著者
青山 貴則 相田 潤 竹原 順次 森田 学
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.16-24, 2008-01-30 (Released:2018-03-30)
参考文献数
49
被引用文献数
3

一般歯科医院において,修復物の生存期間とそれに関連する要因を検討することを目的とした.札幌市内の歯科医院にて,1991年1月1日から2005年3月31日の間に修復物を用いた治療を受け,その後,定期健診やその他の治療目的などで再来院した患者を対象とした.コンポジットレジン,メタルインレー,4/5冠,メタルクラウン,メタルブリッジの生存期間とそれに関連する因子をKaplan-Meier法と,Cox比例ハザードモデルを用いて検討した.総計95人,649歯の修復物について分析した結果,平均生存期間では,メタルインレーが3,804日と最も長く,次いでコンポジットレジン3,532日,4/5冠3,332日,メタルクラウン3,276日,メタルブリッジ2,557日であった.10年の生存率を推定した結果,メタルインレー67.5%,4/5冠60.5%,コンポジットレジン60.4%,メタルクラウン55.8%,メタルブリッジ31.9%であった.再治療の原因では二次う蝕によるものが多く,特にコンポジットレジン(78.2%),メタルインレー(72.4%)で著明であった.Cox比例ハザードモデルを用いて,修復物の生存期間の長さに影響している因子を検討した結果,アイヒナー分類で生存期間と有意な関連(p<0.05)がみられ,アイヒナー分類B1,B2,B3が予後不良であり,ハザード比はそれぞれ1.88 (1.16-3.05),3.18 (1.93-5.25),2.44 (1.31-4.53)であった.年齢,歯種,治療時の歯髄状態と生存期間との間に有意な関連は認められなかった.以上の結果から,メタルブリッジの生存期間が最も短く,また咬合の要因が生存期間と関連していることが示唆された.
著者
相田 潤 近藤 克則
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.57-74, 2014-04-25 (Released:2014-05-12)
参考文献数
108
被引用文献数
12 8

保健行動や遺伝要因に加えて,健康の社会的決定要因を考慮する重要性が指摘され,実際の保健政策でも考慮されるようになってきた。これは,人々の行動や健康が周囲の社会環境の影響を受けていることが研究により明らかになってきたことが理由である。社会的決定要因のひとつが,人々の絆から生まれる資源であるソーシャル・キャピタルである。人々のつながりが豊かであることが,情報や行動の普及や助け合い,規範形成を通じて健康に寄与する可能性が指摘されている。ソーシャル・キャピタルには,集団間の健康格差に関わる地域や集団の社会的凝集性に基づいた考え方と,主に個人のネットワークに基づいた考え方が存在する。マルチレベル分析の社会疫学研究への導入により,前者の考え方でソーシャル・キャピタルと健康状態や死亡,保健行動との関係が実証されてきた。一方,信頼や互酬性の規範といった概念よりも踏み込み,より実体のあるネットワークに基づくリソースに注目する後者の考え方は,現実的なソーシャル・キャピタルのメカニズムの理解や,健康向上の介入に利用しやすいと考えられ,研究がすすみつつある。また,社会格差や災害からの復興に関しても,ソーシャル・キャピタルが健康に寄与すると考えられている。そしてまだ数は少ないものの,ソーシャル・キャピタルを活用した介入研究も報告されつつある。前向き研究や介入研究の少なさや負の側面の存在など今後の研究が必要な部分も多いが,健康格差を減らして健康的な社会をつくる方法のひとつとして,今後もソーシャル・キャピタル研究は進められていくべきであろう。
著者
阿部 智美 相田 潤 伊藤 奏 北田 志郎 江角 伸吾 坪谷 透 松山 祐輔 佐藤 遊洋 五十嵐 彩夏 小坂 健
出版者
日本健康教育学会
雑誌
日本健康教育学会誌 (ISSN:13402560)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.143-152, 2019-05-31 (Released:2019-05-31)
参考文献数
32

目的:医療系大学生の社会関係資本及び社会的スキルの精神的健康に対する関連について検討することを目的とした.方法:質問紙調査による横断研究を行った.医療系大学生648名を対象に質問紙を配布し,回収された質問紙の有効回答414名を分析対象とした.分析は,属性(学校,性別,学年,同居形態,親の学歴),社会関係資本(認知的社会関係資本,構造的社会関係資本),社会的スキルを独立変数,対数変換した精神的健康度を従属変数として重回帰分析を行った.結果:重回帰分析から,学校の認知的社会関係資本(β=-0.13, P=0.02),友人・知人との集まり「週に数回」(β=-0.15, P=0.045),社会的スキル(β=-0.24, P<0.01)が精神的健康度の高さに関連していた.反対に,グループ学習「年に数回」(β=0.20, P<0.01),「月に数回」(β=0.15, P=0.01),「週に数回」(β=0.11, P=0.04)が精神的健康度の低さに関連していた.結論:医療系大学生の高い認知的社会関係資本及び社会的スキルのスコアはより高い精神的健康と関連していた.これらの関連については,さらに検討が必要である.
著者
相田 潤 草間 太郎 五十嵐 彩夏 小関 健由 小坂 健 人見 早苗 渡部 千代
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.72-80, 2021 (Released:2021-05-25)
参考文献数
13

