著者
高鳥毛 敏雄 逢坂 隆子 山本 繁 西森 琢 藤川 健弥 黒田 研二 磯 博康
出版者
JAPANESE SOCIETY FOR TUBERCULOSIS
雑誌
結核 (ISSN:00229776)
巻号頁・発行日
vol.82, no.1, pp.19-25, 2007-01-15 (Released:2011-05-24)
参考文献数
36

〔目的〕ホームレス者の結核の実態とその対策方策を明らかにすることを目的とした。〔対象と方法〕平成15年から17年までの3年間ホームレス者を対象に公的就労事業にあわせて結核検診を実施した。各年の結核検診の受診者数は1,309人,1,545人,1,546人であった。〔結果〕各年の結核有所見者割合は約30%,要治療者割合は約2%とほぼ同様の状況であった。平成17年の要治療者30人中の過表に受検歴のあった者20人について胸部所見を調査したところすでに胸部結核有所見であった者が13人(65%)と高率であった。平成16年と平成17年両年連続受検者857人の分析では,胸部所見IV型の者20人の中から3人が発症,無所見の者597人からは8人が発症していた。つまり,IV型の者は無所見者に比べて11.2倍発症率が高かった。〔考察と結論〕ホームレス者は結核有所見者の割合が高いこと,有所見者からの発病率が高いこと,有症状受診が困難な者が多いことなどから,ホームレス者の結核検診実施にあたっては胸部所見が安定型の者に対してもQFTを活用するなど,何らかの治療基準を定めて対応することが必要と考えられた。
著者
宮田 潤 村木 功 磯 博康
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.5, pp.327-333, 2020-05-15 (Released:2020-06-02)
参考文献数
25

目的 近年,薬局・薬剤師による公衆衛生の向上に向けた取り組みへの期待が高まっており,禁煙支援もその一つである。一方,一部の薬局・薬店ではタバコ販売が行われていることが知られている。筆者らは,本邦の薬局におけるタバコ販売の実態調査を行い,地域差や運営形態の差がないかを検討することとした。方法 全国調査として,2018年の地方財務局「製造たばこ小売販売業許可者一覧」と地方厚生局「保険薬局一覧」を突合させ,2018年開設の保険薬局のうち,タバコ販売許可を受けた数と割合を調べた。加えて,コンビニエンスストアの名称を含む保険薬局について,各コンビニエンスストアのウェブサイトの情報をもとに,タバコ販売状況を確認した。さらに,既存保険薬局の実態調査として,大阪府A市(都市部)と石川県B市(地方)の2地域を対象に,2018年12月~2019年2月に「保険薬局一覧」に掲載された薬局の巡視調査を行い,タバコ販売状況,喫煙スペースの設置状況,薬店・コンビニエンスストアの併設状況を確認した。結果 全国で2018年に新規指定の保険薬局1,766軒のうち,124軒(7.0%)がタバコ販売許可を受けていた。都道府県別では千葉県(72軒中18軒;25%),山梨県(9軒中2軒;22%),青森県(17軒中3軒;18%)に多く,地方区分別では関東地方(602軒中71軒;11.8%),東北地方(110軒中9軒;8.2%)に多かった。一方,22府県では,タバコ販売許可を新規に受けた保険薬局数は0軒であり,地方区分別では四国地方(64軒中0軒;0.0%),九州地方(211軒中1軒;0.5%)において少なかった。全国におけるコンビニエンスストア併設保険薬局の検討では,都市部を中心に併設薬局は42軒あり,そのうち東京都の8軒を除く34軒(81%)で,タバコ販売が行われていた。保険薬局の巡視調査では,A市で28軒中1軒(4%),B市で29軒中3軒(10%)が対面のみによるタバコ販売を行っており,いずれも薬店併設の薬局であった。そのうちA市の1軒とB市の2軒では周辺と遮蔽されていない屋外喫煙スペースがあった。結論 今回の研究より,タバコ販売を行っている保険薬局が少なからず存在することが確認された。薬剤師による禁煙支援の推進において,薬局・薬店におけるタバコ販売の在り方について十分な議論が望まれる。
著者
大平 哲也 磯 博康 谷川 武 今野 弘規
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

