著者
横山 美江 畠山 典子 村上 奈々美
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.5, pp.357-367, 2022-05-15 (Released:2022-05-24)
参考文献数
27

目的 本研究では,フィンランドの基盤のシステムである就学前のすべての子どもをもつ家族を担当保健師が継続して支援するシステムを導入した自治体において,システム導入前と導入後の保健師の母子保健活動に対する認識の変化について分析することを目的とした。方法 データ収集期間は,2020年9月から10月であった。データ収集は,インタビューガイドに基づいた半構造化面接によるフォーカスグループインタビューを実施した。本研究は,大阪市立大学大学院看護学研究科倫理審査委員会の承認を得て実施した。結果 研究参加者は,12人であった。担当保健師が継続して支援するシステムを導入する前の保健師の母子保健活動に関する認識として4つのカテゴリーが抽出され,導入後の認識としては8つのカテゴリーを抽出した。担当保健師による継続支援システムを導入する前から,保健師は【ハイリスクケースを中心とした継続的な対応】を行い,【対象者のリスクに注力】しながら活動していたものの,【ハイリスクケース以外の対象者への点での関りによるその場しのぎの対応】にならざるを得ない状況で,【積極的に対象者に介入することに躊躇】していた。しかしながら,担当保健師による継続支援システムの導入後,担当保健師としてハイリスクケース以外の家族に対しても【継続支援による信頼関係から生じる対象者の変化に応じた対応】ができるようになり,【対象者の些細な変化への気づき】もできるようになっていた。そのため,【担当保健師として積極的に対応】し,【早期からの継続的な予防的介入】が可能になったと認識していた。保健師は,【対象者への直接的な支援の増加による忙しさ】を感じつつも,【児の成長や育児スキルの上達への喜びを母親と共感】し,【保健師として喜びとやりがい】を感じながら,【保健師(専門職)としてのスキルアップ】の必要性も強く認識していることが明らかとなった。結論 本研究結果より,担当保健師による継続支援システムを導入することにより,保健師がハイリスクケース以外の家族に対しても積極的に関わることができ,早期からの予防的介入ができる可能性が高いことが示された。また,保健師としての喜びややりがいを高めることができることも示され,保健師としてのスキルアップの必要性も強く認識していることが明らかとなった。
著者
緒方 靖恵 横山 美江 秋山 有佳 山縣 然太朗
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.7, pp.493-502, 2021-07-15 (Released:2021-07-20)
参考文献数
31

目的 本研究は,経済格差と幼児の食生活習慣との関連を明らかにし,今後の幼児をもつ家庭への支援のあり方を検討することを目的とした。方法 A市内4区の3歳児健康診査に来所した保護者を対象に,幼児の食生活習慣の状況,保護者の社会経済的地位を含む養育環境を問う無記名自記式質問紙調査を実施した。1,150人の保護者に調査を依頼し,616人から回答を得た(回収率53.6%)。このうち必要な項目等が欠損していた者を除外し,498人(有効回答率80.8%)を分析対象とした。本研究では,国民生活基礎調査において相対的貧困率の算出に用いられる貧困線を参考に,相対的貧困群と非相対的貧困群に分類し,幼児の食生活習慣との関連を分析した。統計学的分析方法は,Fisherの正確確率検定,Mann-WhitneyのU検定を実施後,相対的貧困と関連が認められた食生活習慣について,ロジスティック回帰分析を実施した。結果 相対的貧困群と非相対的貧困群における幼児の食生活習慣を分析した結果,相対的貧困群の幼児は,非相対的貧困群の幼児と比較して,週6日未満の野菜の摂取の割合が高く(P=0.003),かつ週6日以上のスナック菓子の摂取の割合も高かった(P=0.034)。週6日未満の野菜の摂取と週6日以上のスナック菓子の摂取については,保護者の年齢や学歴,主観的経済観を調整しても相対的貧困と有意な関連が認められた。相対的貧困群の養育環境の特徴では,非相対的貧困群と比較して30歳未満の保護者の割合が高く(P<0.001),ひとり親世帯の割合が高かった(P=0.007)。加えて,保護者の最終学歴が高校までの割合が有意に高かった(P<0.001)。さらに,相対的貧困群の保護者は,非相対的貧困群の保護者に比べて主観的経済観でもより生活が苦しいと感じていた(P<0.001)。結論 本研究結果から,経済格差が3歳児の食生活習慣と関連していることが明らかになった。今後,妊娠・出産期から経済的困難を抱える家庭を把握し,子どもが健康的な食生活習慣を身につけられるよう早期から支援していく必要性が示された。
著者
李 慧瑛 深田 あきみ 新橋 澄子 横山 美江 橋本 智美 下高原 理恵 西本 大策 緒方 重光
出版者
大分県立看護科学大学
雑誌
看護科学研究 (ISSN:24240052)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.20-31, 2016-08

