著者
小池 拓矢 杉本 興運 太田 慧 池田 真利子 飯塚 遼 磯野 巧
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.125-139, 2018 (Released:2018-04-13)

本研究は,東京大都市圏における若者のアニメに関連した観光・レジャーの実態と空間的な特徴を明らかにすることを目的とした。Web上で実施したアンケートからは,単にアニメに関連した観光・レジャーといっても,その活動の種類によって参加頻度が大きくことなることや,日常的に顔を合わせる友人だけでなく,オンライン上で知り合った友人とも一緒に観光・レジャーを行う層が一定数いることが明らかになった。さらに,アンケートの結果をもとに,来訪されやすいアニメショップや印象に残りやすいアニメの聖地の空間的特徴を概観した。秋葉原や池袋などのアニメショップが集積する場所として有名な場所だけでなく,新宿にもその集積がみられた。また,都心部にもアニメの聖地が数多くみられ,多くの若者が訪れていることが明らかとなった。
著者
池田 真利子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.91, no.4, pp.281-310, 2018 (Released:2022-09-28)
参考文献数
82
被引用文献数
1

本研究の目的は旧西ベルリン市インナーシティ,ノイケルン区ロイター街区におけるジェントリフィケーションの複合的過程を明らかにすることである.まず,ジェントリフィケーション指標モデルを援用し,機能・社会・構造・シンボルの各価値上昇を検証した.次に2000年代後半から増加した新利用(アート関連利用・新しい小売業・新しいサービス業)の地理的特徴や建造年代との関係性を明らかにした.また,新利用の事業主に対する聞取り調査からは,対象地域の商業環境の変化と要因を明らかにした.その結果,対象地域は初期に再活性化の様相を呈していたがジェントリフィケーションへと変容した点,シンボル的価値上昇がそのほかの価値上昇を誘発する点,中でもカフェ・バー,レストランのシーンガストロノミーがナイトライフ街区形成を促す点,それらが商業環境の変容に寄与する点から,ジェントリフィケーションにおいて文化・消費の役割が大きいことを示した.
著者
太田 慧 杉本 興運 上原 明 池田 真利子 飯塚 遼 磯野 巧 小池 拓矢
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.165-179, 2018 (Released:2018-04-13)
被引用文献数
3

近年,日本におけるクルーズ需要は高まっており,都市におけるナイトクルーズも都市観光におけるナイトライフの充実を図るうえで重要な観光アトラクションとなっている。本研究は,東京におけるナイトクルーズの一つとして東京湾納涼船をとりあげ,東京湾納涼船の歴史と運航システムを整理し,東京湾納涼船の集客戦略と若者の利用特性を明らかにした。1990年代以降の東京湾納涼船の乗船客数の減少に対して,2000年以降に若者をターゲットとした集客戦略の転換が図られ,ゆかたを着た乗船客への割引や若者向けの船内コンテンツが導入された。その結果,2014年以降の年間乗船客数は14万人を超えるまでに増加した。乗船客へのアンケート調査の結果,東京湾納涼船は大学生を中心とした若者にとって金銭的にも心理的にも乗船する際の障壁が低いことが明らかになった。つまり,安価で手軽に利用できる東京湾納涼船は学生を含む若者にナイトクルーズ利用の機会を増やしている。
著者
池田 真利子 卯田 卓矢 磯野 巧 杉本 興運 太田 慧 小池 拓矢 飯塚 遼
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.149-164, 2018 (Released:2018-04-13)
被引用文献数
4

東京五輪の開催(2020)に始まる都市観光活性化の動きのなかで,東京のナイトライフ研究への注目が高まりつつある。本研究は,東京の夜間経済や夜間観光の発展可能性を視野に,東京における若者向けのナイトライフ観光の特性を,夜間音楽観光資源であるクラブ・ライブハウスに注目することにより明らかにした。まず,クラブ・ライブハウスの法律・統計上の定義と実態とを整理し,次に後者に則した数値を基に地理的分布を明らかにした。その結果,これら施設は渋谷区・新宿区・港区に集中しており,とりわけ訪日観光という点では渋谷区・港区でナイトライフツアーや関連サービス業の発現がみられることがわかった。また,風営法改正(2016 年6 月)をうけ業界再編成が見込まれるなかで,渋谷区ではナイトライフ観光振興への動きも確認された。こうしたナイトライフ観光は,東京五輪に向けてより活発化していく可能性もある。
著者
飯塚 遼 太田 慧 池田 真利子 小池 拓矢 磯野 巧 杉本 興運
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.140-148, 2018 (Released:2018-04-13)