心理的因子と生活習慣、炎症、代謝異常、自律神経機能との関連を地域住民・職域にて検討した結果、身体活動が少ないこと、勤務時間が50時間以上/週であること、睡眠時間が6時間未満であることなどが3年後のうつ症状の出現と関連した。また、ストレスフルなライフイベント、怒り、慢性疲労、将来の希望の欠如などの心理的因子は炎症、代謝異常、自律神経機能と関連した。したがって、心理的因子は炎症・代謝異常・自律神経機能を介して循環器疾患のリスクの上昇と関連することが示唆された。
著者
若林 真美 高橋 麻奈 磯 博康
出版者
日本国際保健医療学会
雑誌
国際保健医療 (ISSN:09176543)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.51-68, 2022 (Released:2022-06-16)
参考文献数
51

2020年、世界的な新型コロナウイルス感染拡大に対して、異例のスピードで「新型コロナウイルス感染症のワクチン(以下、新型コロナワクチン)」の開発が進んだ。そして、2021年、高所得国を中心に、高いワクチン接種率を達成した。その一方で、低/中所得国におけるワクチン接種率は、2022年1月時点でも低く、世界のワクチン格差が浮き彫りになっている。  新型コロナワクチンを世界全体に公平に供給する国際的な枠組みであるCOVAXファシリティに関して、本稿ではそのワクチン供給の仕組みを説明するとともに、①COVAXファシリティを通じた供給とワクチン寄付・供与をめぐる課題、②太平洋島嶼国を事例としたワクチン供給、③太平洋島嶼国の脆弱性に焦点を当て、ドナー国からのワクチン支援のあり方に関して論じる。  COVAXファシリティという枠組みによって、2021年2月に低/中所得国でのワクチン供給が開始され、また高所得国が買い占めたワクチンの寄付が実現できた。しかしながら、ワクチン供給の「公平性」は実現できたとは言い難い状況となっている。  太平洋島嶼国14か国の間でもワクチン格差が存在する。太平洋島嶼国は、国土の拡散性・狭隘性・離散性および国際市場からの遠隔性といった共通の課題を抱える。ワクチン接種率が高い国では、2国間援助やワクチン寄付等により、必要十分なワクチンが供給され、ほぼ対象年齢全員にワクチン接種が完了している、もしくは2022年内に完了予定である。しかしながら、キリバス、ソロモン諸島、バヌアツといったワクチン供給が十分であっても、効果的にワクチン接種に結びついていない国では、ワクチン損失が多く起こっている可能性がある。さらに、パプアニューギニアのように、基本的な保健医療水準が低い国では、健康危機における短期的に大規模な保健医療支援が行われたとしても、ワクチン接種向上に結びつかない可能性もある。  新型コロナウイルス感染症が流行して、2年以上が経過しようとしている。今後、ワクチン接種の向上を目指すには、供給支援から、ワクチン接種体制や基本的な保健医療サービス支援等も含めた中長期的な支援にシフトしていく必要がある。
著者
豊田 泰弘 中山 厚子 藤原 秀一 真 和弘 松尾 吉郎 田中 博之 高鳥毛 敏雄 磯 博康
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.247-253, 2008 (Released:2014-07-01)
参考文献数
25

