著者
北西 滋 向井 貴彦 山本 俊昭 田子 泰彦 尾田 昌紀
出版者
公益社団法人 日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.83, no.3, pp.400-402, 2017 (Released:2017-05-22)
参考文献数
17
被引用文献数
5

サクラマス自然分布域におけるサツキマスによる遺伝的撹乱の有無を調べるため,両亜種の在来分布域4道県(サクラマス:北海道,富山県,岐阜県,鳥取県;サツキマス:岐阜県)の個体を対象に,マイクロサテライトDNA解析をおこなった。帰属性解析をおこなった結果,神通川水系上流域(岐阜県)と,甲川および陸上川(鳥取県)において遺伝的撹乱が認められた。
著者
田子 泰彦
出版者
日本水産増殖学会
雑誌
水産増殖 (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.387-391, 2002-09-20 (Released:2010-03-09)
参考文献数
21

1985~2001年に神通川で漁獲されたサクラマスの年平均体重の変化を調べた。神通川で漁獲されたサクラマスの年平均体重は1992年までは約3kgであったが, 以後減少し, 1997年と2001年には約2kgまで小型化した。1997~2001年の年平均体重の平均は2.5kgで, 1987~1991年の平均値 (3kg) に比べ有意に小さかった。1991年までは0+秋季放流や1+スモルト放流に由来する回帰親魚に比べ天然魚や0+春放流に由来する親魚の平均体重は有意に大きかったが, 1992年以降では両者の大きさはほぼ同じになった。調査期間中に神通川で漁獲されたサクラマスの年平均体重 (y) と尾数 (x) の関係はy=0.000479x+2.16 (r=0.719, p=0.001) で示され, 漁獲尾数が少ない年は魚体も小さい傾向が認められた。神通川で漁獲されたサクラマスの小型化の要因としては, 海域における競合種の個体群の増大, サツキマスとの交雑および河川での漁獲による大型個体の選択的な淘汰の影響などが考えられた。
著者
田子 泰彦
出版者
日本水産増殖学会
雑誌
水産増殖 (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.137-142, 2002-06-20 (Released:2010-03-09)
参考文献数
24
被引用文献数
1

1991~1995年にサクラマスの生息域である神通川とその河口付近の海域において, サツキマスの出現状況を調べた。神通川ではサクラマスに混ざって多くのサツキマスが漁獲された。漁獲されたサツキマスの尾叉長分布は21.5~44.0cmの範囲にあり, サクラマス (43.5~70.0cm) に比べ著しく小さいことから, 海域での回遊期間は短く, その回遊範囲は狭いと推定された。神通川では尾叉長62.0cm, 体重3.2kgの大型サツキマス個体が漁獲されたことから, サクラマスとの交雑の可能性が示唆された。神通川の河口付近の海域で漁獲されたサツキマス・サクラマス全体に占めるサツキマスの割合は5力年では6.9~14.6%であった。同海域におけるサツキマスの尾叉長分布は16.0~46.0cmの範囲にあり, サクラマス (13.0~72.0cm) に比べ有意に小さい側に分布した。神通川のサクラマスの魚体の大きさを維持し, サクラマス資源を増大させるためには, 神通川に生息するサツキマスを排除し, さらなるサツキマス幼魚 (アマゴ) の侵入を防ぐ手だてを実施する必要があると考えられた。
著者
田子 泰彦
出版者
Japanese Society for Aquaculture Science
雑誌
水産増殖 (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.115-118, 1999-03-20 (Released:2010-03-09)
参考文献数
6
被引用文献数
4

近年, 神通川と庄川ではサクラマス親魚の遡上できる範囲と漁獲量は徐々に減少した。神通川における親魚の遡上範囲と漁獲量の関係はy=-3.97+0.0827xの回帰直線式で示され (r=0.693) , この式は庄川にも当てはまった。この事実は, サクラマス資源の減少は, ダムの建設などによる河川環境の大きな変化と密接に関係していることを示唆している。
著者
田子 泰彦
出版者
日本水産學會
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.554-563, 2002-07-15
参考文献数
25
被引用文献数
10 11