近年の世界的なクラフトビールブームのなか,ビールの消費量が減少している日本においてもクラフトビールの人気が高まりをみせている。とくにクラフトビールをテーマとしたイベントは全国各地で開催されるようになり,単なるプロモーションだけではなく,地域活性化の手段としても注目され始めている。また,それらのイベントは,ビール離れが進行しているとされる若者をも集客しており,若者のイベントとしての様相もみせている。本研究は,イベントの集積がみられる東京都を対象として,クラフトビールイベントの展開と若者のクラフトビール消費行動の関係性についてフード・ツーリズムの観点から一考察を試みるものである。そこでは,クラフトビールイベントを通じた若者の消費行動による新たなクラフトビール文化が形成され,その文化を背景とするオルタナティブな都市型フード・ツーリズムの形態が存立していることが示唆された。
著者
池田 真利子 坂本 優紀 中川 紗智 太田 慧 杉本 興運 卯田 卓矢
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.207-226, 2019 (Released:2020-03-25)
参考文献数
74

本稿は,隣接諸領域において長らく術語となってきた景観を夜との関係から考察することで,景観論に若干の考察を加えることを目的とする。景観の原語とされるラントシャフトは,自然科学分野にて紹介され,方法論的発展の必要と相まって視覚的・静態的・形態的に捉えられた。他方の人文学領域においては,景観・風景の使い分けがなされてきたが,1970年代の景観の有するモダニティに対する批判的検討以降も視覚的題材がその考察の主体であった。夜を光の不在で定義すると,人間が視覚で地表面を捉えることのできない夜の地域の姿が浮かび上がってくる。これは,視覚を頂点とするヒエラルキ−を再考することでもある。同時に夜に可視化される光と闇に,近代以降,人間は都市・自然らしさという意味を見出してもきた。それは,光で演出する行為であり,星空を見る行為でもある。現代はその双方が自然と都市に混在するのである。
著者
LAI SHANGYU 于 濰赫 池田 真利子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2023年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.233, 2023 (Released:2023-04-06)

日本統治時代を経験した台湾・韓国には,現在でも数多くの有形・無形の関連遺構が存在する。戦後,両地域の政府は戦後体制の確立のなか,日本統治時代の遺構の撤去・破壊を行った。一方で,1990年代にはこの撤去・破壊に対する市民運動が発生し,これを機に日本統治時代の遺構を文化財として認識する機運が高まり,以降,これらの遺構は「遺産化」されるようになった。また,2000年代以降の登録文化財制度の新設により,日本統治時代の遺構の文化財指定・登録は一層進み,工場や旧官僚社宅のような「大型の日本統治時代遺産」を中心に積極的な活用が行われるようになった。台湾ではイギリスの文化創造政策の影響を受けた「文化創意園区」が統治時代遺産で発展し(于・池田,2020),また群山・木浦・大邱等を例とし,韓国の地方都市では観光資源として積極的に活用される場合もある。これらの文化遺産を巡る視点は,双方の国の戦後体制において流動的に変化し,また1990年代の台湾本土化運動では台湾のアイデンティティの一部として受容され,新たに意味付けられる側面も確認される。 さて,日本統治時代遺産に関する文献や先行研究は複数あるが,これらは大型の日本統治時代遺産に注目したものが主体であり,また,地権者が民間・個人に帰属するため,保存・活用の難しい「リトルビルディング遺産」を扱った文化遺産学的研究はない。また,文化遺産を巡る視点が絶えず変化し,せめぎあうなかで,「リトルビルディング遺産」の利用者は,なぜ,どのような視点に基づき,どのようにそれらを利用しているのか等,関係主体へのヒアリング調査が極めて意味を有する一方で,台湾・韓国においてもこれらの研究は不足する。 したがって本稿の研究目的は,台湾・韓国における日本統治時代遺産を対象として,その形成背景と保存の経緯を概観するとともに,なかでも延べ面積が100坪以内であり,住宅用途以外で使用される「リトルビルディング遺産」に焦点を当て,利用の現状を明らかにすることである。 本研究は,文献調査(先行研究や報告書の現地入手),データベース作成(各文化省データベースのほか,書籍,Web情報),現地調査の順に行った。また現地調査では,計14件の半構造化インタビュー調査(所要時間40分~1時間程度)を行った。本研究対象地域は,いずれも旧日本人高級住宅街として形成された台北の旧御成町・旧幸町,およびソウルの厚岩洞(以下,旧三坂通)である。 本研究では,台湾,次に韓国で日本統治時代遺産の保存・活用の体制が整備されたこと,そしてこれらは大型の日本統治時代遺産に顕著であるのに対し,リトルビルディング遺産は民間において都市開発の回避や景観条例の制限等の結果,消極的かつ偶発的に残されていること,またこれらを使用する動機として日本統治時代の遺構であることは弱く,同様に流動的な対日感情がこれらの利用に影響を与えてはいないこと等が明らかとなった。論争的な側面を有する植民地遺産の一例は,保存・活用を自明のものと捉える態度に疑問を投げかける。他方で,これら有形の遺構は,日常的に使用されることで結果的に残され,過去の歴史的記憶の参照を可能とする。
著者
池田 真利子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