歯科衛生士不足が問題となっている.そこで産業保健分野で重要な職業性ストレスモデルに基づき歯科衛生士の離職原因となりうる要因(離職関連要因)を検討し,歯科医師との認識の違いを分析した.2017年度に宮城県内の歯科衛生士1,334人,歯科医師1,185人を対象に郵送の質問紙による横断研究を実施した.6つのストレスモデルに基づく質問を用い,歯科衛生士と歯科医師の回答の差をχ2検定で分析をした.歯科衛生士313人(回収率:23.5%),歯科医師213人(同:18.0%)の回答の内,欠損値のない各303人と174人のデータを用いた.歯科衛生士の離職関連要因は,「人間関係の問題」(78.2%)や「時間面の労働条件」(68.6%),「給与面の待遇」(58.4%)の回答が多かったが,歯科医師はそれらは有意に少なく「産休育休の問題」の回答が有意に多かった.人間関係の問題の内訳は,歯科衛生士は「院長との問題」,歯科医師は「スタッフ間の問題」が最も多く有意な差が認められた.労働条件の内訳は歯科衛生士・歯科医師ともに「勤務時間」が最も多かった.しかし,歯科衛生士は有給休暇や残業についての回答も有意に多かった.就業していない歯科衛生士は,非常勤で復職を望むものが最も多く,午後から夕方の勤務は避けたい者が多かった.歯科医師と歯科衛生士の間で離職原因の認識に大きな差が存在した.これらを解消することで,歯科衛生士の離職を防止し,復職を支援する環境につながる可能性がある.
著者
田代 敦志 相田 潤 菖蒲川 由郷 藤山 友紀 山本 龍生 齋藤 玲子 近藤 克則
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.190-196, 2017

<p><b>目的</b> 高齢者における残存歯の実態と背景にある要因を明らかにすることを目的として,個人の所得や暮らしのゆとりといった経済的な状況で説明されるかどうか,それらを考慮しても高齢者の残存歯数がジニ係数により評価した居住地の所得の不平等と関連するか検討した。</p><p><b>方法</b> 介護認定を受けていない65歳以上の高齢者を対象として2013年に全国で約20万人を対象に行われた健康と暮らしの調査(JAGES2013,回収率71.1%)において,新潟市データを分析対象とした。自記式調査票を用いて新潟市に住民票がある8,000人に郵送調査を実施し,4,983人(62.3%)より回答を得て,年齢と性別に欠損が無かった3,980人(49.8%)の有効回答を使用した。中学校区別の所得格差(ジニ係数)と残存歯数の地域相関を求め,ジニ係数別の残存歯数を比較した。次に,目的変数を残存歯数,説明変数を個人レベルの変数として,性別,年齢以外に,教育歴,等価所得,暮らしのゆとり,世帯人数,糖尿病治療の有無,喫煙状況を用い,地域レベルの変数として,中学校区ごとの平均等価所得とジニ係数とした順序ロジスティック回帰モデルによるマルチレベル分析を行った。</p><p><b>結果</b> 57中学校区別のジニ係数と残存歯数の地域相関は,相関係数−0.44(<i>P</i><0.01)の弱い負の相関を認め,ジニ係数が0.35以上の所得格差が大きい地域は他の地域と比較して有意(<i>P</i><0.001)に残存歯数が少なかった。残存歯数を目的変数とした順序ロジスティック回帰モデルにおいて,性別と年齢を調整後,個人レベルでは教育歴,等価所得,暮らしのゆとり,喫煙状況,地域レベルではジニ係数,平均等価所得が有意な変数であった。一方で,すべての変数を投入したモデルでは,個人レベルの教育歴と地域レベルの平均等価所得において有意な結果は得られなかった。</p><p><b>結論</b> 所得格差が比較的小さいと考えられる日本の地方都市においても,個人レベルの要因を調整後に地域レベルの所得格差と残存歯数の間に関連が認められた。高齢者の残存歯数は永久歯への生え変わり以降,長い時間をかけて形成されたものであり,機序は明らかではないが,所得分配の不平等が住民の健康状態を決めるとする相対所得仮説は,今回対象となった高齢者の残存歯数において支持される結果であった。</p>
著者
相田 潤 安藤 雄一 柳澤 智仁
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, pp.458-464, 2016 (Released:2016-12-08)
参考文献数
40
被引用文献数
7

