著者
澤田 康徳 高橋 日出男
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.75, no.8, pp.509-528, 2002-07-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
24
被引用文献数
3 2

本研究では,夏季の関東地方におけるメソβスケール降水域の発現・移動に関する地域的特徴を,レーダーアメダス解析雨量に基づく多数事例から明らかにし,それと上層風および地上風系場との関係を考察した.降水域は夕方に八溝山・男体山・榛名山付近や秩父山地など関東平野周辺の山地域で多発する.多くの事例では降水域はほとんど移動しない(停滞型)が,榛名山付近で発現した降水域は熊谷付近を経て東~東南東進する(移動型)ことが多い.上層風 (500~700hPa) の風向は停滞型・移動型とも西よりの風が卓越しており,風速は移動型の方が多少強い傾向があるものの,個々の降水域の移動速度とは相関が低く,降水域の停滞・移動は上層風だけでは説明できない.地上風系場に着目すると,移動型の場合には,降水域の移動方向に沿って侵入経路の異なる海風などにより形成される収束域が存在する.停滞型の場合は,降水域の発現地点付近に収束域が形成され,降水域東側には顕著な収束域は存在しない.収束域は関東平野中央部をほぼ東西に横切って形成されるため,榛名山付近で形成された降水域が熊谷付近を経て東進しやすいと考えられる
著者
澤田 康徳
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.91, no.6, pp.487-503, 2018 (Released:2022-09-28)
参考文献数
33

本研究では,日本有数の暑熱地域である熊谷市の小・中学校において,アンケート調査により養護教諭の職務上の暑熱に対する関心の契機と認識を明らかにした.関心の契機の得点(5段階)にクラスター解析を施した結果,各契機群中の上位得点の割合が,市~国の政策で大きい政策契機群,熊谷市で高温を記録した事実で大きい事実契機群,市内での異動で大きい経験契機群に類型化された.情報は,政策契機群では国や市の情報を多用し,事実契機群では気象庁などの公開情報を,経験契機群では身近な情報を,それぞれ多用している.暑熱の認識地点は,政策契機群で市の情報と対応する郊外に多い.事実契機群で推測により都心,経験契機群で実際の訪問や異動により都心および郊外北が,それぞれ多く,契機群ごとに空間認識や認識理由が異なる.近年,地域での気候対応が求められ,養護教諭の情報活用や気候認識を踏まえた養成や研修の必要性を本研究結果は示している.
著者
澤田 康徳 高橋 日出男
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.80, no.2, pp.70-86, 2007-02-01 (Released:2010-03-12)
参考文献数
23
被引用文献数
7 5 3

本研究では, 夏季の東京都心部における対流性降水の降水強度と, 関東地方スケールの気温場および地上風系場・気圧場との関係を考察した. 関東平野全域に北東や南よりの風が卓越する場合には降水強度が小さく, 従来指摘されているように, 鹿島灘からの東よりの風と相模湾からの南よりの風の両者が内陸に進入する場合に降水強度の大きい事例が多い. 都心部に顕著な収束域が形成される後者においても, 都心部に対する相対的な低温域は, 海よりの風の進入によって気温上昇が抑制される沿岸域にほぼ限定される. 海よりの東風は, 都心部と沿岸域との気温差の増大に先行して出現しており, 各タイプの風系は, むしろ中部山岳域を含む関東地方スケールの気圧傾度に対応して現れている. 海よりの風の進入や強い雨の発現には, 都心部を含む内陸の高温域が誘因として作用するよりも, 中部山岳域の局地低気圧に関連した関東地方スケールの気圧場の条件が重要と考えられる.
著者
澤田 康徳 鈴木 享子 小柳 知代 吉冨 友恭 原子 栄一郎 椿 真智子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.40-53, 2023 (Released:2023-03-08)
参考文献数
28
被引用文献数
1

本研究ではGLOBEプログラムを例に,身近な自然環境調査成果の全国発表会に関する感想文から,生徒と教員の発表会のとらえ方および生徒の調査の継続志向の特徴を示した.発表会のとらえ方には,生徒の参加や発表,調査に関する観点が生徒と教員に認められた.発表会の多様性は生徒に特徴的な観点で,日本各地や他の学校の環境およびその認識などを含む.すなわち生徒において全国発表会は,自然環境の認識や理解を日本規模で深める場の機能を有する.また,異学年間の活動の継続を考え今後の活動意欲につながっている.教員において全国発表会は,充実した調査の継続に重要な自校の測定環境をとらえなおす場として機能している.生徒の調査の継続志向は,科学的思考より調査結果や探究活動過程全体,生徒をとりまく人と関連することから,継続的調査に,発表会においてとりまく人などと連関させた生徒の振り返りや教員の測定環境のとらえなおしが重要である.
著者
大津 拓也 澤田 康徳
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2019, 2019