富山湾湾奥部におけるアユ仔稚魚の主な分布範囲は,距岸3km以内の浅海域であった。庄川および神通川へのアユ稚魚の遡上期間は,河川水温が10℃を越えた4~5月にあった。海域で大型個体の出現が認められたのは,河口付近の水温が10℃に達しない3月下旬~4月中旬迄であった。アユの初期遡上群が大きい理由は,河川水が遡上可能な水温条件になるまで河口付近の海域に滞留を余儀なくされるためと考えられた。河川産の個体は海産よりも同じ体長では体重がより重い傾向を示したことから,特に体長6cm以上の個体は河川へ遡上した方が成長がよくなると推定された。
著者
田子 泰彦
出版者
富山県水産試験場
雑誌
富山県水産試験場研究論文 = Special report (ISSN:1347927X)
巻号頁・発行日
no.1, pp.1-151, 2002-12

また、各地の河川へ放流された湖産アユは生態学、形態学および遺伝学的見地からも、一代限りで、再生産に寄与していないことが指摘されている。さらに、湖産アユには冷水病の蔓延による健苗性の低下などにより、友釣りのオトリを追わないアユが多くなったなどの問題が指摘されるようになった。人工種苗においても魚の形態や放流後の分散などの問題が一部にある。さらに、最近では水鳥のカワウの被害の拡大が報告されるなど、アユを取りまく状況は年々悪化している。このような状況に直面して、最近では特に海産遡上アユ資源の増大を望む声が高くなってきている。アユ資源を増大させるには、海産アユ資源を増大させるとともに、実際の漁場におけるアユの生息環境(河川環境)の改善と資源管理(漁業規制)を的確に行う必要がある。海産アユ資源を増やすためには、その生態を明らかにし、それに基づいた仔稚魚の保護対策や増殖手法を確立することが重要と考えられる。また、資源管理に際しては、アユと生息域および漁場を競合するサクラマスの生態や資源管理にも配慮する必要があると考えられる。
著者
田子 泰彦
出版者
水産増殖談話会
雑誌
水産増殖 (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.49, no.3, pp.397-404, 2001-09-20
被引用文献数
12

1997~2000年に神通川と庄川のアユとサクラマスの主な漁場である中流域において、魚類の生息に極めて重要な淵の存在を調べた。最大水深が2m以上の淵は、神通川では18から11に、庄川では5から3に減少し、神通川では淵の数は減少する傾向が認められた。両河川では淵の存在は極めて不安定で、期間中に30の淵が消失し、21の淵が新たに形成された。期間中継続した淵は、神通川では4に過ぎず、庄川では皆無であった。両河川の中流域の河川形状には、典型的な中流域の河川形態型であるBb型は全く適応できなかった。これらの淵の消長は主に護岸建設などの河川工事により引き起こされたとともに、アユやサクラマスの生存にも悪い影響を与えてきたと考えられた。
著者
田子 泰彦
出版者
Japanese Society for Aquaculture Science
雑誌
水産増殖 (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.479-483, 1997-12-20 (Released:2010-03-09)
参考文献数
7

大量放流用の標識として切除したサクラマスの背鰭及び腹鰭の再生状況を明らかにした。背鰭切除後約8~9カ月経過した群では, 再生が認められた個体割合は71.9~79.5%で, そのうちほぼ完全に再生した割合は5.2~27.7%であった。腹鰭切除後約8~9カ月経過した群では, 再生が認められた個体割合は50.7~86.4%で, そのうちほぼ完全に再生した割合は8.1~38.3%であった。鰭切除後約27~28カ月経過したサクラマス親魚では, 51.5%の腹鰭がほぼ完全に再生していた。これらの結果は, 背鰭や腹鰭標識によって放流した幼魚の回帰率は実際よりも低く算定されたことを示しており, 放流魚のより正確な回帰率を得るためには, 脂鰭切除標識に加えて耳石標識やCoded Wire Tagなどの内部標識を組み合わせて用いるべきだと考えられた。
著者
田子 泰彦
出版者
富山県水産試験場
巻号頁・発行日
no.15, pp.1-10, 2004 (Released:2011-03-05)