世界においてナイトライフ研究への注目が2010年代以降高まりつつある.地理学においても,イギリスの学術誌Urban Studiesで「都市の夜間に関する地理」(2014)が特集号として発表されるなど,都市間競争の苛烈化と24時間経済の覚醒を背景に,夜間時間Night timeと夜間経済Night-Time Economiesへの注目が増している.国内ではナイトライフを体系的に論じた従前の研究が少な,ナイトライフ観光がインバウンド・アウトバウンド観光双方において欧米系旅行者に特有のものと認識されてきたが,ナイトライフ空間の地理的特性や観光行動の具体性などは吟味されてこなかった.しかし近年では,日本人の若者の観光行動との関わりも顕著となりつつあり,観光のみならず,社会・経済的側面等からのアプローチも求められつつある.そこで本発表では,国内におけるナイトライフ研究の可能性を模索すべくナイトライフ観光に焦点を当て,それら資源の具体性や研究可能性を探る.こうした世界の都市における夜間経済への動きのなかで,東京では既にプレ・オリンピック,ポスト・オリンピックの文脈において,実社会で変化の兆しが窺える.前者はナイトライフ観光の資源化であり,後者は夜間経済への注目である.例えば東京都は2017年度初頭に発表した『PRIME観光都市・東京-東京都観光産業振興実行プラン』において,ナイトライフ観光推進の必要性を明文化した.後者は世界的な流れでもあるが,例えば2012年のオリンピック開催都市であるロンドンでは,金曜・土曜の夜間地下鉄Night Tubeの就航が2016年以降開始されるなど,特定の大都市においては夜間経済活性化の動きがみられる.日本でもナイトクラブ運営などに適用されていた法律である風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下,風営法)の改正(2016年6月23日施行)が,東京都港区・渋谷区を中心に活性化するなど,夜間経済の合法化への動きもみられる.こうした動きは,ポスト・オリンピックにおける変化の要因と成り得る「特定複合観光施設の整備の推進に関する法律」(2016年12月15日成立)を見据えた動きとしても理解できる.こうした状況において,渋谷区は伊藤園,観光協会および國學院大學との協働で2017年6月より「渋谷ナイトマップ」の配布を開始するなど,都内一部地域では観光資源化の動きが強まっている.同事業は先述した風営法改正1周年記念イベントとして行われた官民協働事業であり,ナイトライフを資源化した動きとしては国内初のものであるという<sup>2)</sup>.こうした動きの中で,夜間時間特有の観光形態や観光資源への注目が今後より一層,求められると推測される.
著者
池田 真利子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.164-185, 2016-09-30 (Released:2016-10-11)
参考文献数
60

