著者
田中 智夫 村山 有美 江口 祐輔 吉本 正
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.260-266, 1998-03-25 (Released:2008-03-10)
参考文献数
24
被引用文献数
2 4

本研究は,ブタの視力について,ヒトにおける視力検査の基準を用いて検討した.6頭の育成豚(雌4頭,去勢2頭)を供試し,試視力用のランドルト環と,その切れ目をなくした円図形とを用い,それぞれ負および正刺激として飼料と連合学習させた.二者択一式のY字型迷路を自作し,図形の大きさまたは図形までの距離を変化させ,両図形の識別の可否から視力を判定した.左右の図形の交換は,ゲラーマン系列の乱数表に従って行った.その結果,去勢豚2頭は学習が成立せず,視力測定ができなかったが,雌豚4頭の視力値は,0.017~0.07の範囲にあった.
著者
石川 圭介 江口 祐輔 植竹 勝治 田中 智夫
出版者
Japanese Society of Animal Science
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.72, no.10, pp.J594-J604, 2001-10-25
被引用文献数
1

本研究では,イノシシへの嫌悪刺激としてイヌを利用することが有効か否かを検証するため,イヌとイノシシの対面テストを行った.供試犬には1頭の警察犬と4頭の家庭犬を用い,供試猪には10ヵ月間飼育管理された約16カ月齢の個体6頭を用いた.対面は供試犬および供試猪を実験施設に馴致した後,1日3回,8:00~9:00,12:00~13:00,16:00~17:00の時間帯に行い,各供試犬を2日間で6頭すべての供試猪に対面させた,供試犬は供試猪との対面が始まると,対面前と比較して有意に供試猪の方に視線を向け(P<0.01),供試猪に向かって吠えて(P<0.05),警戒を示した.また,吠えの頻度には個体によって差がみられた(P<0.01).供試犬の供試猪に対する注視と吠えは,供試猪が走って逃げる直前の3秒に有意に多くみられ(それぞれ,P<0.05,P<0.01),この二つの行動が供試猪にとって嫌悪刺激となっていることが示唆された.本研究の結果,イノシシに対して回避反応を引き起こさせるイヌの行動は,視線を対象に向ける,対象に向かって発声するなどであったが,これらの行動はイヌによって個体差が大きかった.このことから,イヌをイノシシに対する嫌悪刺激として効果的に用いるためには,それに適したイヌの行動を見極め,行動に基づいて個体を選択する必要があると考えられた.
著者
植竹 勝治 山田 佐代子 金子 一幸 藤森 亘 佐藤 礼一郎 田中 智夫
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理学会誌・応用動物行動学会誌 (ISSN:18802133)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.1-5, 2014

都市部住宅地に生息するノラネコの健康状態および繁殖状況を確かめるため、我が国の代表的な大都市のひとつである横浜市の住宅地において疫学調査を実施した。調査では、繁殖データ(雌306匹)の収集と生化学および感染症に関する血液検査(雄雌計31匹)を行った。調査対象のネコは全て捕獲-不妊去勢-復帰プログラムの対象個体であった。不妊手術時に妊娠していた雌ネコの割合は4月に最高値(58.6%)を示し、3月から7月にかけて比較的高値を示した。平均一腹産子数(±標準偏差)は3.8±0.5匹であった。血液検査において対象個体の何頭かは基準値外の値を示したが、猫白血病および猫免疫不全の両ウイルス感染症は全頭陰性であった。これらの結果から、横浜市の住宅地におけるノラネコの血液性状および繁殖状況は、健康な家庭ネコに比較して、概ね良好であった。このことは、不妊去勢手術に基づくいわゆる「地域猫」活動を推進する上で参考になる。
著者
田中 智夫 関野 通江 谷田 創 吉本 正
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.9, pp.880-884, 1989-09-25 (Released:2008-03-10)
参考文献数
8