<p><b>目的:</b>降水認識に関しては,これまで降水量に関する調査が主体で,防災上重要な降水量の空間的広がりに対する理解程度は明らかにされていない.降水量の空間的理解の深化には,降水量分布情報の活用が有効であり(島貫 1997),本研究では初等~中等教育段階における降水量分布情報の読図特性を明らかにする.</p><p><b>方法:</b>2017年6~7月に東京都内の小学校第5学年(97名),中学校第2学年(155名),高等学校第2学年(322名)を対象にアンケート調査を実施した.内容は,日本全国の降水量分布(8月)情報(段彩図および等値線図)について読図初見時に最初に着目した領域(着目域)と着目理由,さらに降水や気候に関する認識(天気に対する関心(5段階評価),最も印象に残っている雨に関する事柄(自由記述)などである.降水量分布情報の着目域は全400格子の着目域成分(有(1)無(0))に分け,それらに対してクラスター分析(Ward法)を施した.</p><p><b>結果:</b>着目理由の特徴は形式的なものと内容的なものに大きく分類できた.すなわち,形式-位置として居住地であること,図の中心であることや,形式-色として図内の着色が青(多い)/黄(少ない)であることなどがあげられた.また,内容-多寡として降水量の多さ/少なさ,内容-数値として降水量の値なども示された.着目域は8つに類型化され,関東挟域(Ⅰ),関東(Ⅱ),九州(Ⅲ),四国(Ⅳ),中部(Ⅴ),東日本,紀伊半島(Ⅵ),瀬戸内・関東(Ⅶ),瀬戸内(Ⅷ)である(図1).関東(Ⅱ)は着目理由が形式-位置(居住地)の割合が大きく(73.0%),天気に対する関心の上位得点(5・4点)割合が小さい(30.2%).一方,関東狭域(Ⅰ)の着目理由は内容-多寡(少なさ)の割合が大きく(55.6%),関心の上位得点割合も大きい(46.7%).また,四国(Ⅳ)は着目理由が内容-多寡(多さ)の割合が大きく(44.4%),関心の上位得点割合は小さい(25.9%).九州(Ⅲ)や中部(Ⅴ)は,着目理由が内容-数値の割合で大きく(15.6%や11.9%),関心の上位得点割合も大きい(40.3%や38.8%).瀬戸内・関東(Ⅶ)や瀬戸内(Ⅷ)は,着目理由が形式-色(少なさ)で上位得点割合が大きく(62.7%や51.5%),関心の上位得点割合も大きい(39.0%や39.5%).このように着目理由が形式-色および内容-多寡で割合が大きい場合,少なさに着目するタイプで関心の上位得点割合が大きい.また,内容-数値を理由とした割合が大きい九州(Ⅲ),中部(Ⅴ),瀬戸内・関東(Ⅶ)は自由記述において降水現象の仕組みに関する記述割合が大きく(10%以上),関心の上位得点割合も比較的大きい.なお,東日本,紀伊半島(Ⅵ)の下位クラスターで着目域が北海道の場合(12名),小学生の割合(58.3%)や形式的理由の割合(83.3%)が大きく,系列位置効果の関与が示唆される.一方,紀伊半島の場合(13名),着目理由は内容-数値の割合が大きく(23.1%),関心の上位得点割合も大きい(46.2%).さらに,着目域の分布箇所が重複しているⅠ・ⅡおよびⅦ・Ⅷの着目域の面積(S)は関東挟域(Ⅰ),瀬戸内・関東(Ⅶ)で小さい.この場合,内容-多寡(少なさ)の割合が大きいタイプⅠ,Ⅶで,着目域が限定的であった.等値線図では,中部(形式-位置)および四国(等値線の過密域:形式-線密度)に着目した頻度が高く,形式的理由が増大する.しかし,着目理由が内容-多寡(Ⅰ)や内容-数値(ⅢやⅤ)で割合が大きいタイプでは,等値線図においても内容的理由を記述した割合が大きい.すなわち,形式的・内容的な読図特性は図表現が異なっても維持される.対象者の読み取り方やその段階,属性に適応させた分布図情報や説明といった提供が極めて重要である.</p>
著者
澤田 康徳
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.89, no.3, pp.107-117, 2016-05-01 (Released:2019-10-05)
参考文献数
19