研究目的は、ポートフォリオを用いた臨地実習における成長報告書の自由記述を内容分析し、学生の内省傾向を明らかにすることである。看護学生72名の自由記述データを計量テキスト分析の手法を用いて、共起ネットワークの作成と対応分析を行った。共起ネットワークの構造分析の結果、「成長ベスト3」「学んだこと」「獲得した力」それぞれの項目で3〜5群のカテゴリーが抽出された。振り返りの大切さに気づいた学生が、より高い看護実践能力の向上を目指して努力する内省が読み取れた。対応分析による抽出語の全体的布置において、「獲得した力」が第1成分の寄与率の高いプラス側第1象限に位置しており、「成長ベスト3」と「学んだこと」を区別する基準軸になっていると考えられた。第1成分のプラス側には、「活かす」「力」「今後」の語が並んでおり、学生は応用力を獲得していると考えられる。しかし、それを「成長」としては捉えておらず、「学んだ知識や技術」を「自己の成長」と捉える傾向がある事が示唆された。
著者
横山 美江
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では,多胎児の身体発育・発達過程を縦断的に調査し,単胎児との比較から身体発育・発達過程の特徴を明らかにすることを目的とした。その結果,三つ子と単胎児における体重の発育差は,出生時が最も大きく(40%以上の発育差),最初の 1 年で急激に減少するものの,学齢期においても三つ子は単胎児よりも体重が軽いことが明らかとなった。さらに,身長に関しても,出生時に最も差が認められ,最初の 1 年でその差は急激に減少するものの,学齢期においても身長が低いことが判明した。
著者
三宅 優 横山 美江
出版者
岡山大学医学部保健学科
雑誌
岡山大学医学部保健学科紀要 (ISSN:13450948)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.1-8, 2007-03-15
被引用文献数
1

笑うことが人体に良い影響を及ぼしていることを証明する研究が,欧米を先駆けに,日本でも十数年前から実施されている。本研究は,現在まで日本国内において報告されてきた笑いの効果を身体面,精神面の二方向から概観し,医療や看護の場で笑いを用いる有効性を提示することを目的とし,文献考察を行った。身体面では,多くの研究において笑いの免疫系に関する効果が報告されていた。その他,疼痛緩和,アレルギー患者の皮膚症状の改善,食後血糖値上昇抑制,リラクゼーション効果を明らかにするもの,笑いと睡眠の質に関する研究なども行われていた。笑いの精神的効果として,ストレスコーピング,人間関係の確立,不安,緊張の緩和が挙げられていた。しかし,笑いの定義は研究者により様々であり,笑いやユーモアの定義,分類,尺度化が必要であるとの指摘もなされている。また,健康人を対象とした報告が多く,今後,医療の場でケアとしての笑いについての研究が期待される。
著者
乾 愛 横山 美江
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.10, pp.638-648, 2019-10-15 (Released:2019-11-09)
参考文献数
40