緬羊における色の識別能力のうち,特に類似色をどの程度まで識別できるかを明らかにすることを目的とした.供試羊は双子のコリデール種去勢羊を用い,正刺激側のスイッチを押すと飼料が与えられるスキナー箱を自作して2色の同時弁別実験を行なった.草の色を想定して緑を正刺激とし,黄および青から徐々に緑に近付けた計7色を負刺激としてそれぞれ識別させた.各課題とも1セッション30試行とし,20セッションまで行なった.各試行ごとにおける左右のカードの交換は乱数表に基づいて行なった.x2検定により1セッション21試行以上の正解(P<0.05)を基準とし,その基準に3回連続到達した時点でその色を識別したとみなした.結果は,黄から近付けた緑に最も近い色との対比において1頭が,また,青から近付けた緑に最も近い色との対比において2頭ともが,それぞれ識別不能と判断された他は,全ての組合せにおいて識別できるものと判断できた.以上から緬羊の色覚はかなり発達しているものと思われ,色による条件付け学習を利用した管理技術の開発の可能性が示唆された.
著者
太田 光明 塩田 邦郎 政岡 俊夫 和久井 信 田中 智夫 植竹 勝治
出版者
麻布大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

地震前の動物の異常行動は、電磁波など地震前兆を感知した動物のストレス反応の一つであろうとの仮説のもとに研究を重ねてきた。しかし、ラット、ビーグル犬など「実験動物」に対して電磁波照射を繰り返しても、明確な異常行動は見られない。一方、ヒトと日常的に生活している「家庭犬」を用いたところ、6頭のうち、少なくとも2頭に顕著な異常行動を認めた。すなわち、1)マウスやラットのように「実験動物」として用いられる犬種は、ほとんどビーグル犬である。個体による違いを含め、犬の特性のいくつかを喪失しているとしても不思議はない。人による改良が進めば進むほど、電磁波異常など非日常的な物理現象を感じる必要性もなくなる。実際、本研究において電磁波の影響は見られなかった。この研究成果を遺伝子解析に応用した。2)遺伝子解析を進めるためには、プライマーが必要であり、犬遺伝子では、CRH、DRD2、DRD4など極めて少数しか判明していない。本研究では、はじめにCRH遺伝子の多型について検討した。しかし、33犬種37頭を解析した結果、遺伝子多型は検出されなかった。つまり、CRH遺伝子が「地震感知遺伝子」の可能性は低い。一方、兵庫県南部地震の直後、一般市民から集められた前兆情報のなかには、古来からの地震前兆情報であると考えられてきた夥しい数の報告が含まれていた。特に、動物の前兆的異常行動に顕著であった。また、阪神・淡路大震災の前兆情報として、犬で約20%、猫で約30%が異常行動を示したという。こうしたことから、3)本研究では、富士通株式会社ならびに株式会社NTTドコモ関西との産学協同体制でこの「動物の異常行動」の情報収集システムの構築に取組み、プロトタイプのシステムを完成させた。モニター登録者が暫時増加し、平成16年3月1日現在で、50人を数えた。
著者
石渡 俊江 植竹 勝治 江口 祐輔 田中 智夫
出版者
Japanese Soceity of Livestock Management
雑誌
日本家畜管理学会誌・応用動物行動学会誌 (ISSN:18802133)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.179-184, 2007-12-25 (Released:2017-02-06)
参考文献数
18

本研究の目的は、肉牛の屠殺時血液性状と肉質における夏季と冬季の違いを調査することであった。夏季(18.9〜28.4℃)に15頭、冬季(4.9〜7.0℃)に20頭をトラックで近くの屠場へ輸送した。牛は屠場の待機ペンで一晩休憩した後、1頭ずつ屠殺された。血漿コルチゾール濃度と血中グルコース濃度は、冬季より夏季に有意に高くなった(ともにP<0.01)。血清pHと血清総タンパク質濃度は、冬季より夏季に有意に低くなった(ともにP<0.01)。これらの結果から、夏季は牛にとってより過酷な状況であることが示唆された。その主な原因としては、屠殺前に一晩中絶水されたことが考えられた。血清遊離脂肪酸濃度は、夏季より冬季に有意に高くなった(P<0.01)。血清ASTと血清ALTの活性は、夏季より冬季に有意に高くなった(ともにP<0.05)。冬季にみられたこれらの生理反応は、屠殺前に一晩中絶食されたことによると考えられた。しかし、これらの生理反応は肉質に影響するほどではなかった。さらに、人による牛の扱いにも季節による違いがみられなかった。本研究の結果から、屠殺前に一晩、完全に絶水することは家畜福祉的見地からも避けるべきであると考えられた。
著者
植竹 勝治 中谷 治奈 増田 尚子 吉田 善廣 江口 祐輔 田中 智夫
出版者
麻布大学
雑誌
麻布大学雑誌 = Journal of Azabu University (ISSN:13465880)
巻号頁・発行日
vol.17/18, pp.191-193, 2009-03-31

