著者
吉川 千尋 田上 未来 間瀬 教史 山本 健太 野口 知紗 冨田 和秀 門間 正彦 居村 茂幸
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0165, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】横隔膜呼吸では,下側肺野の換気が増加すると報告されており,この変化は仰臥位や直立位と比較し側臥位でより顕著に見られる。この要因の一つとして横隔膜による縦隔の挙上があると報告されている。側臥位において下側肺野は縦隔による圧迫を受けている。横隔膜はその縦隔と連結をもち,側臥位で横隔膜が収縮すればその張力により縦隔が持ち上げられ,下側肺野が拡張しやすくなるという説がある。もしこの説が正しいとすれば,側臥位で呼吸を行うと吸気に伴い縦隔は上側に引きあげられる。その際,横隔膜の筋線維走行は縦隔を持ち上げる上側方向に向いているはずである。本研究の目的は,側臥位における呼吸に伴う縦隔組織の位置変化,横隔膜の走行を観察することにより横隔膜が縦隔を持ち上げ,下葉換気の増加に関与している可能性があるかどうかを検証することである。【方法】対象は健常人8名(男性6名,女性2名),測定体位は左側臥位とし,撮像時の肺気量位は機能的残気量(FRC)位,予備吸気量(IRV)位,全肺気量(TLC)位,残気量(RV)位とした。撮像装置は1.5TのMRI(東芝EXCELART Vantage1.5T)を用いた。対象者に各肺気量位での息止めを30秒程度行わせ撮像した。撮像は三次元構築画像撮像として,腹側から背側方向へ肺全体の撮像を前額断で行った。得られたMRI画像から画像解析ソフトimageJを用いて以下の分析を行った。まず心臓の最大横径を計測し,その画像上で,第5胸椎レベルでの胸腔内横径,右胸腔内壁から心臓最右端(右胸腔内横径),左胸腔内壁から心臓最左端(左胸腔内横径)の距離を各肺気量位で計測し上側・下側肺野の換気変化の指標とした。また,各肺気量位における大静脈孔レベルでの左右横隔膜の筋長を,第10胸椎レベルでの横隔膜最遠位部から大静脈孔部までの距離として計測した。さらに,その筋線維走行を観察し,横隔膜の筋収縮と収縮に伴う張力方向の指標とした。各肺気量位での測定項目を分散分析,多重比較法にて検定し,有意水準は5%とした。【結果】胸腔内横径(TLC:402.6±29.9mm,IRV:382.1±34.3mm,FRC:377.6±35.9mm,RV:365.5±34.8mm)は,TLCが他の肺気量位と比べて有意に長く,RVが他の肺気量位と比べて有意に短い値であった。右胸腔内横径(TLC:152.6±18.5mm,IRV:147.7±16.4mm,FRC:147.7±15.0mm,RV:142.1±16.0mm)はTLCが他の肺気量位と比べて有意に長い値を示した。左胸腔内横径(TLC:59.7±17.6mm,IRV:33.2±14.4mm,FRC:25.9±11.1mm,RV:22.0±11.2mm)はTLCが他の肺気量位に比べ有意に長く,RVに比べIRVでは有意に長い値を示した。右横隔膜の筋長(TLC:231.7±18.2mm,IRV:254.3±14.2mm,FRC:296.4±20.7mm,RV:326.4±21.3mm)は,TLC,IRVともにFRC,RVより有意に短い値を示し,FRCとRVの間でも有意差を認めた。左横隔膜の筋長(TLC:276.3±38.1mm,IRV:277.5±70.3mm,FRC:322.0±38.1mm,RV:332.1±33.0mm)は,TLCとIRVがそれぞれFRC,RVより有意に短い値を示した。右横隔膜の筋走行は,RVからFRCまで大静脈孔から胸壁にかけてわずかな曲線もしくは比較的平坦に近く,その後胸壁部分で鋭角にまがり胸壁に沿って走行していた。FRC以上の肺気量位では,大静脈孔から胸壁まで全体的に彎曲し,筋線維走行は右方尾側方向となり縦隔を上方に引き上げる走行となった。【考察】側臥位は体位変換の体位として頻繁に使用され,上側肺野の換気改善,排痰目的に利用される。今回の結果からは,側臥位における横隔膜の筋走行はFRC以上の肺気量位では縦隔を上方に引き上げる右方尾側方向となり,それと同期して下側に位置する左胸腔内の横径はRV時より長い値を示し,肺野の横径が拡張していた。これらの結果は,側臥位における横隔膜は尾側への下降による胸腔の拡張作用だけでなく,組織的な連結をもつ縦隔組織を上方に持ち上げ,下側の肺野を拡張する役割を持つ可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】側臥位における下側肺野の換気増加に影響する因子の一つを検討することは,呼吸理学療法の体位交換を行う上で有用な情報と考えられる。