口腔の健康格差解消が日本の健康政策や国際的な学会で述べられている.しかし日本人の全国的なライフステージごとの口腔の健康格差の実態は不明である.そこで政府統計調査データを利用した横断研究を実施した.平成17年の歯科疾患実態調査と国民生活基礎調査のデータセットをリンケージさせ,3,157人のデータを解析した.社会経済状況の指標に等価家計支出を用いた.共変量として性別,年齢,居住地域類型を用いた.幼児期(1~5歳,N=116),学齢期(6~19歳,N=353),成人期(20~64歳,N=1,606),高齢期(65歳以上,N=1,082)ごとの層別解析を行った.幼児期では乳歯う蝕経験の有無,学齢期では永久歯う蝕経験の有無,成人期では進行した歯周疾患(CPIコード3以上)の有無,高齢期では無歯顎かどうか,を目的変数として用いた.ポアソン回帰分析を用いて,等価家計支出が低いほど歯科疾患を有したり無歯顎である関連が存在するかを検討した.解析の結果,成人期の歯周疾患(p=0.001)および高齢期の無歯顎(p<0.001)で,等価家計支出が低いほど統計学的に有意に有病者率が高い傾向が認められた.学齢期の永久歯う蝕経験については,統計学的に有意ではなかったものの,等価家計支出が低いほど多い傾向が認められた(p=0.066).対象者数が少なかったためか,乳歯う蝕経験については明確な傾向は認められなかった.今後,口腔の健康格差を減らすため社会的決定要因を考慮した対策がより一層必要であろう.
著者
相田 潤 小林 清吾 荒川 浩久 八木 稔 磯崎 篤則 井下 英二 晴佐久 悟 川村 和章 眞木 吉信
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.308-315, 2016 (Released:2016-06-10)
参考文献数
41

フッ化物配合歯磨剤は成人や高齢者にも,う蝕予防効果をもたらす.近年,一部の基礎研究の結果をもとに,フッ化物配合歯磨剤がインプラント周囲炎のリスクになる可能性が指摘されている.しかし,実際の人の口腔内やそれに近い状況での検証はない.本レビューではフッ化物配合歯磨剤がインプラント周囲炎のリスクになるか評価することを目的とした.疫学研究および6つの観点から基礎研究を文献データベースより収集した.疫学研究は存在しなかった.基礎研究の結果から,1)pHが4.7以下の酸性の場合,フッ化物配合歯磨剤によりチタンが侵襲されうるが,中性,アルカリ性,または弱酸性のフッ化物配合歯磨剤を利用する場合,侵襲の可能性は極めて低い,2)歯磨剤を利用しないブラッシングでもチタン表面が侵襲されていた.歯磨剤を利用するブラッシングでフッ化物の有無による侵襲の程度に差はない,3)チタン表面の侵襲の有無で,細菌の付着に差はなかった.フッ化物の利用により細菌の付着が抑制された報告も存在した,4)実際の口腔内では唾液の希釈作用でフッ化物濃度は低下するため侵襲の可能性は低い,5)フッ化物配合歯磨剤の利用により細菌の酸産生能が抑制されるため,チタンが侵襲されるpHにはなりにくくなる,6)酸性の飲食物によるpHの低下は短時間で回復したことがわかった.これらからフッ化物配合歯磨剤の利用を中止する利益はなく,中止によるう蝕リスクの増加が懸念される.
著者
長谷 晃広 相田 潤 坪谷 透 小山 史穂子 松山 祐輔 三浦 宏子 小坂 健
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.276-282, 2015-04-30 (Released:2018-04-13)
参考文献数
11
被引用文献数
1

近年,歯学部において「将来設計に関する教育(以下,キャリア教育)」が実施されているが,これまでその効果を全国的に検証した研究はほとんど報告されていない.そこで本研究は,全国の研修歯科医を対象として 1)将来設計およびキャリア教育受講の実態把握とその関連性の検討ならびに,2)具体的な志望進路の実態把握を目的とした.2,323名に対し自記式調査票を郵送し1,590名から回答を得た(回収率68.4%).主要な変数に欠損のない1,428名のデータで解析を行った.「将来設計を描けている」と回答した者は212名(14.8%)であった.将来設計を描けていると回答する者の割合はキャリア教育受講経験を有する群で高く(p=0.015),性別,年齢,婚姻状態,出身大学,親の職業を調整したうえでもその関連は支持された(prevalence ratio=1.18, 95%信頼区間=1.08-1.29, p<0.001).希望する進路の最多回答は,研修直後および研修修了5年後では診療所勤務(570名:39.9%および723名:50.6%),研修修了10年後では診療所の開業(705名:49.4%)であった.本研究より,キャリア教育は将来設計を描くにあたり有効である可能性が示唆され,約半数の研修歯科医が10年後以降には歯科診療所を開業したいと考えていることが明らかになった.
著者
相田 潤 近藤 克則
出版者
医学書院
雑誌
保健師ジャーナル (ISSN:13488333)
巻号頁・発行日
vol.63, no.11, pp.1038-1043, 2007-11-10