γ-アミノ酪酸 (GABA) の経口投与が肉用牛の長距離輸送および出荷・屠畜時のストレスを低減するかどうかを調べた。試験1では,対照区の去勢牛4頭に20mLの蒸留水を,処理区の去勢牛4頭に体重当たり10mgのGABA粉末を20mLの蒸留水に溶解した水溶液を,それぞれ130.1kmの陸路輸送直前に経口投与した。分散分析の結果,供試牛の唾液中コルチゾール濃度に対する処理と輸送経過時間との交互作用は,経過時間が60分までは有意 (P<0.05) であったが,120分以降については有意ではなくなった。試験2では,肥育牛20頭を5頭ずつ4処理区に分け,屠畜場への輸送前と翌朝の屠畜直前に,G区には13gのGABA粉末を100mLの蒸留水に溶解した水溶液を,S区には100mLの生理食塩水を,SG区には輸送前に生理食塩水と屠畜直前にGABA溶液を,それぞれ経口投与した。C区には輸送前も屠畜直前にも何も投与しなかった。多重比較検定の結果,いずれの処理区のウシの血漿コルチゾール濃度も,C区のウシよりも有意に低かった (全てP<0.01)。血漿アドレナリン濃度も,C区に比べ,S区のウシで有意に低く (P<0.05),G区のウシで低い傾向 (P<0.10) がみられた。これらの結果から,GABAの経口投与は,肉用牛の輸送および屠畜時のストレスを投与後数十分間は低減させることが確認された。
著者
石渡 俊江 植竹 勝治 安部 直重 江口 祐輔 田中 智夫
出版者
日本家畜管理学会
雑誌
日本家畜管理学会誌 (ISSN:13421131)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.149-154, 2005-02-01
被引用文献数
2

環境エンリッチメントレベルが異なる飼育ペンでの牛の舐塩行動の発現についで調査するため、黒毛和種×ホルスタイン種の去勢雄牛を2回の反復実験において合計71頭(n=35,36)を供試した。供試牛は導入2週間後から、濃厚飼料を給飼する給飼通路と乾草を給飼する飼槽、水槽、休息場所からなる通常のペンの対照群(C群:n=11,12)、通常のペンに乾草が入るように改良したドラム缶(Φ58価×H90cm)を設置したドラム缶群(D群:n=12.12)、そのドラム缶の側面に人工芝(30×120cm)を巻き付けた身繕いドラム缶群(GD群:n=12,12)に分け、3つのペン(各ペン6.0×9.5m)で飼育した。固形塩(5kg)は導入後4.5ヵ月目から給飼通路に設置し、その後、朝夕の給飼後2時間に10分間隔で3日間連続して行動観察し、採血と体重測定を合わせて行なった。観察期間中に舐塩行動が観察された牛は、対照群16頭、ドラム缶群10頭、身繕いドラム缶群11頭と処理群間に差はみられなかった。観察された舐塩行動の持続時間は、ほとんどが20分未満であった。舐塩行動の前に発現した主な行動は、乾草の採食(25.9%)、休息(22.4%)であり、後に発現した主な行動は休息(28.3%)、乾草の採食(21.7%)であった。舐塩回数の多い個体ほど、休息回数(r=0.25,P<0.05)と反側回数(r=0.28,P<0.05)が多くなった。また、舐塩回数の多い個体ほど、血清インスリン濃度が高くなった(r=0.41,P<0.05)。さらに一度でも舐塩行動を発現した個体で、未発現の個体より血漿グルコース濃度が低くなった(P<0.05)。以上の結果から、固形塩を舐めることは、いずれの環境エンリッチメントレベルにおいても必ず何頭かの牛で発現し、休息や反側行動の発現とインスリン分泌を促し、消化・代謝を促進する可能性があることが示唆された。
著者
吉本 正 谷田 創 田中 智夫
出版者
麻布大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1989

