著者
湯淺 墾道
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策研究 (ISSN:24336254)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.73-90, 2018-12-28 (Released:2019-04-03)

個人情報やプライバシーのような個人の権利利益、企業の知的財産や営業秘密その他の経済的利益に係わる情報、地方公共団体や政府等の一般に情報公開することができない情報、安全保障や外交に関係する秘密情報その他、一般にサイバー攻撃によって窃取の対象となるとされる情報は、不正アクセス禁止法、個人情報保護法、プライバシー保護法制、営業秘密に関する法律その他によって保護されている。しかし民主主義の基礎となっている理念、原理、制度の存立がサイバー攻撃やサイバー空間の悪意をもった利活用によって脅かされる恐れがあり、それにどのように法的対処することが可能であるかという点の議論は、活発とは言い難い。さらに、人工知能(AI)に関する各種技術の急速な実用化によって、人工知能がインターネットを介して民主主義を支える各種の制度に「介入」する危険性も、現実化している。そこで本稿では、特に民主主義を支える選挙に焦点を当て、選挙へのサイバー攻撃とサイバー空間の悪意をもった利活用の段階について先行研究の紹介と段階の整理を行う。次に、政府がどのように対応するべきかについて、アメリカとEUの例を参照する。アメリカ政府は、外交的対抗、経済的対抗、技術的対抗という3つの対抗手段を講じている。もっとも、外交官追放等の外交的手段や口座凍結等による制裁では不十分であるとして、プロ・アクティブ、アクティブ・サイバー・ディフェンスのような積極的な技術的対抗手段の実行を主張する議論も存在する。また国土安全保障省は、選挙インフラを重要インフラの一つとして指定した。EUは、選挙へのサイバー攻撃が2016年アメリカ大統領選挙において顕在化した後、選挙をサイバーセキュリティの重要な政策領域として位置づけるようになった。フェイクニュース対策は、デジタル単一市場創設という政策領域の一分野として位置づけられ、SNSを利用した世論誘導については表現の自由という基本的人権の侵害であると捉えられている。2018年1月にはフェイクニュース及び虚偽情報流布に関する有識者会合が設置され、4月に公表された最終報告書では「多元的な対応」が提案された。EUは特に世論を誘導する情報を媒介するプラットフォーマーに焦点を当てており、2018年7月までに共通の行動規範を策定して遵守することを求めた。これらを参照して、日本において理念・原理・制度を守るためのサイバーセキュリティ法制のあり方とその限界についての検討を試みることにしたい。
著者
湯淺 墾道
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.51-61, 2009 (Released:2017-02-06)

選挙権の性質については憲法学界において論争が続いているが,被選挙権の性質についての議論は少ない。しかし近時,多選制限と関連して被選挙権は憲法上の権利ではないとする見解が明らかにされたことを契機に,あらためて被選挙権の性質が問われている。従来の通説では被選挙権は選挙によって議員その他に就き得るための資格,選挙人団によって選定されたときこれを承諾し公務員となりうる資格であるとされたが,昭和43年の大法廷判決などに触発され,被選挙権の憲法上の権利性を肯定する学説も増えている。被選挙権の憲法上の権利性を認めるとすれば,選挙権の中に含まれていると見るべきであり,選挙権の公務性(一定の公共的性質)から説明できる。
著者
湯淺 墾道
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.58, no.12, pp.1066-1067, 2017-11-15

2016年のアメリカ大統領選挙において,大統領選挙関係者へのサイバー攻撃,SNSを利用したフェイクニュースの流通などによってロシア政府が大統領選挙に介入していたという疑惑がある.FacebookやTwitter上にはロシア関係者がアメリカ人を装って作成したページ・アカウントが多数存在し,ロシアが背後にいるとみられる組織が,大統領選の前後に,銃規制,同性婚,人種問題や移民などアメリカ社会の分断をあおるようなテーマに関し約3000種類の政治広告をFacebook上に掲載していた疑いがある.本稿は,これらのSNSを利用した世論誘導による大統領選挙への干渉疑惑の動向について解説する.
著者
大西 裕 品田 裕 曽我 謙悟 藤村 直史 高橋 百合子 稲継 裕昭 遠藤 貢 川中 豪 浅羽 祐樹 河村 和徳 仙石 学 福島 淑彦 玉井 亮子 建林 正彦 松本 俊太 湯淺 墾道
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究は、選挙ガバナンスが民主政治に与える影響を、比較政治学的に解明しようとするものである。本研究は、国際比較と日本国内の自治体間比較を通じて、選挙管理という研究上の大きな空白を埋める。調査結果、常識的見解と異なる二つのことが明らかになった。第1に、選挙の公平性、公正性は、国際的に推奨される選挙管理機関の独立性のみでは達成できず、より複雑な扱いが必要である。第2に、日本では選挙管理委員会の業務は画一的で公平、校正であると考えられてきたが、委員会や事務局の構成のあり方によって大きく左右される。それゆえ、市区町村によってバリエーションが発生している。
著者
湯淺 墾道
出版者
日本セキュリティ・マネジメント学会
雑誌
日本セキュリティ・マネジメント学会誌 (ISSN:13436619)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.45-51, 2019-01-25 (Released:2019-03-25)