歯科疾患の社会への負担は,一般に思われているよりも大きい。おもな生活習慣病の国民医療費(2004年度)の金額1)をみると,悪性新生物や糖尿病の医療費はそれぞれ2兆3306億円,1兆1168億円に上る。しかしながら,歯科疾患の医療費(2兆5377億円)は,それらをも上回っている。がんや糖尿病と比較して生命に関わる重篤度は低いが,罹患率が非常に高いため社会にとっては大きな負担となっている。 この歯科疾患にも,社会経済的あるいは地域的な格差がある。そして,科学的根拠があり,健康格差の抑制効果が期待できる予防方法もすでに確立している。 そこで今回は「『健康格差社会』への処方箋―番外編」として,「歯科疾患における健康格差とその対策」を取り上げる。ここでは歯科疾患のなかでも,「う蝕(虫歯)」を中心に話を進めていく。その理由は,歯が抜ける原因を調べた最新の調査結果2)で,う蝕とその続発症による抜歯が43.6%と,歯周病の37.1%よりも多いからである。
著者
相田 潤 深井 穫博 古田 美智子 佐藤 遊洋 嶋﨑 義浩 安藤 雄一 宮﨑 秀夫 神原 正樹
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.270-275, 2017 (Released:2017-11-10)
参考文献数
15

健康格差の要因の一つに医療受診の格差がある.また歯科受診に現在歯数の関連が報告されている.日本の歯科の定期健診の格差に現在歯数を考慮し広い世代で調べた報告はみられない.そこで定期健診受診の有無について社会経済学的要因と現在歯数の点から,8020推進財団の2015年調査データによる横断研究で検討した.調査は郵送法の質問紙調査で,層化2段無作為抽出により全国の市町村から抽出された20-79歳の5,000人の内,2,465人(有効回収率49.3%)から回答が得られている.用いる変数に欠損値の存在しない2,161人のデータを用いた.性別,年齢,主観的経済状態,現在歯数と,定期健診受診の有無との関連をポアソン回帰分析で検討しprevalence ratio(PR)を算出した.回答者の平均年齢は52.4±15.5歳で性別は男性1,008人,女性1,153人であった.34.9%の者が過去に定期健診を受診した経験を有していた.経済状態が中の上以上の者で39.7%,中の者で36.4%,中の下以下の者で28.5%が定期健診の受診をしていた.多変量ポアソン回帰分析の結果,女性,高齢者(60-79歳)で受診が有意に多く,経済状態が悪い者,現在歯数が少ない者で有意に受診が少なかった.経済状態が中の上以上の者と比較した中の下以下の者の定期健診の受診のPR は0.74(95%信頼区間=0.62; 0.88)であった.定期健診の受診に健康格差が存在することが明らかになった.経済的状況に左右されずに定期健診が受けられるような施策が必要であると考えられる.
著者
山本 龍生 阿部 智 大田 順子 安藤 雄一 相田 潤 平田 幸夫 新井 誠四郎
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.410-417, 2012-07-30 (Released:2018-04-06)
参考文献数
12

「健康日本21」の歯の健康に関する目標値「学齢期におけるフッ化物配合歯磨剤(F歯磨剤)使用者の割合を90%以上にする」の達成状況を調査した.  2005年実施のF歯磨剤使用状況調査対象校のうち,協力の得られた18小学校(対象者:8,490 名)と17中学校(対象者:8,214名)に対して,調査票を2010年に送付し,小学生の保護者と中学生自身に無記名で回答を依頼した.回収できた調査票から回答が有効な12,963名(小学生:6,789名,中学生:6,174名)分を集計に用いた. F歯磨剤の使用者割合は89.1%(95%信頼区間:88.6〜89.7%)(小学生:90.0%,中学生:88.1%,男子:88.0%,女子:90.2%)であった.歯磨剤使用者に限るとF歯磨剤使用者割合は92.6%(小学生:94.9%,中学生:90.2%)であった.F歯磨剤使用者の中で,歯磨剤選択理由にフッ化物を挙げた小学生(保護者),中学生は,それぞれ47.9%,15.8%であった.歯磨剤を使わない者の約3〜4割は味が悪いことを使わない理由に挙げていた. 以上の結果から,学齢期におけるF歯磨剤の使用状況は,2005年(88.1%)からほとんど変化がなく,「健康日本21」の目標値達成には至らなかった.今後はF歯磨剤の市場占有率の向上,歯磨剤を使わない者への対応等,F歯磨剤使用者の割合を増加させる取り組みが求められる.
著者
斉藤 雅茂 辻 大士 藤田 欽也 近藤 尚己 相田 潤 尾島 俊之 近藤 克則
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.11, pp.743-752, 2021-11-15 (Released:2021-12-04)
参考文献数
28