研究者らは1985年以来,暑熱環境における雄豚のサマ-ステリリティについて検討を行ない,30〜35^。Cの環境温度において3〜6週間飼養すると明らかに造精機能が低下することを認めた.現在は,その造精機能の低下防止について検討を行なっており,平成元年からは当補助金を受け,局所冷却による造精機能の低下防止法について検討を行っている.初年度は,自然環境下において局所冷却(豚の首〜肩部に水滴を落下させる drip cooling法)を行ない,その効果をサ-モグラフィ-を用いて生理反応の面から検討した.その結果,自然環境温(29〜31^。C)の条件下においては,局所冷却を行なうことによって豚体の皮膚表面温を2〜3^。C抑制する効果が認められた.2年度は環境調節室を用い,適温期(24^。C一定)を3日間,加温期(33^。C,10h;28^。C,14h)を4週間とし,大ヨ-クシャ-種雄豚6頭を用いて,同様の調査を行なった。実験1では,水滴の落下位置を検討するために,33^。Cの室温において,頭部,頸部,精巣部に水滴を11分ごとに1分間,滴下させて,それが全身の皮膚温に及ぼす影響を調査した.その結果,頸部に水滴を落下させた場合に全身の皮膚温を低下させる効果が認められた.実験2では,実験1の結果を基に,頸部に水滴を落下させた場合における適温期および加温期(33^。時)の心拍,呼吸,直腸温,サ-モグラフィ-による皮膚温および精液性状を調査した.その結果,心拍数および呼吸数に対しては大きな影響を与えなかったが,直腸温および皮膚表面温については約1^。C上昇を抑える効果が認められた.以上のことから,drip coolingによる局所冷却は,雄豚のサマ-ステリリティ-の方止に十分,活用できる方法であることが示唆された.
著者
橋本 修 佐藤 進 田中 智夫
出版者
The Iron and Steel Institute of Japan
雑誌
鉄と鋼 (ISSN:00211575)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.102-111, 1980-01-01 (Released:2010-01-18)
参考文献数
40
被引用文献数
19 15

For the purpose of investigating the formation mechanism of the texture which is developed by ferrite (α)→austenite (γ)→ferrite (α) transformation, the effects of heating and cooling rates during phase transformation and specimen thickness on the transformation texture have been studied by using extra low carbon sheet steel with the initial texture of {111}. The results obtained are summarized in the following: (1) Rapid heating and rapid cooling produced weak {100} and {111} texture. (2) Rapid heating and slow cooling exhibited both {110} texture and the orientation shifted 2030 degrees away from {100}. (3) Slow heating and slow cooling produced distinct {100} texture. (4) There was much difference in texture between surface and midsection of thick specimen: In the midsection, the texture similar to (1) was formed, independent of heating and cooling rates. While, specimen surface exhibited such textures as (1) to (3). (5) Those results were reasonably and consistently explained on the assumptions that the orientation relationship between bcc and fcc follows the Kurdjumov-Sachs relation, and that during α→γ→α transformation with slow rate such variants preferentially operate that undergo larger elastic work in normal direction of sheet.
著者
江口 祐輔 植竹 勝治 田中 智夫
出版者
麻布大学
雑誌
麻布大学雑誌 = Journal of Azabu University (ISSN:13465880)
巻号頁・発行日
no.13, pp.178-182, 2007-03-31

