は落雷を引き起こす負電荷の性質を表していた。他方では、電荷が低高度に求まり、通常の負極性落雷モデルでは説明できなかった。本研究で記された数値的電荷推定の議論は、少ない地上電場観測を元にした落雷に関係する電荷の今後の研究にとって有効な情報になると考えられる。
著者
瀬古 弘 吉崎 正憲 楠 研一 つくば域降雨観測実験グループ
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.93-103, 1998-02-28
参考文献数
13
被引用文献数
5

1995年8月16日, 東北地方を横切って東西に延びる寒冷前線が南下した時に, 関東地方で南西から北東に線状に並んだスコールラインが見られた。このスコールラインの成熟期の構造を, つくばのドップラーレーダー, アメダス, 気象官署や地方自治体(群馬県, 埼玉県, 栃木県, 茨城県)の観測データなどを用いて解析した。スコールラインの中では, 強い降水域が進行方向前面に並び, 後側に弱い降水域が広がっていた。スコールラインの移動に相対的な地上風の分布を見ると, 降水域では冷気外出流に伴う発散があり, その前面では前方からの暖かい風との収束がみられた。一方, 高度2〜4 kmの水平風をみると, 強い降水域では後方へ吹き出し, 弱い降水域では後ろからの乾いた空気の吹き込みが見られた。地上の気圧のメソスケールの変動を見ると, 降水域の前面で低圧, 強い降水域で高圧, 降水の止むところでは低圧であった。規模は小さいけれども, 本事例のスコールラインはアメリカ中西部や熱帯で見られるものとよく似た特徴を持っていた。
著者
瀬古 弘 加藤 輝之 斉藤 和雄 吉崎 正憲 楠 研一 真木 雅之 「つくば域降雨観測実験」グループ
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.77, no.4, pp.929-948, 1999-08-25
被引用文献数
7

台風9426号(Orchid)が日本列島に接近した1994年9月29日に、関東平野にほぼ停滞するバンド状降雨帯が見られ10時間以上持続した。つくばにおける特別高層観測、2台のドップラーレーダーおよびルーチン観測のデータを用いて、この降雨帯を解析した。この降雨帯はニンジン形の雲域を持ち、バックビルディング型の特徴を持っていた。南北に延びた降雨帝はマルチセル型の構造をしていて、その中のセルは降雨帯の南端で繰り返し発生し, 西側に広がりながら北に移動した。水平分解能2kmの気象研究所非静水圧メソスケールモデルを用いて、数値実験を行った。メソ前線は実際の位置の約100km南東に形成されたが、バックビルディング型の特徴を持つニンジン型の形状のほぼ停滞する降雨帯が再現され、3時間以上持続した。セルが北西に移動すると共に降雨帯の東側で降水が強化されて、ニンジン形が形成されていた。降雨帯の形成メカニズムを調べるためにまわりの場と雲物理過程を変えて感度実験を行った。その結果、中層風の風上側からの高相当温位の気塊の供給と風の鉛直シアが重要であることがわかった。