目的 介護予防事業推進による財政効果を評価する際の基礎資料を得るために,介護予防・日常生活圏域ニーズ調査で把握可能な要支援・要介護リスク評価尺度点数別の介護サービス給付費の6年間累積額を分析した。方法 日本老年学的評価研究(Japan Gerontological Evaluation Study:JAGES)の一環で,2010年に実施された要介護認定を受けていない高齢者を対象にした質問紙調査の一部をベースラインにした(全国12自治体を対象。回収率:64.7%)。その後,行政が保有する介護保険給付実績情報と突合し,46,616人について2016年11月まで(最長76か月間)に利用した介護サービス給付費を把握した。要支援・要介護リスクについては,性・年齢を含む12項目で構成される要支援・要介護リスク評価尺度・全国版(0-48点)を用いた。ベースライン時の基本属性等を調整した重回帰モデルに加えて,従属変数の分布を考慮したトービットモデルおよび多重代入法による欠損値補完後の重回帰モデルを行った。結果 追跡期間中に7,348人(15.8%)が新たに介護保険サービス利用に至っていた。要支援・要介護リスク評価尺度点数が高いほど,6年間の要支援・要介護認定者および要介護2以上認定者割合,累積介護サービス給付費が高く,介護サービスの利用期間は長く,いずれも下に凸の曲線状に増えていた。ベースライン時の諸特性を統計的に考慮したうえでも,リスク評価点数が1点高いほど,6年間累積介護サービス給付費は1人あたり3.16(95%信頼区間:2.83-3.50)万円高い傾向にあった。リスク評価点数が低い群(16点以下)では1点あたり0.89(95%信頼区間:0.65-1.13)万円,高い群(17点以上)では1点あたり7.53(95%信頼区間:6.74-8.31)万円高い傾向にあった。推計モデルによる大きな違いは確認されなかった。結論 ある時点での集団のリスク評価尺度点数からその後6年間の累積介護サービス給付費の算出が可能であることが示された。外出頻度などリスク点数を構成する可変的な要素への介入が保険者単位でみると無視できない財政的なインパクトになりうることが示唆された。
著者
小山 史穂子 相田 潤 長谷 晃広 松山 祐輔 佐藤 遊洋 三浦 宏子 小坂 健
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.65, no.5, pp.417-421, 2015-10-30 (Released:2018-04-13)
参考文献数
15

平成24年4月の母子健康手帳の改正により,幼児に対するフッ化物配合歯磨剤の使用の推奨が記載された.本研究では,大学での教育内容を深く反映すると考えられる歯学教育を終えて間もない臨床研修歯科医師を対象に,「幼児への歯磨剤の使用を推奨しているのか」について出身大学ごとに差があるかを調べた.平成24年12月から平成25年3月に臨床研修歯科医師2,323名に対し,郵送による自記式質問紙調査を行った.「二歳の男児の患者さんに対して,あなたが推奨する歯磨剤の量はどれになりますか」の質問の選択肢を「歯磨剤の使用を推奨しない」(歯磨剤は使わない)と「歯磨剤の使用を推奨する」(小児用歯ブラシのヘッドの1/3まで(豆粒大),小児用歯ブラシのヘッドの1/3〜2/3まで,小児用歯ブラシのヘッドの2/3以上,のいずれかを選択)の2カテゴリーにし,出身大学との関連を調べた.統計学的検定には,χ2検定およびロジスティック回帰分析を用いた.1,514名(有効回答率:65.2%)の有効回答の内,使用を推奨した者は48.7%であった.出身大学別の解析では,使用を推奨する者の割合が最も多い大学で73.8%であったのに対し,最も少ない大学で22.2%と両者間に有意差が認められ,出身大学によって,幼児への歯磨剤の使用に関する認識が異なることがわかった.科学的根拠を考慮した効果的な口腔衛生学教育のあり方について検討が必要だと考えられる.
著者
五十嵐 彩夏 相田 潤 草間 太郎 小坂 健
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.183-190, 2020-03-15 (Released:2020-04-01)
参考文献数
28