近年我が国ではイノシシによる農作物被害が増加している。農作物被害を防ぐためには,イノシシの行動を把握することが重要となるが,イノシシの行動学的研究は少ない。そこで本研究では,イノシシの行動制御技術開発のための基礎的知見を得ることを目的として,超音波を含む音刺激およびブタ由来のニオイ刺激(唾液フェロモンおよび発情・非発情時の尿)に対するイノシシの行動を調査した。実験1(音刺激に対する反応)では,飼育下のイノシシ4頭(雄2頭,雌2頭)を供試した。実験時は個別飼育檻に入れて1頭ずつ音を提示した。中-高周波数で10k~80kHzの8種類,中一低周波数で2k~5Hzの9種類に設定したサイン波の音を,超音波発生装置を用いて発生させた。音の提示時間内の反応を記録した。超音波に対してイノシシは,「静止」,「スピーカー定位」,「スピーカー探査」の反応を示した。500Hz及び200Hzで忌避反応と思われる「逃避」,「身震い」を示した。その他の中-低周波数の音に対しては忌避反応は見られなかった。これらのことから,イノシシは超音波を嫌うことは無いが,特定の周波数の音に対して忌避反応を示し,音による農作物への被害防除に有効である可能性が示唆された。実験2(ブタ由来のニオイ物質に対するイノシシの反応)では,飼育下のイノシシ7頭(雄2頭,雌5頭)を供試した。ニオイ物質には,アンドロステノンと雄ブタの唾液,雌ブタの発情期の尿と非発情期の尿,対照として蒸留水を用いた。ニオイ物質はイノシシの鼻の高さに調節した提示装置に入れて設置した。提示後30分間のイノシシの行動を記録した。雄イノシシのニオイ嗅ぎ行動は,雌ブタの発情尿において他のニオイよりも多く発現し,雌イノシシでは雄よりもニオイ嗅ぎ行動の発現割合が高かった。雌のニオイ嗅ぎ行動は,特に雄の唾液において他のニオイよりも多く発現した。雄イノシシでは,発情尿と非発情尿を提示した時,ニオイ物質に近いエリアに滞在する割合が高かった。飼育個体が,異性のフェロモンを含むニオイに強い反応を示したことから,ニオイによるイノシシ誘引効果が示唆された。
著者
江口 祐輔 植竹 勝治 田中 智夫
出版者
麻布大学
雑誌
麻布大学雑誌 = Journal of Azabu University (ISSN:13465880)
巻号頁・発行日
vol.13/14, pp.178-182, 2007-03-31

近年我が国ではイノシシによる農作物被害が増加している。農作物被害を防ぐためには,イノシシの行動を把握することが重要となるが,イノシシの行動学的研究は少ない。そこで本研究では,イノシシの行動制御技術開発のための基礎的知見を得ることを目的として,超音波を含む音刺激およびブタ由来のニオイ刺激(唾液フェロモンおよび発情・非発情時の尿)に対するイノシシの行動を調査した。実験1(音刺激に対する反応)では,飼育下のイノシシ4頭(雄2頭,雌2頭)を供試した。実験時は個別飼育檻に入れて1頭ずつ音を提示した。中-高周波数で10k~80kHzの8種類,中一低周波数で2k~5Hzの9種類に設定したサイン波の音を,超音波発生装置を用いて発生させた。音の提示時間内の反応を記録した。超音波に対してイノシシは,「静止」,「スピーカー定位」,「スピーカー探査」の反応を示した。500Hz及び200Hzで忌避反応と思われる「逃避」,「身震い」を示した。その他の中-低周波数の音に対しては忌避反応は見られなかった。これらのことから,イノシシは超音波を嫌うことは無いが,特定の周波数の音に対して忌避反応を示し,音による農作物への被害防除に有効である可能性が示唆された。実験2(ブタ由来のニオイ物質に対するイノシシの反応)では,飼育下のイノシシ7頭(雄2頭,雌5頭)を供試した。ニオイ物質には,アンドロステノンと雄ブタの唾液,雌ブタの発情期の尿と非発情期の尿,対照として蒸留水を用いた。ニオイ物質はイノシシの鼻の高さに調節した提示装置に入れて設置した。提示後30分間のイノシシの行動を記録した。雄イノシシのニオイ嗅ぎ行動は,雌ブタの発情尿において他のニオイよりも多く発現し,雌イノシシでは雄よりもニオイ嗅ぎ行動の発現割合が高かった。雌のニオイ嗅ぎ行動は,特に雄の唾液において他のニオイよりも多く発現した。雄イノシシでは,発情尿と非発情尿を提示した時,ニオイ物質に近いエリアに滞在する割合が高かった。飼育個体が,異性のフェロモンを含むニオイに強い反応を示したことから,ニオイによるイノシシ誘引効果が示唆された。
著者
堀井 隆行 相澤 里菜 福山 貴昭 宮田 淳嗣 川添 敏弘 植竹 勝治 田中 智夫
出版者
Japanese Society for Animal Behaviour and Management
雑誌
動物の行動と管理学会誌 (ISSN:24350397)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.1-11, 2021-03-25 (Released:2021-06-09)
参考文献数
21

