著者
大谷 多加志 清水 里美 郷間 英世 大久保 純一郎 清水 寛之
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.12-23, 2017 (Released:2019-03-20)
参考文献数
33

本研究の目的は,発達評価における絵並べ課題の有用性を検討することである。44月(3歳8ヵ月)から107月(8歳11ヵ月)の幼児および学童児349人を対象に,独自に作成した4種類の絵並べ課題を実施し,各課題の年齢区分別正答率を調べた。本研究では絵並べ課題のストーリーの内容に注目し,Baron-Cohen, Leslie, and Frith(1986)が用いた課題を参考に,4種類の絵並べ課題を作成した。課題は,ストーリーの内容によって「機械的系列」,「行動的系列」,「意図的系列」の3つのカテゴリーに分類され,最も容易な「機械的系列」の課題によって絵並べ課題の課題要求が理解可能になる年齢を調べ,次に,人の行為や意図に関する理解が必要な「行動的系列」や「意図的系列」がそれぞれ何歳頃に達成可能になるのかを調べた。本研究の結果,全ての課題において3歳から7歳までに正答率が0%から100%近くまで推移し,機械的系列は4歳半頃,行動的系列は5歳後半,意図的系列は6歳半頃に達成可能になることがわかった。また課題間には明確な難易度の差があり,絵並べ課題のストーリーの内容によって課題を解決するために必要とされる知的能力が異なることが示唆され,適切なカテゴリー設定を行うことで絵並べ課題を発達評価に利用できる可能性が示された。
著者
堤 聖月 清水 寛之
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
pp.91.19325, (Released:2020-09-15)
参考文献数
20

In this study, the prospect that people will forget life events they have experienced is referred to as “worry of forgetting,” which is considered to be associated with some intention and emotion. In Study 1, we developed the Worry of Forgetting Questionnaire and examined its reliability and validity.An exploratory factor analysis revealed that worry of forgetting consisted of a single factor. The validity of the scale was examined by correlations with the Thinking About Life Experiences Scale, the Autobiographical Reasoning Scale, and the Identity Scale. In Study 2, we investigated the relationship between worry of forgetting and characteristics of remembered events. Participants answered a questionnaire relating to characteristics of remembered autobiographical memories and worry of forgetting, in the context of events experienced during their time in high school. Furthermore, the analysis revealed that the more positive and important a participant’s recalled events, the stronger their demonstrated worry of forgetting. These and other results are discussed mainly in terms of autobiographical reasoning and, in particular, reflective thinking that connected past experiences to the self.
著者
大谷 多加志 清水 里美 郷間 英世 大久保 純一郎 清水 寛之
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.142-152, 2019 (Released:2021-09-30)
参考文献数
17

じゃんけんは日常生活の中で,偶発的な結果に基づいて何らかの決定や選択を得るための一つの手段として広く用いられている。本研究は,子どもがどのような発達過程を経て,じゃんけん課題の遂行の基礎にある認知機能を獲得していくかを「三すくみ構造」の理解に関連づけて検討することを目的とした。対象者は,生後12ヵ月(1歳0ヵ月)超から84ヵ月(7歳0ヵ月)未満の幼児と児童569名であった。本研究におけるじゃんけん課題は,じゃんけんの「三すくみ構造」をもとに「手の形の理解課題」,「勝ち判断課題」,「負け判断課題」の3種類の下位課題から構成された。また,じゃんけん課題の成否と子どもの発達水準との関連を調べるために,対象者全員に『新版K式発達検査2001』が併せて実施された。本研究の結果,「手の形の理解課題」は2歳7ヵ月頃,「勝ち判断課題」は4歳9ヵ月頃,「負け判断課題」は5歳4ヵ月頃に平均的に達成されていくことが明らかとなった。また,「手の形の理解課題」,「勝ち判断課題」,「負け判断課題」の3種類のじゃんけん課題の成否および反応内容から評価したじゃんけんに関する知識や技能の獲得の段階(5段階)と『新版K式発達検査2001』の発達年齢との間で統計的に有意な相関が認められた。よって,本研究のじゃんけん課題は子どものじゃんけんの理解の段階を評価し,幼児の発達水準を査定するために有用であると考えられる。
著者
堤 聖月 清水 寛之
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.91, no.5, pp.332-338, 2020 (Released:2020-12-25)
参考文献数
20

