著者
矢口 祐人 SMITH Colin SMITH Colin S
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究は日本における「フリーター」現象を、グローバルな若者文化とポスト産業主義社会の時代性との関連のなかで理解しようとするものであった。その目的は以下の三点であった。まず、日本社会における過去15年から20年のフリーターの増加を、労働市場と若者の文化の価値観の変容から考察すること。さらにフリーターが低収入と不安定な雇用状況にいかに対処し、正規雇用へ移っていく過程を捉えるとともに、政府の政策がかれらのキャリア作りにいかなる動機を与えているかを検討すること。最後にポスト産業主義社会のなかで、日本の若者の生活の変化を考えること。とりわけグローバルな消費文化、および日本独自の若者のサブカルチャーとの関連のなかでそれを捉え、分析することを重視した。本年度は前年度に引き続き、日本のフリーター・若者文化の理解を深めるため、東京と大阪の各地で主に若者ブリーターのフィールドワークを行った。その結果、フリーターと呼ばれる人びとの多様性を具体的に把握することができた。とりわけ、今日の経済状況のなかでやむなくフリーターや派遣社員になっている若者のみならず、自らの選択でフリーターになっていると主張する若者たちと出会うことができた。かれらはボスト産業主義の時代において、近代社会で当然のごとく受けいれられてきた「良い仕事」や「良いキャリア」と呼ばれるものとは別のものに価値を見出している。かれらにとって「大人」の定義も従来と異なるものであることが判明した。変貌する日本社会におけるフリーターの存在は、単なる経済問題としてのみならず、若者の価値観の変容という点からも考察する必要があることが明らかとなった。
著者
能登路 雅子 藤田 文子 シーラ ホンズ 吉見 俊哉 谷川 建司 土屋 由香 矢口 祐人 梅崎 透
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

本研究は冷戦期を中心にアメリカの文化外交の実態を学際的に解明することを目的とし、特に1940年代から70年代にかけて米国国務省が民間人や民間機関、ハリウッド映画産業や航空機産業などの企業と緊密な連携を保ちつつ、日本を含むアジア地域で積極的な文化外交を展開した実態を3年間を通じて明らかにした。本研究が特に注目したのは文化外交の政策的内容よりも実践レベルにおける当事者の意識・行動とその調整・抵抗といった変容のプロセスである。第二次大戦後、戦略的重要性を高めたアラスカ・ハワイの州昇格の際にアメリカ政府が製作した広報映画の分析も研究成果のひとつであるが、太平洋地域における植民地統治と文化的影響に関する幅広い研究を進めたことも本プロジェクトの学術的貢献としてあげられる。特にサイパンとパラオ共和国における実地調査を通じて、スペイン・ドイツ・日本・アメリカによる統治が現地に残した文化とアイデンティティにおける多層な影響力をポストコロニアルの視点から理解し、文化外交が一国の国益を超えた文化混淆をもたらす実態を長い歴史的スパンで、またローカルな文化実践との関連で捉えることができた。
著者
西村 明 森 謙二 村上 興匡 土居 浩 清水 克行 粟津 賢太 中山 郁 ドーマン ベンジャミン 町 泰樹 ドボルザーク グレッグ 飯高 伸五 ミャッカラヤ M.G シェフタル 北村 毅 キース カマチェ 渡邉 一弘 ポール ハインツ スティーブン ブラード イ ヨンジン 木村 勝彦 田村 恵子 矢口 祐人
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、日本における戦争死者慰霊の第三者関与と世代間継承の問題を、海外の事例も踏まえながら比較検討した。新たな慰霊活動や慰霊巡拝の創出・開拓といった契機や、時間的推移における慰霊活動の維持等において、死者との直接的関係を持たない宗教的・世俗的エージェントの果たす役割の重要性が確認された。同時に世代間継承における意味変容のあり方がその後の展開に大きく作用することも実証的に明らかとなった。
著者
出利葉 浩司 宮武 公夫 財部 香枝 矢口 祐人 宮武 公夫 財部 香枝 矢口 祐人
出版者
北海道開拓記念館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

明治年間に北海道を訪問し、アイヌの人びとに出会った西洋人とくにアメリカ人が残した記録類について、「出会い」という視点からながめてみることが本研究の目的である。日記、書簡類などのうち、ハイラム・ヒラー書簡、ロミン・ヒチコック講演草稿、セントルイス万国博覧会におけるフレデリック・スター収集資料記載情報については、翻刻、翻訳し、公表することができた。また、セントルイス万国博覧会、ロンドン万国博覧会をめぐる人類学的問題について、調査された資料をもとに、それぞれ論考をまとめることができた。
著者
増田 一夫 伊達 聖伸 網野 徹哉 杉田 英明 長沢 栄治 村松 真理子 矢口 祐人 安岡 治子 古矢 旬
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