目的 地域の救急活動記録を元に自殺企図者(自殺未遂者・自殺死亡者)の特徴を分析し,今後の自殺対策に資することを目的とした。方法 2004年 4 月から2006年 3 月までの岸和田市消防本部の救急活動記録より,246例(延べ人数)・196人(実人数)の自殺企図者(自殺未遂者・自殺死亡者)を把握した。これらにつき,性,年齢,調査期間内の自殺企図回数,企図手段,月,曜日,救急覚知時刻(救急隊に連絡のあった時刻)について集計解析した。結果 196人の自殺企図者のうち,自殺死亡者は52人(男性32人,女性20人),自殺未遂者は144人(男性32人,女性112人)であり,2 回以上にわたって自殺企図を繰り返した実人数は29人(男性 3 人,女性26人)であった。 男性の自殺死亡者は40歳代から70歳代の中高年に多く,女性の自殺死亡者は40歳代に多かった。男性の自殺未遂者には30歳代になだらかなピークがあり,女性の自殺未遂者は20歳代から40歳代の比較的若年者に急峻なピークがあった。 自殺死亡者の主たる手段は男性では縊頸,ガス,女性では縊頸,飛び降り・飛び込みであった。自殺未遂者の主たる手段は男女ともに服薬,四肢切創であった。 月については,男性の自殺死亡者は 4 月から 6 月に多く,女性の自殺死亡者は11月に多かった。男性の自殺未遂者は 7 月,8 月,9 月に多く,女性の自殺未遂者は 1 月,8 月,9 月に多かった。 曜日については,男性の自殺死亡者は月曜,水曜が多く,女性の自殺死亡者は日曜が多かった。男性の自殺未遂者は金曜が多く,女性の自殺未遂者は月曜と火曜に著明なピークがあった。 覚知時刻については,自殺死亡者は男女とも夕方から夜半に少なく,未明から日中に多かった。男性の自殺未遂者は午前日中と夕方に多かった。女性の自殺未遂者は午前日中にきわだって少なかった。結論 救急車が出動する自殺企図者の大部分は女性の自殺未遂者であった。女性の自殺未遂者は男性に比べて若年者に多く,自殺企図を頻回に繰り返すという特徴があり,これらを考慮した対策がのぞまれる。
著者
木山 昌彦 今野 弘規 前田 健次 磯 博康 佐藤 眞一
出版者
財団法人大阪府保健医療財団 大阪がん循環器病予防センター
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、地域住民を対象に、食行動・身体活動・社会心理要因とメタボリックシンドロームおよびその構成因子との関連を明確にし、さらに食行動と社会心理要因との相互作用を確認する疫学研究を実施した。その結果、男性では、朝食欠食が体重増加に関連しており、特に睡眠時間が短いほどその関連が顕著であった。また肥満関連食行動数が多いほど、将来の2 型糖尿病発症リスクが高いことがわかった。ただし、肥満関連食行動が自覚的ストレスによりその後の体重変化に与える影響を分析したが、明確な影響は得られなかった。
著者
澤 俊二 南雲 直二 嶋本 喬 磯 博康 伊佐地 隆 大仲 功一 安岡 利一 上岡 裕美子 岩井 浩一 大田 仁史 園田 茂
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.325-338, 2003

<b>目的</b>&emsp;慢性期脳血管障害者における種々の障害の長期間にわたる変化の実態を明らかにする目的で,心身の評価を入院から発病 5 年までの定期的追跡調査として実施した。調査は継続中であり,今回,慢性脳血管障害者における入院時(発病後平均2.5か月目)および退院時(発病後平均 6 か月目)の心身の障害特性について述べる。<br/><b>対象および方法</b>&emsp;対象は,リハビリテーション専門病院である茨城県立医療大学附属病院に,平成11年 9 月から平成12年11月までに初発の脳血管障害で入院した障害が比較的軽度な87人である。その内訳は,男64人,女性23人であり,年齢は42歳から79歳,平均59歳であった。方法は,入院時を起点とした,退院時,発病 1 年時,2 年時,3 年時,4 年時,5 年時の発病 5 年間の前向きコホート調査である。<br/><b>結果</b>&emsp;入院から退院にかけて運動麻痺機能,一般的知能,痴呆が有意に改善した。また,ADL(日常生活活動)と作業遂行度・作業満足度が有意に改善した。一方,明らかな変化を認めなかったのは,うつ状態であり入退院時とも40%と高かった。また,麻痺手の障害受容度も変化がなく,QOL は低いままであった。逆に,対象者を精神的に支える情緒的支援ネットワークが有意に低下していた。<br/><b>考察</b>&emsp;発病後平均 6 か月目である退院時における慢性脳血管障害者の特徴として,機能障害,能力低下の改善が認められたものの,うつ状態,QOL は変化がみられず推移し,また,情緒的支援ネットワークは低下したことが挙げられる。したがって,退院後に閉じこもりにつながる可能性が高く,閉じこもりに対する入院中の予防的対策の重要性が示唆された。
著者
澤 俊二 磯 博康 伊佐地 隆 大仲 功一 安岡 利一 上岡 裕美子 岩井 浩一 大田 仁史 園田 茂 南雲 直二 嶋本 喬
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.325-338, 2003 (Released:2014-12-10)
参考文献数
41
被引用文献数
3