降海期におけるサクラマス幼魚によるサケ稚魚の補食実態を明らかにするために、1995年と1996年の3月に飼育池において補食試験を行った。サクラマス幼魚によるサケ稚魚の補食率と平均補食尾数は、1995年ではパーが45.1%と1.1尾、スモルトが29.2%と0.4尾、1996年ではパーが60.0%と1.1尾、スモルトが50.0%と1.0尾であった。サケ稚魚を補食していたサクラマス幼魚の尾叉長範囲は11.8-17.1cmであった。1995年では大型のパーほど1個体当たりが補食したサケ稚魚の個体数が多い傾向が認められた。また、1996年ではパー、スモルトともにサクラマス幼魚の尾叉長が大きいほど補食したサケ稚魚のサイズが大きい傾向が認められた。降海時期ではパーは放流地点付近に滞留する傾向が強いことから、サクラマス幼魚とサケ稚魚を同時に増殖している河川では、サクラマス幼魚の補食によるサケ稚魚の減耗を抑制するために、サクラマス幼魚の0(+)秋放流や1(+)スモルト放流の放流地点はサケ稚魚より上流に設定すべきと考えられた。
著者
田子 泰彦
出版者
水産増殖談話会
雑誌
水産増殖 (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.225-226, 2003-06-20
被引用文献数
3

北陸地方で有数のアユ、Plecoglossus altivelis、漁場が存在する庄川では、アユ漁の盛期である夏季のアユ漁場の流量は、合口ダムから分水路を経て多くの水(約60トン/秒)が和田川に流れるため、約10トン/秒と著しく少なくなっている。また、低水護岸の建設や砂利採取などの河川工事の影響も加わり、庄川では20㎞に及ぶ漁場に最大水深2mを越える淵はわずか3個しかなく、瀬は水深の浅い平瀬が多くを占めるようになった。このようにアユの隠れ場や休息場である淵の喪失や瀬の平均水深が浅くなることによって、アユ網漁の漁獲圧力が高まったと推察されている。一方、余暇時間の増大や交通の利便性の向上などに伴い、近年アユ漁を行う人は急激に増加した。庄川では漁獲能力の高い投網とテンカラ網(投げ刺網の一種)の承認件数は、1978年にはそれぞれ145統と678統であったが、1998年には192統(1.3倍)と1364統(2.0倍)に増加し、アユに対する漁獲圧力は以前と比べ著しく高くなった。しかし、庄川では新規申請者では網漁の許可が得にくいことや網漁の解禁日が釣りよりも5日遅いこと(富山県内でアユ網漁が可能な河川に一様に適用)以外に網漁の漁業規制は実施されていない。本研究では、人為的な理由で流量が少なくなった河川(区域)において、流量の増加がアユの資源管理に及ぼす影響の一つを明らかにするために、庄川に放流される湖産アユを用いて、飼育池において水深別にアユの漁獲試験を行い、その漁獲効率の差を明らかにした。
著者
田子 泰彦
出版者
公益社団法人日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.44-49, 2000-01-15
被引用文献数
9 10