「宗教的近代」を疑問に付す諸現象(宗教の再活性化、保守革命、イスラーム民衆運動)に対して西洋諸社会が警戒を示すなかで、寛容を創出すべき政教分離の制度が、かえってマイノリティ抑圧へと転化する状況が見られる。本研究では、民主主義的諸価値が特定の宗教に対して動員され、グローバル化に伴う社会問題を相対化、隠蔽する様子を分析した。フランスでは、国家が対話しやすいイスラーム教を制度化するという、政教分離に矛盾する動きも見られた。他方で、ナショナル・アイデンティティとしてのライシテ(脱宗教)が、イスラーム系市民を周縁化しつつ、差別、経済格差、植民地主義的な人種主義をめぐる問題提起をむずかしくしている。
著者
矢口 祐人 廣部 泉
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

平成19年度は18年度に引き続き、現地調査を通してアメリカのキリスト教原理主義団体に関する情報を収集した。夏季に矢口がサウスダコタ州を訪れ、キリスト教原理主義団体が展開する中絶反対運動の調査を行った。教会内のみならず、教育やコミュニティ活動を通して、中絶問題を巧妙に政治化する様子がみられた。また前年度に引き続き、コロラド大学のトーマス・ザイラー教授と意見交換を行った。さらに研究に必要な保守キリスト教団体関連の書籍・DVDなどを購入して、資料の充実を図るとともに、矢口と廣部で継続的に情報交換を続けた。廣部はそれをもとにキリスト教宣教の有効性を考察する論文を執筆し、発表した。平成20年に入ると、キリスト教原理主義団体の政治活動で注目すべき動きがみられた。同年11月のアメリカ合衆国大統領選挙の共和党候補として立候補したバプテスト派牧師で、前アーカンソー州知事のマイク・ハッカビーが、大方の予想を覆し、1月のアイオワ州予備選挙で勝利をおさめたのである。キリスト教原理主義団体の文化活動がアメリカの政治にどのような影響を及ぼしているかを、教会での活動のみならず、メディアや教育の場などにも注目して研究するためには、ハッカビーの選挙戦略とその効果を調査する必要が生まれた。インターネットなどで情報を収集するとともに、関連資料を購入し、米国キリスト教原理主義団体の文化戦略事業の実体と今後の展開について考察をすすめた。ハッカビーは最終的に敗北したものの、その支持基盤であるキリスト教原理主義の動きは活発であり、最終的に共和党候補となったマケインの戦略にも大きな影響を与えた。その意味では選挙戦を通して、キリスト教原理主義団体の文化戦略の理解を深めることができた。
著者
松浦 正孝 山室 信一 浜 由樹子 土屋 光芳 中島 岳志 高橋 正樹 宮城 大蔵 WOLFF David 大庭 三枝 吉澤 誠一郎 姜 東局 大賀 哲 酒井 哲哉 後藤 乾一 都丸 潤子 関根 政美 矢口 祐人 高原 明生 遠藤 乾 松本 佐保
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、アジア各地における多様なアジア主義のビジョンと構造を解明し相互比較すると共に、アジア主義ネットワークの生成過程を解明した。方法としては、国内外から選ばれた各地域の専門研究者と各事例を議論することで、アジア主義に共通の構造と地域それぞれに固有の特徴とを明らかにした。そうすることで、各地域におけるアジア主義を相対化して民族中心的なバイアスから解放し、アジアにおける共同体の可能性と条件、各民族・国家の共生の可能性を探ろうとした。
著者
ホーンズ シーラ 丹治 愛 丹治 陽子 アルヴィ 宮本なほ子 矢口 祐人 土田 映子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

2001年度-04年度までの科学研究費(基盤B「19世紀末英米文学における都市の表象に関する新歴史主義的研究」)の成果をもとに、英米におけるユートピアニズムに関するテクストと実践を研究することを目的とした.海外の研究者らと共同して、文化地理学、空間理論、マテリアル・カルチャーなどの知見を援用しながら、ユートピアニズムの表象を政治批評的に研究することで、この英米の思想史における重要な概念を、きわめて国際的・学際的な視座で考察することができた.
著者
遠藤 泰生 荒木 純子 増井 志津代 中野 勝郎 松原 宏之 平井 康大 山田 史郎 佐々木 弘通 田辺 千景 森 丈夫 矢口 祐人 高橋 均 橋川 健竜 岡山 裕
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

領土の拡大と大量移民の流入を規定条件に建国後の国民構成が多元性を増したアメリカ合衆国においては、社会文化的に様々の背景を持つ新たな国民を公民に束ねる公共規範の必要性が高まり、政治・宗教・経済・ジェンダーなどの植民地時代以来の社会諸規範が、汎用性を高める方向にその内実を変えた。18世紀と19世紀を架橋するそうした新たな視野から、合衆国における市民社会涵養の歴史を研究する必要性が強調されねばならない。