目的 妊娠間隔12か月未満で出産した母親の育児負担感の実態とその関連要因を明らかにすることを目的とした。方法 A市3か所の保健福祉センターにおける3か月児健康診査に来所した母親を対象に,妊娠間隔やEPDS,育児感情尺度等を問う無記名自記式質問紙調査を実施した。回答が得られた757人のうち,欠損項目を有する72人を除く685人(有効回答率90.4%)を分析対象とした。妊娠間隔は,妊娠間隔12か月未満群,妊娠間隔12か月以上24か月未満群,妊娠間隔24か月以上群,およびきょうだい児なし群に分類し,育児負担感との関連を分析した。統計学的分析方法は,χ2検定,一元配置分散分析またはKruskal-Walisの検定,および重回帰分析を実施した。結果 妊娠間隔12か月未満群が35人(5.1%),妊娠間隔12か月以上24か月未満群が114人(16.6%),妊娠間隔24か月以上群が194人(28.3%),きょうだい児なし群が342人(49.9%)であった。育児感情尺度の3つの下位項目に関連する要因を重回帰分析した結果,育児への束縛による負担感では,妊娠間隔(P=.032),家族構成(P=.014),睡眠時間(P=.010)および夜間起床回数(P=.001)と有意な関連が認められた。子どもの態度や行為への負担感では,妊娠間隔(P<.001),母親の年齢(P=.003),睡眠時間(P=.009)および夜間起床回数(P=.002)と有意な関連が認められた。育ちへの不安感では,妊娠間隔(P<.001),母親の年齢(P=.016)および在胎週数(P<.001)と有意な関連が認められた。加えて,妊娠間隔12か月未満群は他の妊娠間隔群に比べ,ひとり親世帯(P=.005),未婚(P=.007),最終学歴が中学卒業(P=.0027),24歳以下の若年(P<.001)が有意に多かった。結論 妊娠間隔は,育児感情尺度の育児への束縛による負担感,子どもの態度や行為への負担感および育ちへの不安感と有意に関連していた。さらに,育児への束縛による負担感,ならびに子どもの態度や行為への負担感は,妊娠間隔が短くなるほど母親の負担感が増大する可能性があることが示された。妊娠間隔12か月未満の母親は,ひとり親世帯,未婚者,低学歴,若年の割合が有意に高いことが明らかとなり,支援の必要性が示された。
著者
有馬 和代 横山 美江
出版者
大阪市立大学大学院看護学研究科
雑誌
大阪市立大学看護学雑誌 (ISSN:1349953X)
巻号頁・発行日
no.14, pp.1-9, 2018-03

本研究は、これまでの結核におけるDOTS対策に関する文献学的考察を行い、今後のDOTS対策推進に寄与することを目的とした。引用文献の検索には、医学中央雑誌web版を用いて原著論文の検索を行った。検索された54件の文献を、日本版DOTS戦略に基づき4つの視点で整理し、法的改正等の動向も交えた。結果、院内DOTSは、患者教育、服薬支援、保健所との連携が重要であり、医療連携は、結核専門機関から一般医療機関へ、医療と服薬支援が的確に繋がるしくみの必要性が指摘されていた。地域DOTSは、患者をアセスメントし、中断リスクや患者のニーズから患者に合うDOTS実施が重要であり、かつ、これらの活動には、患者と信頼関係を築きながら服薬支援する重要性が報告されていた。DOTS推進のためのツールやしくみは構築されつつあるが、一方で支援者に必要とされてきた姿勢を蔑ろにする状況も報告されていた。今後DOTS実施者が、患者中心の服薬支援を行う重要性を的確に継承するための研究が求められる。
著者
三宅 優 横山 美江
出版者
公益社団法人 日本看護科学学会
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.3_61-3_67, 2011-09-20 (Released:2011-10-25)
参考文献数
51
被引用文献数
1 1