本稿の目的は,EUおよびドイツにおける文化創造産業(以下,KKW)政策の策定経緯を注視しつつ,特に5州(N=W,ハンブルク,ブレーメン,ベルリン,ザクセン)のKKW産業構造と空間的特性をみることにより,ドイツのKKW政策の特徴を検討することにある.ドイツにおけるKKWは,経済危機時の経済的安定性や,欧州文化首都等,創造都市への国際的機運の高まりを背景に新しい産業としての認識が高まった.ドイツのKKW政策は,特に都市空間との関連性が顕著であり,都市経済および都市構造への影響と多分に関わると推測される.
著者
瞿 芳馨 池田 真利子
出版者
文化経済学会〈日本〉
雑誌
文化経済学 (ISSN:13441442)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.10-22, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
27

本稿の目的は、金沢市民芸術村を対象に施設での活動および市民ディレクターの実態を分析することにより、その現状および課題を解明する。金沢市民芸術村は地域内部での文化交流のための創造の場として形成され、市民ディレクターは工房の活性化に重要な役割を果たす存在である。しかし,創造の場の持続にあたり、管理者側の役割不足、ディレクターの力の限界と、内部空間の分断、外部ネットワークの欠如など問題が明らかになった。
著者
池田 真利子
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.145-164, 2018 (Released:2019-03-31)
参考文献数
11
被引用文献数
5
著者
太田 慧 池田 真利子 飯塚 遼
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2018, 2018

<b>1</b><b>.</b><b>研究背景と目的</b><br><br> ナイトライフ観光は,ポスト工業都市における都市経済の発展や都市アメニティの充足と密接に関わり,都市変容を生み出す原動力としても機能し得るという側面から2000年代以降注目を浴びてきた(Hollands and Chatterton 2003).この世界的潮流は,創造産業や都市の創造性に係る都市間競争を背景に2010年代以降加速しつつあり,東京では,東京五輪開催(2020)やIR推進法の整備(2016),およびMICE観光振興を視野に,区の観光振興政策と協働する形で,ナイトライフ観光のもつ経済的潜在力に注目が向けられ始めている(池田 2017).このようなナイトライフ観光の経済的潜在能力は,近年ナイトタイムエコノミーと総称され,新たな夜間の観光市場として国内外で注目を集めている(木曽2017).本研究では,日本において最も観光市場が活発である東京を事例として,ナイトタイムエコノミー利用の事例(音楽・クルーズ・クラフトビール)を整理するとともに,東京湾に展開されるナイトクルーズの一つである東京湾納涼船の利用実態をもとにナイトライフ観光の若者の利用特性について検討することを目的とする.<br><br><b>2</b><b>.東京湾納涼船にみる若者のナイトライフ観光の利用特性</b><br><br>東京湾納涼船は,東京と伊豆諸島方面を結ぶ大型貨客船の竹芝埠頭への停泊時間を利用して東京湾を周遊する約2時間のナイトクルーズを展開している,いわばナイトタイムの「遊休利用」である.アンケート調査は2017年8月に実施し,無作為に抽出した回答者から117件の回答を得た.回答者の87.2%に該当する102人が18~35歳未満の若者となっており,東京湾納涼船が若者の支持を集めていることが示された.職業については,大学生が50.4%,大学院生が4.3%,専門学校生が0.9%,会社員が39.3%,無職が1.7%,無回答が2.6%となっており,大学生と大学院生で回答者の半数以上が占められていた.図1は東京湾納涼船の乗船客の居住地を職業別に示したものである。これによれば,会社員と比較して学生(大学生,大学院生,専門学校生も含む)の居住地は多摩地域を含むと東京西部から神奈川県の北部まで広がっている.また,18~34歳までの若者の83.9%(73件)がゆかたを着用して乗船すると乗船料が割引になる「ゆかた割引」を利用しており,これには18~34歳までの女性の回答者のうちの89.7%(52件)が該当した.つまり,若者の乗船客の多くはゆかたを着て「変身」することによる非日常の体験を重視しており,東京湾納涼船における「ゆかた割」はこうした若者の需要をとらえたものといえる.以上のように,東京湾納涼船は大学生を中心とした若者にとってナイトライフ観光の一つとして定着している.
著者
太田 慧 杉本 興運 上原 明 池田 真利子 飯塚 遼 磯野 巧 小池 拓矢
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.165-179, 2018

