著者
高橋 昭 石田 昇三
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3-4, pp.61-65, 1969-12-30 (Released:2017-08-10)

ナガサキアゲハPapilio memnonは東南アジアに広く分布し,幾つかの地理的亜種や型が記載されている.本種の♀は無尾型と有尾型の2型があるが,その斑紋の多形態性の規模の大きさと擬態のために,変異に基づく分類学あるいは動物地理学,遺伝学の研究対象として報告が多い.わが国は本種の棲息分布域の最北端に相当し,九州本島や奄美大島,沖縄本島に産することは古くから知られており,九州本島産はsubsp. thunbergii SIEBOLD, 1824として,奄美群島や沖縄本島産はsubsp. pryeri ROTHSCHILD, 1895としてそれぞれ別亜種とされ,この両地域の♀は例外的な記録を除きすべて無尾型である.一方台湾産は♀は有尾と無尾の2型をもち,また♂は翅表の青白色鱗がよく発達することからsubsp. heronus FRUHSTORFER, 1903と命名されているが,沖縄本島と台湾との間に点在する先島諸島からは本種の採集記録が乏しく,特に♀の明確な採集記録がなく,従って分類学的な検討も石垣島産の1♂についてなされたのみであった.筆者の一人石田は大林延夫氏とともに1964年先島諸島を訪れ,西表島で本種1♂2♀♀を採集することができたので報告する.ここに発表する♂は先島諸島産としては4頭目のものであるが,♀は最初の記録である.