目的 海外での研究では職場での受動喫煙暴露は,事務系労働者に比べて,建設業や運輸業などの肉体労働者で多いことが明らかになっている。日本では職場での受動喫煙への暴露には,社会経済状況による格差が存在することが明らかになっているが,業種と職場での受動喫煙状況との関連を明らかにした研究は我々の調べた限り存在しない。本研究は業種と職場での受動喫煙との関連を明らかにすることを目的とした。方法 2017年に日本で20-69歳の男女5,000人を対象として行われたウェブ調査を用いて,横断研究を行った。日本標準職業分類の11業種に就業している者および職場での受動喫煙について回答した者のうち,直近30日以内に喫煙していない者を分析対象とした(n=1,739)。独立変数は業種とし,①管理的・専門的・技術的,②事務的,③販売・サービス,④保安,⑤農林漁業,⑥生産工程・運搬・清掃・包装等,⑦輸送・機械運転・建設・採掘の 7 群に分類した。従属変数は職場での受動喫煙の有無とした。共変量として性別,年齢,学歴,所得,職場の喫煙環境,受動喫煙に対する意識を用いた。ポアソン回帰モデルを用いて,業種の違いによる職場での受動喫煙の Prevalence ratio を算出した。結果 分析対象者は平均年齢43.3歳(SD=11.9),男性60.5%で,過去 1 か月間に職場で受動喫煙があった者は529人(30.4%)であった。受動喫煙があった者の業種内での割合は,①管理的・専門的・技術的で171人(27.9%),②事務的で155人(27.1%),③販売・サービスで116人(33.7%),④保安で10人(45.5%),⑤農林漁業で 7 人(31.8%),⑥生産工程・運搬・清掃・包装等で39人(34.5%),⑦輸送・機械運転・建設・採掘で31人(58.5%)であった。多変量解析の結果,非喫煙者において,事務的に比べ販売・サービスで1.27倍(95%信頼区間(95% CI):1.04-1.56),保安で1.61倍(95% CI:1.02-2.56),輸送・機械運転・建設・採掘は1.75倍(95% CI:1.33-2.31)職場で受動喫煙の暴露があった。結論 改正健康増進法により事業所での受動喫煙防止対策はすすむが,業種によっては職場での受動喫煙防止対策が取り残される可能性があるため,職場での受動喫煙状況をモニタリングする必要がある。
著者
草間 太郎 相田 潤 東 大介 佐藤 弥生子 小野寺 保 杉山 賢明 坪谷 透 髙橋 達也 小坂 健
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.26-32, 2020-01-15 (Released:2020-02-04)
参考文献数
20

目的 東日本大震災は2011年3月に発生したが,2018年11月現在においても宮城県内では約1,100人の被災者が仮設住宅に入居している。家を失い仮設住宅へ移住することは健康状態を悪化させる可能性があることが報告されている。しかし,仮設住宅入居者の健康状態を長期間にわたって調査した研究はほとんどない。さらに,災害公営住宅入居者まで対象にした研究は我々の知る限り存在しない。本研究の目的は災害公営住宅も含めた応急仮設住宅入居者の震災後からの健康状態の経年推移を明らかにすることである。方法 本研究は宮城県内のプレハブ仮設住宅・民間賃貸借上住宅・災害公営住宅に入居している20歳以上の男女を対象とした繰り返し横断研究である。調査期間は2011年度から2017年度までの7年間である。従属変数として主観的健康感を用い,独立変数として調査年度および入居している住居の種類を用いた。また,共変量として性・年齢を用いた。多変量ロジスティック回帰分析を用いて調整オッズ比(aOR)および95%信頼区間(95%CIs)を算出した。結果 本研究の対象者は延べ179,255人であった。平均年齢は災害公営住宅で一番高く,2017年度で63.0歳であった。主観的健康感の悪い人の割合は民間賃貸借上住宅入居者では経年的に減少していたが,プレハブ仮設住宅入居者においては減少していなかった。また,災害公営住宅入居者はプレハブ仮設住宅・民間賃貸借上住宅入居者に比べて,主観的健康感の悪い人の割合が大きかった。多変量解析の結果,調査年度が新しいほど有意に主観的健康感が良くなっていた(P for trend <0.001)。また,民間賃貸借上住宅入居者とプレハブ仮設住宅入居者の間に有意差は見られなかったが,民間賃貸借上住宅入居者に比べて災害公営住宅入居者では有意に主観的健康感が悪い者が多かった(aOR, 1.20;95%CI, 1.15-1.27)。結論 入居者の健康状態は経年的に改善傾向にあった。しかし,とくに災害公営住宅では健康状態の悪い者の割合が高く,今後も入居者の健康状態をフォローアップし,適切な介入をしていく必要があると考えられる。
著者
大曽 基宣 津下 一代 近藤 尚己 田淵 貴大 相田 潤 横山 徹爾 遠又 靖丈 辻 一郎
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.15-25, 2020-01-15 (Released:2020-02-04)
参考文献数
33