近年,日本におけるクルーズ需要は高まっており,都市におけるナイトクルーズも都市観光におけるナイトライフの充実を図るうえで重要な観光アトラクションとなっている。本研究は,東京におけるナイトクルーズの一つとして東京湾納涼船をとりあげ,東京湾納涼船の歴史と運航システムを整理し,東京湾納涼船の集客戦略と若者の利用特性を明らかにした。1990年代以降の東京湾納涼船の乗船客数の減少に対して,2000年以降に若者をターゲットとした集客戦略の転換が図られ,ゆかたを着た乗船客への割引や若者向けの船内コンテンツが導入された。その結果,2014年以降の年間乗船客数は14万人を超えるまでに増加した。乗船客へのアンケート調査の結果,東京湾納涼船は大学生を中心とした若者にとって金銭的にも心理的にも乗船する際の障壁が低いことが明らかになった。つまり,安価で手軽に利用できる東京湾納涼船は学生を含む若者にナイトクルーズ利用の機会を増やしている。
著者
池田 真利子 卯田 卓矢 磯野 巧 杉本 興運 太田 慧 小池 拓矢 飯塚 遼
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.149-164, 2018

東京五輪の開催(2020)に始まる都市観光活性化の動きのなかで,東京のナイトライフ研究への注目が高まりつつある。本研究は,東京の夜間経済や夜間観光の発展可能性を視野に,東京における若者向けのナイトライフ観光の特性を,夜間音楽観光資源であるクラブ・ライブハウスに注目することにより明らかにした。まず,クラブ・ライブハウスの法律・統計上の定義と実態とを整理し,次に後者に則した数値を基に地理的分布を明らかにした。その結果,これら施設は渋谷区・新宿区・港区に集中しており,とりわけ訪日観光という点では渋谷区・港区でナイトライフツアーや関連サービス業の発現がみられることがわかった。また,風営法改正(2016 年6 月)をうけ業界再編成が見込まれるなかで,渋谷区ではナイトライフ観光振興への動きも確認された。こうしたナイトライフ観光は,東京五輪に向けてより活発化していく可能性もある。
著者
金 延景 中川 紗智 池田 真利子
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.247-262, 2019 (Released:2020-03-25)
参考文献数
33
被引用文献数
1

本稿は,東京都新宿区大久保コリアタウンにおけるエスニック空間の夜の性質を,夜間営業施設の利用特性の分析から検討した。大久保コリアタウンの夜間営業施設からは,昼間-夜間と,夕方-深夜-早朝の時間帯において,エスニック集団の実生活に依拠した本質的なエスニシティと,ホスト社会に期待される観光資源としてのエスニシティそれぞれの様相と遷移が看取できた。また,夜の大久保コリアタウンは,昼間の領域性を薄め,歌舞伎町との連続性を強めて再構築されると考えられる。この大久保コリアタウンの領域性の再構築は,形成初期より歌舞伎町の遊興空間と深く結びつき存在してきたエスニック・テリトリ−がホスト社会の管理により縮小されながらも,韓流ブ−ムに起因する大久保側の観光地化と,第二次韓流ブ−ムによりもたらされた夜間需要の拡大といった外的要因により,そのエスニシティの境界が維持された結果と理解される。さらに,この領域性を歌舞伎町と大久保コリアタウンの境界域として捉えるならば,日本の盛り場的要素と韓国のエスニシティが交差した新たな文化的アイデンティティを有する「第3の空間」として新宿の夜の繁華街を構成し,その新たな都市文化の創造に寄与しているといえよう。
著者
池田 真利子
出版者
地理空間学会
雑誌
地理空間 (ISSN:18829872)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.67-84, 2017

東京五輪開催(2020)に始まる都市観光活性化の動きのなか,ナイトライフ観光への注目が高まりつつある。本研究は,プレ五輪,ポスト五輪における東京の夜間経済や夜間観光の発展可能性を視野に,世界のナイトライフ研究・ナイトライフ観光研究の動向とその具体性に関して展望を行った。その結果,同研究は2010年代以降増加しつつあるが, アジア圏と欧米圏とでナイトライフの語義が異なり,前者はより広義であるのに対し,後者ではナイトクラブやバーといった特定の観光資源を意味する点,また飲酒やパーティ等の観光行動と結び付くため若者集団に特徴的な観光形態として広く認知されている点,観光地域により観光形態は個人・ツアー観光など多様である点等が明らかとなった。プレ五輪における風営法改正や,ポスト五輪のMICE観光振興・IR推進法成立の背景には観光を巡る都市間競争の熾烈化も窺え,東京のナイトライフ観光は今後より一層変化を遂げる可能性がある。
著者
坂本 優紀 池田 真利子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2020, 2020