本研究では,関東地方における対流性降水の発現頻度とその経年変化の地域性を明らかにし,風系との関連を検討した.アメダスの毎時資料(1980~2009年7, 8月)に基づき対流性降水を抽出し,各年における対象領域全体の発現頻度に対する各地点の降水発現率を算出した.対流性降水発現率の経年変化型は,大きく三つに類型化され,I型は北部山岳地域,II型は北部山岳地域の山麓域,III型は南関東の平野域にまとまって分布する.I型とIII型の対流性降水発現率の経年変化には有意な負の相関関係が認められ,I型で対流性降水発現率が高い(低い)年は海風の内陸への進入が明瞭(不明瞭)である.また,III型地域で対流性降水強度の経年変化が明瞭でない一方,その他の要因を含む降水全般の降水強度は増大傾向にある.これらの結果は,降水発現頻度や強度に関する経年変化を,従前活発に議論された南関東より大きな空間スケールからとらえ直すことの必要性を示唆している.
著者
重野 拓基 澤田 康徳 埼玉県熊谷市政策調査課
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.1-13, 2020 (Released:2020-01-01)
参考文献数
25
被引用文献数
1

本研究では,夏季の高温が顕著である熊谷市を対象とし,熱ストレスにより保健室に来室した児童生徒の割合の地域性を明らかにした.さらに,在校時(8~18時)の最高気温・湿度と来室者割合との関係を明らかにすることを試みた.来室者割合と各地点の全地点平均からの湿度差との相関係数はr=0.43で有意であったが,気温差との相関係数はr=-0.06で有意でなかった.来室者割合が大きい地点は,市北東部~南西部に認められた.これらの地点では全地点平均より平均的に湿度が高く,気温差は小さい地点が多い.市北東部~南西部の土地利用が水田であることから,児童生徒の熱ストレスによる身体的不調には,学区の土地利用に関係した湿度の影響が大きい可能性がある.児童生徒の熱中症やそれに至る熱ストレスによる身体的不調を予防するためには,学区スケールの暑熱環境の把握が重要であると考えられる.
著者
澤田 康徳 秋元 健作
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.1-10, 2018 (Released:2018-03-16)
参考文献数
16

本研究では,関東地方の夏期降水発現時における気温低下の地域的特徴を明らかにした.夏期平均気温の高低は降水頻度の高低と相関が強く,平均気温の低下に降水雲の出現による日照時間の低下が関わっている.また,降水発現時の気温の標準偏差は平野北部より南部で大きい.南部では気温が高い日中のほか,降水発現前に日照時間が寡少で低温な広領域曇雨天時および夜間の降水発現事例が北部より多く,広領域曇雨天時は降水強度が大きく気温低下幅が大きい.一方,局地的に発現した対流性降水事例は北部で多発し,日中においては,降水発現時前に日照時間が気温低下に先立って減少し,降水強度が夜間より大きくその後の気温低下も大きい.対流性降水事例では,発現後5~8時間で領域晴天日の気温の日変化とほぼ同じになった.平野南北における降水発現時の気温の標準偏差の違いには,降水強度とともに降水発現前の日照の有無などによる気温の差異が関与している.
著者
高橋 日出男 三上 岳彦 境田 清隆 澤田 康徳 横山 仁 瀬戸 芳一
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では,降水粒子計測,稠密雨量計網やレーダの観測資料を用いた東京圏における短時間強雨の実態把握,並びに稠密気象観測による短時間強雨の予測手法の検証を目的とした.短時間強雨の開始時には,大粒径の雨滴比率が高く,急激に降水強度が増大する.都区部北部から埼玉県南部では,範囲が狭く集中度の高い強雨域の発現が多い.都区部西部では強雨頻度の極大が16時頃と22時頃にあり,日変化する局地風系との関連が示唆された.多数事例の統計的解析から,短時間強雨発生のシグナルとして強雨開始40,50分前から現れる収束量増大の有効性が確認され,予測手法の確立に向けた課題も指摘された.