近年、インターネット上におけるフェイクニュースの流布・拡散が、セキュリティに関する問題の一つと しても取り上げられるようになってきている。フェイクニュースは経済活動や社会生活の基盤である民主主 義自体を脅かすものとなっており、サイバーセキュリティの一問題として捉える見方も現れている。EU は、 2019 年の EU 議会議員選挙を控えて、フェイクニュース対策を行っている。ENISA が虚偽情報流布活動と その対策について技術的要素と人的要素の両面から分析を行い、フェイクニュース流布・拡散の土壌となっ ているプラットフォーム事業者に対しては、2018 年 7 月までに共通の行動規範 (a common Code of Practice) を策定して遵守することを求めた。他方で日本においては、フェイクニュースを法的に規制することはきわめて困難であるとされており、フェイクニュース対策はセキュリティ・マネジメントの概念にも影響を与える可能性がある。
著者
湯淺 墾道
雑誌
研究報告電子化知的財産・社会基盤(EIP) (ISSN:21888647)
巻号頁・発行日
vol.2019-EIP-84, no.16, pp.1-8, 2019-05-27

本稿においては,アメリカにおける選挙のサイバーセキュリティに関する近時の動向について検討する.アメリカにおいては,選挙管理システムが重要インフラ指定を受けており,選挙システムのセキュリティに関する訴訟も提起されるようになってきている.それに加えて 2018 年 9 月に発出された大統領令 13848 により,外国政府または外国人等が選挙に干渉した疑いがある場合に連邦政府が調査を行うことが定められた.調査の対象は,政治団体,選挙運動又は候補者のインフラストラクチャーとされており,選挙管理システムよりも広範となっている.また調査の結果,外国政府または外国人等が選挙に干渉したことが明確となった場合には,経済制裁を行う旨を規定している.本稿では,これらのアメリカにおける選挙サイバーセキュリティ対策の現状とその問題点,日本への含意等についての検討を行うこととする.
著者
湯淺 墾道
出版者
九州国際大学
雑誌
九州国際大学法学論集 (ISSN:1341061X)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.71-115, 2010-07
被引用文献数
1
著者
河村 和徳 三船 毅 篠澤 和久 堤 英敬 小川 芳樹 窪 俊一 善教 将大 湯淺 墾道 菊地 朗 和田 裕一 坂田 邦子 長野 明子 岡田 陽介 小林 哲郎
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

東日本大震災では多くの被災者が生じ、彼らの多くは政治弱者となった。本研究は、彼らの視点から電子民主主義の可能性について検討を行った。とりわけ、彼らの投票参加を容易にする電子投票・インターネット投票について注目した。福島県民意識調査の結果から、回答者の多くは電子投票・インターネット投票に肯定的であることが明らかとなった。しかし、選管事務局職員は、こうしたICTを活用した取り組みに難色を示す傾向が見られた。ICTを利用した投票参加システムを整備するにあたっては、彼らが持つ懸念を払拭する必要があることが肝要であり、財源の担保に加えシステムの信頼を高める努力が必要であることが明らかになった。
著者
湯淺 墾道
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報の科学と技術 (ISSN:09133801)
巻号頁・発行日
vol.71, no.11, pp.491-495, 2021-11-01 (Released:2021-11-01)

SNSのユーザーの増加,個人が利用するインターネットサービスの増加と多様化,クラウドサービスの普及などによって,最近,故人のデジタルデータの扱いが注目されるようになった。故人のデジタルデータに関しては,日本では統一した法制度は存在しない。またEUのGDPRや日本の個人情報保護法は,保護の対象を原則として生存者に限定している。これに対してアメリカでは,多くの州が死者のパブリシティの権利を認めている。本稿では,故人のデジタルデータに関する取り扱いについての各国の法制度を比較し,ユーザーがどのように対処すべきかを検討する。
著者
湯淺 墾道
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.75-90, 2014

公職選挙法により候補者,政党等が選挙運動期間中にインターネットを選挙運動目的で利用することは禁じられていたが,2013年に公職選挙法が改正され,インターネット(電子メール,ウェブページ等)を選挙運動に利用することが解禁された。しかし,誹謗中傷への対応,電子メールの定義とSNSのメッセージとの関係,電子メールの送信規制,落選運動の定義など,多くの問題点が残されている。本稿では,インターネット選挙運動を解禁した公職選挙法改正の法的問題点について考察し,今後の課題や再改正の方向性について検討する。
著者
湯淺 墾道
雑誌
研究報告インターネットと運用技術(IOT) (ISSN:21888787)
巻号頁・発行日
vol.2021-IOT-55, no.9, pp.1, 2021-08-30

フェイクニュースの意図的な発信・伝播や,それを利用した世論誘導・選挙介入が世界的に問題になっている.また政治的意図にとどまらず,さまざまな意図により真正でないデータを発信・伝播する行為が問題化しており,「フェイク」対策は情報セキュリティ・サイバーセキュリティの大きな課題になりつつある.これに対する各国のアプローチはさまざまであり,フェイク生成・伝播に利用される AI をどのように規制するかも含めて,法規制の動向について紹介する.
著者
前田 恭幸 湯淺 墾道
雑誌
研究報告コンピュータセキュリティ(CSEC) (ISSN:21888655)
巻号頁・発行日
vol.2015-CSEC-71, no.12, pp.1-7, 2015-11-27

近年,スマートフォンを始め,パーソナルコンピュータ,タブレット端末,多機能周辺機器などに使用される不揮発性記録媒体のひとつであるフラッシュメモリの普及が急激に広がっている.不揮発性記録媒体のフラッシュメモリを搭載している SSD(Solid State Drive) を調査してみると,SSD 市場の 2017 年までの平均成長率は 39.2%と IT 調査会社 IDC は予測している.SSD には書換え寿命などの対策のため,Spare Capacity 及び Over Provisioned Capacity という予備のデータ保存領域がある.通常の方法ではデータにアクセスすることができないこの領域からデータ復元できたとする報告もある.また,SSD は HDD に比べ,データの記録構造などが異なるためデータの完全復元がしにくいと言われている.デジタル・フォレンジックの観点から,HDD と SSD のデータ復元の違いについて述べる.そして,SSD の Over Provisioned Capacity からの新たなデータ抽出手法を提案する.