著者
玉山 隆章 井上 穣 樫原 英俊 大野 仁 板垣 信生
出版者
一般社団法人 日本総合健診医学会
雑誌
総合健診 (ISSN:13470086)
巻号頁・発行日
vol.42, no.6, pp.615-622, 2015 (Released:2016-01-01)
参考文献数
14

【目的】日本では近年もヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染者と後天性免疫不全症候群(AIDS)患者数の新規報告は横這いが続き、HIV感染者数は増加し続けている。HIV感染者の総合健診での動向を調査し、HIV感染者への対応と早期発見のあり方を考察する。【対象と方法】対象は平成17年度以降に当センター総合健診で把握できたHIV感染者12例。把握時点のHIV感染症の病期、健診異常項目と既往歴、把握に至った経緯を調査した。【結果】症例は全例男性。年齢は30代6例、40代5例、20代1例。病期の内訳は、健診時に既に拠点病院通院中7例、診断確定後の通院中断中2例、未診断3例(急性HIV感染症1例、AIDS発症2例)であった。健診異常項目と既往歴は高頻度順に、硫酸亜鉛混濁試験(ZTT)上昇(10例/12例中)、梅毒反応陽性(6例/9例実施中)、ALT上昇(6例/12例中)、肥満(5例/12例中)、脂肪肝(5例/12例中)、帯状疱疹の既往(4例/12例中)、以下血小板減少、急性B型肝炎の既往、胸部X線異常、上部消化管造影異常、他であった。ZTTが上昇していた10例中8例は、ZTTが20Kunkel単位以上の極めて高い値であった。9例は他院で既に確定診断されていたが、健診前の問診票にHIV感染症を自己申告したのは2例のみであり、他の7例は面接時に申告したか、面接医がHIV抗体検査を強く勧めた際に申告していた。当センターがHIV感染症を把握する以前に複数回の健診受診歴があったのは6例で、うち2例は過去の健診にてZTT高値以外に検査データの異常がないため経過観察と判定されており、その判定の影響を受けて拠点病院の通院自体を自己中断した可能性があった。平成25年度の当センター総合健診受診者でZTTが20Kunkel単位以上を呈した者のうち、40代までの男性に限ると5例/22例中(22.7%)にHIV感染症が含まれていた。【考察】自己申告がなかったとしても、ZTTが極めて高値の男性に対してはHIV感染症の可能性も考えるべきである。特に40代までの男性に対しては、他の性感染症の既往がある場合は勿論、ZTT高値しか異常がない場合でも面接医はHIV感染症を疑い、HIVスクリーニング検査を勧めるべきである。