In this study, the prospect that people will forget life events they have experienced is referred to as “worry of forgetting,” which is considered to be associated with some intention and emotion. In Study 1, we developed the Worry of Forgetting Questionnaire and examined its reliability and validity.An exploratory factor analysis revealed that worry of forgetting consisted of a single factor. The validity of the scale was examined by correlations with the Thinking About Life Experiences Scale, the Autobiographical Reasoning Scale, and the Identity Scale. In Study 2, we investigated the relationship between worry of forgetting and characteristics of remembered events. Participants answered a questionnaire relating to characteristics of remembered autobiographical memories and worry of forgetting, in the context of events experienced during their time in high school. Furthermore, the analysis revealed that the more positive and important a participant’s recalled events, the stronger their demonstrated worry of forgetting. These and other results are discussed mainly in terms of autobiographical reasoning and, in particular, reflective thinking that connected past experiences to the self.
著者
長谷川 千洋 清水 寛之
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第12回大会
巻号頁・発行日
pp.141, 2014 (Released:2014-10-05)

人名想起時に生じる「のどまで出かかっているのに出てこない現象(tip-of-the-tongue phenomenon)」(TOT)は,日常的に観察される現象である。本研究は大学生を対象に日本の有名人に対するTOTの特徴について調査し,TOT解消方略との関係について検討した。調査参加に同意した大学生549名に対し30人の有名人物(歴史上の有名人物15名,現在の有名人物15名)の氏名の想起を求める質問紙調査を実施し,視覚イメージ,既知感,文字情報,音韻情報の有無について回答を求め,また,個人の特性傾向として,TOT現象に対する感受性や不快感の程度,TOTの解消方略についても調べた。結果,人名に対するTOT現象は、歴史上,現在の有名人物ともに同様に生起しており,人名の想起されやすさと視覚的イメージの鮮明さ及び音韻・文字情報との関連性に比べ、TOT現象の発生率は比較的一定に保たれている可能性が示唆された。また,TOTが増えれば,能動的なTOT解消方略を用いる傾向が高くなる可能性が考えられた。
著者
清水 寛之 金城 光
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.13-21, 2015-08-31 (Released:2016-02-16)
参考文献数
44

本研究の目的は,日常記憶質問紙(the Everyday Memory Questionnaire, EMQ)を用いて,成人期における日常記憶の自己評価に関する発達的変化を明らかにすることである.299名の一般成人(19~25歳の若齢者99名,38~55歳の中年者97名,63~75歳の高齢者103名)が本調査に参加し,日常生活における記憶活動の忘却や記憶失敗に関する28項目についての発生頻度を“最近6カ月で1回もない”から“日に1回以上”までの9件法で評定した.先行研究(清水・高橋・齊藤,2006, 2007など)によるEMQの因子構造に基づいて全項目を五つの下位項目群に分類したうえで項目群ごとに各年齢群の評定値を比較したところ,その発達的変化は(a)若齢者=中年者=高齢者,(b)若齢者>中年者>高齢者,(c)若齢者=中年者>高齢者,(d)若齢者>中年者=高齢者,(e)若齢者>高齢者,の五つのパターンに分かれた.日常記憶の自己評価は成人期に自己の記憶能力に対して悲観的な見方から楽観的な見方へと段階的に移行していくことが示唆された.
著者
清水 寛之 金城 光
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.13-21, 2015

本研究の目的は,日常記憶質問紙(the Everyday Memory Questionnaire, EMQ)を用いて,成人期における日常記憶の自己評価に関する発達的変化を明らかにすることである.299名の一般成人(1925歳の若齢者99名,3855歳の中年者97名,6375歳の高齢者103名)が本調査に参加し,日常生活における記憶活動の忘却や記憶失敗に関する28項目についての発生頻度を"最近6カ月で1回もない"から"日に1回以上"までの9件法で評定した.先行研究(清水・高橋・齊藤,2006, 2007など)によるEMQの因子構造に基づいて全項目を五つの下位項目群に分類したうえで項目群ごとに各年齢群の評定値を比較したところ,その発達的変化は(a)若齢者=中年者=高齢者,(b)若齢者>中年者>高齢者,(c)若齢者=中年者>高齢者,(d)若齢者>中年者=高齢者,(e)若齢者>高齢者,の五つのパターンに分かれた.日常記憶の自己評価は成人期に自己の記憶能力に対して悲観的な見方から楽観的な見方へと段階的に移行していくことが示唆された.
著者
金城 光 清水 寛之
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.83, no.5, pp.419-429, 2012
被引用文献数
4

