著者
松原 慶吾 水本 豪 古賀 和美 池嵜 寛人 平江 満充帆 兒玉 成博 畑添 涼 小薗 真知子 元田 真一
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.53-60, 2023-04-30 (Released:2023-09-10)
参考文献数
25

【目的】健常高齢者における摂食嚥下機能のフレイルは老人性嚥下機能低下(以下,老嚥)と呼ばれる.摂食嚥下器官の加齢変化には性差があることから,老嚥の特徴は男女間で異なることが予想される.本研究では,地域在住高齢者を対象に,老嚥が疑われる高齢者と嚥下機能が良好な高齢者の症状およびサルコペニア・嚥下関連筋のサルコペニア・口腔機能・栄養状態の比較を行い,老嚥の特徴を男女別に検討した. 【方法】地域に在住する高齢者64 例を対象とした.摂食嚥下機能の評価にはEating Assessment Tool-10(以下,EAT-10)を用い,嚥下機能良好群と老嚥が疑われた老嚥群に分けた.サルコペニアの評価には,骨格筋指数,握力,最大歩行速度を測定し,嚥下関連筋のサルコペニアの評価には,オトガイ舌骨筋の筋量,最大舌圧を測定した.さらに,口腔機能は基本チェックリストを用い,栄養状態はMNA®-SF を用いて調査した.男女別に2 群間のサルコペニア,嚥下関連筋のサルコペニア,口腔機能,栄養状態について比較検討した. 【結果】解析対象は,61 例(78.6±7.3 歳,男性16 例,女性45 例)とし,高齢者の23.0% に老嚥が疑われた.男性老嚥群は嚥下機能良好群と比べて,EAT-10の「食べる時に咳が出る」で有意差を認め,低骨格筋量と低舌圧の有無の割合,最大歩行速度,オトガイ舌骨筋の筋量に有意差を認めた.女性老嚥群は嚥下機能良好群と比べて,EAT-10の「飲み込みの問題が原因で体重が減少した」,「食べる時に咳が出る」の2 つの質問項目で有意差を認めた.また,口腔機能,口腔乾燥,MNA®-SF の体重減少で有意差を認めた. 【結論】高齢者の23.0%に老嚥が疑われた.老嚥の疑われる高齢者にみられる症状は男女ともに「食事中の咳の増加」であった.しかし,それを引き起こしている摂食嚥下機能の低下の機序は男女間で異なる可能性が示唆された.
著者
橋本 幸成 水本 豪 大塚 裕一 宮本 恵美 馬場 良二
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.374-381, 2013-09-30 (Released:2014-10-02)
参考文献数
24

発語失行の主な症状の一つであるプロソディー異常は,構音の問題に対する代償反応である可能性が指摘されている(Darley 1969)。本研究では,プロソディー異常が発話の主たる症状であった一発語失行例の症状を分析し,Darley の代償説との関連を探った。    症例のプロソディーの特徴として,発話速度の低下と発話リズムの単調さを認めた。発話速度を評価するために,メトロノームの速度に合わせて発話速度を徐々に上げる課題を実施すると,一定の速度に達した時点で構音の誤りが出現した。発話リズムは単調で,その単調さを分析した結果,方略的にフット(2 モーラ)のリズムで発話している傾向がみられた。症例は自己の発話について「一本調子でゆっくり話さないとうまくいかない」と内省報告しており,上記の分析と合わせて考察すると,本症例の場合,明瞭な構音を得るために方略的にプロソディーを調整しているという説明が妥当と思われる。
著者
大森 史隆 水本 豪 橋本 幸成
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.13-22, 2022 (Released:2022-01-28)
参考文献数
10

慢性期失語症例に対し,仮名1文字の書取訓練(40分/回,計35回,約4ヵ月半)において単音節語からなる漢字1文字をキーワード,漢字1文字を初頭に含む複合語等をヒントとして用いた.その結果,平仮名44文字中,書取可能な文字数が9文字から31文字に増加した.仮名1文字の書取には,キーワードの書字やヒント想起の可否がかかわっていた.仮名1文字の書取の成否に影響を及ぼす文字特性を検討した結果,キーワードとして用いた漢字の画数が有意であった.書取可能となった平仮名31文字を組み合わせて2文字単語20語の書取訓練(40分/回,計14回,約2ヵ月)を実施した結果,書取可能単語数は3語から17語に増加した.両訓練は,モーラ分解・抽出の必要がない単音節の漢字1文字単語をキーワードとして用いたため,音韻処理障害のある本例に有効であった.訓練に際しては,漢字の画数に留意し,文字数の少ない単語を用いる必要性が示された.
著者
橋本 幸成 宇野 彰 水本 豪
出版者
日本言語聴覚士協会
巻号頁・発行日
pp.96-106, 2017-06-15

濁音,半濁音,拗音を表す仮名文字の書字障害を認めた失語症例に対して,キーワードを用いた書字訓練を行った.本症例は漢字の形態想起が困難であったため,仮名単語をキーワードとして用いた.キーワードの語彙特性として,親密度,表記妥当性,および心像性が高い単語を選択した.訓練方法としては,言語聴覚士が1モーラを音声呈示し,症例が呈示された音声をもとにキーワードの音韻列,仮名文字列を想起したうえで,1モーラに対応する仮名文字を書字した.訓練は,ABABデザインによる単一事例実験計画に基づき有効性が認められた.最大13日間という短い訓練期間で濁音,半濁音,拗音表記のすべての仮名文字が書字可能となり,訓練経過後1年半においても仮名書字が実用的であったため訓練効果は維持されていると思われた.