目的 慢性期脳血管障害者における種々の障害の長期間にわたる変化の実態を明らかにする目的で,心身の評価を入院から発病 5 年までの定期的追跡調査として実施した。調査は継続中であり,今回,慢性脳血管障害者における入院時(発病後平均2.5か月目)および退院時(発病後平均 6 か月目)の心身の障害特性について述べる。対象および方法 対象は,リハビリテーション専門病院である茨城県立医療大学附属病院に,平成11年 9 月から平成12年11月までに初発の脳血管障害で入院した障害が比較的軽度な87人である。その内訳は,男64人,女性23人であり,年齢は42歳から79歳,平均59歳であった。方法は,入院時を起点とした,退院時,発病 1 年時,2 年時,3 年時,4 年時,5 年時の発病 5 年間の前向きコホート調査である。結果 入院から退院にかけて運動麻痺機能,一般的知能,痴呆が有意に改善した。また,ADL(日常生活活動)と作業遂行度・作業満足度が有意に改善した。一方,明らかな変化を認めなかったのは,うつ状態であり入退院時とも40%と高かった。また,麻痺手の障害受容度も変化がなく,QOL は低いままであった。逆に,対象者を精神的に支える情緒的支援ネットワークが有意に低下していた。考察 発病後平均 6 か月目である退院時における慢性脳血管障害者の特徴として,機能障害,能力低下の改善が認められたものの,うつ状態,QOL は変化がみられず推移し,また,情緒的支援ネットワークは低下したことが挙げられる。したがって,退院後に閉じこもりにつながる可能性が高く,閉じこもりに対する入院中の予防的対策の重要性が示唆された。
著者
山田 恵子 若泉 謙太 深井 恭佑 磯 博康 祖父江 友孝 柴田 政彦 松平 浩
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5, pp.125-134, 2017-09-20 (Released:2017-10-05)
参考文献数
29
被引用文献数
4

目的:就労環境における慢性痛の実態,及び慢性痛が仕事に影響する重症例でのリスク因子を明らかにする.対象と方法:大手製造業A社の首都圏にある1事業所,上記とは別の大手製造業B社の関西圏にある1事業所,及び大手小売業C社の関西圏にある16店舗,計3社18施設の被雇用者を対象に,「からだの痛みに関する調査研究アンケート」を施行した.A社B社では参加者の同意を得たうえでアンケートデータと企業健診の問診データを突合し,基本集計を行うと共に,対象者の生活習慣や心理社会的因子と慢性痛有症との関連について,性年齢調整ロジスティック回帰分析を用いて分析した.結果:調査対象2,544名のうち1,914名(男性1,224,女性690名)から有効回答が得られた(有効回答率75.2%).3か月以上持続する慢性痛を有するものは全解析対象者の42.7%であり,仕事に影響する慢性痛を有するものは全解析対象者の11.3%であった.痛みのない群と比較して,仕事に影響する慢性痛群は,肥満,喫煙習慣,不眠症,ワーカホリック度の高さ,上司・同僚からの支援の乏しさ,仕事の満足度の低さ,仕事の要求度の高さ,仕事のコントロール度の低さ,心理的ストレスの高さ,抑うつ状態と有意に関連があった.考察と結論:就労環境における慢性痛とそのリスク因子の実態が一部明らかとなった.産業衛生分野において健康関連リスク因子として重要視されてきた,肥満,喫煙,不眠症,職場環境,心理的ストレス,抑うつは職場の慢性痛対策をおこなう上でも重要であることが示唆された.
著者
柿崎 真沙子 澤田 典絵 山岸 良匡 八谷 寛 斉藤 功 小久保 喜弘 磯 博康 津金 昌一郎 康永 秀生
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.179-186, 2018 (Released:2018-05-03)
参考文献数
19

