著者
藤原 正寛 瀧澤 弘和 池田 信夫 池尾 和人 柳川 範之 堀 宣昭 川越 敏司 石原 秀彦
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

本研究ではインターネットに代表される情報化技術の進展が経済的取引のガバナンスにどのような影響を与えるのかを、近年発展してきた経済学的手法(情報の経済学、組織の経済学、メカニズム・デザイン論、ゲーム理論など)を用いて分析することを目的としている。全研究期間を通じ研究会を開催することで、情報技術の進展と拡大がどのような経路をたどって、どのような形で経済活動や経済組織に影響を与えるかについて以下のいくつかの論点に分類して分析することができた。1.情報化革命とコーポレートガバナンス--情報化技術が進展することによって、情報量の爆発、経済のスピード化、グローバル化などの現象が発生し、それによって従来とはことなるガバナンス構造を持つ経済組織が活動できるようになった。2.アーキテクチャーとモジュール化--公開されたアーキテクチャーに基づいてインターフェイスを標準化することで、各分業をモジュール化することが可能になる。それによって、分業間の取引に市場原理が導入され、より分権的な分業が可能になる。3.モジュール化とオープン化--モジュール化はバンドリングやカプセル化の総称、オープン化はインターフェイスの共通化の動きを表す。カプセル化はアーキテクチャーを所与としたときに内生的に説明できることが示された。4.ディジタル化--財・サービスのディジタル化が進むことで、複製を作ることが容易になり、財・サービスを提供する初期費用が回収できないために、事前のインセンティブと事後の効率化が矛盾してしまっている。5.コーディネーションの電子化--情報技術の進歩はプログラムによるコーディネーションを可能にさせた。
著者
吉野 直行 深尾 光洋 池尾 和人 中島 隆信 津谷 典子 木村 福成 古田 和子 竹森 俊平 和気 洋子 嘉治 佐保子 友部 謙一
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別推進研究(COE)
巻号頁・発行日
1999

1997年に発生したアジア通貨危機は、資本自由化・為替制度・コーポレートガバナンスなど、さまざまな問題に起因している。本研究では、最終年度において、通貨危機に対する各国の対応(資本流出規制)の効果について、理論的・実証的な分析を行い、輸出入依存度の高い経済においては、資本規制も短期的には有効であることが導出された。為替制度のあり方についても、日本の経験、通貨危機の影響を踏まえ、中国の(実質的な)固定相場制をどのように変更することが望ましいか、アジアの共通通貨のベネフィットに関する議論もまとめることが出来た。また、バブルを発生させた各国の銀行行動の分析では、(i)金融機関の数(オーバーバンキング)、(ii)担保価値への影響を与える地価の変動、(iii)経営能力とガバナンス、(iv)地域経済の疲弊などの要因を、クラスター分析で導出した。アジア各国への日系企業の進出では、工業団地の役割について、現地調査を含めた分析をまとめた。日系企業の進出の立地として、労働の質、市場としての魅力を背景とした立地が多いことも、調査により明らかとなった。日本からの企業進出は多いが、海外から日本国内への直接投資は非常に少ない。地価・賃料の高さ、労働賃金の高さ、通信コストの高さなど、アジアにおける日本の劣位も明らかにされた。歴史パートでは、人口成長率の違いが経済発展に与える効果を、タイ・日本について比較分析を行った。COE研究における5年間の研究成果は、海外との研究協力や、海外のジャーナルへの論文発表、国内・海外の学会での発表、国内外での書籍の出版などを通じて、発信することができた。こうした研究成果を基礎に、アジアとの結びつきが重視されている現状も踏まえ、さらに研究を発展させる所存である。
著者
池尾 和人
出版者
慶應義塾経済学会
雑誌
三田学会雑誌 (ISSN:00266760)
巻号頁・発行日
vol.109, no.3, pp.395-409, 2016-10

会長講演この講演の前半では, 日本におけるコーポレートガバナンス改革のこれまでの経緯を振り返った上で, そのこれからを展望する。2015年にコーポレートガバナンス・コードが策定されたことは, これまでの改革の大きな成果の一つだといえる。講演の後半では, 銀行のリスク・ガバナンス強化という課題をとりあげ, そのためのリスクアペタイト・フレームワークという考え方を紹介する。ガバナンス改革をめぐる課題は, 銀行についていうと三つである。すなわち, 執行と監視の分離による取締役会のモニタリング機能の強化, 内部監査機能の強化, それからリスクアペタイト・フレームワークの構築である。In the first half of this lecture, I survey the prospects of the corporate governance reform in Japan after having looked back on its past process. It can be said that it is one of big achievements of the former reform that Japan's corporate governance code was settled on in 2015. In the latter half of the lecture, I take up a problem as strengthening the risk governance of banks. Concerning the problem over the governance reform about banks, there are three challenges. Those are the enhancement of the monitoring function of the board of directors by the separation of the executives and the monitors, the strengthening of the internal audit function and the construction of the risk appetite framework.
著者
飯島 高雄 池尾 和人
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.6, pp.43-66, 2001-02-25

韓国の先進国へのキャッチアップ期にあたる1960-70年代に,韓国「財閥」は,経済合理性をもつものとして形成された。すなわち,先進国の経験が観察でき,国民経済の規模が小さく構造が単純な発展段階初期においては,政府が経済開発計画を策定し,政府要職と「財閥」オーナーの個人的関係によって,そのプロジェクトに対する信用供与の決定と監視が行われることには費用効率性が存在していた。こうした韓国「財閥」の財務構造上の特徴は,銀行借入(間接金融)中心の外部資金への著しく高い依存度にある。政府系金融機関や国有化された市中銀行からの政策金融による資金調達によって,「財閥」オーナーは,限られた出資にもかかわらず,支配権を維持することができ,株主と経営者の利害対立は存在しなかった。また,政府が主たる債権者となったことで,株主と債権者との利害対立の問題は解決された。しかし,1980-90年代には,経済発展の達成(先進国キャッチアップ完了)と外部環境変化によって,「財閥」という企業形態の経済合理性はかなりの程度失われた。同時に,政府による監視の有効性も低下してきており,支配株主と少数株主の間の利害対立や株主と債権者の間の利害対立が顕在化,深刻化するようになった。けれども,ピラミッド所有構造に加えた株式持ち合いによって,「財閥」オーナーの経営支配権は維持され続けている。特定の組織形態が存在意義を失い,社会的には転換あるいは消滅することが望ましくなったとしても,そうした組織再編成を従来の組織形態の担い手自らが行うことは,当事者の誘因を考えると実現困難であることが多い。韓国においても,「財閥」オーナー・政府の個別合理性の観点からは,改革の当事者である主体に改革の誘因は乏しく,それゆえ非効率化したシステムが継続される可能性は高いとみられる。