著者
馬場 一憲 丸茂 元三 町田 芳哉 海野 信也 岡井 崇 香川 秀之 坂井 昌人 上妻 志郎
出版者
東京大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1993

早産未熟児、特に妊娠24週未満で流産または早産した新生時は、皮膚が弱く肺も未熟なため、従来から使われている保育器と人工呼吸器を用いた方法では、必ずしもインタクト・サバイバルが望めない。そこで、子宮内のような生理的状況下で保育可能な人工子宮の開発を行なっている。本研究では、人工子宮の体外循環回路の改良と以下に述べるような一連の関連実験を行ない、それぞれ示すような成果が得られた。帝王切開により取り出したヤギ胎仔を、人工羊水で満たした水槽内に移し、臍帯動脈から脱血して模型人工肺を用いた装置で酸素化して臍帯静脈に還流するシステムの改良を行ない、良好な結果が得られた。模擬実験にて還流システムの特性試験を行ない、体外循環血流量の変化に対し、回路内の血液量が胎仔循環血液量の10〜20%に相当する量ほど変化することが分かった。しかし、実際の保育実験の結果から判断して、この程度の変動に対しては胎仔は順応可能であることが示唆された。人工子宮の体外循環に相当する胎盤循環の障害が胎仔の脳に与える影響を調べるため、マイクロスフェアを用いた胎仔各部の血流計測および過酸化脂質の測定を行なった。その結果、臍帯の間欠的圧迫により、脳血流が一時的に増加し、その後減少に転じること、およびフリーラジカルによる障害を意味する過酸化脂質の増加が特に脳に顕著であることが確認され、今後の人工子宮開発に役立つ重要な所見が得られた。さらに、人工子宮の適応の対象となりうる横隔膜ヘルニアの動物実験モデルを作成することを目的に、ヤギ胎仔の胎児手術を行なった。横隔膜に切開を加えた胎仔を再び子宮内で育てることで、実際の横隔膜ヘルニア症例と同じように、腸の胸腔内脱出と肺の低形成を作ることに成功した。将来、この実験モデルを用いることにより、横隔膜ヘルニアの外科的修復と人工子宮での保育を組合せた新しい治療法の開発が期待できる。