目的 DPCデータを大規模なコホート研究の発症登録に利用することが可能であるかを検討するため,独自に収集した脳卒中および急性心筋梗塞発症登録数と,DPCデータを活用して得られた疾病登録数との比較を行い,脳卒中と急性心筋梗塞の各診断名において実施された治療・処置や検査から,標的疾患罹患の把握に有用な項目があるか検討した。方法 研究対象病院のDPCデータから,4種類(主傷病名,入院の契機となった病名,医療資源を最も投入した病名,医療資源を二番目に投入した病名)のいずれかに,急性心筋梗塞,脳内出血,脳梗塞が含まれる症例を抽出し,疾患ごとに実施された検査や治療の情報を抽出・集計し当該研究対象病院にてJPHC研究の一部として独自に収集した発症登録により得られた登録数を比較した。結果 DPCデータで抽出された症例数は独自に実施した発症登録数より多かったが,その差はとくに脳梗塞において顕著であった。JPHC登録数/DPC症例数の比は心筋梗塞1.13,脳内出血0.88,脳梗塞0.67であった。結論 急性心筋梗塞および脳内出血の疾病登録にはDPCデータを利用して,対象者数を概ね把握できる可能性が示された。脳梗塞についてはDPC登録病名とDPC治療・検査・診断項目を補助的に活用することで,疾病登録対象者数の同定精度を高め得る可能性がある。しかしながら,DPCデータを大規模なコホート研究の発症登録に利用するためには,地域全体での発症数がDPC導入病院の発症数でカバーできるのか,さらなる検討が必要である。
著者
村越 伸行 許 東洙 西連地 利己 五十嵐 都 入江 ふじこ 富沢 巧治 夛田 浩 関口 幸夫 山岸 良匡 磯 博康 山口 巖 大田 仁史 青沼 和隆
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.236-244, 2016

【目的】一般住民における上室期外収縮の長期予後については,いまだ不明である.本研究の目的は,一般住民健診における上室期外収縮の診断的意義を調べることである.【方法と結果】われわれは1993年の年次一般住民健診を受診し,2008年まで経過を追えた63,197名(平均年齢58.8±9.9歳,67.6%女性)を解析した.一次エンドポイントは平均14年のフォローアップ期間中の脳卒中死亡,心血管死亡,または全死亡,二次エンドポイントは心疾患あるいは心房細動(AF)のない解析対象者における最初のAFの発生とした.上室期外収縮のない解析対象者と比較して,上室期外収縮のある解析対象者のハザード比(95%信頼区間)は,脳卒中死亡:男性1.24(0.98~1.56),女性1.63(1.30~2.05),心血管死亡:男性1.22(1.04~1.44),女性1.48(1.25~1.74),全死亡:男性1.08(0.99~1.18),女性1.21(1.09~1.34)であった.AFはフォローアップ期間中386名(1.05/1,000人年)に発生した.ベースラインでの上室期外収縮の存在は,AF発症の有意な予測因子であった〔(ハザード比(95%信頼区間):男性4.87(3.61~6.57),女性3.87(2.69~5.57)〕.傾向スコアマッチング解析でも,上室期外収縮の存在が交絡因子の補正後もAFの発症および心血管死亡のリスク上昇に有意に関連していた.【結論】一般住民における12誘導心電図での上室期外収縮の存在は,AF発症の強い予測因子であり,心血管死亡リスクの上昇に関連している.
著者
豊田 泰弘 中山 厚子 藤原 秀一 真 和弘 松尾 吉郎 田中 博之 高鳥毛 敏雄 磯 博康
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.247-253, 2008