本研究では、愛着対象である飼い主の体臭が、飼い主との分離状態のイヌの行動に及ぼす影響を調べることを目的とした。健康で分離不安の既往歴のない一般家庭犬12頭を供試した。イヌに提示するニオイとして飼い主の靴下(愛着対象の体臭付着物)、牛干し肉(興味を示しやすいニオイ)、ラベンダー精油(リラクゼーション効果が報告されている芳香物質)、Control(コットンのみ)という4種類のニオイ刺激を選定した。各ニオイ刺激は、クッションカバーの裏側のポケットに入れて、サークル内でイヌに30分間提示した。このとき、実験室内にはイヌのみを残し、イヌの行動反応はビデオカメラで撮影した。ニオイ刺激の提示は、連続的に繰り返したが、4×4ラテン方格法を用いて提示順の影響を考慮した。飼い主の靴下に対する探査時間の長さは、ラベンダー精油よりも有意(P < 0.05)に長かった。Controlとの差は有意ではないものの、約半数のイヌがControlの倍以上の時間を飼い主の靴下の探査に費やしており、そのような個体は飼い主の靴下に付着した汗のニオイに対してより強い興味を示したと考えられる。また、飼い主の靴下を長く嗅ぐ個体は、ニオイ(クッション)周囲での伏臥・横臥位休息も長い(rs=0.661、P < 0.05)ことから、そのような個体は飼い主の体臭付着物に対して飼い主の代替として近接性を維持する愛着行動を示した可能性が考えられた。しかし、飼い主との分離に伴う発声の抑制作用については明確ではなかった。
著者
谷田 創 齋藤 拓 田中 智夫
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.148-156, 1992

繁殖豚の家族群飼管理モデル(ファミリーペンシステム)の有用性を検討することを目的とし,今回はこのシステムにおける子豚の吸乳行動について2つの実験を行なった.ファミリーペンを形成するにあたって,まず種雄豚2頭と繁殖雌豚7頭を群飼した.成豚への飼料給与は,コンピュタ自動給餌機を用いて個体別に行なった.実験1: 成豚,離乳後の子豚(離乳子豚),離乳前の子豚(哺乳子豚)からなるファミリー群を構成した.その結果,離乳子豚は,妊娠後期の雌豚に対して定期的に吸乳行動を起こし,この雌豚は分娩前に乳汁を分泌するようになり,その後,6頭の子豚を分娩したが,そのうち5頭は栄養不良により衰弱死した.また,離乳子豚が,哺乳子豚の吸乳行動とその母豚の授乳行動のサイクルに同期して,乳を盗むことが観察され,離乳した子豚をファミリーペンの中で継続して飼育することは,妊娠中の雌豚に悪影響を及ぼすだけでなく,哺乳子豚の吸乳行動をも阻害することが認められた.実験2: 実験1のシステムを改善し,離乳子豚を含めずに,成豚と,出生時期の近い異腹子豚だけからなるファミリー群を構成した.その結果,母豚の授乳行動には同期性が認められ,子豚の吸乳行動が各母豚に分散したため,1頭の母豚に集中することはなかった.また,妊娠中の雌豚に対して子豚が吸乳行動を起こすこともなかった.群内の繁殖雌豚の分娩時期をそろえ,離乳時に子豚を群れから隔離することにより,妊娠雌豚に対する吸乳行動を防止するとともに乳の盗み飲みも無くし,行動の自由を与えられた成豚と子豚を一つの群れとして総合的に管理することができた.今回の調査結果から,従来のストール飼育に代わる繁殖雌豚の管理法としてファミリーペンの実用化の可能性が示唆された.