著者
清川 泰志 武内 ゆかり
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.10, pp.681-688, 2015-09-20 (Released:2016-09-20)
参考文献数
32

多くの哺乳類は非常に発達した嗅覚をもち,嗅覚を利用して仲間とコミュニケーションをとっていることは古くから知られていた.1991年に,後にノーベル賞が授けられることになった嗅覚受容体の同定が報告されて以来,嗅覚に対する理解は飛躍的に深まり,またその知識を背景として嗅覚を介するコミュニケーションに関しても研究が大いに進展した.その結果,さまざまな不揮発性物質が「フェロモン」としてコミュニケーションに利用されていることが明らかとなったが,揮発性物質を介したコミュニケーションに関する理解は進んでいなかった.本稿では,哺乳類における嗅覚系やフェロモンに関して説明するとともに,筆者らが近年同定したヤギとラットの揮発性フェロモンを紹介する.
著者
清川 泰志
出版者
東京大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2010

本年度に得られた成果の概要は以下の通りである1.警報フェロモン候補分子の絞り込み及び同定これまでの研究により確立した方法を用いて警報フェロモンを多数匹のドナーラットから放出させ、それを吸着剤(Tenax)に捕捉し、含まれる成分を3つに分画したところ、そのうち1つの画分においてのみフェロモン活性を有することが明らかとなった。次にその画分に含まれるメジャーピーク物質を全て揃えることで合成ブレンドサンプルを作製し、そのフェロモン活性を生物検定法により判定したところ、フェロモン活性は認められなかったため、警報フェロモン分子はマイナーピーク物質であることが明らかとなった。そのため上記画分をさらに3つに分画したところ、そのうちの1つにのみフェロモン活性が認められることが明らかとなった。現在、この画分に含まれている物質を分析しているところである。2.安寧フェロモン解析のための実験系の改良前年度に確立した安寧フェロモン評価系を用いて、安寧フェロモンに対する理解を深める目的で実験を行った。主嗅覚系で受容された安寧フェロモン情報は前嗅核へと伝達されることが示唆されているが、その後フェロモン情報が扁桃体へと機能的に伝達されているかは不明であった。そのため、前嗅核と扁桃体を非対称的に破壊することでこの問題を検討したところ、安寧フェロモン情報は前嗅核から同側の扁桃体へと機能的に伝達されることが明らかとなった。またトレーサーを用いることで、前嗅核が主嗅球からフェロモン情報を受け取っていることを解剖学的にも確認した。現在は、パートナー由来の匂い物質のみを提示することでこれまでと同様の現象を引き起こすことが可能であるかを検討することで、安寧フェロモン同定の基礎となる実験系を整備しているところである。