<b>目的</b> 地域の救急活動記録を元に自殺企図者(自殺未遂者・自殺死亡者)の特徴を分析し,今後の自殺対策に資することを目的とした。<br/><b>方法</b> 2004年 4 月から2006年 3 月までの岸和田市消防本部の救急活動記録より,246例(延べ人数)・196人(実人数)の自殺企図者(自殺未遂者・自殺死亡者)を把握した。これらにつき,性,年齢,調査期間内の自殺企図回数,企図手段,月,曜日,救急覚知時刻(救急隊に連絡のあった時刻)について集計解析した。<br/><b>結果</b> 196人の自殺企図者のうち,自殺死亡者は52人(男性32人,女性20人),自殺未遂者は144人(男性32人,女性112人)であり,2 回以上にわたって自殺企図を繰り返した実人数は29人(男性 3 人,女性26人)であった。<br/> 男性の自殺死亡者は40歳代から70歳代の中高年に多く,女性の自殺死亡者は40歳代に多かった。男性の自殺未遂者には30歳代になだらかなピークがあり,女性の自殺未遂者は20歳代から40歳代の比較的若年者に急峻なピークがあった。<br/> 自殺死亡者の主たる手段は男性では縊頸,ガス,女性では縊頸,飛び降り・飛び込みであった。自殺未遂者の主たる手段は男女ともに服薬,四肢切創であった。<br/> 月については,男性の自殺死亡者は 4 月から 6 月に多く,女性の自殺死亡者は11月に多かった。男性の自殺未遂者は 7 月,8 月,9 月に多く,女性の自殺未遂者は 1 月,8 月,9 月に多かった。<br/> 曜日については,男性の自殺死亡者は月曜,水曜が多く,女性の自殺死亡者は日曜が多かった。男性の自殺未遂者は金曜が多く,女性の自殺未遂者は月曜と火曜に著明なピークがあった。<br/> 覚知時刻については,自殺死亡者は男女とも夕方から夜半に少なく,未明から日中に多かった。男性の自殺未遂者は午前日中と夕方に多かった。女性の自殺未遂者は午前日中にきわだって少なかった。<br/><b>結論</b> 救急車が出動する自殺企図者の大部分は女性の自殺未遂者であった。女性の自殺未遂者は男性に比べて若年者に多く,自殺企図を頻回に繰り返すという特徴があり,これらを考慮した対策がのぞまれる。
著者
大平 哲也 磯 博康 谷川 武 今野 弘規 北村 明彦 佐藤 眞一 内藤 義彦 嶋本 喬
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.44, no.5, pp.335-341, 2004-05-01
被引用文献数
1

うつ症状が脳卒中や心筋梗塞の発症と関連することや,不安,怒りが高血圧発症と関連することは欧米を中心に報告されているが,わが国における前向き研究はほとんどない本研究は,不安,怒り,うつ症状とその後の循環器系疾患発症との関連について前向き研究で明らかにすることを目的とした地域住民男女901名にZungの抑うつスケール(SDS)を実施し,その後103年間の追跡調査を行った結果,SDSの得点が高い人は低い人に比べて全脳卒中発症の相対危険度が約2倍,脳梗塞発症の相対危険度が約3倍,虚血性心疾患の相対危険度が約7倍であったまた,4地域(秋田,茨城,大阪,高知)住民のうち,正常血圧者4,970名を対象として不安,怒りの表現方法を質問紙にて調査し,その後4年間の追跡調査を行った結果,男性では怒りを内にためることが高血圧発症と関連していたが,女性では関連がみられなかった不安と高血圧との関連は男女ともにみられなかった