This study examined and compared beliefs about the ability to remember of three groups of adults: 99 young, 97 middle-aged, and 104 older adults. The beliefs were assessed by asking participants to indicate the expected trajectory over the lifespan on a graphic rating scale, the General Beliefs about Memory Instrument (GBMI) (Lineweaver & Hertzog, 1998). The results showed the following. Although all age groups expect a decline in the ability to remember with age with the peak around 20─30 years old, older adults perceive an age-related sharp decline later in life than the other age groups do. All age groups perceive that remembering names is more affected by age than any other memory abilities. The trajectory of age decline in remembering in general coincides with that in remembering trivia. All age groups believe that the ability to remember at the age of 10 is as good as at the age of 40. All age groups responded to the scales based mainly on the abilities based on their experiences.
著者
清水 寛之 湯浅 万紀子
出版者
北海道大学 高等教育推進機構 高等教育研究部 科学技術コミュニケーション教育研究部門(CoSTEP)
雑誌
科学技術コミュニケーション (ISSN:18818390)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.19-30, 2012-12

The purpose of the present study is to clarify the characteristics of long-term memories of visitors' experiences in science museums. A total of 812 adults (293 staffs of science museums, 421 undergraduate and graduate students, and 98 elderly adults), who had experiences of visits to science museums, participated in this study. The participants were asked to rate the actual long-term memories of the museums in a questionnaire including the Memory Characteristics Questionnaire (MCQ) consisting of the original 38 items and an item relating to the direct influence of the experience on the participants. The data of 692 participants (198 museum staffs, 413 students, and 81 elderly adults), out of the total, were performed with a factor analysis. It was found that the MCQ items were composed by five factors: (1) clarity, (2) meaningful interpretation, (3) sensory experiences, (4) temporal information and (5) feeling. The differential rating patterns for each factor in the three participant groups based on this factor structure of the MCQ were mainly discussed in terms of personal implication or reinterpretation of specific experiences of long-term memories. Based on these results, several practical implications were suggested from the viewpoint of museum evaluation.
著者
秋山 学 清水 寛之
出版者
The Japanese Society for Cognitive Psychology
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.67-79, 2012
被引用文献数
3

本研究は,若齢者および高齢者における購買に関する自伝的記憶の特性を,記憶特性質問紙(MCQ)の質問項目を含む質問紙を用いて検討した.調査参加者はそれぞれの自伝的記憶のなかから購買に関するもっとも深く記憶に残っている印象的な出来事を一つ選んだ.そうした出来事の記憶特性は,主として調査参加者の年齢や保持期間の長さに関連して検討された.若齢者として大学生394名(18~27歳),高齢者として高齢者大学の学生207名(55~87歳)による質問紙データが分析された.その結果,もっとも深く印象に残っている購買の記憶は,若齢者では最近の数年以内に起きた出来事が多く想起された.高齢者は必ずしもレミニセンス・バンプ(10~30歳の頃に経験した出来事が想起されやすいという現象)を示すわけではないことが示された.さらに,ポジティブであると認識される出来事は若齢者でも高齢者でもより多く想起された.したがって,高齢者におけるポジティブ優位性効果は認められなかった.このような調査結果は,Conway (2005)による自己記憶システム理論およびCarstensen (2006)による社会情動的選択性理論との関連において解釈された.
著者
佐藤 浩一 清水 寛之
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.13-27, 2012

本研究の目的は,自伝的推論に関連して,長期にわたる保持期間を伴う記憶の特性を明らかにすることである.大学生315名,現職教員166名,高齢者160名のあわせて641名の調査協力者に対して,中学時代の教師とのコミュニケーションに関連する記憶を想起させ,自伝的推論ならびに記憶特性を問う45項目(記憶特性質問紙MCQの38項目を含む)への評定を求めた.教職志望の強い大学生は,その出来事と現在の自己を結びつけたり,その経験を参照点としてとらえたりする自伝的推論を活発に行い,そうした記憶を鮮明で詳細に想起していた.また世代が上の人のほうが自伝的推論が活発であり,かつ出来事をより鮮明に想起していた.肯定的な出来事は否的的な出来事よりも,活発な自伝的推論を引き起こしていた.これらの結果は自伝的推論における加齢および感情の側面と関連づけて議論された.日常的な出来事に対する自伝的推論を検討することの意義が論じられた.