著者
松田 雅弘 楠本 泰士 酒井 弘美 伊藤 公一 田上 未来 阿部 紀之 関 亮祐 本藤 伸男 山﨑 友豊 赤池 優也 二瓶 篤史 新田 收
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.495-499, 2016 (Released:2016-08-31)
参考文献数
10

〔目的〕マイクロビーズ製クッション上での臥位が,関節可動域と筋緊張に及ぼす影響を通常のベッド上臥位と比較して明らかにすることとした.〔対象と方法〕回復期脳卒中後片麻痺患者9名(52~84歳)とした.同一対象者に20分の臥床をクッション(クッション条件),およびベッド上背臥位で(臥位条件)行わせ,前後でのROMt,筋緊張(MAS),僧帽筋上部線維の筋硬度の変化と変化量を対応のあるt検定により統計学的に解析し,その違いを条件間で比較した.〔結果〕クッション条件では介入前後で,麻痺側肘屈曲,頸部左回旋角度に有意差がみられた.筋緊張,筋硬度も軽減している症例が多かった.〔結語〕マイクロビーズ製クッションが,脳卒中患者に対して筋緊張の軽減と関節可動域の増大に効果をもたらすことが示唆される.
著者
松田 雅弘 田上 未来 福原 一郎 花井 丈夫 新田 收 根津 敦夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに】我々は福祉用HALを用いた運動療法が,発達期中枢神経障害児者の歩行・バランス能力に対して,即時的・長期的効果について報告してきた。今回,発達期中枢神経障害児者の膝関節の動きに対して,単関節HAL(以下,HAL-SJ:single joint type)を用いた運動療法を実施した。その効果について,担当PTにアンケートを実施し,HAL-SJが運動機能に及ぼす影響について検討したので報告する。【方法】発達期中枢神経障害児者に対し,HAL-SJを使用した理学療法士5名(経験年数約10~30年)に使用目的および時間,その効果に関してアンケート調査を実施した。対象となった発達期中枢神経障害児者は13名(平均年齢13.2歳,9-12歳,男性7名,女性6名,痙性四肢麻痺4名,痙性両麻痺7名,痙性片麻痺2名),GMFCSI:2名,II:3名,III:4名,IV:4名であった。アンケート調査時の使用回数は1回目12名,2回目以上7名の計19回のアンケートについて分析を行った。運動療法の効果に関しては5件法を用いて,目的にそった効果について検討した。また,自由記載にて使用方法とその効果について調査した。【結果】HAL-SJを利用した目的は,両側(16回)または一側膝関節(3回)に装着して,随意性の向上(14回)と立位練習(14回),歩行練習(6回),段差昇降練習(3回),その他(自転車)であった。HAL-SJを用いた平均運動時間39.5±12.6分(20-60分)であった。膝関節の随意性の改善は平均2.8±1.2点,歩行の改善は平均3.5±0.9点,立位姿勢制御の改善は平均3.7±1.0点,立ち上がり動作は平均3.8±0.8点,段差昇降の改善は平均4.0±0点となった。目的とする姿勢動作時には,HAL-SJを利用することで立位・歩行時の機能改善,特に膝伸展筋の活動が向上して立位時の支持性の改善がみられた。その他,筋活動を視覚的にPTまたは患者自身が確認でき,フィードバックしながら運動が可能である,軽量のため動作練習を行いやすいなどの自由記載があった。【考察】HAL-SJを使用した運動療法の効果は,装着した膝関節の動きだけではなく,近位関節である股関節制御も高め,立位・歩行機能の改善につながった。HAL-SJ,福祉用HALと異なり,生体電位は大腿の筋のみで,制動する関節は膝関節の1関節でなる。発達期中枢神経障害児者の下肢運動は,分離運動が困難なため,HAL-SJが膝関節の分離運動を促すことで,下肢関節にトータル的な運動制御の改善がなされ,身体運動が円滑になったと考えられる。特に,立位・歩行制御を目的とした運動療法の一部として有効的な手段になると考えた。視覚的なフィードバックはPTにも患者にも有効的で,その情報をもとに運動指導や学習が可能なことも効果を実感した一助になったと考えられる。また,福祉用HALは小児を対象とした場合,身長制限が問題となるが,HAL-SJはその制限に関わらず使用することが可能である。</p>