目的:国内において報告されてきた笑いの効果を身体面,精神面の二方向から概観し,看護の場で笑いを用いる有効性を提示することを目的とした.方法:引用文献の検索には,医学中央雑誌刊行会から,“笑い”or“ユーモア”をキーワードとして1980年以降,2009年5月までで検索を行い,29件採用した.また,国際誌はPubMedを用い,2000年以降,2009年5月までの文献からキーワード“laughter”and“effect”で検索し,20件を採用した.結果:笑いの身体面の効果としては,笑い体験によるNK細胞活性ならびにアレルギー反応などの免疫系に関して効果があったという報告が最も多く,その他疼痛緩和,血糖上昇抑制作用があることが報告されていた.また笑いの精神的効果として,ストレスコーピング,不安ならびに緊張の緩和などの効果が報告されていた.結論:笑いは,身体面と精神面両方での効果が期待できる.しかし,看護ケアとして笑いの効果を検討した研究は少なく,今後,看護師による笑いに関する介入研究の成果が期待される.
著者
横山 美江 杉本 昌子
出版者
Japan Academy of Nursing Science
雑誌
日本看護科学会誌 (ISSN:02875330)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.189-197, 2014-08-20 (Released:2014-10-03)
参考文献数
17
被引用文献数
1

研究目的:本研究では,4か月児健康診査のデータベースの分析から,母親の喫煙が児の出生時の身体計測値(体重,身長,頭囲,胸囲)ならびに出生後の発育にどのように影響するかを明らかにすることを目的とした.方法:本研究で用いたデータベースは,4か月児健康診査を受診した児の健診データのうち,個人情報を全て除外し,連結不可能匿名化したデータファイルを用いた.統計解析には,母親の喫煙と児の身体計測値を重回帰分析等を用いて分析した.結果:3494人の単胎児のデータを分析対象とした.妊娠中に喫煙をしていた母親は全体の2.9%であった.妊娠中の母親の喫煙は,他の要因の影響を調整しても,出生体重,出生身長,出生頭囲と有意な関連が認められた.さらに,4か月児健康診査時の身長および頭囲においても関連が認められ,喫煙していた母親から出生した児は,喫煙していなかった母親から出生した児よりも有意に身長および頭囲が小さく,他の要因を調整しても有意であった.結論:妊娠中の母親の喫煙は,出生時の身体計測値のみならず,4か月児健康診査時の身長や頭囲にも影響していることが明らかとなり,禁煙支援のための対策をさらに強化する必要性が示された.
著者
横山 美江
出版者
医学書院
雑誌
保健師ジャーナル (ISSN:13488333)
巻号頁・発行日
vol.71, no.7, pp.598-604, 2015-07-10

はじめに フィンランド(図1)は北欧型福祉国家として,母子保健をはじめとした社会サービスが広く行き届いた国である。このような社会環境を反映してか,フィンランドはさまざまな指標で世界の上位にランクされており,セーブ・ザ・チルドレンの「お母さんに優しい国ランキング2014」でも世界第1位を獲得した1)。 このように,フィンランドでは,妊娠期から子育て期に至るまで切れ目ない支援がなされている。この切れ目ない子育て支援の中核をなしているのがネウボラである。 「ネウボラneuvola」とは,フィンランド語で「アドバイスの場所」を意味している(ネウヴォneuvoがアドバイス・情報の意味)。ネウボラは,妊娠期から就学前にかけての子どもと家族を支援するための地域拠点(ワンストップ)であり,かかりつけ保健師(担当保健師)が中心となって支援にあたっている。 今日,このようなフィンランドの子育て支援が,日本においても注目されてきており,「日本版ネウボラ」をめざした母子保健システムを構築する自治体も出てきている2)。 筆者(横山)は,フィンランドのヘルシンキ大学との共同研究を10年近く実施している。その関係で,フィンランド国立健康福祉研究所(National Institute for Health and Welfare)とも共同研究を始めており,フィンランドの母子保健について学ぶ機会を得た。このフィンランド国立健康福祉研究所は,研究機関であると同時に,母子保健をはじめとした国の健康政策に関するガイドラインの作成も担っている機関である。 共同研究者である同研究所のTuovi Hakulinen-Vitanenは,フィンランドにおける母子保健のガイドライン作成にも携わっており3-6),フィンランドの母子保健の専門家である。 本稿では,フィンランドの母子保健の専門家とともに,フィンランドの母子保健システムと切れ目ない子育て支援の中核をなしている「ネウボラ」について紹介する。