北陸地方の神通川と庄川において, サクラマス親魚の河川への遡上と滞留状況を1991∿1995年に調べた。神通川への遡上は2∿6月であり, その盛期は5月にあった。遡上親魚の大きさは尾叉長58.5±4.9cm, 体重2.8kg±0.8kgで, 遡上親魚の74.7%を雌が占めた。庄川中流域における流し網による親魚の捕獲調査では, 96.4%の個体が淵で捕獲された。神通川で4∿6月に漁獲された個体の80.2%が空胃であった。これらのことから, サクラマスは河川に遡上後は中流域の淵に滞留し, ほとんど摂餌せずに越夏するものと推測された。サクラマス資源の効率的な増大のためには, 淵の保全・復元が極めて重要であると考えられた。
著者
田子 泰彦
出版者
水産増殖談話会
雑誌
水産増殖 = The aquiculture (ISSN:03714217)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.81-88, 2012-03-20

神通川と庄川で日中に行われているアユ漁の遊漁実態を2002~2004年に調べた。両河川では友釣りなどの2つの自由漁法と投網などの3つの許可漁法を行う遊漁者が観察された。遊漁者数が多かった神通川では友釣りの遊漁者がその大部分を占めるとともに,その出漁努力は投網などの許可漁法の遊漁者に比べ著しく高かった。友釣り,毛鉤釣り,テンカラ網およびコロコロ釣りでは,河川流量が多くなると出漁人数が減る傾向にあり,一定以上の出水時には遊漁者は認められなくなった。これに対して,投網では河川流量が多くなると出漁人数が増える傾向にあり,大きな出水時にも遊漁者が多く認められた。神通川に多くの遊漁者が訪れるのは,神通川の河川流量が日常的に多いこと,および良い河川形状が維持されているためと考えられた。庄川で遊漁者数を増やすには,平常時の河川流量を増加させるか,遊漁者数と出漁日数の多い友釣りの専用区を設定することが効果的と考えられた。
著者
田子 泰彦 辻本 良
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.165-178, 2006-01-30 (Released:2009-01-19)
参考文献数
20
被引用文献数
3 3

庄川中流域にある水深約30cmの浅瀬に人工的に水深約1mの淵を造成し,そこでの魚類の出現状況を1995年と1996年の8月から9月に調査した.出現した魚類の種類,数,および大きさは,日中は目視観察により,夜間は投網採捕により調べた.造成した淵の魚種の多様度は,造成前の浅瀬に比べ著しく増加した.1995年には淵で最も出現数の多かったアユの数は,8月から9月にかけて,日の経過とともに増加した.しかし,淵への流入量が日の経過とともに減少した1996年には,最も出現数の多かったウグイの数は,日の経過とともに減少した.夜間においても淵における魚種の多様度は,淵の上流に隣接する瀬のそれに比べ有意に高かった.夜間にはアユ,ウグイおよびヌマチチブは瀬よりも淵を好む傾向がみられ,逆にカジカは淵よりも瀬を好む傾向が認められた.1996年には淵に生息していたウグイ稚魚のサイズは,日時の経過とともに大きくなった.淵は生息魚類に休息·逃避場所,稚魚の成育場,夜間の睡眠場所として重要な役割を果たしており,また適当な流量が維持されればアユにとっては重要な摂餌場になるものと考えられた.
著者
田子 泰彦
出版者
公益社団法人日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.144-150, 2002-03-15
参考文献数
15
被引用文献数
14 8

富山湾奥部の砂浜海岸の砕波帯では,アユ仔魚は10〜1月(盛期は11月)に出現し,その平均標準体長は10月に12.1±1.8mm,11月に18.3±3.0mm,12月に22.0±4.9mmおよび1月に23.3±2.7mmであった。砕波帯の沖側に隣接する水深4m以浅の浅海域では平均標準体長36.1±3.8mmの大型仔魚が1〜2月に採集された。水中観察では11〜3月にかけて砕波帯およびそれに隣接する浅海域において仔魚の群れが確認された。富山湾では10〜12月まで砕波帯を中心に生息していたアユ仔魚は,仔魚の成長や水温の低下などに伴い,2月頃までにはその沖側に隣接する浅海域へ主な生息場を移すものと考えられた。