著者
橋本 幸成 水本 豪 大塚 裕一 宮本 恵美 馬場 良二
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.374-381, 2013-09-30 (Released:2014-10-02)
参考文献数
24

発語失行の主な症状の一つであるプロソディー異常は,構音の問題に対する代償反応である可能性が指摘されている(Darley 1969)。本研究では,プロソディー異常が発話の主たる症状であった一発語失行例の症状を分析し,Darley の代償説との関連を探った。    症例のプロソディーの特徴として,発話速度の低下と発話リズムの単調さを認めた。発話速度を評価するために,メトロノームの速度に合わせて発話速度を徐々に上げる課題を実施すると,一定の速度に達した時点で構音の誤りが出現した。発話リズムは単調で,その単調さを分析した結果,方略的にフット(2 モーラ)のリズムで発話している傾向がみられた。症例は自己の発話について「一本調子でゆっくり話さないとうまくいかない」と内省報告しており,上記の分析と合わせて考察すると,本症例の場合,明瞭な構音を得るために方略的にプロソディーを調整しているという説明が妥当と思われる。
著者
大森 史隆 水本 豪 橋本 幸成
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.13-22, 2022 (Released:2022-01-28)
参考文献数
10

慢性期失語症例に対し,仮名1文字の書取訓練(40分/回,計35回,約4ヵ月半)において単音節語からなる漢字1文字をキーワード,漢字1文字を初頭に含む複合語等をヒントとして用いた.その結果,平仮名44文字中,書取可能な文字数が9文字から31文字に増加した.仮名1文字の書取には,キーワードの書字やヒント想起の可否がかかわっていた.仮名1文字の書取の成否に影響を及ぼす文字特性を検討した結果,キーワードとして用いた漢字の画数が有意であった.書取可能となった平仮名31文字を組み合わせて2文字単語20語の書取訓練(40分/回,計14回,約2ヵ月)を実施した結果,書取可能単語数は3語から17語に増加した.両訓練は,モーラ分解・抽出の必要がない単音節の漢字1文字単語をキーワードとして用いたため,音韻処理障害のある本例に有効であった.訓練に際しては,漢字の画数に留意し,文字数の少ない単語を用いる必要性が示された.
著者
橋本 幸成 三盃 亜美 上間 清司 宇野 彰
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.356-364, 2022-09-30 (Released:2022-11-24)
参考文献数
24

左被殻出血によって軽度の表層失読を呈したと考えられた失名辞失語例を報告する。本例の障害機序を検討するため, 漢字刺激を用いた実在語と非語の音読課題, 同音擬似語を含む語彙性判断課題, 読解課題, 呼称課題を実施した。その結果, 漢字の非同音非語の音読成績は正常範囲内であり, 漢字から音韻へ変換する機能は保存されていると思われた。一方, 実在語の音読課題では低頻度かつ非典型読みの実在語の音読において基準値以下の成績を示した。誤反応はすべて LARC (legitimate alternative reading of components) エラーであり, 表層失読の特徴を認めた。また, 同音擬似語を用いた語彙性判断課題の成績が低いことから, 文字単語の同定過程に障害があると考えられた。二重経路モデルを用いた分析では, 意味システムの障害では本例の障害機序を説明できず, 文字列レキシコンや音韻列レキシコンの障害によって軽度の表層失読を呈したのではないかと考えられた。
著者
橋本 幸成 宇野 彰 水本 豪
出版者
日本言語聴覚士協会
巻号頁・発行日
pp.96-106, 2017-06-15

濁音,半濁音,拗音を表す仮名文字の書字障害を認めた失語症例に対して,キーワードを用いた書字訓練を行った.本症例は漢字の形態想起が困難であったため,仮名単語をキーワードとして用いた.キーワードの語彙特性として,親密度,表記妥当性,および心像性が高い単語を選択した.訓練方法としては,言語聴覚士が1モーラを音声呈示し,症例が呈示された音声をもとにキーワードの音韻列,仮名文字列を想起したうえで,1モーラに対応する仮名文字を書字した.訓練は,ABABデザインによる単一事例実験計画に基づき有効性が認められた.最大13日間という短い訓練期間で濁音,半濁音,拗音表記のすべての仮名文字が書字可能となり,訓練経過後1年半においても仮名書字が実用的であったため訓練効果は維持されていると思われた.
著者
白土 大成 橋本 幸成 濱田 則雄 永利 聡仁 吉田 大輔
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.257-261, 2020 (Released:2020-04-20)
参考文献数
20

〔目的〕急性期脳梗塞患者を対象とし,発症時の大腰筋面積が転帰に与える影響について検討した.〔対象と方法〕対象は脳梗塞発症後3日以内に入院した46例とし,退院時の転帰より自宅退院群(14例)と転院群(32例)に分類した.入院時の腹部computed tomography(CT)にて大腰筋からpsoas muscle mass index(PMI)を算出するとともに診療録より検討因子を後方視的に調査し,2群間にて比較検討した.また,多変量解析より転帰に影響する因子を抽出した.〔結果〕自宅退院の可否と関連を認めたのは,PMI,入院時National Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS),入院前modified Rankin Scale(mRS),高次脳機能障害の有無であり,多変量解析ではPMI,入院時NIHSS,入院前mRSが選択された.〔結語〕脳梗塞発症時のPMIは,自宅退院の可否に関連しており,発症後早期からの転帰予測に有用な評価指標である可能性が示唆された.