目的 健康日本21(第二次)の目標を達成するため,各自治体は健康課題を適切に評価し,保健事業の改善につなげることを求められている。本研究は,健康日本21(第二次)で重視されるポピュレーションアプローチに着目して,市町村における健康増進事業の取組状況,保健事業の企画立案・実施・評価の現状および課題について明らかにし,さらなる推進に向けたあり方を検討することを目的とした。方法 市町村の健康増進担当課(衛生部門)が担当する健康増進・保健事業について書面調査を実施した。健康増進事業について類型別,分野別に実施の有無を尋ねた.重点的に取り組んでいる保健事業における企画立案・実施・評価のプロセスについて自記式調査票に回答してもらい,さらに参考資料やホームページの閲覧などにより情報を収集した。6府県(宮城県,埼玉県,静岡県,愛知県,大阪府,和歌山県)の全260市町村に調査票を配布,238市町村(回収率91.5%)から回答を得た。結果 市町村の健康増進事業は,栄養・食生活,身体活動,歯・口腔,生活習慣病予防,健診受診率向上などの事業に取り組む市町村の割合が高かった。その中で重点的に取り組んでいる保健事業として一般住民を対象とした啓発型事業を挙げた市町村は85.2%,うちインセンティブを考慮した事業は27.4%,保健指導・教室型事業は14.8%であった。全体では,事業計画時に活用した資料として「すでに実施している他市町村の資料」をあげる市町村の割合が52.1%と半数を占め,インセンティブを考慮した事業においては,89.1%であった。事業計画時に健康格差を意識したと回答した市町村の割合は約7割であったが,経済状況,生活環境,職業の種別における格差については約9割の市町村が考慮していないと回答した。事業評価として参加者数を評価指標にあげた市町村は87.3%であったのに対し,カバー率,健康状態の前後評価は約3割にとどまった。結論 市町村における健康増進・保健事業は,全自治体において活発に取り組まれているものの,PDCAサイクルの観点からは改善の余地があると考えられた。国・都道府県は,先進事例の紹介,事業の根拠や実行可能な運営プロセス,評価指標の提示など,PDCAサイクルを実践するための支援を行うことが期待される。
著者
相田 潤 田浦 勝彦 荒川 浩久 小林 清吾 飯島 洋一 磯崎 篤則 井下 英二 八木 稔 眞木 吉信
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.362-369, 2015-07-30 (Released:2018-04-13)
参考文献数
13

歯科医師法では公衆衛生の向上および増進が明記されており,予防歯科学・口腔衛生学は歯科分野で公衆衛生教育の中心を担う.またう蝕は減少しているが,現在でも有病率や健康格差が大きく公衆衛生的対応が求められ,近年の政策や条例にフッ化物応用が明記されつつある.根面う蝕対策としてフッ化物塗布が保険収載されるなど利用が広がる一方で非科学的な反対論も存在するため,適切な知識を有する歯科医師の養成が求められる.そこで各大学の予防歯科学・口腔衛生学,フッ化物に関する教育の実態を把握するために,日本口腔衛生学会フッ化物応用委員会は,1998年に引き続き2011年9月に全国の29歯科大学・歯学部を対象に質問票調査を行った.結果,予防歯科学・口腔衛生学の教育時間の大学間の最大差は,講義で8,340分,基礎実習で2,580分,臨床実習で5,400分となっていた.フッ化物に関する教育の時間も大学間によって講義で最大540分,基礎実習で280分,臨床実習は510分の差異があり臨床実習は実施していない大学も存在した.さらに1998年調査と比較して,教育時間や実習実施大学が減少しており,特に予防歯科学・口腔衛生学の臨床実習は1,319分も減少していた.また非科学的なフッ化物への反対論への対応など実践的な教育を行っている大学は少なかった.予防歯科学・口腔衛生学およびフッ化物応用に関する講義や実習の減少が認められたことから,これらの時間および内容の拡充が望まれる.
著者
安本 恵 相田 潤 滝波 修一 森田 康彦 本田 丘人
出版者
北海道歯学会
雑誌
北海道歯学雑誌 (ISSN:09147063)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.77-86, 2014-03