<p>1.研究背景と目的</p><p></p><p> 観光庁の政策と関連し,東日本大震災後よりインバウンド観光客数が増加していることは周知の事実である.2020年にはインバウンド観光客数4,000万人を目標に掲げ,また国内旅行消費額における同割合が2019年で17%に達している現状を考慮すると,観光産業における比重は大きい(矢ケ崎2020).こうしたインバウンド観光客を対象に,近年,観光庁が積極的に取り組んできたのが夜間経済支援事業である.「夜間帯を活用した観光コンテンツの造成」(2020年3月)では全国13事業体の取り組みが報告されたが,その多くは東京を中心とした都市部で実施されている.夜間経済に関しては都市部と地方部の格差が指摘されており(池田2017),こうした事業が今後さらに地方部へと拡大していくことが期待される.そこで本発表では,現在までの観光動態を踏まえつつ,地方部におけるインバウンド観光客の動向を夜間経済の実態とともに捉えることを目的とする.その際,インバウンド観光客増加に伴う地方の経済再編の鍵としての音楽に着目する.</p><p></p><p>2.インバウンド観光客の動向</p><p></p><p> 2019年の都道府県別インバウンド観光客の割合を日本政府観光局統計資料で確認すると,東京都(28%),大阪(16%)と都市圏が多い.一方,三大都市圏を除いて集計すると,北海道(24%),沖縄県(16%),福岡県(11%)と続く.観光客の国籍別割合ではアジア地域が多く,それ以外はアメリカとオーストラリアからの観光客が多い.国内の訪問地域は国籍別に異なる傾向を示しており,本発表で注目するオーストラリア人観光客は,北海道(32%)と長野県(15%)が多い.北海道と長野県が上位となる理由として,冬季のウィンタースポーツ需要がある.彼らは,冬季のみ来日し,スキー場周辺で長期滞在することから,スキーやスノーボードを楽しむだけでなく,アプレスキー(スキー後の観光アクティビティ)としてナイトライフも重要視する傾向がある.特に冬季にオーストラリア人観光客が来訪する地域では,海外地域と同様に夜の飲食店が集積し,音楽関連施設(クラブおよびライブバー)の立地もみられる.他方で,ウィンタースポーツの特性と併せて,地方の夜の観光コンテンツは季節性の高いものが多く,ホスト社会である地域社会との関係性において検討の余地がある.</p><p></p><p>3.白馬村における夜間経済と音楽</p><p></p><p>白馬村資料によると,2019年の村内外国人旅行者延宿泊数は約28万人であり,国別ではオーストリアが約60%と過半数を占める.月別では1月(41.7%),2月(34.4%),3月(8.7%),12月(7.5%)と,年間旅行者数の92.3%が冬季に集中する.特にオーストラリア出身者の訪問は2005以降に顕著に増加した.白馬村のクラブやライブバーは,オーストラリア人観光客の訪問を機に始まったと考えられ,リゾート開発された「エコーランド」およびその周辺に分散して立地する.そこで,本シンポジウムでは,現地・オンライン調査に基づき,クラブやライブバー等の音楽関連施設の立地状況や営業形態を報告し,白馬村のゲスト社会においてそのインフラが支えられる夜間経済の実態を通常であれば旅行者数が大幅に減少する夏季の運営状況とともに報告する.目下,COVID19により冬季観光の先行きが不透明ななか,ホスト社会の観光ディスティネーションとしての重要な意味を担っていたウィンターリゾートが地域としてどのような戦略を取るのか,あるいは音楽を通して地域が日本人および外国人社会といかに関連し,新しい経済を形作るのか,当日はフィールド調査と事例報告に基づきながら既存の枠に囚われずに議論を展開する。</p><p></p><p>文献</p><p></p><p>池田真利子2017.世界におけるナイトライフ研究の動向と日本における研究の発展性.地理空間10(2):67-84.</p><p>矢ケ崎紀子2020.訪日外国人旅行の意義・動向・課題.国際交通安全学会誌45(1):6-17.</p>