本研究は,バングラデシュにおける子供の口腔疾患の現状を把握し,社会行動的リスク要因との関連性を検証することを目的として行った. バングラデシュMohichail郷の小学校12校,計1,763人(女子899名,男子864名)に対し,口腔内診査(齲蝕経験歯数,プラーク付着状況,歯肉炎)およびアンケート調査を行った.二変量解析を行い,居住区と9つの変数;乳歯齲蝕,永久歯齲蝕,プラーク付着状況,歯肉炎,歯磨きの回数,口腔清掃器具の使用,歯磨剤の使用,家族の喫煙習慣,家族の噛みタバコ習慣との関係を分析した.有意性の検定にはχ2検定を用いた.ロジスティック回帰分析には,従属変数として,永久歯齲蝕,歯肉炎,プラーク付着状況を用い,独立変数として8つの変数;年齢,性別,居住区,口腔清掃法,歯磨きの回数,プラーク付着状況,家族の喫煙習慣,家族の噛みタバコ習慣を用いた.データ分析にはSPSS 11.7Jプログラムを用いた. 二変量解析により,居住区の違いにより口腔疾患の有病率および口腔健康行動に有意差が認められた.ロジスティック回帰分析により,従属変数と関連が認められた独立変数は,永久歯齲蝕;プラークが多い(OR=2.81)居住区が僻地(0.76),年齢が大きい(1.09),歯肉炎;プラークが多い(41.0),家族の喫煙習慣がある(1.44),家族の噛みタバコ習慣がある(1.41),年齢が大きい(1.10),プラーク付着状況;従来型の口腔清掃法(1.63),家族に喫煙習慣がある(1.29),女性(0.71),年齢が大きい(0.92)であった. 本研究の結果から,バングラデシュの農村部における口腔疾患の現状および社会行動的要因が明らかになるとともに,社会経済状況や医療,教育水準などがほぼ均一な典型的農村社会の内部において,地理的要因が口腔疾患の有病率と口腔健康行動に影響を与えていることが新たにわかった.
著者
葭内 朗裕 兼平 孝 栗田 啓子 竹原 順次 高橋 大郎 本多 丘人 秋野 憲一 相田 潤 森田 学
出版者
北海道歯学会
雑誌
北海道歯学雑誌 (ISSN:09147063)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.12-24, 2011-09-15

本研究は,北海道国民健康保険団体連合会(以下,"北海道国保連合会"と略)から提供を受けた平成19年5月のレセプトデータに基づき,北海道内の国民健康保険被保険者のうち,満70歳以上で歯科医療機関を含む医療機関を受診した者を対象に,現在歯数,欠損補綴状況,歯周病罹患状況と被保険者1人あたりの医科診療費との関連およびレセプト1件あたりの医科診療費から現在歯数と生活習慣病の罹患状況との関連について調べたものである.その結果,平均医科診療費は,1)現在歯が20歯未満の高齢者は,20歯以上の高齢者に比べ,1. 2~1. 3倍,中でも現在歯数が0~4歯の高齢者は,20歯以上の高齢者に比べ,1.4~1.6倍と有意に高いこと,2)歯の欠損部の補綴処置を受けていない高齢者は,受けている高齢者に比べ,1.1倍程度と統計学的に有意ではないがやや高い傾向にあること,3)重度の歯周病を有する高齢者は,歯周病がない,あるいは軽度の高齢者に比べ,統計学的に有意ではないが,1.1~1.3倍程度とやや高い傾向にあること,などが明らかとなった.また,生活習慣病による平均医科診療費(レセプト1件あたり)は,1)現在歯が20歯未満の高齢者は,20歯以上の高齢者に比べて1.1~1.3倍,中でも現在歯数がO~4歯の高齢者は,20歯以上の高齢者に比べて1.2~1.7倍と有意に高かった. 2)悪性腫瘍,糖尿病,高血圧性疾患,虚血性心疾患,脳血管障害では,現在歯が20歯未満の高齢者は,20歯以上の高齢者に比べるとそれぞれ1.1~1.4倍,中でも現在歯数が0~4歯の高齢者は,20歯以上の高齢者に比べ,1.4~1.7倍といずれも有意に高かった.
著者
近藤 克則 吉井 清子 末盛 慶 竹田 徳則 村田 千代栄 遠藤 秀紀 尾島 俊之 平井 寛 斉藤 嘉孝 中出 美代 松田 亮三 相田 潤
出版者
日本福祉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究の目的は,介護予防に向けて,心理的因子や社会経済的因子の影響を明らかにする社会疫学の重要性を検討することである.(1)理論研究では,多くの文献をもとに社会疫学の重要性を検討した.(2)大規模調査(回収数39,765,回収率60.8%)を実施した.(3)横断分析では,健診や医療受診,うつなどと,社会経済的因子の関連が見られること,(4)コホート(追跡)研究では,社会経済的因子が,認知症発症や要介護認定,死亡の予測因子であることを明らかにした.本研究により,社会疫学研究が,介護予防においても重要であることを明らかにした.